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その六十
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※※※
「いや! 絶対にいや!」「わがままは許さないわよ! こっちへ来なさい!」
私の腕を強引に引っ張り、武智君から引き離す恩田さん。
「いやだ! 私は武智君と一緒にいたいの!」「いい加減にしなさい! 大人の言う事が聞けないの!」
恩田さんの力が強くて抗えない。どんどん武智君から引き離されてしまう。そして武智君は、恩田さんの取り巻きの人達に羽交い締めにされ、身動きが取れない。
「柊さん!」「武智君! 離れたくない!」
「この……! 仕方ない子ね!」そう言いながら恩田さんは、いつの間にか手にしていた私のスマホを操作し、武智君の連絡先を消した。それを見た私は絶望し、大声で泣き叫ぶ。
「いや! いやああああ!!!」
※※※
「いやああ……、あれ?」
パチクリと瞬きする私。そしてガバっと上半身だけ起き上がる。……ああ、なんだ。夢か。
寝起きでぼーっとする頭だけど、それはすぐに理解できた。というか、なんて夢見るんだろ。私余程、武智君の事が好きなんだな。離れたくないんだな。それに気づいてつい、クスッと笑っちゃった。
そして改めてキョロキョロと辺りを見回す。全く見覚えのない部屋の中。「えっと? ここ、どこ?」……私の部屋じゃない? 見た事のない白いタンスに、綺麗に整頓されているこれまた見た事のない学習机。……あ! そうだ私、武智君の家に泊まったんだった。
そこで昨晩の事を思い出す。私、武智君の部屋に行って、それで色々話して、それから……、あれ? 途中から記憶が無い。確か武智君に、私の身の上話をしてたはずなんだけど。いつベッドに入ったんだろ?
えっと、ここは多分、武智君のお姉さんの部屋かな? とりあえず私はベッドから出て立ち上がり、部屋の外に出てみた。うん、やっぱりお姉さんの部屋だ。だって隣に武智君の部屋があるから。
と、言う事は、武智君が私をお姉さんの部屋まで運んでくれたのかな?
武智君の部屋のドアをコンコン、とノックしてみる。……返事がない。ドアに耳を当ててみるけど、何も聞こえない。もう下に降りたのかな?
武智君が部屋にいないなら、と、私は下に降りる。あ、お味噌汁のいい匂いが漂ってきた。
「あら、起きた?」「あ、おはようございます」武智君のお母さんと丁度階段下で出会ったので、慌てて挨拶する私。そして武智君のお母さんは、「洗面所にタオルと新しい歯ブラシ用意してるから、使ってね」と笑顔で教えてくれた。
私はありがとうございます、とお礼を言い、言われた通りリビングに向かう前に洗面所に行く。あ、武智君の声と、それからお父さんの声もリビングから聞こえてきた。やっぱり武智君、先に起きてたんだ。……そう言えば今何時だろ? 確認せず降りてきちゃった。スマホは電源切ったまま、部屋に置いてきちゃったし。というか、私昨晩、家に連絡してから、一切スマホ見てないなあ。
とりあえず、武智君に起きたばかりの顔、見られるの恥ずかしいし、私は武智君のお母さんのご厚意に甘え、急ぎ顔を洗う事にした。
※※※
「ほら、悠斗。そわそわしない」「だ、だってさあ」
「ワハハ! 悠斗もやっぱり男の子なんだなあ」「もういい加減俺をからかうの、止めてくれよ」
ずっとこんな調子で、俺の様子を見てちょっかいかける父さんに疲れながらも、未だソワソワが止まらない俺。昨晩柊さんは、俺を抱きしめたまま寝てしまったので、俺は起こさないよう、そっと柊さんをお姫様抱っこして、姉貴の部屋に寝かせたんだよな。
