何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その二十三

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 ※※※

「全く、今日も邪魔なのよ」

「へいへい。悪う御座いましたねぇ」そしてそそくさと道を開ける俺。チラリと柊さんを見ると、ニコと微笑んでた。こらこら、怒ってんだから笑顔はまずいだろ。でも俺もつい、笑顔を返してしまった。

 でも見つかっちゃまずいので、すぐその場から退散する俺。柊さんもすぐに俺から視線を外す。

 先日の屋上の件から一週間。それからはずっとこんな風に順調に嫌われている。……うん、変な日本語だ。でもやはり、以前に比べ気が楽だ。柊さんがこうやってきた理由がある事が分かった事で、憂鬱だった毎朝が少しマシになったのは間違いない。

 だけど、俺の心の中のもやもやが解消されたわけじゃない。疋田さんとは相変わらず連絡が取れない。余りしつこく連絡するのは迷惑だと思うから、今まで毎晩送っていたお休みのlineだけ続けている。でも、相変わらず既読になっても返信はない。……その事を考えるとちょっと鬱になりそう。

 ブロックされないという事は、俺の事嫌ってるわけじゃなく、また、俺との繋がりを断とうとしているわけでもないという事だと思う。それなら、また会えるんじゃないか? って期待しちゃうじゃん。告白しようとして出来なかったから、俺の気持ちはずっと宙ぶらりんのままだし。割り切ろうにも煮え切らない。

 でも、学校は俺のそんな気持ちなんか待ってくれない。一週間後には定期テストがある。大学進学のためには、このテストを毎度の事ながら頑張らないといけない。空手部はその間休みになるが、それも六月に入れば夏の大会に向けて更に練習は過酷になる。その上バイトも未だ続けている。

 まあ、忙しくなるのは丁度良かったかも、と思ったりもしてる。勉強や空手、またはバイトに集中してれば、疋田さんの事をほんの少し忘れる事が出来るから。……でも、バイト先には疋田さんの痕跡があちこちに残っているから、結局は思い出してしまうんだけどね。

 ……疋田さんに会いたいなあ。

 ※※※

「よし悠斗行くぞ」「……お前一人で行けよ」

 いいからいいから、と無理やり引っ張っていく雄介。一方の俺乗り気じゃない。でも一人で弁当食うのも気が引けるから、嫌々ながらも仕方なく雄介について行く。

 今日はあの時以来久々に、屋上で柊さんと安川さんと共に昼飯食うらしい。最近特に仲良くなった安川さんと、二人きりで昼飯を学校で食うのは恥ずかしいので、俺と柊さんを巻き込もうって魂胆らしい。そして俺はそんな雄介の願いを無碍に断れなかったりする。先日の件は本当に有難かったし。

 前の屋上の件で、素の柊さんに会うのはもう終わりだと思ってたけど、また会う事になるとはなあ。まあいいけど。

「つか、柊さん迷惑してんじゃねーの?」「大丈夫大丈夫。そこは明歩から問題ないって聞いてっから」

 明歩、ねえ。もう下の名前で呼び合う仲になってんのか。一方の俺は相変わらず疋田さんと連絡つかないってのに。羨ましい。

 そして前来た通り、人の気配を全く感じない校舎の中を通り、階段を上がっていって、屋上の扉前についておもむろに開ける。前に聞いたら、ここは普段閉まっているけど、柊さんが鍵を持っているので開けられるらしい。なんで鍵持ってるか知らないけど。

「あ! おーい! 雄介―!」「おう!」嬉しそうに挨拶を交わす安川さんと雄介。普通にもうカップルだな。雄介は遊園地デートの時みたいな偉そうな態度じゃなく、安川さんにもイケメンスマイル振りまいてる。……あの遊園地デート、楽しかったなあ。あの時、疋田さんとかなり距離を近づけたと思ったのに。はあ。思い出してしまった。

 楽しかったあの時の事を思い出して落ち込む俺。普通、楽しかった事を思い出したらテンション上がるんだろうけど。楽しかったからこそ、余計に今の状況が辛いというか。

「なんかごめんね柊さん。あいつら勝手にイチャイチャして」「ううん、大丈夫。私もこうやって、学校で男子生徒とお昼ご飯食べるの楽しいから」

 とりあえずあの二人は当たり前のように自分達の世界を作ってるので、何となく居たたまれない俺は、同じく困った様子の柊さんに声を掛けた。

 そして気にしてないよ、とニッコリ俺に微笑む柊さん。またもその笑顔にドキっとする。……本当、この人美人だなあ。時折風に流される黒髪までも、景色の一部のように見えるくらいだ。長い黒まつげにぱっちりした二重でやや切れ長の綺麗な目。よくもまあ、ここまで完璧に美少女に出来てんなあ、と感心していしまうくらい。

「ん? 何かついてる?」「あ、いや」見惚れてました、なんて言えるわけない。慌てて柊さんの横に座る俺。勿論一定の距離を保って。

 そしてつい、疋田さんと柊さんを比べてしまう俺。ドキっとしたのが何となく罪悪感を感じたからだ。疋田さんも当然可愛いけど、あの黒縁メガネの中から見えていた目は、柊さんより小さめだ。。うん、よし。やっぱり俺は疋田さんの方が好きだな。

