何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その五十五

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 ※※※

「美久! 一体どういう事なの!」「お前、恩田さんを裏切るつもりか!」

 恩田さんに引っ張って家に連れて来られ、一旦私が部屋に戻って茶髪ウイッグと黒縁メガネ、更に浴衣から普段着に着替えてる間、リビングで恩田さんから事情を聞いていたお母さんとお父さんは、私がリビングに降りてきてすぐ、酷く叱責した。

 また、見つかってしまった。でもまさか、恩田さんが家に来てるなんて思ってなかった。最近はずっと、恩田さんも忙しくて会ってなかったのに。本来恩田さんは社長だし、私一人にかまけてるわけにもいかないから。だから油断してた。……家の前で待ってたのは、私がスマホの電源切ってて、ずっと繋がらなかったからだろうな。いつもの取り巻きの人達がいなかったのは、夏休み入ったらそれで学校終わりだから、それで私を監視する必要がなくなったからかも。

 以前、バイト帰りで武智君と共に帰った時も、恩田さん待ってたんだよね。恩田さんは私がバイトしていた事知っていたけど、そのバイト先に武智君もいたという事は知らなかった。私が言っていなかったし、マスターの疋田さんも内緒にしてくれていたし。

 今日、夏祭りに行く事は両親には伝えていた。友達と一緒に、という事も。そしてその事は恩田さんも知っていたはず。ただそれが、武智君だとは言ってない。言えば当然行かせて貰えないし、友達、というのは嘘ではないから。変装して行くから両親も安心してたし。

 両親は私が時折、疋田美里に変装して外出してる事も知ってる。そりゃ部屋にああやって茶髪ウイッグと黒縁メガネ置いてたら、わからないはずないんだけど。寧ろ変装して外出するのは、二人共大歓迎だったし。

 ずっと昔から、業界関係の人から声をかけられてきた事もあって、余計なトラブルに巻き込まれるのを極端に嫌う両親。だから恩田さんから、この変装セットを貰った時、両親は外出時、積極的に変装しなさいと言うくらいだった。

 私があの喫茶店でバイトする事を認めて貰えたのも、変装出来て、更に親戚の疋田さんだったからだし。

 そう。親は二人共凄く過保護だ。その理由は、生前私には姉がいたらしく、でも病で幼い頃亡くなったみたい。で、その後産まれた私には、姉の事もあってか、過剰なまでの愛情を注いでいた。そのうち私のが噂になると、当初両親は我が事のようにとても喜んだ。自慢の娘だって。

 だけど、そのうち怪しい団体とかからの勧誘も増えてきて、今度は徐々に、両親共そういう問い合わせには懐疑的になっていった。

 それがよくなかったのか、両親はますます私を無理やり褒め称え、より一層、愛情が強くなった。でも、親は外見ばかり褒める。まるで自分達の遺伝子のおかげだとでも言わんばかりに。それが嫌だった私は、勉強もスポーツも努力したけど、そこはずっと見てもらえず、親には結局元々持った才能、と言われ続けてきた。

 過保護な割に私を理解しようとはしない両親。だから中学の頃荒れてしまって、それが恩田さんと私が出会った事で落ち着いたんだよな。

 だから両親は、恩田さんをまるで崇拝するかのように信頼している。私も、親が喜ぶなら、と、恩田さんにはずっと従ってきていた。私の将来の道標を示してくれたのも恩田さんだったし。そう接していくうちに、恩田さんは自身を私の保護者と言って憚らなかった。両親も納得してたし。

