46 / 130
その四十六
しおりを挟む
※※※
「へいらっしゃーい!」「よう兄ちゃん! ちょうど今焼きそばあがったよ! 買っていかねぇかぃ!」
あちこちから威勢のいい声が聞こえる。K市内では結構有名な、その大きな神社の境内から一本道になってる大通りの両脇にある沢山の夜店。普段は静かなその沿道は、今日に限って言えば相当賑やかだ。こうこうと各夜店の灯りが眩しいくらいに夜の沿道を照らしていて、何だかソースの焼けるいい匂いが漂ってきたり、射的やヨーヨー釣りといった、夜店ならではのゲームが楽しめる店もあちこちに見える。普段の静けさがより一層、活気の良さを表してる感じだ。
そんな普段は静かなこの沿道。だけど今日は、まるで東京の原宿通りかよってくらいの人でごった返している。
そう。今日は待ちに待った夏祭りだ。
そんな人混みの中、俺は疋田さんとの待ち合わせ場所に向かうため、人の多さで中々進まない道を、何とかすり抜けながら進んでる。夜と言っても蒸し蒸ししてて、しかも人が多いのもあって相当暑い。更に俺は慣れない甚平を着てるからか、何だか歩き辛くて汗だくだ。
ふと上を見上げる。疋田さんが言ってた通り今晩はいい天気で、雲一つない綺麗な夜空。これなら花火は、真っ暗な夜空を飾るように、かなり綺麗に見れるだろうな。
俺は何とか父さんから甚平を借りる事が出来た。背丈が近くて助かった。灰色のシンプルな生地に白い細かい縦線が入ったありふれたな甚平。下駄は指の間が痛くなりそうだったから履かず、下はクロッカスだけど。でもまあ、俺のカッコなんかどうでもいいんだ。俺は引き立て役だから。
そして俺は地元民なので、実は花火を見る絶好のスポットをいくつも知ってる。まあ、だから事前に調べなかったというのもあるんだけど。それでも、天気は花火を見るにはとても重要だ。それを調べず忘れてたのはやっぱり不味かったなあ、と改めて反省してたりする。
だから、疋田さんに会ったらどう謝ろうか悩んでたとこで、俺のスマホがバイブした。
『丁度今、待ち合わせの神社の鳥居の傍に着いたよ』『了解。すぐ向かうね』
なんと疋田さんもう着いたのか。待ち合わせ時間より三十分は早いのに。よし急ぐか。
俺は何だか気合いを入れたくて、自分の両頬をパンパンと叩き、疋田さんが待つ鳥居の傍に向かおうとした。するとそこで、「たけっちー!」と、聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。
「安川さん? と、やっぱり雄介も一緒か」人混みの中一旦立ち止まって、声のする方へ振り返ってみたら、やっぱり毎度のカップルだった。でも、安川さんは俺が振り返った途端、雄介を置いて、人混みを掻き分け俺のとこにやってきた。そして俺の肩をガッと掴んで真剣な目で俺を見る。一体何だ?
「今から疋田さんに会いに行くんでしょ?」はあ、はあ、と息を切らしながらそう言う安川さん。って、何で知ってんの? あ、そっか。雄介から聞いたのか。
「そうだけど、それがどうしたん?」「……ちゃんと話してきなよ。ちゃんと、悔いの無いように。分かった?」
「?」物凄く真剣な目で、まるで訴えかけるような顔の安川さん。なんでそんな顔してそんな事言うんだろ?
「よく分からないけど、分かったよ」変な日本語だけどそう言い返すしか出来なかった。だっていきなり俺を見てやってきて、真剣な目でそんな風に言われたら、真面目に返さなきゃって思うけど、何の事か分からないからね。
「ちゃんと疋田さんの話を聞きなよ。ちゃんと」「分かったって」その言い方だと、どうやら俺の事じゃなくて疋田さんの事を気にしてる?