 そしてお互い弁当を広げる。柊さんも弁当なんだな。そういや俺、女子とこうやって弁当食うの初めてだ。しかもその相手が柊さん。そう思ったらちょっと緊張してきた。

「朝の件、いつもごめんね」「ああ、いいよ、理由あるって分かったなら俺も平気だし」そんな事考えていたら、柊さんから謝罪された。俺も返事しながら、母さんお手製の卵焼きをぱくつく。うちの卵焼きは砂糖を使った甘め仕様。これが結構ご飯に合うんだよなあ。相変わらず美味い。

「本当、武智君って優しいね」俺の様子をどことなく微笑みながら柊さんがそう言った。

「……?」なんかその言い方が引っかかった。

「どうしてそう思ったん?」「え? だってあれだけ酷い事、ずっと続けてた私を許してくれたから」そう言いながら気まずそうに俯く柊さん。そしておもむろに弁当の俵おにぎりに箸を伸ばす。

 そして、ふーん、と気に留めてないような感じで返す俺。それだけでそんな気持ちを込めて言うかな? と不思議に思ったけど。まあいいか。

「あ、そうそう。こないだ聞きそびれたけど、夏休み終わったら、嫌われる演技しなくていいかも知れないって、前に清田先生に聞いたんだけど、どうして?」

「清田先生に? ……そう、か」そう言いながら箸を止め、何だか考え込む柊さん。この人、こんな仕草でも絵になるのな。とか思いながらまたも柊さんに見惚れてしまっていたら、突然俺の顔を見て頭を下げた。

「ごめんなさい。それも言えないの。本当、勝手な事ばかり言ってて申し訳ないんだけど……。でも、夏休み終わったら、理由が分かると思う」

「ハハハ。柊さん、前から謝ってばかりだね。本当、朝のあの怒ってる雰囲気と凄いギャップあるよね」

「そ、そうかな? こっちが素だよ」

「じゃあ、あれは前から言ってた通り演技なのかあ。結構本気で嫌われてると思ってた」

「そう思われてたんなら成功かな? うまく騙せてるって事だし」

「え?」「あ、何でもない」

 そこでまたもフイと俯く柊さん。そして今度はウインナーに手を付ける。……今、成功、とかうまく騙せてる、とか言ったよね? どういう事? しかし、本当秘密多いなあ。まあ、俺は他人だし言えない事多いのは仕方ないかな。でも柊さんって誤魔化すの下手だな。言えない、ごめんなさい、と言わず、嘘をつけばいいのに。

 まあ柊さんって、実は真面目で正直なのかもね。

 ※※※

 実は平気な顔は取り繕っているだけ。かなり緊張している私。

 明歩が屋上でお昼ご飯食べようって言った後、「そうそう。今日は雄介と武智君来るよ」と言ってびっくりしたのがついさっき。そして間もなくして、本当に二人共屋上にやって来た。武智君は余り気が進まない雰囲気だったけど。

 そして明歩は当たり前のように、嬉しそうに三浦君の横に陣取った。じゃあ私、武智君と一緒にご飯食べないといけないじゃない。……もしかして、それが狙いなの? 私の気持ちを知ってるから? ……明歩、もしそうなら、本当に余計なお世話だよ?

 そして私の横に申し訳なさそうにごめんね、と座りながら謝る武智君。私は緊張を隠しながら笑顔を返す。少し見つめられてしまう。恥ずかしい。顔、赤くなってないかな? 耐え切れなくなって「何かついてる?」って聞いたら、顔をそむけた武智君。何だかその仕草可愛い、とか思っちゃった。

 でも本音は、武智君とこうやって一緒にお昼ご飯を食べられるの嬉しかったりする。こうやって屋上で、気になる男子とお昼食べるって、正に高校生って感じで。こういうのがしたかったのよね。まあ、明歩には感謝かな?

 沈黙も気まずいから、私から朝の件について再度謝る。理由あるならいいよって言ってくれる武智君。本当、優しいな。その気遣いも嬉しくて、お弁当がいつも以上に美味しく感じちゃう。ダメだな、何だかウキウキしてる。恩田さんにまた見つからないようにしないと。

 そして清田先生から、朝の儀式は夏休みまで、と聞いたらしい。……それ、言っちゃいけないはずなのに。先日呼び出された時聞かれたけど、そうか、武智君と話してたからだったのか。

 それも言えない、ごめん、と改めて謝る。そんな私を見て武智君は笑いながら、謝ってばかりで朝の私とギャップあるって言った。武智君には嘘をつきたくない。だから正直に、嘘をつかず言えないという事を伝える。そもそもこっちが本当の私。朝のは演技。それは言っておかないと。

 誤解されるのはやっぱり嫌。あんなのは当然私じゃないんだから。でも、武智君の言う通り、夏休みが終わると、あの朝の儀式は終わってしまう。そうなれば、もう二度と武智君とは関われなくなる。

 それはそれで、何だか辛いな……。

 ふと、一抹の寂しさを感じたせいか、私の心の中にぽっかり穴が開き、そこを冷たい風が通り抜けた気がした。……でも、こうやって武智君と話が出来た。これは本当に嬉しい。今はその幸運を楽しんでおこう。

 夏が終われば、二度とできなくなるんだから。
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