何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その四十四

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 そして柊さんはそのまま、んっ、と目をつむり、俺に顔を近づけてきた。もうそれで、柊さんが何するか確定した。

 これは間違いなく、俺にキスしようとしてる。経験がなくとも分かる。 ……でもこれ、受け入れていいのか? 俺の気持ちは? 

 そもそも、柊さんのこの行為だって……。

 俺は揺れる気持ちを何とか制しながら、意を決したように近づいてくる柊さんを止めた。

「あ……」そしてそこで、現実に引き戻されたような顔になり、ボッと一気にトマトみたく顔を赤くする柊さん。

「ご、ごめん! 私……」「あ、い、いや……」

 柊さんは凄く恥ずかしそうに俯き、黙ってしまう。俺も同じく、何を言えばいいのか分からないから沈黙してしまう。

 相変わらずミーンミーン、と蝉の鳴き声が外でやかましく鳴いているのが、より一層二人の沈黙を引き立てるように感じる。ブーン、と時折エアコンの何かが作動した音が聞こえる程の沈黙。気まずい……。

「あ、えっと! あの、あのさあ!」「え? あ、うん」

 突然大声を出した俺に、ビクっと体を震わせ驚いた顔で俺を見る柊さん。その真っ赤な顔を見て、ゴクンと生唾を飲み込み、深呼吸する俺。

「実は俺、好きな子がいるんだ。お、俺がバイトしてるところの子でさ」「……」

 どこか言い訳のようにその事を話す俺。俺はなんで今、こんな事を柊さんに話したんだろうか? 柊さんに対して恋心がない事をアピールするため? ……本当にそうなのか? 自問自答する俺と、それを聞いて、下を向いて黙っている柊さん。

「……知ってる」そしてポツン、と一言、柊さんは下を向いたまま呟いた。

 ……え? 知ってる? 今、間違いなく知ってるって言ったよね?

 俺が疑問に思って、柊さんに質問しようとしたところで、突然バーン、と校長室のドアが開いた。その音で身体が飛び跳ねるくらいビクっとなる俺達。そして距離が近かった俺達は、とっさにササっと離れた。

「おーっすぅ美久ー! 迎えに来たよ~ん! って、……えーっと、もしかして、お楽しみ中、的な?」「違う違う! 安川さん違うよ!」

 必死で否定する俺。勘違いされちゃいけないからね。ていうか安川さん、ノックくらいしようよ。ここ校長室なんだけど? そしてやっぱり勘違いしてるっぽいし。ニヤニヤしてるし。

 ……いやでも、勘違いでも、ないのかな? 

「なーんか、すっごくいい雰囲気に見えるんだけどぉ~?」「……」

 いや柊さんも俯いて黙るんじゃなくて、何か言い訳してよ! まるで肯定してるみたいじゃん! ……って、あれ? 後ろにもう一人いる?

「ちょっと武智! 美久様に卑猥な事したんじゃないでしょうね? そもそも、どうして校長室なのよ? 保健室にいたはずでしょ?」

 ……綾邊さんも来たのか。つか、卑猥な事とか言うな! 急いで「するわけないだろ!」と盛大に訂正させて貰ったけど。

 でも、綾邊さんの言葉で、保健の先生は柊さんと清田との件伝えてないんだって分かった。確かにこんな出来事話す必要ない。できるだけ内緒にしといた方がいいわな。

「えと、柊さんが保健室から出ようとして、俺がたまたま助けた事にしとこう」「……え? あ、うん」俺はそう耳打ちし、柊さんも二人には聞こえないよう、小さくうなずきながら返事する。

「おやおやぁ~? その耳打ちは何かなぁ~?」ニヤニヤしながらの安川さんの余計なツッコミは無視しつつ、コホンと俺が咳払い。

「俺がたまたま、倒れそうになった柊さんを見つけたんだよ。その場所が偶然校長室の前で、更にたまたま校長先生が通りかかったから、止む無く二人でここに来たんだよ」うん。かなり苦しい言い訳だ。でもとっさに思いついたにしては頑張ったほうじゃないか?

「「……」」で、俺の無理やりな説明を聞いてジト目する安川さんに綾邊さん。視線が痛いっす。頼むからこれ以上追及しないでくれ。

「……ま、いいか! 美久、行くよー」「そうそう。武智なんか放っておけばいいのよ」いや綾邊さん? その一言要らないよね? まあとりあえず、二人は納得してくれたようだ。俺はふう、と胸をなでおろす。

 そして俺と柊さんは立ち上がり、校長室を後にしようとする。それを見た安川さんと綾邊さんは、先に教室行ってるね、と言って校長室から出ていった。

「武智君、また、助けてくれてありがとう。そしてまたこうやって、お話出来て嬉しかった」再度二人きりになったところで、柊さんは今度は緊張の解けた顔でニコっと俺に笑顔を見せてそう言った。どうやら清田の件は落ち着いたかな? 

「俺も柊さんと話せて良かったよ。実は保健室に柊さんがいると聞いたから行ったんだ」「え? どうして?」

「……また、話したかったから、かな?」「そうなんだ。でも、そう思ってくれて嬉しい」

 顔を赤らめ恥ずかしそうに少しうつむきながら、上目遣いで俺を見る柊さん。本当この人可愛いなあ。俺もつい、その可愛らしい仕草を見て頬が熱くなる。

 でもまあ、清田の件を考えても、俺が保健室に行ったのは正解だったな。背中押してくれた雄介には本当に感謝だ。とりあえず今日の件は誰にも言わず、胸の奥に仕舞っておこう。

 そして安川さんと綾邉さんに続き、俺も校長室から出ようとした時、柊さんは俺の袖を引っ張って、ちょっと待って、と言った。なんだろ?

「ねえ、武智君。俺の大事な柊さん……、なの?」「え?」

「さっき言ってた」「え?」

 え? ええ? えええええええ!!! 俺そんなとんでもない事言ってたの? ……そう言えば、清田に蹴り入れる時言ってた気がする! 何で俺そんな事……。 

 と、俺が一人狼狽え、その様子を見て柊さんがクスクス笑う。

「嬉しかった」と、そう言いながら、頬を赤らめつつ飛び切りの笑顔で俺を見つめる。その笑顔に、正に心臓を射抜かれた。やばい、さっきの柊さんの行動もあって、俺、柊さんの事を……。

「おーい! 何イチャイチャしてんのー?」そこで、いつの間にか戻ってきていた安川さんが口を挟む。

「「してない!」」と、俺と柊さんがハモって反論。それがおかしかったので、つい二人で見合って笑ってしまった。

 ……ああそっか。安川さんだな。俺に好きな子がいるって柊さんに伝えたの。

 でも、俺に好きな子がいるの知ってて、あんな事しようとしたんだ柊さん。

 ……もしかして俺の事? 

 いや、それはあり得ない。あれはきっと吊り橋効果みたいなもんだ。柊さんに危機が迫ったところで助けに来た俺を、柊さんが勘違いしてカッコいいとか思っただけ。きっとそうだ。そうじゃなきゃ、柊さん程の超絶美少女が、俺みたいな平凡で取り柄のない奴にあんな事するわけない。好きな子がいるって知ってる上で。

 そう自分に言い聞かせながら、柊さん達が去ったのを見計らって、俺も校長室を出て教室に戻った。

 そしてこの時、俺は柊さんが、実は重要な事を言っていた事に気づかなかった。

 
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