「とりあえず、待たせてるから行くよ。安川さんも雄介と楽しんできてよ」「本当に分かった? ちゃんと話しなよ!」
しつこく言われてちょっと呆れながら分かったよ、と返事する俺。そして俺と別れ際、今度は雄介が安川さんに追いついた。俺は去り際雄介に手を振り、それを見た雄介も手を振り返してきた。せっかくの夏祭り、二人きりなのを邪魔する気もない。俺も疋田さんと二人がいいから、雄介達と一緒に行動する気はないしな。
つーか安川さん、一体あれは何だったんだろう? まあ、言われるまでもなく、俺は疋田さんと沢山話するつもりだけどね。積もる話も一杯あるし。なんたって久々なんだから。そう改めて考えたらワクワクしてきた。
そして……、告白も。
そうだ俺、今日告白する、って決めてたんだ。そう改めて考えたら、今度は緊張してきた。ワクワクしたり緊張したり、俺って忙しいやつだなあ。
何にせよ疋田さんに会いに行こう。俺は未だ沢山の人でごった返す道を、何とかすり抜けながら待ち合わせ場所に急いだ。
「明歩、急にどうしたんだ?」「……たけっちー、ちゃんと、ちゃんと話なよ。ちゃんと、悔いの無いように」
※※※
「あ、こんばんは」「……」
「ん? どうしたの?」「い、いや……、その……」
そう、俺は単に疋田さんに見惚れて言葉が出なかっただけ。茶髪のボブに黒い縁の大きなメガネは相変わらずだけど、それでも疋田さんの可愛らしさを表現するには十分すぎる、紫陽花を散りばめた紫色の浴衣。手に持ってる赤い巾着袋も、いいアクセントになってて、可愛らしくてとても素敵だ。
「……凄く可愛いね」「え?」
「あ! ご、ごめん、つい、あの」「……クス、ありがと」
恥ずかしそうに俯いて頬を赤くしながら、笑顔になる疋田さん。その表情もとても可愛い。やっぱり疋田さんは素敵だなあ。
「武智君も甚平似合ってるよ」「そ、そうかな? 父さんのお下がりなんだけど」
「男っぽくてカッコいい」「へ? あ、ありがとう」今度は俺が恥ずかしくなって俯いてしまう。つか、……俺が照れる姿なんて誰得でもねーな。俺はコホン、とわざとらしく咳払いして気持ちを切り替え、疋田さんに声を掛ける。
「俺さ、地元だから花火を見るベストスポット知ってんだ。花火まではまだ時間あるし、夜店周ろうよ」「うん。お腹も減ったし」
そして俺と疋田さんは、沢山の夜店が軒を連ねる沿道、人混みの中へ向かっていった。……、つか、今年人多すぎじゃね? 確かに毎年多いけど、今年はちょっとハンパない気がする。しかも整然と皆並んで歩いてるわけじゃなく、好き勝手に右往左往してるから、人の流れが悪くて余計混み合ってる。
そして案の定、疋田さんとはぐれそうになった。「疋田さん! こっち来れる?」「ご、ごめん! ちょっと厳しいかも」
疋田さんは浴衣でしかも下駄を履いてきてる。きっと俺より歩き辛いはずだ。俺は何とか疋田さんの元に戻る。
「ごめんね、移動きつそう」「そうだよなあ。しかし今年、人多すぎ」
そう俺が呆れながら沿道にごった返している人混みを見つめてると、ギュッと手を握られた。……もしかして。
「……だめ、かな?」疋田さんが俺の手を握ってた。え? ちょ、ちょっとマジで? 一気に顔が熱くなりテンパってしまう俺。疋田さんも手を握っておきながら、みるみる顔が赤くなってきてるし。
「い、いや、そ、そうだよね。この方がはぐれなくていい、と思う」「うん」ギクシャクしながら疋田さんに返事する俺と、手を握ったまま顔を赤くして下を向く疋田さん。
「あ、あの、俺、暑いから手汗酷いかも」「大丈夫」ニコ、と顔が赤いまま、俺を見上げ微笑む疋田さん。そうだこの笑顔だ。やっぱり疋田さん、メチャクチャ可愛い。久々のその笑顔で、ドクンと心臓が飛び跳ねた。
約三ヶ月会ってなかったけど、やっぱり俺、この子が好きなんだ。浴衣姿で微笑みながら、俺の手を握る疋田さんを見て、迷いは一気に吹き飛んだ。
「じゃあ行こっか」「うん」そして俺達は、沿道に並んでる夜店を見て回った。
とりあえず腹ごしらえだと思って夜店を見て回りながらあれこれ探すも、疋田さんが着てる浴衣を汚さない食べ物って、中々ない。そういや夜店って汚しやすい食べ物しかないよな。大体ソースついてるし。俺はキョロキョロしながら人混みを掻き分けつつ、何かないかと探し、そして疋田さんは俺の手を離さないようしっかり握ってる。……意識してしまって手汗が止まらない。でも今、手を離したらはぐれるのは間違いないし。ごめんよ疋田さん。手、汚いよね?
