何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その四十八

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 ※※※

 ……そっか。このタイミングで告白するつもりだったんだ、武智君。

 久々の花火だったし、ついテンション上がっちゃったから見入っちゃって、武智君から告白される事、少しの間忘れちゃってたな。今日、武智君が私に告白するって分かってたのにな。

 だから心の準備が出来てなくて、すぐに返事できなかった。

 なので私は、未だ階段の一番上に腰掛けたまま黙ってしまってる。そして武智君は私と目線を合わせるように、やや下の階段途中で立って、真っ直ぐ迷いのない瞳で私を見つめてる。ただ、その顔はとても高揚していて赤くなってて、心なしか体全体が震えてるように見える。

 そりゃ震えるよね。今日、私に告白するつもりで、約三か月ずっとこの日を待ってたんだもんね。そしてようやく、それが叶ったんだから。

 花火の間、ずっと静かだった眼下に広がる夜店は、今は花火が終わった事で、またも賑わいが戻ってる。そして、花火が目的の人も結構いたみたいで、終わったからかある程度人が減ったみたいで、さっきよりは人込みはマシになったかな。

 告白されてるのに、そうやって周りの景色が気になってしまう私。それでもずっと、私の鼓動はさっきから大きく波打ってるけど。

 だって、好きな男の子からの告白なんだもん。嬉しくないはずないよね。

 でも……。

「あ、あの、疋田さん……」「うん。大丈夫。聞こえてた」

「そ、そう」と何だかホッとした顔で答える武智君。ずっと黙ってる私が気になったからか、やや不安げな顔で声をかけてきた。……そうだよね。返事、聞きたいよね。

 ふう、と大きく息を吐き、改めて武智君を見上げる私。その顔は、不安と期待、そして決意と困惑が織り交ざった、とてもとても複雑で、とてもとても緊張した表情。今日、どれだけの想いを込めて、私に気持ちを伝えてきたか、私もよく知ってる。

「……ごめんなさい」

 そう。私は自分の秘めた想いとは違う返事をした。

「え?」

 呆気にとられた顔になる武智君。

「ごめんなさい。……私、武智君の気持ちには、応えられない」

「……そ、そっか。……そう、なんだ」

 ようやく答えを理解した様子の武智君。そして、その声が震えてる。ううん、人の事言えない。私の声だってきっと震えてる。でも、グッと力を込め、気づかれないよう言葉を続ける。

「気持ちは嬉しいけど……。私は駄目なの」

「……ア、アハハ。そ、そっか。ハハ、な、何だかごめん。その……」

 ……武智君、泣きそうになってる。

 ……止めて。そんな悲しそうな顔しないで。そんな顔されたら、私が、私の想いが、気持ちが、抑えられなくなるから。だから私は武智君から視線を外し、フッと顔を下に背けた。

「……グズ。ア、アハハ、グス、ご、ごめん、ヒック」

 とうとう武智君は抑えきれなくなって泣き出してしまった。

「ウグ、ヒック。ご、ごめ、ん。な、泣くなんて。カッコ悪い……。まさか泣くなんて、思って、なか……」そこから武智君は、もう言葉にならなくなってしまった。どうしよう。まさか泣き出してしまうなんて。そんな辛そうな泣き声を聞いてしまったら、私も辛いよ。

 止まらない涙を、武智君が何度も拭う。私も気付かれないよう、眼鏡のふちからそっとハンカチで涙を拭う。

 このままずっと一緒にいたら、せっかく断ったのに気付かれちゃう。だからもう、帰らなきゃ。

「もう、そろそろ帰るね」「ヒック、ヒック……。え? グス、あ……」

 現実に引き戻されたような、でも、どこか切なそうな、涙でぐしゃぐしゃになった顔で私を見る武智君。こんな悲しそうな顔、初めて見た。そしてもう、これ以上いたら、私の気持ちも耐えられない。抑えられなくなってしまう。

 武智君から顔を背け、そして立ち上がる私。で慣れない下駄のせいか、それとも自分の気持に背いているせいか、ついふらついてしまい躓いてしまった。

「あ!」そしてそのまま、武智君の胸に飛び込んでしまった。

 そしてその時、私の眼鏡がカランカラン、と落ちてしまった。「!」不味い。

 階段の下の方に転がっていく眼鏡に気を取られてしまう私。でも、武智君に見られちゃいけないから、それに気づいて武智君から顔を背ける。

 どうして? 決して取れないようになってるはずなのに。

 ※※※

 疋田さんにフラれた。そのショックで抑えきれず、疋田さんの前でわんわん泣いてしまった。

 ……俺、すっごくかっこ悪い。でも、本気だったんだ。俺にとっては一世一代の告白だったんだ。フラれる可能性だって勿論考えてたけど、いざ実際にフラれると、こんなにもショックだとは思いもしなかった。

 だから堪え切れず、堰を切ったように泣いてしまった。本当ダサいな俺。もう後悔しても遅いけど。

 でも、遊園地行ったり、映画行ったり、今日もこうやって二人で夏祭り来たりして、仲いい自信はあったんだ。手だって繋いでたし、一杯会話したし。だから尚更、フラれた事はショックだった。

