何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

文字の大きさ
上 下
47 / 130

その四十七

しおりを挟む
 遠くの方でガヤガヤと夜店や沿道を歩く人達の声が聞こえる。でもこの公園は比較的静かで、時折リー、リー、とコオロギか何かの虫の鳴き声が微かに聞こえてる。

 ここの公園はそんな大きくないけど、ベンチは複数あって、俺達以外にも座ってる人はちらほら見かけた。……多分全員カップルだな。俺達もカップルに見えてるのかも。

 そう考えたら何だか緊張してしまう。まだ俺達カップルじゃないしね。あ、いや、まだ、というか、その可能性はゼロじゃないというか。後で告白するし。でもまあ、フラれる可能性だってあるんだけど。

 声は聞こえないけど、そのカップル達が何だか楽しげに話してる雰囲気は、暗いけど何となく分かる。俺も疋田さんとあんな風に……。

「そう言えば武智君。空手相変わらず頑張ってるんだね」「ひょへっ? え、あ、ああ。まあ、今年最後だからね」

「……どうしたの?」「あ、い、いや。なんでも」

 怪訝な顔で俺をじー、っと見つめる疋田さん。つい、サッと顔を背けてしまう俺。で、でも、別に邪な事考えてたわけじゃないもんな! でも、カップル羨ましい、疋田さんとあんな風になりたい、とか思ってたって言えるわけないし。

「え、えーと、疋田さんは、卒業してからどうするの? 大学受験するの?」そこで俺は話題をすり替えてみる。すると疋田さんは、ジト目で見つめていた俺から視線を外し、どこか遠くを見るように夜空を見上げる。

「……働く事に、なるかな?」「へえ、そうなんだ」

 そっか。疋田さんは大学受験しないんだ。

 その言葉を聞いて、俺はふと、告白してもし上手く言ったら、卒業してからどんな風になるだろう、とか妄想してみる。疋田さんは就職するみたいだから、俺がもし大学現役合格したら、学生と社会人との付き合いになるのかな? そうなれば、疋田さんはリクルートスーツとか着てるのかな? 疋田さんは美人というより可愛いタイプだけど、スタイル良いからきっと似合うだろうなあ。

「武智君は大学入った後どうするの? どんな仕事するか決めてる?」「……それがないんだよなあ」

 そう。俺は特に将来何がしたいっていうのがない。ただ就職に有利だから、という安直な理由で大学受験しようとしてる。まあそもそも、俺自身高卒でもいいやって思ってたのが、親が大学行けって言うから行くようなもんだし。……主体性ないな俺。

「でも、大学通ってたら、自ずと見つかるんじゃない?」「そうだといいけどね」

 何だか疋田さんに慰められてるようで、苦笑いしながら頭をかく俺。それを見て疋田さんは、浴衣姿で足をブランブランさせながら、クスクスと笑う。

「何だかこうやって話するの、久々で楽しい」「そうだね。バイトしてた時は、二人で帰りながらよく喋ってたけど。あ、そうそう。俺達がバイトしてたあの喫茶店、安川さんもバイトで来るんだよ」「え?」

「俺がバイトしてたの、知らなかったらしくって偶然なんだって」「そうなんだ」

 そこで、俺はさっき安川さんに言われた事を思い出した。あの必死で真剣な顔で言われた事を。

「でさ、さっき安川さんが、疋田さんと悔いのないように、きっちり話しろって言うんだ。凄く真剣な顔で。何だかおかしいよね? 何で安川さんがそんな事言うのかって」「……そうなんだ」

「そんな事言われなくたってさ、俺は今日、疋田さんに凄く会いたくて、この日をずっと待ちわびてた。だから、言われるまでもないんだけどね」「……そんなに、楽しみにしてくれてたんだ」

「うん」そして俺は疋田さんの顔を見つめる。疋田さんは俺が見た途端、何だか気恥ずかしそうに視線を外し俯いた。恥ずかしいとは思ったけど、俺はこれから告白するんだ。だからもう、本音を隠す気はないんだ。

 公園の他のベンチでは、カップル達が何だか楽しげに、というか、ぶっちゃけイチャイチャしてる。俺も疋田さんと遠慮なく、あんな風に仲良くなりたい。この子を彼女にしたい。そのための、今日なんだから。

 少しばかりの沈黙。疋田さんは相変わらず黙って俯いてる。俺は何の気なしにスマホを取り出し時間を確認する。花火が始まる時間が近づいてきてるな。

「疋田さん。そろそろ花火の時間だ。いい場所知ってんだ。行こうか」「え? うん」

 そして俺は立ち上がり、思い切って疋田さんに手を差し出した。疋田さんは俺を見上げちょっと驚いた顔をしたけど、おずおずと俺の手を握る。そして俺は食べ終わった容器を指定の場所に捨て、疋田さんの手を引き公園を出た。

