何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その二十八

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 ※※※

「美久ー、今日もごめんねー」「……」

「美久ー? ちょっと美久ってばあー」「え? な、何?」

 しまった。お昼の事を思い出してついぼー、っとしてしまった。明歩が私の側に来ていた事さえ気づかない程に。

「……ねえ武智君と何かあった?」「へ? な、何にもない! あれはただの事故だから何にも!」

 なんで武智君の事だって分かるの? 無駄に勘がいい明歩にちょっと腹立ちながらも何とか取り繕う私。

 オホン、と咳払いする私を、ふーん、事故ねえ、とニヤニヤしながら私を見つめる明歩。結局その視線が痛くて俯いてしまう私。

 今日のお昼の事は、我ながら本当にびっくりした。まさか武智君につい抱きついてしまうなんて……。あんな大胆な事するとは思いもしなかった。確かに雷は苦手だけど、だからといって男の子の胸を借りるなんて……。もしあの時、予鈴が鳴らず、あのままあの状態であの二人きりの空間にいたら、私、どうしていただろう?

 その事を考えるとつい顔に熱を帯びてしまう。そして我ながらもう一つ驚いたのは、いつの間にかあんなにも武智君に心許してたんだ、という事。他の男子だったらきっと、いくら驚いたとしても抱きついたりしない。

 平静を装っているけど、実はあれからずっと鼓動が激しくて収まってくれない。恥ずかしかったから? それもある。

 でも……。

 武智君と何度もお昼一緒にするようになって、今日の事があって確信してしまった。以前は単なる恋煩い。恋に恋して武智君を意識してただけ。気持ちもはっきりしないふわふわしてたお遊戯の恋心を楽しんでただけだった。でも今は……。

「美ー久!」「きゃん!」明歩にチョップされ、ハッとなる私。しまった。また、ぼー、っと考え事してた。

「さっきからどうしたの? ……あ!」となにかに気づいた様子。そしてニヤリとしながらそこで私に耳打ち。「武智君と進展したんだ?」

「へ? な、な、何を言ってるの? な、何も、ない、よ。うん。何にも」

 微妙ながら何かあったのは間違いなかったので、つい狼狽えてしまった。当然、明歩がますますジトー、と私のその様子を見る。

「何があったかわかんないけど良かったじゃん!」ニヒヒと笑いながら私の頭をペンペンする明歩。ますますカァー、と顔が火照って熱くなる。きっとトマトみたいに真っ赤になってる。でも、出てしまった気持ちを引っ込められないから今更誤魔化せない。だってこんな気持ち、今までの私には経験のない事だから、どう処理すればいいのか分からないんだもの。

「そ、そういう明歩だって、三浦君とうまくいってるみたいじゃない?」このままじゃ責められてっぱなしだ。そう思って、無理やり話題をすり替えてみる私。でも無意味だった。ニヘラ~としながら明歩は嬉しそうに「むっふっふー」とか言うだけ。もうそれ、惚気てるだけだし。

「彼氏っていいよね~。あ、いや違う。雄介っていいよね~」ふふふ~んと嬉しそうに鼻歌する明歩。……逆効果だった。

「彼氏ってそんなにいいんだ?」「そりゃあ、ね? やっぱ興味ある?」

 しまった。そういう事聞いたら私が彼氏欲しいって言ってるように取られてしまうじゃない。まあそりゃあ……私だっていつかは……。

「武智君、お休みに遊びに誘ってみたら?」私の思考を読み取ったかのように、何だか悪い顔しながらまたも耳打ちする明歩。

「それは、出来ないな」でも、苦笑いしながらはっきり否定する私。

 本当はいけない事なんだけど、武智君への想いが膨らんでいるのは気づいてる。一緒にいて楽しくて、何だか安らぐ。二人でいて気持ちが穏やかになるし、常に心地いいときめきを感じる。

 本当は、ダメなんだけど。この気持ちだけはどう制御すればいいのか分からない。

 ※※※

「セイヤ!」「ゴパァ!」

「こらあ! 悠斗! たるんどるぞ!」「は、はひぃ! すみません!」

 鼻血が吹き出てしまい、とりあえず上を向いて溢れないようにしつつ、道場の端に移動する俺。

 空手の顧問の先生とフルコンタクトで練習中、ついぼー、っとしてしまった俺に、先生の正拳突きが綺麗に入ってしまった。いつもなら問題なく躱してるから、先生もびっくりしてたな。で、ハッとして怒号を飛ばしたわけだけど。

 手の空いていた雄介がすぐさま俺のそばにやってきて、ティッシュを持ってきてくれた。

「どうした悠斗? お前らしくない」「そうだな」雄介からティッシュを貰い、丸めて鼻に突っ込む。まあ、鼻に当たった瞬間すぐ身を引いたから、骨が折れたとかそういう事もないし、これで暫くしたら治るだろう。

「保健室行くか?」「いや、ここで寝とくわ」

 無理すんなよ、と雄介はその場を離れ、蹴りの練習を続け始めた。俺は仰向けに寝転びながら、道場の天井を見つめる。

 柊さんの事考えてた、なんて、雄介に言えるわけない。じゃあお前、疋田さんは? って突っ込まれるだろうし。つか、そもそも雄介が余計な事言ったのも悪いんだぞ?

