何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その五十六

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 ※※※

 もう時間は、夜の十時半になろうとしてる。

 保護者を名乗る見知らぬ年配の女性が、柊さんに怒って連れて帰っちゃったから、俺もあれから仕方なく、一人トボトボと家路についているんだけど。そういや急な事だったから、さよならさえ言えなかったなあ。

「……一体何者なんだろう?」等間隔に光ってる街灯をぼんやり眺め歩きながら、ふと呟く俺。柊さんも何故か抵抗できない感じだったし。

「とりあえず、家帰ってから寝る前に、柊さんに連絡してみるか」今の俺にはどうする事も出来ないし、考えたって仕方ないので、そう割り切って家路を急いだ。そして暫くすると、住宅街の一角にある、俺の家に辿り着く。

「ただいまぁー」「お帰りー。今年も人多かった?」

 帰って挨拶するなり、奥のリビングから母さんの声が聞こえてくる。多かったよー、とその問いかけに答えながら、慣れない甚平の裾を少し捲りあげ、クロッカスを脱いで家に入る。

「しかし父さんの甚平、サイズぴったりで良かったねえ」「そうだなあ」

 まだ続きそうな母さんの話に生返事しながらも、声が聞こえてきたリビングに入る。ソファには報道番組を観て座ってる父さんがいた。

「おう、お帰り」「あれ? 父さんまだ寝てないの?」

「もうちょっとしたら寝るけどな。風呂お前で最後だ」「あっそ。了解ー」

 今日は土曜で仕事は休みの父さん。普段なら休みの日は早々に寝てるんだけどな。とにかく俺は、ダイニングにある冷蔵庫から、キンキンに冷えた麦茶を取り出し、コップに注いで一気飲みする。そして今日あった色んな事を思い返しながら、甚平から寝間着に着替えるため、自分の部屋がある二階へ上がろうと、両親にお休みの挨拶をしてリビングから出た。

 するとそこで俺のスマホがバイブした。……ん? 疋田さんって表示出てるって事は、柊さんだ。見知らぬ年配の女性に引っ張って連れて行かれて、あれからどうなったか気になってたから、それ聞けるし丁度良かった。だから俺は、部屋に入ってすぐに電話に出る。

「もしもし?」『……グス、ヒック。ごめ……ん、なさい』

 ……え? 泣いてる? 

「もしもし! 柊さん! どうしたの? 何かあった?」『ヒック、ヒック。武智君しか、武智君しか、グス、頼る人、ヒック、いなくて……』

 ※※※

「はぁ、はぁ……。この公園で良いんだよな?」

 息を切らせとある公園の入口前で一旦立ち止まる俺。柊さんから泣きながら電話があって、めちゃくちゃ心配だったから、いるって言ってた公園まで急ぎ走ってきたんだけど。帰ってくるなりまたも飛び出した俺に驚いてた両親だけど、そんな事はどうでもいい。とにかく柊さんだ。

 この公園はさほど広くない。ど真ん中に外灯が一つだけあってそれが公園内を照らしてるだけなんだけど、それでも、ある程度公園内の様子が分かるくらいの広さ。時間はもう夜の十一時。かなり遅い時間なのに、一人柊さんがここにいるって言うから、俺は焦りながらキョロキョロして柊さんを探す。あ! ブランコのとこにいた!

「柊さん!」俺は慌てて柊さんが座ってるブランコに駆け寄る。誰もいない公園のブランコに一人、ぽつんと座ってた。

「武智……君」俺の顔を見るなり、一瞬嬉しそうな表情をして俺を見上げる。でもすぐ、その表情は曇って俯いた。その目は真っ赤だ。俺と二人でいる時散々泣いたのに、また結構泣いてたのか。……柊さんにとって何か良くない事があったんだな。俺と歩道橋の下で別れ際、あの黒いスーツの年配の女性に引っ張られて家に行った事が、きっと関係してるんだろうけど。

