何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その七

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 気が重い。でもバイトをサボる訳にはいかない。だから今日も足取りは重くても喫茶店にやってきて、カランカラーンとドアの開く音をさせて、入店する俺。

「あ! 武智君! 昨日はごめんね?」そこへ疋田さんが待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。

「え? 何が?」

「あ、ほら、ヒロ君……。昨日の私の幼馴染が偉そうにしてたから、気分悪くしたんじゃないかって」

「ああ。大丈夫だよ」本当は全然大丈夫じゃないけどね。その本音を出さないよう、引きつりながらも笑顔で返す。多分バレてない……よな?それにしてもヒロ君、か。下の名前で呼び合う仲なのかな? ちぇ、羨ましい。

「そ、そう? それならいいけど……それでね」と、疋田さんが何か言いかけたところで、リリーン、と店の電話がけたたましく鳴った。マスターは丁度席を外してたので、急いで俺が電話にでた。

「……もう! タイミング悪いなあ」疋田さんの独り言は聞こえなかったけど、何やら怒ってる?

 ※※※

「……今日から送ってくれなくなるの?」

「うん。ごめん。もうバイトやめようかと思ってさ」そう言ってマスターに頭を下げた。今日からはマスターが疋田さんを送る事になると思う。

 今日もバイトは忙しかった。お客さんはひっきりなしにやってきた。でもそれが良かった。気持ちを紛らわせる事が出来たから。それでも、正直疋田さんと同じ空間にいるのは辛い。しんどい。苦しい。何とかお客さんに対して営業スマイルは出来てたと思うけど、これからもこの気持ちが続くのは耐えられない。

 それに、こんな気持ちの俺が居続けたら、疋田さんにも余計な心配をかけてしまうと思う。……ああ分かってるよ。これは単なる言い訳。このタイミングで辞めるのは俺の身勝手だ。

 だめだ。また泣きそうになってきた。さっさと退店しないとカッコ悪いとこ見せてしまう。

 いそいそと帰る準備をする陰で、マスターが疋田さんと何やら話してる。もう俺退店していいよな? ん? マスターが疋田さんをドン、と俺に向けて押した?

「おわっと」「きゃあ!」つい抱きとめてしまった。その際疋田さんの首元から香る、女の子特有のふわっとした甘いシャンプーの香り。そして抱きとめた事で感じる、やや高めの体温。やばい。急いでバッと引き離す。

「ご、ごめん」「ち、違うの。私がよたれかかったから」ドキドキが止まらない。疋田さんも俯いて気まずそうだ。そりゃそうだよな。気のない男に突然くっついちゃったんだから。そもそも男が苦手なんだし。てか、マスター何やってんの? 何ニヤニヤしてんの?

「あー、武智君、バイト辞めるのはまだ認めないよ。とりあえず外の掃除してくるねー」そう俺に声を掛けながら、手をひらひらさせ外に出ていったマスター。いやいやどういう事? 認めないって何だよ?

 カランカラーン、とマスターが外に出ていく際に鳴るドアの鐘。そして静かになる店内。カッチコッチと時計の音だけが店内にこだまする。

「あ、あのね武智君。ヒロ君はただの幼馴染で何もないの」意を決したように話し始める疋田さん。

「あ、ああ。そうなんだ」ギクシャクしながら答える俺。……てか、なんでそんな話今するの?

「幼稚園からずっと一緒だったけど、別の高校に行ってそれからは全く会ってなかった。でも、三年生になってからやたら会いに来るようになって」

「そりゃあ、幼馴染だもんな。遠慮なんかしないんじゃないの?」

「そうなんだけど、正直困ってて……」

「困ってる?」

「おーい、そろそろ店閉めるよー。武智君今日も疋田さん送っていってねー」掃除を終えたマスターが、カランカラーンと扉を開け入ってきて俺達に声を掛けた。辞める話はどうやら流されてしまった。なんて無茶苦茶な。でも、疋田さんが言いかけた続きが気になるし、今日は仕方ない、か。改めてマスターに話すればいいんだし。