久々に疋田さんの温度を感じつつ、それに緊張しながら人混みの中を歩くも、出ている夜店は似たような食べ物しかないので、仕方なく買ってどっか座って食べようか? と提案した。さすがに移動しながら何か食うのは、この人混みでは無理だしね。
「そうだね。でも、どこか座れるとこあるのかな?」「それなら大丈夫」自信たっぷりに返事する俺。そうと決まったらとりあえず、疋田さんと共に定番の焼きそばやホットドッグ、そしてスポーツドリンク等々買って、一旦沿道から抜け出した。
「実はこっちに公園があるんだ」そう。これは地元民しか知らない場所。夜でも灯りがついててベンチもあって、ゆっくり出来るんだよな。少し歩いて公園に着いたら、案の定ベンチは空いていた。それでも、ちらほら人はいるみたいだけど。
「これならゆっくり食べられるね」疋田さんはハンカチで汗を拭いながら笑顔を俺に向ける。俺も笑顔を返す。
「「あ」」そこで、まだ二人して手を繋いでいた事に気づく。慌てて俺達は手を離した。
「ご、ごめん」「ううん。何も悪くないし謝らなくていいよ」そう言ってまた微笑む疋田さん。本当、可愛いなあ。……俺は今日、この子に告白するんだよな。
浴衣姿の疋田さんを照らす公園の街灯。それが何だか幻想的で、そして疋田さんの可愛さを一層引き立たせてるようで、凄く綺麗で可憐に見えた。……告白する。その決意が揺らぎそうなほど、目の前にいる女の子は魅力的だ。そう思った。
そして疋田さんは浴衣が汚れないよう、ベンチにハンカチを敷いて座り、俺も隣りに座った。そして、会えなかった約三ヶ月の出来事を、俺は一杯話した。
「へいらっしゃーい!」「よう兄ちゃん! ちょうど今焼きそばあがったよ! 買っていかねぇかぃ!」
あちこちから威勢のいい声が聞こえる。K市内では結構有名な、その大きな神社の境内から一本道になってる大通りの両脇にある沢山の夜店。普段は静かなその沿道は、今日に限って言えば相当賑やかだ。こうこうと各夜店の灯りが眩しいくらいに夜の沿道を照らしていて、何だかソースの焼けるいい匂いが漂ってきたり、射的やヨーヨー釣りといった、夜店ならではのゲームが楽しめる店もあちこちに見える。普段の静けさがより一層、活気の良さを表してる感じだ。
そんな普段は静かなこの沿道。だけど今日は、まるで東京の原宿通りかよってくらいの人でごった返している。
そう。今日は待ちに待った夏祭りだ。
そんな人混みの中、俺は疋田さんとの待ち合わせ場所に向かうため、人の多さで中々進まない道を、何とかすり抜けながら進んでる。夜と言っても蒸し蒸ししてて、しかも人が多いのもあって相当暑い。更に俺は慣れない甚平を着てるからか、何だか歩き辛くて汗だくだ。
ふと上を見上げる。疋田さんが言ってた通り今晩はいい天気で、雲一つない綺麗な夜空。これなら花火は、真っ暗な夜空を飾るように、かなり綺麗に見れるだろうな。
俺は何とか父さんから甚平を借りる事が出来た。背丈が近くて助かった。灰色のシンプルな生地に白い細かい縦線が入ったありふれたな甚平。下駄は指の間が痛くなりそうだったから履かず、下はクロッカスだけど。でもまあ、俺のカッコなんかどうでもいいんだ。俺は引き立て役だから。
そして俺は地元民なので、実は花火を見る絶好のスポットをいくつも知ってる。まあ、だから事前に調べなかったというのもあるんだけど。それでも、天気は花火を見るにはとても重要だ。それを調べず忘れてたのはやっぱり不味かったなあ、と改めて反省してたりする。
だから、疋田さんに会ったらどう謝ろうか悩んでたとこで、俺のスマホがバイブした。
『丁度今、待ち合わせの神社の鳥居の傍に着いたよ』『了解。すぐ向かうね』
なんと疋田さんもう着いたのか。待ち合わせ時間より三十分は早いのに。よし急ぐか。
俺は何だか気合いを入れたくて、自分の両頬をパンパンと叩き、疋田さんが待つ鳥居の傍に向かおうとした。するとそこで、「たけっちー!」と、聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。
「安川さん? と、やっぱり雄介も一緒か」人混みの中一旦立ち止まって、声のする方へ振り返ってみたら、やっぱり毎度のカップルだった。でも、安川さんは俺が振り返った途端、雄介を置いて、人混みを掻き分け俺のとこにやってきた。そして俺の肩をガッと掴んで真剣な目で俺を見る。一体何だ?
