何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

文字の大きさ
上 下
55 / 130

その五十五

しおりを挟む
 ※※※

「美久! 一体どういう事なの!」「お前、恩田さんを裏切るつもりか!」

 恩田さんに引っ張って家に連れて来られ、一旦私が部屋に戻って茶髪ウイッグと黒縁メガネ、更に浴衣から普段着に着替えてる間、リビングで恩田さんから事情を聞いていたお母さんとお父さんは、私がリビングに降りてきてすぐ、酷く叱責した。

 また、見つかってしまった。でもまさか、恩田さんが家に来てるなんて思ってなかった。最近はずっと、恩田さんも忙しくて会ってなかったのに。本来恩田さんは社長だし、私一人にかまけてるわけにもいかないから。だから油断してた。……家の前で待ってたのは、私がスマホの電源切ってて、ずっと繋がらなかったからだろうな。いつもの取り巻きの人達がいなかったのは、夏休み入ったらそれで学校終わりだから、それで私を監視する必要がなくなったからかも。

 以前、バイト帰りで武智君と共に帰った時も、恩田さん待ってたんだよね。恩田さんは私がバイトしていた事知っていたけど、そのバイト先に武智君もいたという事は知らなかった。私が言っていなかったし、マスターの疋田さんも内緒にしてくれていたし。

 今日、夏祭りに行く事は両親には伝えていた。友達と一緒に、という事も。そしてその事は恩田さんも知っていたはず。ただそれが、武智君だとは言ってない。言えば当然行かせて貰えないし、友達、というのは嘘ではないから。変装して行くから両親も安心してたし。

 両親は私が時折、疋田美里に変装して外出してる事も知ってる。そりゃ部屋にああやって茶髪ウイッグと黒縁メガネ置いてたら、わからないはずないんだけど。寧ろ変装して外出するのは、二人共大歓迎だったし。

 ずっと昔から、業界関係の人から声をかけられてきた事もあって、余計なトラブルに巻き込まれるのを極端に嫌う両親。だから恩田さんから、この変装セットを貰った時、両親は外出時、積極的に変装しなさいと言うくらいだった。

 私があの喫茶店でバイトする事を認めて貰えたのも、変装出来て、更に親戚の疋田さんだったからだし。

 そう。親は二人共凄く過保護だ。その理由は、生前私には姉がいたらしく、でも病で幼い頃亡くなったみたい。で、その後産まれた私には、姉の事もあってか、過剰なまでの愛情を注いでいた。そのうち私のが噂になると、当初両親は我が事のようにとても喜んだ。自慢の娘だって。

 だけど、そのうち怪しい団体とかからの勧誘も増えてきて、今度は徐々に、両親共そういう問い合わせには懐疑的になっていった。

 それがよくなかったのか、両親はますます私を無理やり褒め称え、より一層、愛情が強くなった。でも、親は外見ばかり褒める。まるで自分達の遺伝子のおかげだとでも言わんばかりに。それが嫌だった私は、勉強もスポーツも努力したけど、そこはずっと見てもらえず、親には結局元々持った才能、と言われ続けてきた。

 過保護な割に私を理解しようとはしない両親。だから中学の頃荒れてしまって、それが恩田さんと私が出会った事で落ち着いたんだよな。

 だから両親は、恩田さんをまるで崇拝するかのように信頼している。私も、親が喜ぶなら、と、恩田さんにはずっと従ってきていた。私の将来の道標を示してくれたのも恩田さんだったし。そう接していくうちに、恩田さんは自身を私の保護者と言って憚らなかった。両親も納得してたし。

 だけど……。

「ちょっと美久! 聞いてるの!」「お前が恩田さんを困らせちゃダメだろうが! せっかくここまで良くして頂いているのに!」

 両親の罵声を聞き流しながら、私はずっとそんな事を考えていた。そして、親の恫喝を黙って横に座り聞いていた恩田さんは、どうやら上の空の私に気づいたみたい。

「お父さんお母さん。ちょっと美久と二人で話しても宜しいでしょうか?」「え? ええ勿論」「美久。ちゃんと恩田さんの言う事を聞くんだぞ」

 返事せず小さく頷き、私と恩田さんは私の部屋に向かう。……はあ、これからは恩田さんの説教かあ。もう夜遅いのに。私は恩田さんに気づかれないよう、小さくため息を吐く。そして部屋に入り、部屋の真ん中に置いてある机を間に、恩田さんと向い合せに座った。