 疋田さんはきっと気まずくなったんだろうな。ずっと情けなくグズグズ言ってる俺の目の前で、立ち上がって帰ろうとした。

 帰ったらもう、疋田さんとの関係は終わり。きっと明日からはlineさえ出来なくなる。そんな事をつい考えてしまった俺。でも、俺には引き止める事が出来ない。引き止められる理由がない。

 でも、でももうこれで終わりだなんて……。

 俺が何も出来ず、階段の途中で固まってたら、疋田さんが躓いた。「あ!」そして俺の胸に飛び込んできた。俺は「うわっと!」と突然やってきた疋田さんを受け止める。

「ご、ごめん! 躓いちゃって」「だ、大丈夫」驚いたけど、ちょっと喜んでしまった俺。疋田さんの体温を感じる事ができてつい。……フラれたくせに何考えてんだろうな。情けない。

 そしてその勢いのせいか、疋田さんの眼鏡がカランカラン、と階段の下の方に落ちていった。

「あ!」疋田さんは慌ててうつむき、そしてそれを取りに行こうとする。けど、下駄だし浴衣だし、更に俺に抱きついたままだからうまくいかない。

 俺は疋田さんから離れ、代わりに階段の下に転がってる眼鏡を拾いに行った。

 そして眼鏡を渡そうと疋田さんを見上げる。でも、ありがとう、と言いながら顔を背ける。

 だけど、眼下に広がる夜店の灯りのおかげで、眼鏡が外れた疋田さんの顔を、一瞬だけどしっかり見る事が出来た。

 そして俺は絶句する。

 ……え? 

 ……まさか。いや、そんなはずはない。そんな事は絶対にあり得ない。でも、でも俺が、俺が、見間違えるはずはないんだ。

「め、眼鏡を……」「あの、こっち向いてほしいんだけど」

「そ、それは駄目」「どうして?」

「だ、だって」「疋田さん!」

 俺は抑えきれず、疋田さんの元に行って、やや強引に首を俺の方に向けた。

 その瞳は涙目で震えている。どこか怯えた表情にも見える、その見慣れた切れ長の黒い目。信じられない。でも、間違いない。

「……ひ、柊……さん?」「……」

 俺のその一言を聞いて、またも顔を背ける。

「ど、どういう事?」「……」

「あ、あの、説明してほしいんだけど……」「……クスクスクス。クックック。アーッハッハッハ!」

「……え?」「アハハハハ! あー面白い! 全く、ずっと騙されてたんだもんね!」

「……ど、どういう事?」「もう分かったでしょ? 私、疋田美里は柊美久なのよ!」

 そう言いながら、今度は自らのボブショートの茶髪のうなじ辺りに手を差し入れ、パチパチと音をさせると、その茶髪が外れ、あの見慣れた、綺麗な黒髪がサラリと風にたなびきながら現れた。

「武智君はね、ずっと私に騙されてたのよ」

「……」

「それなのに、あーんな真剣な顔で告白するんだもん。アハハハハ! ほんっと、恥ずかしいと思わないの?」

「……」

「しかもあんなにわんわん泣いてさあ。カッコ悪い」

「……」

「そもそも私が、武智君の彼女になるなんてあり得るわけないでしょ? 疋田美里だとしても」

「……」

「分かった? 武智君はずーっと、ピエロだったわけ。私の演技の練習に、ずっと付き合ってただけ」

「……」

「本当、面白いように引っかかってくれてたわね。私、武智君の事なんか、なんとも思っていないのに」

「……だったら、だったらなんで、そんなに泣いてんだよ?」

「!」

「何で、何でそんなに辛そうな、苦しそうな顔してんだよ?」


「そ、そんな、そんな事……、ない、ないんだから! これは……、そう! これも演技! ほらあの、朝の嫌われ演技と一緒なの!」

「……それは、さすがに無理があるよ。疋田さん。……いや、柊さん」

「と、とにかく! グズ、私の演技に付き合ってくれた事は、ヒック、か、感謝してる。グス。でももう、ヒック、バレちゃったから、ウグ、これでおしまい。グス」

 そう無理やり切り上げ、未だ収まらない涙を拭いながら、後ろを振り返り歩いて行こうとした。

 でも俺は、我慢できず、後ろからギュッと抱きしめた。

「た、武智君?」「もういい。もういいよ。無理しなくて」

「む、無理じゃない!」「俺が疋田さん……、いや、柊さんの事分かんないと思うの? ずっと昼一緒だったのに」

「……グズ。お願い。お願いだから、もう、これ以上……」「嫌だ。離したくない」

「グス。お願いだから、離して……。じゃないと私、私……」

 何とか逃れようとする柊さんを、俺は一層強く抱きしめる。

 前に校舎の屋上で、雷が激しく鳴った時、ふいに俺に抱きついた柊さん。昼に二人で会うのは最後だと、俺に寄り添った柊さん。あの時と同じ、良い香りがする髪の毛、そして温もり。柊さんの鼓動が激しいのが、背中越しに伝わってくる。華奢なのに凛としてて、でもどこか儚げで弱々しい、あの柊さんだ。間違いない。

「武智君、武智君。もう、私、私……、うわああ~ん!」

 そして、柊さんは俺に抱きつかれたまま、その場で子どものように大泣きした。

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