 俺だってどういう事かよくわかんねーんだよな。今日の柊さんがとにかくめちゃくちゃ可愛くて、そして抱きつかれた時、これ以上ないほどドキドキしたのも本当だし。

 まあそれは、単に柊さんが超絶美少女で、俺が女慣れしていないからだろうけど。柊さんは改めて思うに本当に可愛いんだよな。クラス一や学校一で収まるような次元じゃない。だから、一緒にいると無駄に俺を惑わせる。ある意味毒だと言っていいかも知れない。

 でもまあそれは、建物の中で二人きりで、しかも雷が落ちた事で、吊り橋効果みたいなものもあったからかもな。そう考える事が出来てるからこそ、未だ冷静でいられるんけど。

 それでも、以前以上に柊さんを意識してしまっているのは間違いない。

「はあ……」今日の昼の出来事以来、ずっと柊さんの事を考えてしまっている自分が情けなく、でもどうしようもできないもどかしさが、俺を憂鬱にさせる。外は相変わらず鬱陶しく降り続く雨。それも、俺の気持ちを増長させているのかもな。

 ※※※

「……」寝る前、スマホを手に持ちベッドに仰向けに寝転ぶ俺。

 あの時の道場での鼻の怪我はやはり大した事はなかったので、少し寝てからすぐに練習に戻った。七月には予選が始まる。高校生最後の県大会。自分で言うのも何だが俺は空手部のホープなので、こんな程度の怪我で休んでる場合じゃないし。

 だから今日も空手部でヘトヘトに疲れた後、バイトに行って更に疲れて帰ってきて、ぐだーとしてるわけだが。

 今日も疋田さんに寝る前のlineを送る。電話を出てくれた日からずっと、疋田さんは送信すれば返信くれるようになった。でも、会いたいから時間が欲しい、と言ったその事については、一切連絡くれないんだけど。

 俺から催促するのも何かカッコ悪いから、俺もあれ以来言ってないし電話もしてない。連絡はずっとlineだけだ。

 でも今日、柊さんとあんな事があったからか、lineを送る手が動かない。余り遅くなると疋田さんに迷惑かけるから、早く送らないといけないんだけど、どうも指が動いてくれない。

 その時、いきなりスマホがバイブした。「え?」電話だ。しかも、疋田さんから?

『も、もしもし?』『あ、ごめんね。夜遅いのに』

 やっぱり疋田さんだ。ついバッと起き上がって姿勢を正してベッドに座る。

『え、えとね? 七月なら、その、会える』『え? ほんと?』

 一気に心臓が跳ね上がる俺。そして急いで机においてある卓上カレンダーを手に取り、日付を確認する。……そうだ!

『じゃあ、この日どうかな? 夏祭りがあるんだ。花火もあるよ』『夏祭り? あ、そっか。もうそんな時期なんだね』

 夏休み入ってすぐの七月下旬、K市主催の夏祭りがある。夜店が沢山出て河川敷からそれなりに花火が上がる。少し先だけどこの日なら、夏祭りの雰囲気を利用して、思い切って告白出来るかも知れない。何より、疋田さんの浴衣姿とか見れたら最高だし。

『うん。大丈夫だよ』『おお! やった! じゃあその日近づいたらまた時間とか連絡するね!』

 よっしゃあああ!!! 久々疋田さんと夏祭りデート! これは高校生最高のいい思い出にしないと!

『アハハ。やった、て』電話越しで笑う疋田さん。そりゃあ、ようやく会えるんだから嬉しいに決まってんじゃん。

『ごめん。つい嬉しくて』俺もつい、正直に言ってしまう。でも、しまった、とは思ってない。その日俺は告白するんだ。だから、ほんの少しでも、本音伝えてしまってもいいや、って少し開き直ってたりする。

『う、嬉しいんだ。そっか』そこで声が小さくなる疋田さん。どういう気持ちかわからない。でもそんな様子も何となく可愛い。

『え、えと。とりあえずもう遅いし切るね』『う、うん。またね』

 電話を切ってバターンとベッドに倒れる俺。そして大きくふうー、と息を吐く。良かった。疋田さん連絡くれた。しかも夏祭りに告白できるんだ。

「……」でも、と何か言いかけて止めた。それ以上は要らない。俺はやっぱり疋田さんが好きなんだ。だってこんなに、俺は嬉しいんだから。

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