 そして恩田さんは何だか疲れた顔をしている私を見るなり、はあ、と大きくため息をついた。

「三ヶ月くらい前かしら? 武智君と変装したあなたが一緒にいた時は、かなり怒ったはずよね?」「……はい」

「バイト先に武智君がいるってその時初めて聞いたから、バイトを辞めさせたのに、なのにまたも、ああやって二人でいるなんて」「……」

 またも大きくため息をつき、額を抑える恩田さん。

「まさか、美久が私に嘘をついていたとはね」「……すみませんでした」

「で? いつから?」「嫌われる演技を始めた頃からだと、思います」

「……という事は、私があなたから武智君への気持ちを聞いた頃よね? じゃあ、私が指示していた事は逆効果になってたというわけ、か」「……」

 本当は、武智君への想いを膨らませていたのは、疋田美里でいた頃の思い出も大きな理由の一つだけど、聞かれてない事は答えなくていいよね?

「今日、私自らがわざわざ家にやってきたのは、来週から本格的な撮影に入るから、専属契約のための保護者の了解と、契約関連の話をしに来たの。その意味、分かるわよね?」「……はい」

「あなたはこの恩田プロモーションの専属女優となる。そして既に仕事も決まってる。今までそのためのレッスンを約二年半やってきた。全くデビューした事のない新人にしては破格の高待遇なわけ。そしてそのレッスンに必要なお金も、ご両親が全て支払ってる。その意味も分かるわよね?」「……はい」

「で? 武智君とあなた、さっき手を繋いでたわよね? まさか、恋人同士になったわけじゃないわよね?」「なってないです」

 嘘は言ってない。武智君から付き合って欲しい、彼女になってほしいって言われてたけど、言葉を濁して返事してないし。

「まあでも、あの雰囲気じゃ、お互いそれなりにいい仲になった、というのは、傍から見て分かるわ」「……」

 そして恩田さんは、今度は私を凄むように睨む。そして、ドスを利かせた低い声で、諭すように話す。

「分かってるわよね? 武智君の連絡先を消しなさい」「……」

「美久? 返事は?」「……」

「美久!」ダン、とテーブルを叩きながら恫喝する恩田さん。こんな怒った恩田さん、初めてだ。だから私もつい、体をビクっとすくませてしまった。

 体をこわばらせながらも、ずっと沈黙して俯いている私を見て、明らかに苛ついている様子の恩田さん。

「美久。スマホを出しなさい」「……」

「早くしなさい! 私の言う事が聞けないの!」

 そう言いいながら、無理やり私のズボンのポケットに手を突っ込む恩田さん。恩田さんの突然のその行動に驚いたけど、半ばホッとする私。だってスマホ、私今は持ってない。実は浴衣を着ていった時に使ってた、赤い巾着袋の中に入れたままだ。その巾着袋は今、茶髪ウイッグと共にハンガー掛けにかかってる。

 武智君との関係は切りたくない。それだけは絶対に嫌だ。私はハンガー掛けにかかってる赤い巾着袋をチラリと見る。

「美久! スマホを出しなさい! どこに隠したの!」

 私は恩田さんに返事せず、いきなりサッと立ち上がり、上手く恩田さんからすり抜け、ハンガー掛けにかかってる赤い巾着袋を取り、逃げるように階段を降りる。

「美久! 待ちなさい!」

 恩田さんの叫び声を背に聞きながら、私は急いで靴を履き、家の外へ飛び出した。

「武智君……、武智君、私、どうすれば……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

約束へと続くストローク

葛城騰成
青春
 競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。  凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。  時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。  長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。  絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。 ※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...