何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その五十八

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 ※※※

「……」

 チャプン、といつもの慣れた我が家の風呂に、メチャクチャ緊張しながら入る俺。だってだって、さっきまでこの湯船に柊さんが入ってたんだぞ! 風呂だから当然一糸まとわぬ姿で! 緊張しないほうがおかしいだろ! で、何となーくブクブクと、湯船に顔を沈めてみる俺。ふう、ここに柊さんが……、と考えた瞬間、「ゲホッゲホッ!」と、鼻から思い切りお湯を吸い込んでしまった。

 気を取り直してザバーンと湯をこぼしながら、湯船から出て椅子に座ると、普段置いてない姉貴のシャンプーとリンスが目に入った。あ、これきっと、柊さん使ったんだな。てか、今オレが真っ裸で座ってるこの椅子に、柊さんも当然真っ裸で座った、て事は、お尻が……。うぎゃあ! 考えるな俺! 余計な事考えるなああ!!

「やかましい! 風呂で何騒いでんの!」そこでいきなり母さんの怒鳴り声が脱衣所から聞こえてきた。……俺、声出てたのね。母さんの怒鳴り声で一気にチーンと大人しくなる俺。とりあえず頑張って心頭滅却しながら、普段通りを心がけて体を洗う。あ、そうだ。

「そういやさっきさー、柊さんに耳打ちしてなかった?」母さんが脱衣所にいるついで、気になったので聞いてみた。

「ああ、柊さんにアドバイスをね。家にお泊り電話するのに、正直に男の子の家に泊まるなんて言っちゃったら、きっと親御さん大慌てするんじゃないかって思ったから、女友達に相談したらどう? って言ってたのよ。安川さん? とか言ってたわね。その子にお願いするって言ってたけど」

 成る程そういう事だったのか。……てか、色々気を回せる母さん、スゲェな。

 まあ柊さん、うちに来る前は泣いてたから、安川さんとこに連絡したらきっと心配掛けてただろうけど、今なら落ち着いてるし、電話しても大丈夫だったんだろう。

「……敢えてあの子の前じゃ言わなかったけど、目真っ赤だったじゃない? 泣いてたのすぐ分かったわよ。お家で何があったか知らないけど、もし追い出しちゃったらあの子、こんな夜分なのに行くところ無かったでしょ? しかも、悠斗が急に飛び出していって、連れて帰って来た女の子なんだから、あんたの事信用してるってのも分かってたし」

「……さいですか」「母さんを舐めんじゃないわよ」

 脱衣所でフフン、とか聞こえた気がするのはスルーする。しかし母さん、柊さんの事ちゃんと見てたんだな。

「ありがとな、母さん」「いえいえ。ま、久々に女の子が我が家に来て、何だか明るくなった気がして嬉しかったから、気にしなくていいわよ」

 と、笑いながら母さんは脱衣所を後にする。……あれで勉強の事さえ言わなきゃ、良い母さんなんだけどなあ。

 そして俺が風呂から上がりリビングに行くと、既に父さんはおらず、母さんだけがいてテレビ観てた。あれ? 柊さんもいない?

「柊さんは?」「もう上がっていったわよ。父さんも自分の寝室に行ったわ」

 あ、そう、と返事する俺。……そっか。柊さん、もう寝ちゃったのか。残念だな。せめて何があったか聞きたかったんだけどなあ。でも、今日夏祭り行ったし、家飛び出してきちゃってるし、更に突如俺ん家に泊まる事になったし。だから相当疲れてるだろうから、仕方ない、か。

 肩を落とす俺を見ながら、母さんが、しょぼくれちゃって、と呆れた顔する。そうだよ、しょぼくれてたんだよ。悪いか。

「ま、あんたもいい歳だし、そろそろ彼女の一人でも連れてくるんじゃないかって思ってたけど、まさかあんな可愛い子だなんてねえ」「い、いや、まだ彼女じゃ……」

「ふーん。、ね」「あ」しまった、つい。顔を赤くしてしまう俺を見て、ニヤリとする母さん。

「とりあえず、夏休み入ったら塾通うんでしょ? あんま色恋沙汰にうつつを抜かしてちゃダメよ。まあ母さんは、柊さん、いい子だと思うし可愛いし、あの子なら大賛成だけどね」

 そう言いながらバーンと背中を叩く母さん。ゲホッゲホッとむせる俺に、余計なちょっかいかけちゃダメよ、と言いながら、一階のにある父さんが既に寝てるであろう、寝室に向かっていった。……ちょっかいなんかかけるわけ無いだろ。俺にそんな勇気あるわけないのに。ていうか柊さん、きっともう寝てるよ。疲れ切って。

 つか、柊さん、俺の部屋の横の姉貴の部屋で寝てんだよな? それってかなりヤバくね? 同じ屋根の下に、さっき夏祭りでずっと一緒にいて、しかもお互い好きだって言い合った女の子が寝てるって。しかもあの超絶美少女柊さんだぞ? ……そう考えると急に意識してしまう。やばい。緊張してきた。ただ俺の部屋に行くだけなのに。

 ふう、と緊張を解きほぐすように息を吐いて、何だか気を引き締めつつ階段を上がる。姉貴の部屋は奥で俺の部屋は手前だ。だから前を通る事もない。で、上がってみたらシーンとしてる。柊さん、やっぱりもう寝てるか。……起きてるかな? って結局期待してたりする俺、本当弱いというか情けないというか、欲望に忠実というか。

 残念な気持ちを抑えながら、とりあえず自分の部屋に入り、いつものようにベッドに仰向けで大の字になった。

「しっかし、とんでもない事しでかしたなあ俺。柊さん家に連れてくるなんて。でもまさか、お泊りするとは思ってなかったけど。……何があったんだろうなあ。気になる」

 まあ、明日にでも聞いてみるか。そう思いながら俺も疲れてるし、薄手のシーツにくるまりながら寝ようとした。

 そこでコンコン、とドアをノックする音が聞こえた。俺は慌ててガバっと起き上がり、ドアを開ける。やっぱり柊さんだった。

 風呂上がりで頬が紅潮し、綺麗な黒髪からシャンプーのいい香り漂ってくる。……いやそれよりも、だ。柊さんの格好、ヤバ過ぎる。薄手のピンクのキャミソールに、もう少しで太ももの隙間から下着が見えそうな、際どい水色ショートパンツって……。あ、これ、姉貴が寝る時着てたやつだ。

 それはともかく、何にせよメチャクチャ艶めかしい格好。つい、ゴクン、と生唾を飲み込んでしまった。

「あの、ごめんね、突然」「い、いや、だ、大丈夫、だよ」

 ドギマギしてる俺を見て、不思議そうな顔をする柊さん。……無自覚ですかそうですか。キャミソールの首元から胸の谷間が……。ついサッと目を逸らす俺に、またも「?」と首をコテンとかしげる柊さん。あーもう! いちいち仕草が可愛いの、何とかしてくんないかなあ?

 しっかし本当、今更だけどメチャクチャ可愛いな柊さん。いやまあ、姉貴もそれなりに美人だったけど、柊さんはそれに輪をかけて可愛い。姉貴と同じ服装なのに、可愛さ段違いなんだもんな。……当然姉貴にはそんな事言わないけど。

「あ、え、えと。ちょっと話せないかな、と思って。何だか緊張して寝れなくて。ドア開ける音聞こえたから来てみたの」「あ、ああ。じゃ、入る?」

 小さくコクンと頷き、おずおずと中に入る柊さん。

 ……そうだ俺、姉貴以外の女子を初めて部屋に入れた。こんな夜中に。しかも際どいキャミ姿の超絶可愛い女の子を。

 そしてベッドを背もたれにして、俺と柊さんは横並びに座る。ヤバい。柊さんからメチャクチャいい匂いがして、いつも以上に無防備なカッコだし、何だかもう、色々抑えるのが辛い。柊さんも何だか俺と同じく緊張してるっぽいけど。

「あ、あの。今日は色々とごめんね」「お、俺の方こそ、無理やり連れてきちゃって。でもまさか、母さんが泊まっていけって言うとは思って無くてさ」

「フフフ。でも、いいお母さんじゃない。私もまさかこうなるとは思ってなかったけど、感謝してるよ」「そ、そう? 強引じゃないかって心配したけど」

 つか、今更だけど、柊さん家に帰れないなら、安川さんのとこに泊まるよう、話すれば良かったんだよな。なんでそこに気づかなかったんだ俺……。

 俺が柊さんのいい香りや、際どい格好や、泊まる事になった事等々、あれこれ考えてたら、柊さんがふと、クスリと笑った。

「どうしたの?」「ううん。今日一日だけで、一杯初めての経験してるのが何だかおかしくて」

「そ、そっか」「……同級生の男の子の家に来るの初めてだし、部屋に入るのも初めてだし、泊まるのだって初めて。で、やっぱり落ち着かなくて。だから少しお話したら、マシになるかなあと思って」

 エヘヘと笑いながら俺を見る柊さん。そのいたずらっぽく笑う顔も可愛すぎて……。収まれ俺の欲望。そう心の中で言い聞かせながら、俺は拳を握りしめグッと堪える。信頼してくれてる柊さんを裏切る訳にはいかない。だから絶対に手を出したりはしない。……正直そんなに自信ないけど。

「ま、まあ、俺も、女の子を家に入れるの初めてだし、部屋入れたのも初めてだし、泊めるのも初めてだよ。姉貴は同じく女だけどあれはノーカウントだな」「姉弟だもんね」

「でもそっか。武智君も、初めてなのか」「そりゃそうだよ!」

 必死な言い方が面白かったようで、クスクス笑う柊さん。それもまた可愛い。俺は妙な気が起こらないよう、慌てて話題を振る。

「あ、あのさ、何があったか教えてくんない? 柊さん、俺に電話した時泣いてたし、気になって」

 俺がそう言うと、柔らかかった表情が急に曇る。そして俯いた柊さん。

「……武智君の連絡先、消されそうになった。でも私は、それだけは絶対に嫌だった。だから初めて、恩田さんに逆らっちゃった。でも、親も恩田さんの味方だし、どうしようもなくなって、飛び出してきちゃったの。……私、また武智君に甘えちゃったね。本当、弱い子でごめんね」

 悲しそうで寂しそうな、でも半ば無理やり笑顔を見せる柊さん。

「そっか。俺の連絡先を消されそうになったから、それに抵抗するため家を出てきちゃったのか」「うん」

 俺は、そんな柊さんが愛しくてたまらなくなって、思わず、ギュッと抱きしめてしまった。

「あ……」俺の圧のせいか、ふと吐息が漏れる柊さん。

 何だか艶めかしさを感じるその吐息を聞いて、俺は更に強く抱きしめてしまう。トクン、トクン、と柊さんの心臓の脈打つ音が、俺の体越しに伝わってくる。

 ……ん?

 何と言うか、屋上で雷が鳴って柊さんに抱きしめられた時、夏祭り、浴衣姿で俺が抱きしめた時と違って、柊さん、メチャクチャ柔らかくて気持ちいい。こ、これ、もしかして……。ひ、柊さん、そ、その、アレだ、ブラジャー着けてないんだ! て事はこのフワフワした気持ちいいのって……。ヤバイヤバイ! これは非常にヤバい! 俺の理性が耐えきれそうにない!

「ご、ごめん!」俺は突如バッと柊さんを離す。そんな俺の鼓動に、顔を赤いまま「?」と不思議そうにしてる柊さん。

 俺の一連の行動に首を傾げながらも、柊さんはこれまで何があったのか、話してくれた。
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