何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その五十九

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 ※※※

 相変わらずリーリー、と、外から虫の音が聞こえる夜中の俺の部屋。遥か遠くに車の音が、耳を澄ませば聞こえるくらいの沈黙。既に時間は夜零時半を過ぎている。

 俺は、初めて、柊さんの事を聞いた。

 ずっと昔から、その容姿のせいで悩んでいた事。親の理解を得られなかった事。中学時代、それで荒れた事。恩田さんという、芸能事務所の社長が、柊さんの道標となってくれた事。だから親は恩田さんを保護者というのを受け入れている事。だから、柊さん達家族は、恩田さんには逆らえない事。

 そして、疋田美里さんになってバイトしていたのは、変装してならOKだと、親から言われていたからだという事も。

 そこで俺と出会った。柊さんは俺の事を、空手の大会で準優勝した時の顕彰幕で知ってたみたいだけど。俺が柊美久さんこと、疋田美里さんと直接触れたのは、そのバイト先が初めてだったみたいだ。当然、俺は疋田美里さんの正体を知らなかったけど。

 当初柊さんは、俺が同じ高校に通っている事を知っていたから、ずっと大人しくして必要最低限の会話しかしなかったらしい。だから最初の頃は、何だか愛想悪かったんだな。でも、あの誘拐事件の後、俺への気持ちが徐々に変わっていったらしい。

 そして柊さんはその頃から、学校で嫌われ演技をしていた。

 学校では俺に嫌われるよう演技しながら、バイト先では俺とにこやかに接する。それでも柊さんは、俺と一緒にいられて嬉しかった、楽しかった、と言ってくれた。勿論、雄介と安川さんと共に行った遊園地や、俺と二人で行った映画も、凄く楽しかったって言ってくれた。

 でもある日、恩田さんに俺がバイト先にいる事がバレてしまう。……あの、俺が告白しようとした約三ヶ月前の時だ。それでバイトを辞めさせられたらしい。

 でも、その少し前から、屋上で俺と二人で会うようになった。それは安川さんのおかげだけど。そしてほぼ毎日会うようになって、柊さんは、俺への想いが止まらなくなった、と、顔を赤くしながら言ってくれた。凄く嬉しい。そしてめっちゃ照れる。

「そっか」「うん」

 ひとしきり話を聞いて、俺は何となく部屋の天井を眺める。……こうやって柊さんの事聞くの初めてだったけど、凄く苦労してたんだな。それが改めてわかった。

「ハハ。俺、すげぇ贅沢な奴だなあ。こんなに想ってくれてたなんて」「そうやって改めて言われると恥ずかしいけどね」

 柊さんはそう言いながら、俺に微笑みかける。未だ石鹸とシャンプーのいい香りが、柊さんから漂ってくるから、俺はずっと理性を保つのに必死だ。相変わらず薄いキャミソールの胸元が見えてるし。首元の鎖骨も、何だか艶めかしくて……。おおっといけない。

 こんな可愛い子に、俺はずっと想われてたのか。そう思うと、改めて喜びが心底湧いてくる。

 ……そして柊さん、俺との関係を切りたくなくて、こうやって家を飛び出したんだよな。その気持ちもメチャクチャ嬉しい。

 でも、俺の存在って柊さんの負担になってないか? 

 柊さんを引っ張って連れて行く時、俺に対して関わるなって冷たい目で言った恩田さん。これから柊さんが芸能人になるのに、スキャンダルが理由で柊さんの未来を奪うのは良くない。確かにその通りだと俺も思う。一素人の柊さんに、これだけ目をかけて育ててるんだから、その期待度は相当高いんだろうし。しかも社長である恩田さん自ら、柊さんに積極的に関わって世話を焼いてるみたいだし。芸能界の事を詳しく知らない俺でも、その事がどれだけ柊さんを大事にしてるか、凄く良く分かる。

 でも……。

「武智君。好きだよ」「……俺も」

 沈黙していた俺の様子が不安だったんだろうか。急に好きだと言う柊さん。そして俺の肩に頭をちょこんと置く。

「フフ。何だか修学旅行で先生に内緒で会ってるみたい」「ああ、今のこの状況、確かにそんな感じかも」

 うん、と未だ肩に頭をおいたまま返事する柊さん。

 柊さんも、どうすればいいのか分からないんだな。気持ちはきっと、繋がっていたい。でも、現実を見れば、……俺達は離れていた方がいいのかも知れない。

 だけど……。

「ねえ武智君。私って勝手なのかな。恩田さんの言う事は理解出来るの。だけどね、私、武智君とは、離れたくない」

「俺だってそうさ」

 そう言いながら、俺の肩に乗っていた柊さんの頭を、俺の胸に持ってきて抱きしめる。きっと、速くなってる俺の心臓の音が、柊さんに聞こえてんだろうけど、気にしちゃいない。俺は今、この子が愛しくてたまらないんだから。

「こうやって、武智君に抱きしめられるの、凄く心地良い。私にとって、大事な場所」「俺も、柊さんとこうやって一緒にいるの、凄く気持ちいいよ」

「一緒だね」「一緒だな」

 同じ事を言ったのが面白かったのか、フフ、と笑う柊さん。そして俺の胸から離れ、俺の顔を見つめる。そしてそのままそっと口を付ける。それから俺の首に腕を巻き付け、体を俺に預けた。

「ずっと、一緒にいたい。このまま、ずっと……」「……」

 またも柊さんの柔らかく温かい膨らみを体に感じる。リーリー、と未だ外から虫の音が聞こえるほど静かな俺の部屋の中。正直、俺の理性は限界に達している。

 俺をここまで慕ってくれている柊さん。俺もこの子が好きだ。もう、これ以上、抑える事が出来ない。そう考えると、余計に心臓の鼓動がバクバク強く速くなる。それが聞こえているのかどうなのか、柊さんはずっと、俺に抱きついたままだ。その柔らかい感触を俺の体に預けながら。

 もう、このまま、この子と……。

「……ん?」

 俺がこのまま、初めてを経験するかも、と、期待と緊張が入り混じった気持ちになっていると、柊さんが急に大人しくなるのを感じる。

 あれ? もしかして……。

「スー、スー」

 ……柊さん、俺に抱きついたまま、寝ちゃったっぽい。
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