「この公園からならそんなに遠くないし、人が多い沿道を通らなくても行けるんだ」「詳しいんだね」

「毎年来てたからね」手を握ったまま、俺は疋田さんに笑顔を返しながら先導する。勿論、疋田さんの歩くスピードに合わせて。疋田さんが歩く度、カランコロンと下駄の心地良いリズム音が響く。少し顔を赤らめつつも、俺の手を離さず付いてくる。浴衣姿、本当に素敵で、茶色のボブ・ショートの髪の、黒縁メガネだけど、それでも凄く可憐で可愛らしい。

 この子が彼女になったなら、俺はどれだけ幸せだろう。……もう今日はずっと、その事ばっか考えてんな。

 俺は自分の欲望に呆れつつも、疋田さんの手を引きながら、やや大回りして、祭り会場となってるK市で一番大きい神社から少し離れる。そして石を組み合わせただけの古びた階段を、疋田さんのペースでゆっくり上り切ると、目の前に古びた寺が見えた。

 そこで俺は、手汗大丈夫? と言いながら手を離す。疋田さんは頬が赤いまま、小さくうん、と頷いた。

「ここ、祭りやってる神社から離れてるんだけど、この高台にある寺から、一番綺麗に花火が見えるんだ」「こんな場所あるなんて、知らなかったなあ」

 ここは地元民でも余り知られていない廃寺。実は肝試しで使えるっていう理由で、一部オカルトマニア内では有名な寺だったりする。寺は放置されてるからか、結構あちこち痛んでて古びてるんだけど、今日に限って言えば、寺のある高台から下が、夜店のおかげでメチャクチャ明るく、普段とは違い怖い雰囲気はない。だから二人きりでも全然怖くないんだよな。

 だから案の定俺達以外、ここには誰もいない。今日みたいな賑やかな日に、肝試しする奴はいないしね。

「ここなら座れるよ」そう言って俺は、石段の最上段に座るよう勧める。疋田さんは分かった、とう頷きながら、さっきと同じように石段にハンカチを引いて座った。俺はその横に座る。

 そろそろ始まるよ、と俺が言ったところで、ピュ~、ドドーン! と花火が上がった。「お! タイミングばっちりだった!」「本当だね。ここ凄いね。物凄く近くに見える」

 花火が上がった途端、疋田さんの顔がほころぶ。まるで子どものように嬉しそうな笑顔で夜空を見上げ、花火が上がるのを待ってる。俺はその可愛らしい笑顔に、つい見惚れてしまう。

 そして最初の花火を皮切りに、どんどん様々な種類の花火が夜空に打ち上がる。時にはアニメキャラの形だったり、時にはハートマークだったり。

 実はこの廃寺の向こうの方に河川敷があって、そこで花火は上がってんだけど、祭りやってる神社からだと低くて見えにくいし、河川敷の方へ行くと、祭りの雰囲気味わえない。しかも人が多いから移動も大変だ。

「……綺麗」「そうだね」目を輝かせながら花火を見入る疋田さんの横顔を、俺は花火を見ずにずっと見てる。でも、疋田さんは俺の視線には気づかないほど花火に夢中だ。その顔がとても愛しい。

 花火は大体一時間位で終わるはずだ。それが終わったら、俺はこの子に告白する。だから俺は、さっきからずっと心臓が激しく鼓動していた。正直花火どころじゃない。

 今日、久々に一緒に行動していて改めて自分の想いに気がついた。俺、やっぱり疋田さんが好きだ。今までの誰よりも。喋っていて楽しくて、時折見せる笑顔が可愛くて……。花火の華開く夜空をずっと楽しそうに眺めているその笑顔を、俺のものにしたい。もう、その気持ちで一杯だ。

 フラれる可能性もあるのは分かってる。でも、それよりも、俺の気持ちを伝えたい。

 暫くしてから、ドドドドドーン! としだれ桜のような連続花火が夜空を彩る。疋田さんは、わあ、と声を上げ夢中で花火を見てる。これが続いたら花火は終了。俺は、ますます高まる自身の鼓動と、グッショリと手汗で濡れた手のひらを、ハンカチで拭う。

「……あ。終わりかな?」疋田さんがちょっと残念そうに、暗くなった夜空を眺めながら呟く。俺はやや震える声でそうだね、と返し、おもむろに立ち上がった。

「ん? どうしたの?」コテンと可愛らしく首を傾げる疋田さん。俺は階段のやや下に降り、座ってる疋田さんの目線の高さに合わせ階段の途中で立った。先程までの花火の大きな音が、余計に今の夜の静けさを演出しているように、辺りは一気に静寂を取り戻す。と、同時に、下の夜店の賑わいも戻ってきた。

 俺はすうー、と息を吸う。

「あ、あのさ」「うん」

 緊張のあまり声が震える俺。そして、

「俺、疋田さんが好きなんだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

約束へと続くストローク

葛城騰成
青春
 競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。  凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。  時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。  長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。  絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。 ※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

処理中です...