何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その六十三

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※※※

「やあ」「……こんにちは」

 既に待ち合わせ場所にいてアタシを見つけて手を振るヒロ君。相変わらずキラーンと白い歯が太陽に反射してるし。

 はあ。気分落ちるわー。今から好きでもない男と二人きりでご飯だもんなー。ホントは今日、雄介とデートの予定だったのに。ま、早く済ませてチャッチャと帰ろう。

 安川明歩ことアタシは、以前から約束してた、ヒロ君とこれからご飯するので約束の場所にやってきてるんだけど。アタシが何だか落ち込んでるのに気づいてないのか、ヒロ君はアタシに、こっちこっち、とイケメンスマイルを向けながら手でコイコイする。

 え? それって……。

「……車?」「あれ? 言ってなかったっけ? 俺免許持ってるから、今日は車で移動しようと思ってさ。せっかく安川さんと二人きりなんだし、ね?」

 キラリーンとまたも白い歯が灼熱の太陽に反射する。つか、鏡かよその歯。って心の中で突っ込みつつも、まさか車用意してるなんて思ってなかった。だって確か、この人アタシと同い年の高校三年生だし。まあ免許持てる年齢だけど。でもどうしよう。余り密室で二人きりにはなりたくないんだけど。

 そんなアタシの心配をよそに、ヒロ君は助手席側の車のドアを空け、当然のようにどうぞ、と待ってる。……ここで帰ると失礼かあ。はあ、ほんっと、テンション下がるけど、仕方ないかあ。

 渋々ながら助手席に座ると、ヒロ君がバタンと車のドアを閉めた。続いて運転席に乗って、ヒロ君がシートベルトを付ける。あ、アタシも付けなきゃ。それを見て慣れない手付きで何とか装着した。つか、詳しくないから分かんないけど、多分結構いい車っぽい? 座席が革だし計器類が一杯ついてるし。

「ちょっと海までドライブするよ」「は、はあ」

 グラサンをかけブロロンとエンジンをかけるヒロ君。そして慣れた手付きでハンドルを取り運転し始めた。へえ、イケメンなだけあってサマになってんじゃん。そういやアタシ、家族以外で車に乗るの初めてかも。

「というか、海までドライブって、どれくらい時間がかかるんですか?」「ああ。一時間くらいだよ。高速乗るし」

 車滅多に乗らないから分かんなかったけど、それくらいで海に行けるんだ。

 そして車は走り出す。車窓から見える景色が、たかが高校三年生のアタシにとっては物珍しくて、つい見入ってしまう。チラリとヒロ君を見ると、アタシを見て微笑んでた。

「あんまり車乗らないんだ」「まあ、そうですね」

 当たり障りの無い返事するけど、実はちょっとテンション上がってたりする。雄介も早く免許取らないかなー。でも、高校卒業するまでは無理だよなー。免許とっても、車ないとダメだしなー。

 それからヒロ君の言う通り、一時間程して海が見えてきた。砂浜が見える海岸線を車が走る。つい、キラキラと灼熱の太陽が反射してる海を見てワクワクしてしまった。さすが夏休み、砂浜には沢山の海水浴客の姿が見える。海の家もあって沖の方ではジェットスキーを楽しんでる人達も。楽しそう。アタシも泳ぎたーい!

「海、好きなんだ」「へ? あ、はい、まあ」

 しまった。ヒロ君と一緒なんだった。つい一人であちこち見てテンション上げちゃった。あー、この夏休みの間に雄介と来たいなー。

「ところで何処に行くんですか?」「ああ、もうすぐ着くよ」

 そう言いながら車は一旦海岸線からやや陸の方に入る。すると、何だかけばけばしい、派手目の建物がいくつも並んでるのが見えてきた。

 ……え? これって、ラブホ? しかも沢山並んでんじゃん。もしかして……。

「さ、着いたよ」そう言ってニコっとしながらグラサンを外すヒロ君。アタシは恐る恐る目の前を見る。……ん? シーフード料理の店? なーんだ。アタシの嫌な予感は杞憂だったか。びくびくしちゃったよ。

 そして車を降りて、白い板張りのオシャレなレストランの扉を、カランカランと先導して開けるヒロ君。そしてアタシは、何だかリゾート地に来てる感覚で、変に緊張しながらヒロ君の後に続く。気づかなかったけどこの場所、高台になってて、ヒロ君と座った席は窓際で、眼下には海と砂浜が見える。