……柊さん、めっちゃ軽くて驚いたけど。つか、あんな軽いのに、胸が結構、その……、ゴホンゴホン。
でもまあ、昨晩もし、柊さんが起きてたら、俺正直ヤバかったな。理性で本能抑えるの、もうギリギリだった。だからあの時、寝てくれてホッとした。ま、ちょっと残念だとおもったのも本音だけど。……だってまだ、彼氏彼女の関係になったわけじゃないんだし。まあそりゃあんだけ手繋いだり抱きついたりキスしてたら、付き合ってるようなもんなのかも知れないけどさ。
それでも、付き合って欲しい、と言った答えは、未だ保留のままなのは事実だ。その答えを貰うまでは、一線を越えちゃいけない。そう思う。
で、今は朝八時半過ぎ。俺もあの後すぐ寝ちゃった。興奮醒めやらぬ状態だったけど、それでも疲れのほうが上回ってたみたいで。七時半には目が覚めて、既に俺は飯食って顔洗ってリビングでまったりしてたら、母さんが、ついさっき柊さんが起きて顔洗ってるって聞いたんで、今更ながら緊張してるわけ。だって朝起きたての状態で、自分家で柊さんと顔合わすんだから。
「あ、おはよう」「お、おはよっす」
そんな事を考えてたら、柊さんがリビングに入ってきた。まだあの姉貴の薄いピンクのキャミソールに水色の短パン姿のまま。相変わらずメチャクチャ可愛い。つーか、俺ん家で柊さんと朝の挨拶するなんて、凄く変な感じだ。
……そういや朝の挨拶、普通にするの初めてかも。学校では嫌われ演技だったし。
「フフ。変な挨拶」「だ、だってさ、こうやって普通に朝に挨拶すんの初めてだったからさ」
「……あ、そう言えばそうだったね」柊さんも気づいたみたいだな。
「とりあえず柊さん座って。大したもの用意できなかったけど、朝ご飯食べてね」「あ、申し訳ありません。ありがとうございます」
そこで母さんが柊さんを席へ誘う。遠慮しながらおずおずと勧められた席へ座る柊さん。因みに俺の隣だ。まあ俺は既に朝飯食い終わってるけど。因みにそこは普段姉貴が使ってた席だったりする。しかしほんと、不思議な感じだなあ。柊さんと朝、こうやって俺ん家の食卓に一緒にいるなんてさ。と、そんな事考えながら麦茶を口にする。
「こうやって並んで座ってたら、何だか夫婦みたいね」そこで母さんがとんでもない事言うから、ブフー! と盛大に麦茶吹いてしまう俺。柊さんは、その言葉を聞いて一気に湯気が出そうな程顔が真っ赤になってるし。
「ちょっと悠斗! 汚いわね!」「だ、だって母さんが余計な事言うからだろ!」
「そんな事言ってるけど、まんざらでもない顔してるじゃない」「だーから一言余計だっつの」
「おー怖い怖い。恥ずかしいからって私に当たらないでよねー」「くっそ、小馬鹿にしやがって」
「しかし、柊さんって本当可愛らしくて良い子だなあ」「こら父さん、その言い方。何だか偉そうよ」
そうか? と母さんに指摘され、気まずそうに頭を掻く父さんに、柊さんは気にしてないです、と微笑みながら伝える。
「ほぅら母さん! 柊さん、気にしてないって言ってるじゃないか」「あんたねえ、柊さんは気を使ったの。分かるでしょ?」
「ま、まあとにかくさ、柊さん腹減ってるでしょ? 朝ご飯食べさせてあげてよ」「あ、そうね。ごめんね騒がしくて」
「いえ。何だか見ていて私も楽しい気分になりますので。ご家族仲良くていいなあって思いましたし」そう言いながら、俺らのやり取りをずっとクスクス笑いながら見てた柊さん。……ま、柊さんが楽しいならいいか、な?