「今から疋田さんに会いに行くんでしょ?」はあ、はあ、と息を切らしながらそう言う安川さん。って、何で知ってんの? あ、そっか。雄介から聞いたのか。
「そうだけど、それがどうしたん?」「……ちゃんと話してきなよ。ちゃんと、悔いの無いように。分かった?」
「?」物凄く真剣な目で、まるで訴えかけるような顔の安川さん。なんでそんな顔してそんな事言うんだろ?
「よく分からないけど、分かったよ」変な日本語だけどそう言い返すしか出来なかった。だっていきなり俺を見てやってきて、真剣な目でそんな風に言われたら、真面目に返さなきゃって思うけど、何の事か分からないからね。
「ちゃんと疋田さんの話を聞きなよ。ちゃんと」「分かったって」その言い方だと、どうやら俺の事じゃなくて疋田さんの事を気にしてる?
「とりあえず、待たせてるから行くよ。安川さんも雄介と楽しんできてよ」「本当に分かった? ちゃんと話しなよ!」
しつこく言われてちょっと呆れながら分かったよ、と返事する俺。そして俺と別れ際、今度は雄介が安川さんに追いついた。俺は去り際雄介に手を振り、それを見た雄介も手を振り返してきた。せっかくの夏祭り、二人きりなのを邪魔する気もない。俺も疋田さんと二人がいいから、雄介達と一緒に行動する気はないしな。
つーか安川さん、一体あれは何だったんだろう? まあ、言われるまでもなく、俺は疋田さんと沢山話するつもりだけどね。積もる話も一杯あるし。なんたって久々なんだから。そう改めて考えたらワクワクしてきた。
そして……、告白も。
そうだ俺、今日告白する、って決めてたんだ。そう改めて考えたら、今度は緊張してきた。ワクワクしたり緊張したり、俺って忙しいやつだなあ。
何にせよ疋田さんに会いに行こう。俺は未だ沢山の人でごった返す道を、何とかすり抜けながら待ち合わせ場所に急いだ。
「明歩、急にどうしたんだ?」「……たけっちー、ちゃんと、ちゃんと話なよ。ちゃんと、悔いの無いように」
※※※
「あ、こんばんは」「……」
「ん? どうしたの?」「い、いや……、その……」
そう、俺は単に疋田さんに見惚れて言葉が出なかっただけ。茶髪のボブに黒い縁の大きなメガネは相変わらずだけど、それでも疋田さんの可愛らしさを表現するには十分すぎる、紫陽花を散りばめた紫色の浴衣。手に持ってる赤い巾着袋も、いいアクセントになってて、可愛らしくてとても素敵だ。
「……凄く可愛いね」「え?」
「あ! ご、ごめん、つい、あの」「……クス、ありがと」
恥ずかしそうに俯いて頬を赤くしながら、笑顔になる疋田さん。その表情もとても可愛い。やっぱり疋田さんは素敵だなあ。
「武智君も甚平似合ってるよ」「そ、そうかな? 父さんのお下がりなんだけど」
「男っぽくてカッコいい」「へ? あ、ありがとう」今度は俺が恥ずかしくなって俯いてしまう。つか、……俺が照れる姿なんて誰得でもねーな。俺はコホン、とわざとらしく咳払いして気持ちを切り替え、疋田さんに声を掛ける。
「俺さ、地元だから花火を見るベストスポット知ってんだ。花火まではまだ時間あるし、夜店周ろうよ」「うん。お腹も減ったし」
そして俺と疋田さんは、沢山の夜店が軒を連ねる沿道、人混みの中へ向かっていった。……、つか、今年人多すぎじゃね? 確かに毎年多いけど、今年はちょっとハンパない気がする。しかも整然と皆並んで歩いてるわけじゃなく、好き勝手に右往左往してるから、人の流れが悪くて余計混み合ってる。
そして案の定、疋田さんとはぐれそうになった。「疋田さん! こっち来れる?」「ご、ごめん! ちょっと厳しいかも」
疋田さんは浴衣でしかも下駄を履いてきてる。きっと俺より歩き辛いはずだ。俺は何とか疋田さんの元に戻る。
「ごめんね、移動きつそう」「そうだよなあ。しかし今年、人多すぎ」
そう俺が呆れながら沿道にごった返している人混みを見つめてると、ギュッと手を握られた。……もしかして。
