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その五
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「悠斗、気にすんな」
「……」
「悠斗、おい悠斗?」
「え? あ、ああ。なんか言ったか?」
「まだ彼氏と決まったわけじゃないから気にすんなって言ったんだよ」
「……そうだな」
雄介は俺が相当ショック受けてるのを気にしてくれて、ずっと励ましてくれていたようだ。でもすまん雄介。全然言葉が入って来なかった。俺達は逃げるようにバイト先から出てきた。自転車に乗らず、二人して手で押しながら、今は既に暗くなった夜道を歩いてる。トボトボ、そんな擬音が似合いそうな俺の足取り。
幼馴染のイケメン。これもう、完全にラブコメ定番の間柄じゃん。彼氏じゃなくたって、あの二人にしか分からない事が沢山あるのは間違いない。俺なんかよりも一杯疋田さんの事を、あのイケメンは知ってるんだ。ずっと小さい頃から一緒なら、相手が何考えてるか分かる程の付き合いだろうし。
あの幼馴染のイケメンが彼氏かどうか別にしても、あの様子からして疋田さんに気があるのは分かった。そりゃあれだけ可愛いんだから、好意を持つ男がいて当然だ。
そして、あの少しの時間だけでよく分かった。あんな風に気軽に話し合える雰囲気は、お互い気を許し合ってる仲だと。
……俺の入りこめる隙がない。
疋田さんに彼氏や好きな奴がいれば、いい片思いだったと諦める、そうしようと思ってた。そう出来るとも思ってた。でも実際、そんな感じの人間が現れたら、心の中がモヤモヤしてグシャグシャになって冷静でいられなくなってしまった。
ああ、これが本気の失恋か。
「グズ、ハ、ハハ。何泣いてんだ俺」
「悠斗……」
雄介は俺が泣いてるの見るの多分初めてだ。空手部の試合の決勝で負けた時だって泣いた事はない。いや多分、高校生になってから、人前で泣いた事はなかったはずだ。
高まり燻ってた気持ちが、涙となって溢れ出すと、そう安々と止められないもんなんだな。何だかみっともなくて無理やり泣くのをやめようとしたけど止まらない。
「グス、ヒックヒック。ごめん雄介。グス、ヒック、もう先帰って、グス、いいがら」
「バカ野郎。こんなお前おいて帰れるかよ」
「グス、ヒックヒック。だって俺……、ガッゴ悪いし。グズ」
「いいから泣いとけ」そう言って雄介は、俺の頭をポンポンした。本当雄介は良い奴だ。
※※※
「おいーっす」「ういーっす」」
毎度の朝の挨拶。だが俺の目は真っ赤で、心なしか元気が出ない。雄介もそれが分かってるようだが、敢えて何も言わない。気を使ってくれてるのがよく分かる。あれから多分二時間位、俺はグズグス泣いていた。それを傍らで黙って一緒にいてくれた雄介。
もしこいつがいなかったら、俺は自暴自棄になってたかもな。
そんな風に心の中で雄介に感謝しながら、共に自転車を漕いで学校に向かってると、突然バン、と背中を叩かれた。「ってーな!」雄介が自転車に乗りながら叩いてきやがった。流石に俺も少しカチンときて言い返してしまった。
「またいい出会いあるって」
ニヤリとしながらサムズアップする雄介。元気つけてくれてるのは分かってる。ありがとな、という気持ちで、雄介に笑顔を返した。そして二人一緒に自転車で学校に向かった。
「はあ……」でも、そんなすぐに失恋のショックから立ち直れるほど大人じゃない。経験だって余りない。つい昨日の、バイト先での二人の光景を思い出して泣きそうになる。それを必死で堪える俺。そんな自分が何だか惨めになって、何度もため息ついてしまう俺。
そうやってまだ混乱気味の気持ちを何とか制しながら、下駄箱で上履きを履き替えていると、
「ハッ! ちょ、ちょっと邪魔よ!」
いつもの柊さんの叫び声が聞こえた。ハッ って何だよ。
「うるせぇなあ、分かってるよ!」だが、俺はいつもの俺じゃなかった。感傷に耽ってるところを邪魔されたのが、俺はどうやら気に入らなかったらしい。初めて柊さんに突っかかった。
「邪魔になってて悪かったな!」珍しく声を張り上げてしまった俺。周りにいた大勢の生徒達が一瞬シーンとなる。
「言い返え……された」唖然としている柊さん。いつもと違い反論され、驚いたんだろう。明らかに狼狽えてる。そしてそんな柊さんを見て、しまった、と一気に冷静になった俺。いくら毎日突っかかってきても、出来るだけ歯向かわないようにしてたのに。
まあ、今日の俺は俺らしくないから仕方ない。でも、それは柊さんには関係ない事だ。
「もう関わってこないでくれ」それだけ呟いて、俺は逃げるように教室に小走りで向かった。
そして、俺が柊さんに突っかかったのを、周りにいた連中が見ていた。まあいつも見られてるんだけど、今日は言い返したところを見られてしまった。いつも我慢して黙って柊さんの理不尽な言葉を受けていたのに、失敗しちまった……。
「……」
「悠斗、おい悠斗?」
「え? あ、ああ。なんか言ったか?」
「まだ彼氏と決まったわけじゃないから気にすんなって言ったんだよ」
「……そうだな」
雄介は俺が相当ショック受けてるのを気にしてくれて、ずっと励ましてくれていたようだ。でもすまん雄介。全然言葉が入って来なかった。俺達は逃げるようにバイト先から出てきた。自転車に乗らず、二人して手で押しながら、今は既に暗くなった夜道を歩いてる。トボトボ、そんな擬音が似合いそうな俺の足取り。
幼馴染のイケメン。これもう、完全にラブコメ定番の間柄じゃん。彼氏じゃなくたって、あの二人にしか分からない事が沢山あるのは間違いない。俺なんかよりも一杯疋田さんの事を、あのイケメンは知ってるんだ。ずっと小さい頃から一緒なら、相手が何考えてるか分かる程の付き合いだろうし。
あの幼馴染のイケメンが彼氏かどうか別にしても、あの様子からして疋田さんに気があるのは分かった。そりゃあれだけ可愛いんだから、好意を持つ男がいて当然だ。
そして、あの少しの時間だけでよく分かった。あんな風に気軽に話し合える雰囲気は、お互い気を許し合ってる仲だと。
……俺の入りこめる隙がない。
疋田さんに彼氏や好きな奴がいれば、いい片思いだったと諦める、そうしようと思ってた。そう出来るとも思ってた。でも実際、そんな感じの人間が現れたら、心の中がモヤモヤしてグシャグシャになって冷静でいられなくなってしまった。
ああ、これが本気の失恋か。
「グズ、ハ、ハハ。何泣いてんだ俺」
「悠斗……」
雄介は俺が泣いてるの見るの多分初めてだ。空手部の試合の決勝で負けた時だって泣いた事はない。いや多分、高校生になってから、人前で泣いた事はなかったはずだ。
高まり燻ってた気持ちが、涙となって溢れ出すと、そう安々と止められないもんなんだな。何だかみっともなくて無理やり泣くのをやめようとしたけど止まらない。
「グス、ヒックヒック。ごめん雄介。グス、ヒック、もう先帰って、グス、いいがら」
「バカ野郎。こんなお前おいて帰れるかよ」
「グス、ヒックヒック。だって俺……、ガッゴ悪いし。グズ」
「いいから泣いとけ」そう言って雄介は、俺の頭をポンポンした。本当雄介は良い奴だ。
※※※
「おいーっす」「ういーっす」」
毎度の朝の挨拶。だが俺の目は真っ赤で、心なしか元気が出ない。雄介もそれが分かってるようだが、敢えて何も言わない。気を使ってくれてるのがよく分かる。あれから多分二時間位、俺はグズグス泣いていた。それを傍らで黙って一緒にいてくれた雄介。
もしこいつがいなかったら、俺は自暴自棄になってたかもな。
そんな風に心の中で雄介に感謝しながら、共に自転車を漕いで学校に向かってると、突然バン、と背中を叩かれた。「ってーな!」雄介が自転車に乗りながら叩いてきやがった。流石に俺も少しカチンときて言い返してしまった。
「またいい出会いあるって」
ニヤリとしながらサムズアップする雄介。元気つけてくれてるのは分かってる。ありがとな、という気持ちで、雄介に笑顔を返した。そして二人一緒に自転車で学校に向かった。
「はあ……」でも、そんなすぐに失恋のショックから立ち直れるほど大人じゃない。経験だって余りない。つい昨日の、バイト先での二人の光景を思い出して泣きそうになる。それを必死で堪える俺。そんな自分が何だか惨めになって、何度もため息ついてしまう俺。
そうやってまだ混乱気味の気持ちを何とか制しながら、下駄箱で上履きを履き替えていると、
「ハッ! ちょ、ちょっと邪魔よ!」
いつもの柊さんの叫び声が聞こえた。ハッ って何だよ。
「うるせぇなあ、分かってるよ!」だが、俺はいつもの俺じゃなかった。感傷に耽ってるところを邪魔されたのが、俺はどうやら気に入らなかったらしい。初めて柊さんに突っかかった。
「邪魔になってて悪かったな!」珍しく声を張り上げてしまった俺。周りにいた大勢の生徒達が一瞬シーンとなる。
「言い返え……された」唖然としている柊さん。いつもと違い反論され、驚いたんだろう。明らかに狼狽えてる。そしてそんな柊さんを見て、しまった、と一気に冷静になった俺。いくら毎日突っかかってきても、出来るだけ歯向かわないようにしてたのに。
まあ、今日の俺は俺らしくないから仕方ない。でも、それは柊さんには関係ない事だ。
「もう関わってこないでくれ」それだけ呟いて、俺は逃げるように教室に小走りで向かった。
そして、俺が柊さんに突っかかったのを、周りにいた連中が見ていた。まあいつも見られてるんだけど、今日は言い返したところを見られてしまった。いつも我慢して黙って柊さんの理不尽な言葉を受けていたのに、失敗しちまった……。
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