そして緊張した様子ながら、手を合わせていただきます、と言ってから、柊さんは朝食に箸をつけ始めた。
※※※
「色々ありがとうございました。突然お邪魔してしまい、すみませんでした」「いいのいいの。柊さんさえ良かったら、またいらっしゃいね」「そうそう。うちは大歓迎だよ」
ニコニコしながら、玄関口で見送る両親。俺は柊さんを送るため、一緒に玄関で靴を履いてる。柊さんも靴を履き終え、何度も俺の両親に頭をペコペコ下げながら、俺と共に玄関を出た。
「暑っちーぃなぁ」「日差し凄いね」
出た瞬間、まだ午前中だと言うのにジリジリと日差しが照りつける。つい手で日よけしてしまうほど、太陽が眩しい。既に蝉がミーンミーンとけたたましく鳴いているのが、より一層暑さを引き立たせてるみたいに感じる。
柊さんはこの辺の土地勘が無いので、俺が柊さんの家の近く、あの歩道橋の辺りまで案内する事になった。まあ歩道橋の下までは行けないけどね。また恩田さんとやらに見つかったら大変だし。本当は安川さんの家に泊まってる事になってんだから。
眩しくて暑い日差しに、やや顔をしかめる俺に、ふと、柊さんがフフフと笑いながら話しかける。
「何だか、凄い経験しっぱなしだったなあ。思い返したらついおかしくなっちゃった」「アハハ。確かにそうかも」
「でも、楽しかった。夏祭りもそう。すごく貴重な経験だったよ」「そっか。良かった」
そして柊さんは俺の手を握った。それも自然に。一瞬ドキっとしたけど、考えたらもう何度もキスしてるし、何度も抱き合ってるんだけど、それでも未だ慣れない。しかも俺、若干汗掻いてんだけど。更にこんな暑いのにいいのかな? と思ったりしたけど、柊さんがそうしたいなら、ま、いいか。正直俺も嬉しいし。
「ハハ。暑くない? つか、何だか凄い自然に手繋ぐんだね」「迷惑だった?」
「まさか。めっちゃ嬉しい」「フフ。良かった」
凄く可愛らしく俺に微笑みかける柊さん。……もう普通にカップルみたいじゃね? でもまだ、付き合うってのは保留されたままなんだよな。そこが何となくモヤモヤすると言うか。まあ、言質取る事が重要じゃないんだろうけど、今まで女の子と付き合った事ない俺としては、そこんところ、きちんと付き合いましょう、分かりました、というやり取りしたいと言うか……。
「……夢を、見たの」「夢?」
俺がそんな事を考えてたら、柊さんが話しかける。
「うん、昨晩、寝てる時にね。で。それで分かった。私、自分が思ってる以上に、武智君の事、好きなんだって」「……何だか改まって言われると、結構恥ずかしいなあ。で、どんな夢だったの?」
「武智君と引き離されちゃう夢。でも私、凄く必死になって抵抗してたの。だから決めたの」
そう言いながら、今度は柊さん俺から一旦離れ、俺の正面に立った。
「柊美久は、武智悠斗君の彼女になりたいです」
「いや! 絶対にいや!」「わがままは許さないわよ! こっちへ来なさい!」
私の腕を強引に引っ張り、武智君から引き離す恩田さん。
「いやだ! 私は武智君と一緒にいたいの!」「いい加減にしなさい! 大人の言う事が聞けないの!」
恩田さんの力が強くて抗えない。どんどん武智君から引き離されてしまう。そして武智君は、恩田さんの取り巻きの人達に羽交い締めにされ、身動きが取れない。
「柊さん!」「武智君! 離れたくない!」
「この……! 仕方ない子ね!」そう言いながら恩田さんは、いつの間にか手にしていた私のスマホを操作し、武智君の連絡先を消した。それを見た私は絶望し、大声で泣き叫ぶ。
「いや! いやああああ!!!」
※※※
「いやああ……、あれ?」
パチクリと瞬きする私。そしてガバっと上半身だけ起き上がる。……ああ、なんだ。夢か。
寝起きでぼーっとする頭だけど、それはすぐに理解できた。というか、なんて夢見るんだろ。私余程、武智君の事が好きなんだな。離れたくないんだな。それに気づいてつい、クスッと笑っちゃった。
そして改めてキョロキョロと辺りを見回す。全く見覚えのない部屋の中。「えっと? ここ、どこ?」……私の部屋じゃない? 見た事のない白いタンスに、綺麗に整頓されているこれまた見た事のない学習机。……あ! そうだ私、武智君の家に泊まったんだった。
そこで昨晩の事を思い出す。私、武智君の部屋に行って、それで色々話して、それから……、あれ? 途中から記憶が無い。確か武智君に、私の身の上話をしてたはずなんだけど。いつベッドに入ったんだろ?
えっと、ここは多分、武智君のお姉さんの部屋かな? とりあえず私はベッドから出て立ち上がり、部屋の外に出てみた。うん、やっぱりお姉さんの部屋だ。だって隣に武智君の部屋があるから。
と、言う事は、武智君が私をお姉さんの部屋まで運んでくれたのかな?
