何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

文字の大きさ
上 下
44 / 130

その四十四

しおりを挟む
 そして柊さんはそのまま、んっ、と目をつむり、俺に顔を近づけてきた。もうそれで、柊さんが何するか確定した。

 これは間違いなく、俺にキスしようとしてる。経験がなくとも分かる。 ……でもこれ、受け入れていいのか? 俺の気持ちは? 

 そもそも、柊さんのこの行為だって……。

 俺は揺れる気持ちを何とか制しながら、意を決したように近づいてくる柊さんを止めた。

「あ……」そしてそこで、現実に引き戻されたような顔になり、ボッと一気にトマトみたく顔を赤くする柊さん。

「ご、ごめん! 私……」「あ、い、いや……」

 柊さんは凄く恥ずかしそうに俯き、黙ってしまう。俺も同じく、何を言えばいいのか分からないから沈黙してしまう。

 相変わらずミーンミーン、と蝉の鳴き声が外でやかましく鳴いているのが、より一層二人の沈黙を引き立てるように感じる。ブーン、と時折エアコンの何かが作動した音が聞こえる程の沈黙。気まずい……。

「あ、えっと! あの、あのさあ!」「え? あ、うん」

 突然大声を出した俺に、ビクっと体を震わせ驚いた顔で俺を見る柊さん。その真っ赤な顔を見て、ゴクンと生唾を飲み込み、深呼吸する俺。

「実は俺、好きな子がいるんだ。お、俺がバイトしてるところの子でさ」「……」

 どこか言い訳のようにその事を話す俺。俺はなんで今、こんな事を柊さんに話したんだろうか? 柊さんに対して恋心がない事をアピールするため? ……本当にそうなのか? 自問自答する俺と、それを聞いて、下を向いて黙っている柊さん。

「……知ってる」そしてポツン、と一言、柊さんは下を向いたまま呟いた。

 ……え? 知ってる? 今、間違いなく知ってるって言ったよね?

 俺が疑問に思って、柊さんに質問しようとしたところで、突然バーン、と校長室のドアが開いた。その音で身体が飛び跳ねるくらいビクっとなる俺達。そして距離が近かった俺達は、とっさにササっと離れた。

「おーっすぅ美久ー! 迎えに来たよ~ん! って、……えーっと、もしかして、お楽しみ中、的な?」「違う違う! 安川さん違うよ!」

 必死で否定する俺。勘違いされちゃいけないからね。ていうか安川さん、ノックくらいしようよ。ここ校長室なんだけど? そしてやっぱり勘違いしてるっぽいし。ニヤニヤしてるし。

 ……いやでも、勘違いでも、ないのかな? 

「なーんか、すっごくいい雰囲気に見えるんだけどぉ~?」「……」

 いや柊さんも俯いて黙るんじゃなくて、何か言い訳してよ! まるで肯定してるみたいじゃん! ……って、あれ? 後ろにもう一人いる?

「ちょっと武智! 美久様に卑猥な事したんじゃないでしょうね? そもそも、どうして校長室なのよ? 保健室にいたはずでしょ?」

 ……綾邊さんも来たのか。つか、卑猥な事とか言うな! 急いで「するわけないだろ!」と盛大に訂正させて貰ったけど。

 でも、綾邊さんの言葉で、保健の先生は柊さんと清田との件伝えてないんだって分かった。確かにこんな出来事話す必要ない。できるだけ内緒にしといた方がいいわな。

「えと、柊さんが保健室から出ようとして、俺がたまたま助けた事にしとこう」「……え? あ、うん」俺はそう耳打ちし、柊さんも二人には聞こえないよう、小さくうなずきながら返事する。

「おやおやぁ~? その耳打ちは何かなぁ~?」ニヤニヤしながらの安川さんの余計なツッコミは無視しつつ、コホンと俺が咳払い。

「俺がたまたま、倒れそうになった柊さんを見つけたんだよ。その場所が偶然校長室の前で、更にたまたま校長先生が通りかかったから、止む無く二人でここに来たんだよ」うん。かなり苦しい言い訳だ。でもとっさに思いついたにしては頑張ったほうじゃないか?

「「……」」で、俺の無理やりな説明を聞いてジト目する安川さんに綾邊さん。視線が痛いっす。頼むからこれ以上追及しないでくれ。

「……ま、いいか! 美久、行くよー」「そうそう。武智なんか放っておけばいいのよ」いや綾邊さん? その一言要らないよね? まあとりあえず、二人は納得してくれたようだ。俺はふう、と胸をなでおろす。

 そして俺と柊さんは立ち上がり、校長室を後にしようとする。それを見た安川さんと綾邊さんは、先に教室行ってるね、と言って校長室から出ていった。

「武智君、また、助けてくれてありがとう。そしてまたこうやって、お話出来て嬉しかった」再度二人きりになったところで、柊さんは今度は緊張の解けた顔でニコっと俺に笑顔を見せてそう言った。どうやら清田の件は落ち着いたかな? 

「俺も柊さんと話せて良かったよ。実は保健室に柊さんがいると聞いたから行ったんだ」「え? どうして?」

「……また、話したかったから、かな?」「そうなんだ。でも、そう思ってくれて嬉しい」

 顔を赤らめ恥ずかしそうに少しうつむきながら、上目遣いで俺を見る柊さん。本当この人可愛いなあ。俺もつい、その可愛らしい仕草を見て頬が熱くなる。

 でもまあ、清田の件を考えても、俺が保健室に行ったのは正解だったな。背中押してくれた雄介には本当に感謝だ。とりあえず今日の件は誰にも言わず、胸の奥に仕舞っておこう。

 そして安川さんと綾邉さんに続き、俺も校長室から出ようとした時、柊さんは俺の袖を引っ張って、ちょっと待って、と言った。なんだろ?

「ねえ、武智君。俺の大事な柊さん……、なの?」「え?」

「さっき言ってた」「え?」

 え? ええ? えええええええ!!! 俺そんなとんでもない事言ってたの? ……そう言えば、清田に蹴り入れる時言ってた気がする! 何で俺そんな事……。 

 と、俺が一人狼狽え、その様子を見て柊さんがクスクス笑う。

「嬉しかった」と、そう言いながら、頬を赤らめつつ飛び切りの笑顔で俺を見つめる。その笑顔に、正に心臓を射抜かれた。やばい、さっきの柊さんの行動もあって、俺、柊さんの事を……。

「おーい! 何イチャイチャしてんのー?」そこで、いつの間にか戻ってきていた安川さんが口を挟む。

「「してない!」」と、俺と柊さんがハモって反論。それがおかしかったので、つい二人で見合って笑ってしまった。

 ……ああそっか。安川さんだな。俺に好きな子がいるって柊さんに伝えたの。

 でも、俺に好きな子がいるの知ってて、あんな事しようとしたんだ柊さん。

 ……もしかして俺の事? 

 いや、それはあり得ない。あれはきっと吊り橋効果みたいなもんだ。柊さんに危機が迫ったところで助けに来た俺を、柊さんが勘違いしてカッコいいとか思っただけ。きっとそうだ。そうじゃなきゃ、柊さん程の超絶美少女が、俺みたいな平凡で取り柄のない奴にあんな事するわけない。好きな子がいるって知ってる上で。

 そう自分に言い聞かせながら、柊さん達が去ったのを見計らって、俺も校長室を出て教室に戻った。

 そしてこの時、俺は柊さんが、実は重要な事を言っていた事に気づかなかった。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

ONE WEEK LOVE ~純情のっぽと変人天使の恋~

mizuno sei
青春
 永野祐輝は高校3年生。プロバスケットの選手を目指して高校に入学したが、入学早々傷害事件を起こし、バスケット部への入部を拒否されてしまった。  目標を失った彼は、しばらく荒れた生活をし、学校中の生徒たちから不良で怖いというイメージを持たれてしまう。  鬱々とした日々を送っていた彼に転機が訪れたのは、偶然不良に絡まれていた男子生徒を助けたことがきっかけだった。その男子生徒、吉田龍之介はちょっと変わってはいたが、優れた才能を持つ演劇部の生徒だった。生活を変えたいと思っていた祐輝は、吉田の熱心な勧誘もあって演劇部に入部することを決めた。  それから2年後、いよいよ高校最後の年を迎えた祐輝は、始業式の前日、偶然に一人の女子生徒と出会った。彼女を一目見て恋に落ちた祐輝は、次の日からその少女を探し、告白しようと動き出す。  一方、その女子生徒、木崎真由もまた、心に傷とコンプレックスを抱えた少女だった。  不良の烙印を押された不器用で心優しい少年と、コンプレックスを抱えた少女の恋にゆくへは・・・。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

処理中です...