何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

文字の大きさ
上 下
7 / 130

その七

しおりを挟む
 気が重い。でもバイトをサボる訳にはいかない。だから今日も足取りは重くても喫茶店にやってきて、カランカラーンとドアの開く音をさせて、入店する俺。

「あ! 武智君! 昨日はごめんね?」そこへ疋田さんが待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。

「え? 何が?」

「あ、ほら、ヒロ君……。昨日の私の幼馴染が偉そうにしてたから、気分悪くしたんじゃないかって」

「ああ。大丈夫だよ」本当は全然大丈夫じゃないけどね。その本音を出さないよう、引きつりながらも笑顔で返す。多分バレてない……よな?それにしてもヒロ君、か。下の名前で呼び合う仲なのかな? ちぇ、羨ましい。

「そ、そう? それならいいけど……それでね」と、疋田さんが何か言いかけたところで、リリーン、と店の電話がけたたましく鳴った。マスターは丁度席を外してたので、急いで俺が電話にでた。

「……もう! タイミング悪いなあ」疋田さんの独り言は聞こえなかったけど、何やら怒ってる?

 ※※※

「……今日から送ってくれなくなるの?」

「うん。ごめん。もうバイトやめようかと思ってさ」そう言ってマスターに頭を下げた。今日からはマスターが疋田さんを送る事になると思う。

 今日もバイトは忙しかった。お客さんはひっきりなしにやってきた。でもそれが良かった。気持ちを紛らわせる事が出来たから。それでも、正直疋田さんと同じ空間にいるのは辛い。しんどい。苦しい。何とかお客さんに対して営業スマイルは出来てたと思うけど、これからもこの気持ちが続くのは耐えられない。

 それに、こんな気持ちの俺が居続けたら、疋田さんにも余計な心配をかけてしまうと思う。……ああ分かってるよ。これは単なる言い訳。このタイミングで辞めるのは俺の身勝手だ。

 だめだ。また泣きそうになってきた。さっさと退店しないとカッコ悪いとこ見せてしまう。

 いそいそと帰る準備をする陰で、マスターが疋田さんと何やら話してる。もう俺退店していいよな? ん? マスターが疋田さんをドン、と俺に向けて押した?

「おわっと」「きゃあ!」つい抱きとめてしまった。その際疋田さんの首元から香る、女の子特有のふわっとした甘いシャンプーの香り。そして抱きとめた事で感じる、やや高めの体温。やばい。急いでバッと引き離す。

「ご、ごめん」「ち、違うの。私がよたれかかったから」ドキドキが止まらない。疋田さんも俯いて気まずそうだ。そりゃそうだよな。気のない男に突然くっついちゃったんだから。そもそも男が苦手なんだし。てか、マスター何やってんの? 何ニヤニヤしてんの?

「あー、武智君、バイト辞めるのはまだ認めないよ。とりあえず外の掃除してくるねー」そう俺に声を掛けながら、手をひらひらさせ外に出ていったマスター。いやいやどういう事? 認めないって何だよ?

 カランカラーン、とマスターが外に出ていく際に鳴るドアの鐘。そして静かになる店内。カッチコッチと時計の音だけが店内にこだまする。

「あ、あのね武智君。ヒロ君はただの幼馴染で何もないの」意を決したように話し始める疋田さん。

「あ、ああ。そうなんだ」ギクシャクしながら答える俺。……てか、なんでそんな話今するの?

「幼稚園からずっと一緒だったけど、別の高校に行ってそれからは全く会ってなかった。でも、三年生になってからやたら会いに来るようになって」

「そりゃあ、幼馴染だもんな。遠慮なんかしないんじゃないの?」

「そうなんだけど、正直困ってて……」

「困ってる?」

「おーい、そろそろ店閉めるよー。武智君今日も疋田さん送っていってねー」掃除を終えたマスターが、カランカラーンと扉を開け入ってきて俺達に声を掛けた。辞める話はどうやら流されてしまった。なんて無茶苦茶な。でも、疋田さんが言いかけた続きが気になるし、今日は仕方ない、か。改めてマスターに話すればいいんだし。

 ※※※

 結局今日もいつも通り、疋田さんと二人自転車を押しながら送る事になった。でも店を出てから二人して沈黙のままだけど。

 疋田さんがさっき言ってた「困ってる」ってその言葉が気になった。幼馴染は彼氏候補だと思うのに。 

「ヒロ君……、えっと、大内弘明君、て言うんだけど、前から何度も付き合ってくれって言われてて」沈黙を破ったのは疋田さん。さっき言いかけた事みたいだ。やっぱり疋田さんに好意持ってたんだな。

「付き合わないの? 幼馴染だから疋田さんの事誰よりも知ってるだろうし、相当イケメンだし」

「……」

「ん?」

 突如立ち止まる疋田さん。どうしたんだろ? 