「……だめ、かな?」疋田さんが俺の手を握ってた。え? ちょ、ちょっとマジで? 一気に顔が熱くなりテンパってしまう俺。疋田さんも手を握っておきながら、みるみる顔が赤くなってきてるし。
「い、いや、そ、そうだよね。この方がはぐれなくていい、と思う」「うん」ギクシャクしながら疋田さんに返事する俺と、手を握ったまま顔を赤くして下を向く疋田さん。
「あ、あの、俺、暑いから手汗酷いかも」「大丈夫」ニコ、と顔が赤いまま、俺を見上げ微笑む疋田さん。そうだこの笑顔だ。やっぱり疋田さん、メチャクチャ可愛い。久々のその笑顔で、ドクンと心臓が飛び跳ねた。
約三ヶ月会ってなかったけど、やっぱり俺、この子が好きなんだ。浴衣姿で微笑みながら、俺の手を握る疋田さんを見て、迷いは一気に吹き飛んだ。
「じゃあ行こっか」「うん」そして俺達は、沿道に並んでる夜店を見て回った。
とりあえず腹ごしらえだと思って夜店を見て回りながらあれこれ探すも、疋田さんが着てる浴衣を汚さない食べ物って、中々ない。そういや夜店って汚しやすい食べ物しかないよな。大体ソースついてるし。俺はキョロキョロしながら人混みを掻き分けつつ、何かないかと探し、そして疋田さんは俺の手を離さないようしっかり握ってる。……意識してしまって手汗が止まらない。でも今、手を離したらはぐれるのは間違いないし。ごめんよ疋田さん。手、汚いよね?
久々に疋田さんの温度を感じつつ、それに緊張しながら人混みの中を歩くも、出ている夜店は似たような食べ物しかないので、仕方なく買ってどっか座って食べようか? と提案した。さすがに移動しながら何か食うのは、この人混みでは無理だしね。
「そうだね。でも、どこか座れるとこあるのかな?」「それなら大丈夫」自信たっぷりに返事する俺。そうと決まったらとりあえず、疋田さんと共に定番の焼きそばやホットドッグ、そしてスポーツドリンク等々買って、一旦沿道から抜け出した。
「実はこっちに公園があるんだ」そう。これは地元民しか知らない場所。夜でも灯りがついててベンチもあって、ゆっくり出来るんだよな。少し歩いて公園に着いたら、案の定ベンチは空いていた。それでも、ちらほら人はいるみたいだけど。
「これならゆっくり食べられるね」疋田さんはハンカチで汗を拭いながら笑顔を俺に向ける。俺も笑顔を返す。
「「あ」」そこで、まだ二人して手を繋いでいた事に気づく。慌てて俺達は手を離した。
「ご、ごめん」「ううん。何も悪くないし謝らなくていいよ」そう言ってまた微笑む疋田さん。本当、可愛いなあ。……俺は今日、この子に告白するんだよな。
浴衣姿の疋田さんを照らす公園の街灯。それが何だか幻想的で、そして疋田さんの可愛さを一層引き立たせてるようで、凄く綺麗で可憐に見えた。……告白する。その決意が揺らぎそうなほど、目の前にいる女の子は魅力的だ。そう思った。
そして疋田さんは浴衣が汚れないよう、ベンチにハンカチを敷いて座り、俺も隣りに座った。そして、会えなかった約三ヶ月の出来事を、俺は一杯話した。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
約束へと続くストローク
葛城騰成
青春
競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。
凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。
時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。
長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。
絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。
※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる