何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その三十六

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 ※※※

「お疲れ」「ああ、いてっ」

「まだ痛むか?」「まあな。でも本戦までには治ると思う」

 雄介は試合中に顎に食らった正拳突きで歯が折れたっぽい。フルコンタクトはこれだから怖い。でもその分緊張感あるし、実戦に近いから俺は防具あるより好きだけど。とりあえず雄介も予選勝ち抜けて良かった。

 K市内で行われる高校対抗の空手大会は、都度予選で勝ち抜かないといけないのが面倒なんだよな。俺は昨年準優勝したんだし、とある有名◯◯館の全国大会みたいに、シード制にしてくれてもいいと思うんだけど。しかも予選は時々結構な実力者が出る事もあるから気を抜けないし。

 それでも今回は思ったより余裕だった。まあ、柊さん観に来てるのもあって気合入れたのも理由かもね。やっぱ男たるもの、可愛い女の子が観てたら気合入るっしょ?

「なあお前さあ、もし観に来てたのが疋田さんだったらどうなん?」「え?」

 まるでそんな俺の心情を読んでたかのように声を掛ける雄介。一瞬ドキッとしてしまった。そして、俺今全く疋田さんの事考えてなかった。危ない危ない。俺の好きな子は疋田さん! 柊さんはただの友達! 雄介から名前出てきて、そう、気持ちを改める俺。そもそも、柊さんを学校以外で見たの初めてだったし、観に来てくれてたの柊さんだし、今の間は疋田さんの事忘れてたって悪くない……よね?

「もし疋田さんが観てたら……。そうだなあ、緊張していつも以上の力出なかったかも? いや、それも違うかな? ……わからん」「何だそれ」

 だって経験した事ないからわかんねーよ。雄介もまたなんでそんな事唐突に聞くんだ。そりゃ、疋田さんは一度、誘拐されそうになったところを助けた事はあるけど。あの時は必死だったし試合じゃないからノーカウントでしょ。

「そういうお前だって、安川さん観に来てたけどどうだったんだよ?」「おう、すっげぇ気合入ったぜ」

 フフンと鼻で笑う雄介。……あーそうですか。お熱い事で良かったっすねー。羨ましい。

「ケッ! さっさと安川さんとこ行ってこいよ」「いやそれがさあ、これから柊さんと遊びに行くんだって」

 そうなん? ときょとんとしてしまう俺。今日の空手大会予選は夕方までやってるけど、俺達の予選は既に午前中で終わったので、今から時間空いてる。だから、雄介と安川さんはデートにでも行くと思ったんだけど。

「じゃあ久々に俺とどっか行こうぜ」「おう、いいな」

 以前はしょっちゅう雄介と二人でゲーセン行ったりしてたんだけど、最近は雄介が付き合い悪くなって二人で遊んでなかった。まあでも、彼女出来たら仕方ないって思ってたし、そんなに気にしてなかったけど。それでも、仲いい雄介と久々にどっか行けるのは嬉しいのも本音だ。

 ※※※

「はいはーい、すみませんっしたあー」『その口のきき方。あなた全然反省してないでしょ?』

 恩田さんに対して悪びれる様子もなく答える明歩。私のスマホの電源は切ったままで、明歩は三浦君に連絡するため電源を入れたので、こうやって恩田さんから明歩の電話にかかってきたんだけど。

「そりゃあんだけの人数にストーキングされたら気持ちわる! ってなるっすよ。逃げなきゃってなるっすよ」『あのねえ。ストーカーじゃない事くらい分かってるでしょ? これだから子どもは……』

「だーからこうやって謝ってんじゃないっすか」『それ、謝る口調じゃないわよね? あなた、本当にキャラクターと外見はいいけど、うちに来るならその口調は矯正しないといけないわよ』

「つーかアタシ、別に芸能人やらないんで。彼氏の方が大事なんで」『え? そうなの? ……まさか私からの誘いを断るだなんて。業界では私に見初められようと皆必死なのに。しかしそれは残念ねえ。美久以来の逸材だと思って声かけたのに。本当、青臭い恋心って邪魔ねえ』

「青臭くて悪かったな! おばさんには分かんないっすよーだ!」そうスマホに怒鳴ってブツ切りする明歩。ちょっと明歩、さすがにおばさんは言い過ぎ。そして後で怒られるの私なんだけど。まあ、明歩には感謝してるから、それくらいはいいけど。

「よし! じゃあとりあえずカラオケ行く? それとも……」と、そこで明歩のお腹がクゥ~と可愛く鳴った。一気にトマトみたいに顔を赤くする明歩に、私はついお腹を抱えて笑ってしまう。

「アハハハ! そうだね、先にご飯食べに行こっか」「もー! そんな笑わないでよー」

 プクーと頬を膨らませ怒る明歩がまた可愛くて、笑いが止まらない私。そして二人で自転車を取りに駐輪場に向かう。

 武智君達の試合は午前中で終わったので、その後明歩は私と一緒に遊びに行こうって誘ってくれた。空手大会に来たかったのも本当だけど、元々は明歩と二人、女子高生らしく遊びに行くのも楽しみだったから、明歩の申し出は嬉しかった。彼氏の三浦君も、武智君と久々に遊びに行くらしいから、気にしなくていいって言ってくれた。

 こんな機会はもう二度と訪れないだろう。だから、明歩に甘える事にした。

 それからファミレスで明歩と二人でご飯を食べて、ウインドーショッピングして、ゲームセンターでプリクラを撮って、と、沢山はしゃいだ。それからまだ時間があったからカラオケに行ったんだけど、……明歩、めちゃくちゃ歌上手くてびっくり。ボイストレーニングしている私でさえ、あそこまで安定した音域出せない。天性の歌声。……確かに明歩、芸能界向いてるかもしれない。元々ルックスもいいし。

「ねえ、明歩。一度本気で芸能界考えてみたら? 恩田さんに目をつけられるって実は結構ラッキーだったりするよ?」

 だからつい、そんな事を言ってしまう私。この才能を活かさないのは、確かに勿体無いって思ったから。

「えー、いいよアタシは。雄介と別れる方が嫌だもん」でも明歩は即答で否定した。そっか。そうだよね。あれだけ二人想い合ってるのに、よく分からない将来のために別れるなんて出来っこないよね。

 そう考えたら私は……。

 本当は私も別に芸能界に入りたいわけじゃない。恩田さんの言う通り、悪目立ちするのが嫌で仕方なく芸能界に入るための準備をしてるだけ。本当は明歩みたいに普通の高校生やって、こうやって友達と遊んだりし、恋して、彼氏と一緒にどこか行ったりしたい。

 でも私、恩田さんの言いなりになって流されているのかも。今までずっと居場所がなかった。その居場所を与えてくれたのは恩田さん。それは勿論感謝している。そしてその居場所を確実なものするために、今は色々準備している事も。そのために、私の心を封じ込める必要がある事も。

 それはきっと、大人の対応で正しいと分かってる。でも……。でも、正直言って、明歩が羨ましい。

 私が本音を出すのはワガママ……なのかな?

「おーい、どうしたー?」キィィンとハウリングさせながら、マイクを使って大声で話す明歩。その音にびっくりしながら、一人考え事してたのを止め、耳を塞ぎなんでもなーい! と大声を返す私。

「よーし! んじゃ次デュエットするぞー!」そして私の了解を得ず、勝手に選曲する明歩。こういう強引なところ、嫌いじゃない。苦笑しながらたまたま知っていた曲だったのを見て安心し、私もマイクを取った。

 ※※※

『今日はバイトじゃなかったんだね』『うん。空手の予選があって。でも午前中で終わったんだけど。もしかしたら夕方までに変更する可能性もあったから、一応バイトは止めといたんだ』

 そっか、と返事する疋田さん。今日久々雄介と二人で飯食いに行ったりゲーセン行ったりして遊びに行って、帰ってから一人、部屋で宿題を終わらそうと思いながら、今晩疋田さんに電話しようと決意し、電話してるってわけ。

 もう疋田さんには二ヶ月近く会ってない。毎晩のlineのやり取りは続いているけど、毎回だとどうしても受け答えが淡白になってきてしまうので、声も聞きたかったし、今日雄介にふと名前言われてハッとしたから、電話してみたんだよな。

『どうしたの? 黙っちゃったけど』『あ、いやなんでも。後一月くらいで夏休みだなあって』

『そう言えばそうだね。……夏祭り、浴衣着ていこうと思ってて……気合い入れすぎかな? 恥ずかしい』『い、いや、疋田さんならきっとめちゃくちゃ似合うって!』

『アハハ。そんな必死に言わなくても』『あ、ごめん、つい』

『でも、楽しみにしてる』『うん。俺も。……あのさ、こうやってたまに電話していいかな? ずっと顔見てないから、声だけでも聞きたい』と、言ってしまってハッとした俺。しまった。これじゃまるで、あなたの事が好きなんですって言ってるようなもんじゃないか。彼女に対しての言葉みたいな事言っちゃった。

 いきなりドバっと汗が吹き出る。手汗がジットリ滲んできた。でも、言った言葉は取り消せない。

『声、聞きたいんだ』疋田さんがポツリと呟く。もうここであれこれ言い訳しても遅いよな。だから、うん、と俺もつい声が小さくなりながらも素直に答える。

『うん。別にいいよ』『そ、そう? ありがとう』普通に受け入れてくれてホッとする俺。

『じゃあ、また連絡待ってるね』『あ、うん、また』

 そしてスマホを置いて、ベッドに大の字で仰向けに寝転り、はあ~、と大きなため息を吐く俺。良かった。あんな事言って拒否されたら気まずくなるところだった。

 ……そういや俺、柊さんの電話番号知らないや。あれだけ昼休み一緒にいるのに。そういや、さっきの宿題の公式、柊さんに言われたやつで解いた方が良かったか? しかし、今日空手観に来てくれた柊さん、うまく自分の可愛さを隠してたなあ。安川さんのド派手カモフラージュも上手くいったからだろうけど。

 こうやって、疋田さんとの電話の後、ずっと柊さんの事を考えてた事に気づかず、俺はパジャマに着替えて眠りについた。
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