武智君の部屋のドアをコンコン、とノックしてみる。……返事がない。ドアに耳を当ててみるけど、何も聞こえない。もう下に降りたのかな?
武智君が部屋にいないなら、と、私は下に降りる。あ、お味噌汁のいい匂いが漂ってきた。
「あら、起きた?」「あ、おはようございます」武智君のお母さんと丁度階段下で出会ったので、慌てて挨拶する私。そして武智君のお母さんは、「洗面所にタオルと新しい歯ブラシ用意してるから、使ってね」と笑顔で教えてくれた。
私はありがとうございます、とお礼を言い、言われた通りリビングに向かう前に洗面所に行く。あ、武智君の声と、それからお父さんの声もリビングから聞こえてきた。やっぱり武智君、先に起きてたんだ。……そう言えば今何時だろ? 確認せず降りてきちゃった。スマホは電源切ったまま、部屋に置いてきちゃったし。というか、私昨晩、家に連絡してから、一切スマホ見てないなあ。
とりあえず、武智君に起きたばかりの顔、見られるの恥ずかしいし、私は武智君のお母さんのご厚意に甘え、急ぎ顔を洗う事にした。
※※※
「ほら、悠斗。そわそわしない」「だ、だってさあ」
「ワハハ! 悠斗もやっぱり男の子なんだなあ」「もういい加減俺をからかうの、止めてくれよ」
ずっとこんな調子で、俺の様子を見てちょっかいかける父さんに疲れながらも、未だソワソワが止まらない俺。昨晩柊さんは、俺を抱きしめたまま寝てしまったので、俺は起こさないよう、そっと柊さんをお姫様抱っこして、姉貴の部屋に寝かせたんだよな。
……柊さん、めっちゃ軽くて驚いたけど。つか、あんな軽いのに、胸が結構、その……、ゴホンゴホン。
でもまあ、昨晩もし、柊さんが起きてたら、俺正直ヤバかったな。理性で本能抑えるの、もうギリギリだった。だからあの時、寝てくれてホッとした。ま、ちょっと残念だとおもったのも本音だけど。……だってまだ、彼氏彼女の関係になったわけじゃないんだし。まあそりゃあんだけ手繋いだり抱きついたりキスしてたら、付き合ってるようなもんなのかも知れないけどさ。
それでも、付き合って欲しい、と言った答えは、未だ保留のままなのは事実だ。その答えを貰うまでは、一線を越えちゃいけない。そう思う。
で、今は朝八時半過ぎ。俺もあの後すぐ寝ちゃった。興奮醒めやらぬ状態だったけど、それでも疲れのほうが上回ってたみたいで。七時半には目が覚めて、既に俺は飯食って顔洗ってリビングでまったりしてたら、母さんが、ついさっき柊さんが起きて顔洗ってるって聞いたんで、今更ながら緊張してるわけ。だって朝起きたての状態で、自分家で柊さんと顔合わすんだから。
「あ、おはよう」「お、おはよっす」
そんな事を考えてたら、柊さんがリビングに入ってきた。まだあの姉貴の薄いピンクのキャミソールに水色の短パン姿のまま。相変わらずメチャクチャ可愛い。つーか、俺ん家で柊さんと朝の挨拶するなんて、凄く変な感じだ。
……そういや朝の挨拶、普通にするの初めてかも。学校では嫌われ演技だったし。
「フフ。変な挨拶」「だ、だってさ、こうやって普通に朝に挨拶すんの初めてだったからさ」
「……あ、そう言えばそうだったね」柊さんも気づいたみたいだな。
「とりあえず柊さん座って。大したもの用意できなかったけど、朝ご飯食べてね」「あ、申し訳ありません。ありがとうございます」
そこで母さんが柊さんを席へ誘う。遠慮しながらおずおずと勧められた席へ座る柊さん。因みに俺の隣だ。まあ俺は既に朝飯食い終わってるけど。因みにそこは普段姉貴が使ってた席だったりする。しかしほんと、不思議な感じだなあ。柊さんと朝、こうやって俺ん家の食卓に一緒にいるなんてさ。と、そんな事考えながら麦茶を口にする。
「こうやって並んで座ってたら、何だか夫婦みたいね」そこで母さんがとんでもない事言うから、ブフー! と盛大に麦茶吹いてしまう俺。柊さんは、その言葉を聞いて一気に湯気が出そうな程顔が真っ赤になってるし。