 ※※※

 結局今日もいつも通り、疋田さんと二人自転車を押しながら送る事になった。でも店を出てから二人して沈黙のままだけど。

 疋田さんがさっき言ってた「困ってる」ってその言葉が気になった。幼馴染は彼氏候補だと思うのに。 

「ヒロ君……、えっと、大内弘明君、て言うんだけど、前から何度も付き合ってくれって言われてて」沈黙を破ったのは疋田さん。さっき言いかけた事みたいだ。やっぱり疋田さんに好意持ってたんだな。

「付き合わないの? 幼馴染だから疋田さんの事誰よりも知ってるだろうし、相当イケメンだし」

「……」

「ん?」

 突如立ち止まる疋田さん。どうしたんだろ? 

「それでいい?」声は小さかったがはっきりと聞こえた。

「どういう事?」

「それで……、いいの?」

「俺が決める事じゃないんじゃ……」と言いかけてハッとした。俺が決める事じゃない。けど、俺の気持ちは?

「武智君は、いいの?」

 黒縁メガネから乞うように上目遣いで俺をまっすぐ見つめる疋田さん。頬が赤くなっててどこか恥ずかしそうにしてる。これって……。

「なんて言ったらいいか……。大内君だっけ? 幼馴染でイケメンだから、俺疋田さんの彼氏かとばっかり思ってたし、そうじゃないとしても……」そこで、その先の言葉に詰まる俺。だって、その先を続けてしまうと、疋田さんへ想いを伝えてしまう事になる。

「……それから? ヒロ君は彼氏じゃないし、私別に、ヒロ君好きじゃないよ」

「幼馴染なのに?」確認するように伺うと、まるで俺に意思表示するかのように、コクンと大きく頷く疋田さん。

 そう、なんだ。じゃあ俺の早とちりだったのか。何だか肩の力が抜けた。自分でも分かるくらいホッとしたのが分かった。

「……」でも、おれの安堵はともかく疋田さんが俺の言葉を待ってる。ずっと上目遣いのまま、俺を見つめる。

「それから?」乞うように聞いてくる疋田さん。

 どうしよう。覚悟を決めて気持ちを伝えるべきなのか。

 それから少しの沈黙。疋田さんはずっと俺から視線を外さない。真剣な眼差しだ。

「俺は……」と言葉を続けようとしたところで、ブー、ブー、とスマホのバイブ音が俺のポケットから聞こえた。

「……」ずっと続くバイブ音。疋田さんは興を削がれたようにはあー、と大きなため息をつき、呆れた顔で出ていいよって言った。 あーもう! タイミング悪いな! 誰だよ!

 ごめん、と謝り慌ててポケットからスマホを取り出し画面を確認する。……って、母さんかよ。

「もしもし? 何だよ?」『何だよじゃないでしょ! あんた何時だと思ってんの? もうすぐ十二時回るわよ!」

「え」母さんからがなり立てられ一旦スマホを耳から外して見てみる。十一時五十八分? もうこんな時間? 

「分かった。急いで帰る」こんな時間ならそりゃ母さんから心配して電話かかってくるのも仕方ないや。そして俺の事より疋田さんだ。こんな遅い時間まで外を歩かせる訳にはいかない。

「疋田さん、もう十二時前だ。早く帰らないと」

「え? あ! ほんとだ」疋田さんも自分のスマホを見て驚いた表情。

 どうやら思ったより二人してゆっくり歩いていたらしい。そして慌てて二人共自転車に跨がり、疋田さんと一緒にいつもの歩道橋の下まで必死で漕いでいった。

 それから歩道橋の下に到着して、急いでバイバイ、と言おうとしたところで、疋田さんに待って、と止められた。

「考えたら私達、連絡先交換してないね」

「そういやそうだ」だって必要なかったし。バイトのシフトもマスター経由でいつも聞いてたしな。更に俺、聞く勇気なかったし。それから疋田さんはカバンからスマホを取り出し、電話番号を表示して俺に見せた。

「これ、私の電話番号。lineも登録してね」

「あ、ああ」時間もないし、慌てて疋田さんの電話番号を登録する俺。

「また連絡するね」そう言って疋田さんは笑顔でじゃあね、と挨拶し、去っていった。

「……これってもしかして」希望を持ってもいい?


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