 俺は、弱っている柊さんが何となく可哀想で、でもとても愛しくて、つい頭を優しく撫でてしまった。ちょっと驚いた顔をして見上げる柊さん。けど、すぐに柔らかい表情になる。何だか幼い子どもみたいでそうしたくなっちゃった。嫌そうじゃなくて良かったけど。

 それから柊さんの目線に合わせしゃがむ俺。今度は柊さん、申し訳なさそうな顔で俺を見る。

「突然、電話しちゃってごめんなさい」「いいよ、気にしてない」

 俺は柊さんに気を遣わせないよう笑顔を見せる。

「明歩に電話しようとも思ったんだけど、多分今日は……」「ああ、雄介と一緒だろうね」

 夏祭り終わってからだと、きっと二人で盛り上がってるだろうし、そこへ泣きながら電話しちゃったら、二人の邪魔する事になるよなあ。だから俺に電話したわけか。

 とにかく、柊さんに何かあったのは間違いない。でも、何も言い出さない柊さん。遠慮して言いにくいのかな。色々話聞きたいんだけど、ここじゃちょっとなあ。家から飛び出してきたって事は何となく分かる。だから家には帰れないだろうし。……時間も時間だし、仕方ないな。

「あのさ、俺ん家ここから近いから、来る?」「え? でも……」

「いや、蚊がね、結構飛んでて鬱陶しいし」俺は苦笑いしながら答える。実はさっきからずっと、俺や柊さんの周りをブンブン飛び回ってる数匹の蚊。夏のこんな夜中の公園に人間二人。いわば俺達、蚊にとっては格好の餌なんだよな。今もブーンって耳元で聞こえるし。しかも柊さん、浴衣から既に着替えてて、半袖シャツに短いG生地のショートパンツで露出が多い服装。足が丸出しだから尚更良くない。

「あ、そ、そうだね。でも、こんな夜遅くお邪魔して迷惑じゃない?」「大丈夫大丈夫。寧ろ父さん母さん、喜ぶと思うよ」

 喜ぶ? 俺の言葉に首を捻るも、確かに蚊に刺されるのは、特に女性の柊さんは嫌だと思ったんだろう。俺の言葉に小さく分かった、と呟き、柊さんはブランコから立ち上がって、そして二人で公園を出た。

 この公園から俺の家は、歩いて五分もかからない場所だ。俺は柊さんを連れて家に帰り、未だ遠慮がちな柊さんに、大丈夫大丈夫、と笑顔で言いながら、家の玄関に誘った。

「ただいまー! 母さん! ちょっと来てー!」「何よ、夜中に大きな声出して……、って、えーと、どちら様?」

 家に着くなり玄関口で母さんを呼んだ俺。その声に渋い顔をしながら玄関にやってくるなり、柊さんを見て驚いて固まる母さん。突然出ていった息子が、まさか女の子を連れて帰ってくるなんて思ってないから仕方ないよな。そして母さんの様子を見て、柊さんはやや恥ずかしそうに、申し訳なさそうに「こんばんは」とペコリと頭を下げる。

「えと、学校の友達の柊さん。ちょっと訳ありで今家に帰れなくてさ」「訳ありって、こんな夜中に?」

「ほ、ほら、今日夏祭りだったじゃん?」「……ふーん。まあ、とりあえずここじゃ何だから上がって貰いなさいよ。父さーん! 夜分だけど可愛いお客さんよー!」

 リビングから「はあ? 可愛いお客さんって何だよ?」と父さんの素っ頓狂な声が聞こえてきた。そして俺は柊さんに、上がって、と促し、柊さんも、申し訳そうにしながらも、お邪魔します、とおずおずと家に上がった。そして二人でリビングに入る。

 で、俺達を見るなりギョッとした顔をする父さん。

「お、おおっとぅ? 本当に可愛らしいお客さんじゃないか。えーと、あ、はい。悠斗の父です」「あ、夜分にすみません。柊と申します」

 凄く申し訳なさそうに挨拶する柊さんと、びっくり仰天顔のまま挨拶する父さん。しかも寝る前だから父さんはパジャマ姿で、それがどうやら恥ずかしいらしくて何だかモジモジしてる。……中年のおっさんの照れた様子見ても誰得だよ? とか心の中で思ったのは内緒にしとこう。見てて面白いけど。