「それでいい?」声は小さかったがはっきりと聞こえた。

「どういう事?」

「それで……、いいの?」

「俺が決める事じゃないんじゃ……」と言いかけてハッとした。俺が決める事じゃない。けど、俺の気持ちは?

「武智君は、いいの?」

 黒縁メガネから乞うように上目遣いで俺をまっすぐ見つめる疋田さん。頬が赤くなっててどこか恥ずかしそうにしてる。これって……。

「なんて言ったらいいか……。大内君だっけ? 幼馴染でイケメンだから、俺疋田さんの彼氏かとばっかり思ってたし、そうじゃないとしても……」そこで、その先の言葉に詰まる俺。だって、その先を続けてしまうと、疋田さんへ想いを伝えてしまう事になる。

「……それから? ヒロ君は彼氏じゃないし、私別に、ヒロ君好きじゃないよ」

「幼馴染なのに?」確認するように伺うと、まるで俺に意思表示するかのように、コクンと大きく頷く疋田さん。

 そう、なんだ。じゃあ俺の早とちりだったのか。何だか肩の力が抜けた。自分でも分かるくらいホッとしたのが分かった。

「……」でも、おれの安堵はともかく疋田さんが俺の言葉を待ってる。ずっと上目遣いのまま、俺を見つめる。

「それから?」乞うように聞いてくる疋田さん。

 どうしよう。覚悟を決めて気持ちを伝えるべきなのか。

 それから少しの沈黙。疋田さんはずっと俺から視線を外さない。真剣な眼差しだ。

「俺は……」と言葉を続けようとしたところで、ブー、ブー、とスマホのバイブ音が俺のポケットから聞こえた。

「……」ずっと続くバイブ音。疋田さんは興を削がれたようにはあー、と大きなため息をつき、呆れた顔で出ていいよって言った。 あーもう! タイミング悪いな! 誰だよ!

 ごめん、と謝り慌ててポケットからスマホを取り出し画面を確認する。……って、母さんかよ。

「もしもし? 何だよ?」『何だよじゃないでしょ! あんた何時だと思ってんの? もうすぐ十二時回るわよ!」

「え」母さんからがなり立てられ一旦スマホを耳から外して見てみる。十一時五十八分? もうこんな時間? 

「分かった。急いで帰る」こんな時間ならそりゃ母さんから心配して電話かかってくるのも仕方ないや。そして俺の事より疋田さんだ。こんな遅い時間まで外を歩かせる訳にはいかない。

「疋田さん、もう十二時前だ。早く帰らないと」

「え? あ! ほんとだ」疋田さんも自分のスマホを見て驚いた表情。

 どうやら思ったより二人してゆっくり歩いていたらしい。そして慌てて二人共自転車に跨がり、疋田さんと一緒にいつもの歩道橋の下まで必死で漕いでいった。

 それから歩道橋の下に到着して、急いでバイバイ、と言おうとしたところで、疋田さんに待って、と止められた。

「考えたら私達、連絡先交換してないね」

「そういやそうだ」だって必要なかったし。バイトのシフトもマスター経由でいつも聞いてたしな。更に俺、聞く勇気なかったし。それから疋田さんはカバンからスマホを取り出し、電話番号を表示して俺に見せた。

「これ、私の電話番号。lineも登録してね」

「あ、ああ」時間もないし、慌てて疋田さんの電話番号を登録する俺。

「また連絡するね」そう言って疋田さんは笑顔でじゃあね、と挨拶し、去っていった。

「……これってもしかして」希望を持ってもいい?


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

約束へと続くストローク

葛城騰成
青春
 競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。  凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。  時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。  長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。  絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。 ※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

処理中です...