「ちょっと悠斗! 汚いわね!」「だ、だって母さんが余計な事言うからだろ!」
「そんな事言ってるけど、まんざらでもない顔してるじゃない」「だーから一言余計だっつの」
「おー怖い怖い。恥ずかしいからって私に当たらないでよねー」「くっそ、小馬鹿にしやがって」
「しかし、柊さんって本当可愛らしくて良い子だなあ」「こら父さん、その言い方。何だか偉そうよ」
そうか? と母さんに指摘され、気まずそうに頭を掻く父さんに、柊さんは気にしてないです、と微笑みながら伝える。
「ほぅら母さん! 柊さん、気にしてないって言ってるじゃないか」「あんたねえ、柊さんは気を使ったの。分かるでしょ?」
「ま、まあとにかくさ、柊さん腹減ってるでしょ? 朝ご飯食べさせてあげてよ」「あ、そうね。ごめんね騒がしくて」
「いえ。何だか見ていて私も楽しい気分になりますので。ご家族仲良くていいなあって思いましたし」そう言いながら、俺らのやり取りをずっとクスクス笑いながら見てた柊さん。……ま、柊さんが楽しいならいいか、な?
そして緊張した様子ながら、手を合わせていただきます、と言ってから、柊さんは朝食に箸をつけ始めた。
※※※
「色々ありがとうございました。突然お邪魔してしまい、すみませんでした」「いいのいいの。柊さんさえ良かったら、またいらっしゃいね」「そうそう。うちは大歓迎だよ」
ニコニコしながら、玄関口で見送る両親。俺は柊さんを送るため、一緒に玄関で靴を履いてる。柊さんも靴を履き終え、何度も俺の両親に頭をペコペコ下げながら、俺と共に玄関を出た。
「暑っちーぃなぁ」「日差し凄いね」
出た瞬間、まだ午前中だと言うのにジリジリと日差しが照りつける。つい手で日よけしてしまうほど、太陽が眩しい。既に蝉がミーンミーンとけたたましく鳴いているのが、より一層暑さを引き立たせてるみたいに感じる。
柊さんはこの辺の土地勘が無いので、俺が柊さんの家の近く、あの歩道橋の辺りまで案内する事になった。まあ歩道橋の下までは行けないけどね。また恩田さんとやらに見つかったら大変だし。本当は安川さんの家に泊まってる事になってんだから。
眩しくて暑い日差しに、やや顔をしかめる俺に、ふと、柊さんがフフフと笑いながら話しかける。
「何だか、凄い経験しっぱなしだったなあ。思い返したらついおかしくなっちゃった」「アハハ。確かにそうかも」
「でも、楽しかった。夏祭りもそう。すごく貴重な経験だったよ」「そっか。良かった」
そして柊さんは俺の手を握った。それも自然に。一瞬ドキっとしたけど、考えたらもう何度もキスしてるし、何度も抱き合ってるんだけど、それでも未だ慣れない。しかも俺、若干汗掻いてんだけど。更にこんな暑いのにいいのかな? と思ったりしたけど、柊さんがそうしたいなら、ま、いいか。正直俺も嬉しいし。
「ハハ。暑くない? つか、何だか凄い自然に手繋ぐんだね」「迷惑だった?」
「まさか。めっちゃ嬉しい」「フフ。良かった」
凄く可愛らしく俺に微笑みかける柊さん。……もう普通にカップルみたいじゃね? でもまだ、付き合うってのは保留されたままなんだよな。そこが何となくモヤモヤすると言うか。まあ、言質取る事が重要じゃないんだろうけど、今まで女の子と付き合った事ない俺としては、そこんところ、きちんと付き合いましょう、分かりました、というやり取りしたいと言うか……。
「……夢を、見たの」「夢?」
俺がそんな事を考えてたら、柊さんが話しかける。
「うん、昨晩、寝てる時にね。で。それで分かった。私、自分が思ってる以上に、武智君の事、好きなんだって」「……何だか改まって言われると、結構恥ずかしいなあ。で、どんな夢だったの?」
「武智君と引き離されちゃう夢。でも私、凄く必死になって抵抗してたの。だから決めたの」
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