「……きれい」「だろ? 気にいると思ったんだ」

 つい、ハッとしてしまう。本音出ちゃった。ヒロ君はアタシのその言葉に、直ぐに笑顔で答える。

 ……いい人かも。

「勝手にシーフードの店選んじゃったけど、苦手とか無い?」「あ、大丈夫です」

「んー、そろそろ敬語止めてほしいなあ」「……え? うん、じゃあそうする」

 ありがとう、とまたもイケメンスマイルをアタシに見せる。そして店員さんを呼び、アタシにあれこれ確認しながらヒロ君は注文した。

 ※※※

 ニャア、ニャア、と、ネコみたいな鳴き声を発しながら、海辺を飛んで行く白い鳥。日差しは眩しいけど潮風が心地いいから、日光は余り気にならないかも。

 思った以上にすっごく美味しかったシーフードレストランでランチ食べた後、アタシとヒロ君は一旦車に乗りなおして、シーフードレストランがある高台から、やや下に降りた場所に移動した。そこで何となく砂浜と海を眺めてる。砂浜と海が一望出来て、遠くに水平線まで見える絶好のロケーション。アタシがさっき海を嬉しそうに眺めてたのを見て、ヒロ君が気を利かせてここまで連れて来てくれたみたいなんだけど。

「あれって、カモメ?」「ハハハ、違うかな? きっとウミネコだろうね」

「良く知ってるねー」「そうかなあ。あれくらいは分かるっしょ」

「アホで悪かったね」「いやいや、そうは言ってないよ」

 慌てて訂正するヒロ君。なんかこの人、最初の印象とは大分違ってきた。思ったより紳士な気がする。まあ考えたら、二度助けて貰ってんだし、そもそも悪い人じゃない、か。アタシの思い込みっぽい。何か申し訳なかったなー。

「あのさ、今の彼氏って何で好きになったん?」「へ? あ、ああ……」

 突如ヒロ君に質問され、んー、と顎に手を乗せ考えてみるアタシ。……あれ? 何でアタシ、雄介の事好きになったんだっけ? あ、そうだ、ある日たけっちーと歩いてるの見かけて、見た目好みだったからだ。それから気になり出して、追っかけるようになったんだよなー。

「……外見?」「え? それだけ? 助けて貰ったとか、出会う回数が多かったとか、そういうんじゃないの?」

「そう言えばそういうの無かった」「じゃあ、思い込みって可能性もあるんだ」

「なんでそんな事聞くわけ?」「……俺にもチャンスあるかなって」

「……」そんなわけないっしょ! って、何故か言い返せなかった。運命、とか縁、という部分では、このヒロ君の方が強い気がするし、確かに振り返ってみれば、雄介にアタックしたキッカケって、アタシが見た目惚れただけだし。

「何というか、安川さんとは縁を感じるんだよね。俺、そんなに見た目悪いかな? 相応しくないかな?」「……分かんない」

 つい、フイと俯いてしまった。アタシなんで、強く否定できないんだろ? 

「さて、そろそろ帰るか」「え? う、うん」

 アタシの表情を一瞥し、車に誘うヒロ君。まだ時間は午後三時。だからこれから他に、どこか行こうと思えば行けるんだけど、

 ……誘わないんだ。

「どうした?」「え? 何でもない」

 本当に昼御飯だけなんだ。アタシに対して好意を持ってる発言しときながら、それ以上は迷惑かけちゃいけないって事? 昼御飯だけの約束だからって事?

「そっか。でもなんか悩んでたら言ってよ。彼氏に言えない事もあるだろうし」

 そんな事考えてたら、更にアタシを気遣う言葉。つい、「ありがとう」と答えた。

 ヒロ君はそれにニコっと笑顔を返し、黙って助手席のドアを開ける。アタシは頭を下げ黙って乗りこみ、ヒロ君も運転席に乗り込んだ。

 そして行きの時に見えていたラブホテル群を気にする事なく過ぎ去って、約一時間程走った後、最初待ち合わせした場所に戻ってきた。

「今日はありがとう。また連絡するよ」「あ……、うん」

 そしてニコっと笑顔を見せ、一人車に乗りこみ帰って行った。

 ……誠実な人なのかも。


 ※※※

『え~? マジっすか! ホテル行かなかったんすか!』「そりゃあな。あれだけのいい女だし、ホントはサッサと連れ込みたいんだけどな」

『あの場所、連れ込みしやすいので有名なとこなのに。ヒロ君らしくないっすね』「ああほんと、俺らしくないな。でも、これはビジネスだ。目的はそこじゃない。だから我慢するしかねーわ。ま、手に入れたら存分に楽しむ予定だけどな」

『ヒロ君の後でいいんで、俺達も……』「何度も言わなくたって分かってるって。お前らもしつこいなあ」

『つーか、イイ男のフリしなくてもいいんじゃないすかね? あの女、見かけによらず気弱いっすよ。押し倒して襲って動画でも撮って脅せば一発じゃないっすか?』「バーカ。だからお前らはいつまで経っても脇役なんだよ。それが目的じゃねーだろ? ちゃんと俺に惚れされる事が重要なんだよ」

『……ま、確かに俺達にゃできないっすわ』「だろ? ま、抱き心地良かったら、暫く楽しませて貰うつもりだけどな」

 ……しっかし、もう一人、ねえ。そこまでやるんだな、恩田さん。
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