 そんな様子の父さんと柊さんを見て、母さんはクスリと笑いながら、冷蔵庫から麦茶を出して、柊さんが立ってる側の机の上に置く。ありがとうございます、と柊さんはペコリとお礼を言うも、まだ落ち着かない様子だ。

 ……そりゃそうだ。だって、男の家にこんな夜遅く連れてこられたんだもんな。何の前触れもなく。俺、とんでもない事しでかしたかも。

 今更ながら、自分が半ば強引に柊さんを連れて来た事について若干反省してると、微妙な空気を感じ取ったのか、母さんが柊さんに声を掛ける。

「ま、とりあえず麦茶置いたとこ座って。ご飯は食べた? 残り物で良かったら用意するけど」「あ、いえ。夏祭りで色々食べたので。大丈夫です。お気遣い有難う御座います」

「あ、成る程ね」と言いながら、何だかピーンと来たような顔をする。何だ?

「悠斗……あんたもしかして、この可愛い子とデートしてたんじゃないのぉ~?」「へ? あ、いや、えっと、ま、まあ、柊さん? お茶飲んだら?」「え? あ、う、うん」

 図星つかれて俺と柊さんはアタフタしてしまう。父さんがそれ見てニヤリ。

「なあ母さん。悠斗の奴見てみろ、慌ててやんの~」「うわあ思春期! 青春って感じねー」「もう! うるさいなあ」

 俺達のアホなやり取りを見てた柊さんは、そこでクスクスと笑った。

「仲いいんだね」「ま、まあね。勉強の事だけはすっごくうるさいんだけどねぇ」そんな俺の一言に、何だかカチンときた様子の母さん。

「何言ってんのよ。勉強大事でしょ? いつも言ってるけど大学行かせてあげれるんだから、感謝しなさいよ」「そうだそうだ。母さんの言う通り」「へいへい」

 そこでまたもクスクス笑う柊さん。そんなに面白いかなあ?

「とりあえず、柊さん? で良かったわよね? こんな夜分に女の子が出歩いてちゃ、親御さん心配してるんじゃないの?」そこで突然、母さんが真面目なトーンで柊さんに問いかける。まあごもっともだ。でも柊さん、多分今は家に帰れないだろうけど。

「すみません、ご迷惑かけて。親には後で連絡します」「そう? ならいいけど」

 そして柊さんがトイレを借りたいというので、俺が場所を伝える。柊さんがリビングから出ていったところで、父さんと母さんが目を見開いてガバっと俺にめっちゃ顔を近づけ詰め寄った。突然の事でビクっとなる俺。あーやっぱり気になるよね。そりゃそうだよねー。

「悠斗、あの子は一体何なんだ? あり得ないほど可愛い子じゃないか。お前もしかして……」「父さん待て。邪な事は一切ないから」

「でも何でこんな夜分に? しかも目が赤かったわよ? 家に帰れない事情でもあるんじゃないの?」「詳しくは分かんないけど、多分そうかな?」

 父さんの見当違いな心配とは違い、さすが母さん。女だからか、鋭い。 

「で、悠斗。あの子とお前はどういう関係なんだ?」「えっと、友達なのは間違いない、よ?」

 つい歯切れ悪くなってしまう俺。そうなんだよなあ。まだ友達なんだよなあ。お互い好きだって事は分かったんだけど、付き合うのは保留になってるし。でも、母さんは俺の様子を見てハハーン、と言いながらニヤリとする。何か気づいたっぽい。つか、母さん色々鋭くて何か怖い……。

「そういう事、ね。ま、丁度一部屋空いてるし、泊まらせてあげても良いんじゃない?」

「「ええ!」」

 俺と父さんは、驚いてつい声を張り上げてしまった。
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