 だけど……。

「ちょっと美久! 聞いてるの!」「お前が恩田さんを困らせちゃダメだろうが! せっかくここまで良くして頂いているのに!」

 両親の罵声を聞き流しながら、私はずっとそんな事を考えていた。そして、親の恫喝を黙って横に座り聞いていた恩田さんは、どうやら上の空の私に気づいたみたい。

「お父さんお母さん。ちょっと美久と二人で話しても宜しいでしょうか?」「え? ええ勿論」「美久。ちゃんと恩田さんの言う事を聞くんだぞ」

 返事せず小さく頷き、私と恩田さんは私の部屋に向かう。……はあ、これからは恩田さんの説教かあ。もう夜遅いのに。私は恩田さんに気づかれないよう、小さくため息を吐く。そして部屋に入り、部屋の真ん中に置いてある机を間に、恩田さんと向い合せに座った。

 そして恩田さんは何だか疲れた顔をしている私を見るなり、はあ、と大きくため息をついた。

「三ヶ月くらい前かしら? 武智君と変装したあなたが一緒にいた時は、かなり怒ったはずよね?」「……はい」

「バイト先に武智君がいるってその時初めて聞いたから、バイトを辞めさせたのに、なのにまたも、ああやって二人でいるなんて」「……」

 またも大きくため息をつき、額を抑える恩田さん。

「まさか、美久が私に嘘をついていたとはね」「……すみませんでした」

「で? いつから?」「嫌われる演技を始めた頃からだと、思います」

「……という事は、私があなたから武智君への気持ちを聞いた頃よね? じゃあ、私が指示していた事は逆効果になってたというわけ、か」「……」

 本当は、武智君への想いを膨らませていたのは、疋田美里でいた頃の思い出も大きな理由の一つだけど、聞かれてない事は答えなくていいよね?

「今日、私自らがわざわざ家にやってきたのは、来週から本格的な撮影に入るから、専属契約のための保護者の了解と、契約関連の話をしに来たの。その意味、分かるわよね?」「……はい」

「あなたはこの恩田プロモーションの専属女優となる。そして既に仕事も決まってる。今までそのためのレッスンを約二年半やってきた。全くデビューした事のない新人にしては破格の高待遇なわけ。そしてそのレッスンに必要なお金も、ご両親が全て支払ってる。その意味も分かるわよね?」「……はい」

「で? 武智君とあなた、さっき手を繋いでたわよね? まさか、恋人同士になったわけじゃないわよね?」「なってないです」

 嘘は言ってない。武智君から付き合って欲しい、彼女になってほしいって言われてたけど、言葉を濁して返事してないし。

「まあでも、あの雰囲気じゃ、お互いそれなりにいい仲になった、というのは、傍から見て分かるわ」「……」

 そして恩田さんは、今度は私を凄むように睨む。そして、ドスを利かせた低い声で、諭すように話す。

「分かってるわよね? 武智君の連絡先を消しなさい」「……」

「美久? 返事は?」「……」

「美久!」ダン、とテーブルを叩きながら恫喝する恩田さん。こんな怒った恩田さん、初めてだ。だから私もつい、体をビクっとすくませてしまった。

 体をこわばらせながらも、ずっと沈黙して俯いている私を見て、明らかに苛ついている様子の恩田さん。

「美久。スマホを出しなさい」「……」

「早くしなさい! 私の言う事が聞けないの!」

 そう言いいながら、無理やり私のズボンのポケットに手を突っ込む恩田さん。恩田さんの突然のその行動に驚いたけど、半ばホッとする私。だってスマホ、私今は持ってない。実は浴衣を着ていった時に使ってた、赤い巾着袋の中に入れたままだ。その巾着袋は今、茶髪ウイッグと共にハンガー掛けにかかってる。

 武智君との関係は切りたくない。それだけは絶対に嫌だ。私はハンガー掛けにかかってる赤い巾着袋をチラリと見る。

「美久! スマホを出しなさい! どこに隠したの!」

 私は恩田さんに返事せず、いきなりサッと立ち上がり、上手く恩田さんからすり抜け、ハンガー掛けにかかってる赤い巾着袋を取り、逃げるように階段を降りる。

「美久! 待ちなさい!」

 恩田さんの叫び声を背に聞きながら、私は急いで靴を履き、家の外へ飛び出した。

「武智君……、武智君、私、どうすれば……」
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