何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その四

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「ういーっす」「おいーっす」

 今日は柊さんが登校中に見当たらなかった。超ラッキーと思いつつ、眠そうに自転車こいでる雄介に、俺もつられてだるそうに挨拶した。

「そういや悠斗。お前バイトいつまで続けんの?」「んー、多分空手部終わるまでだな」

「受験か」「受験だな」

 成る程なー、と雄介は答えながら、ふと何かを思い出したような表情になる。

「そういや何つったっけ、あの、あ、そうそう疋田さん? お前あの子の事どうすんの?」

「え? い、いやどうすんの? って言われても……」突然雄介から疋田さんの名前が出てきて、ついドギマギしてしまった。

「そういやその疋田さんって、彼氏いないんだよな?」そんな俺の様子を見ながら、更に質問する雄介。いやそれは聞かないで欲しい。

「……知らない」だって確認するの怖いんだもん。

「はあ? お前知らねえーの? もし彼氏いたらバカ丸出しじゃねーか」物凄く呆れた表情でツッコみやがる雄介。

「うっせぇな。分かってるよ。でも、その、ほら、あの、えーと……」

「男のウジウジ気持ち悪ぃぞ悠斗。とにかくお前が本気だっての知ってるからさあ、手伝ってやってもいいんだぞ?」

「いや、いい。俺の事だから俺が何とかする」

 そう断りながら、雄介の気持ちに感謝する俺。持つべきものは友達だな。

「空手部の県大会終わったら、俺達も受験勉強で忙しくなるし、バイトも行けなくなるよな? そしたらお前の憧れの疋田さんにも会えなくなるんだぞ?」

「分かってるって」

「デートとか誘っちまえよ」自転車に乗りながら器用に肘で俺を突く雄介。ちょっと楽しんでやがるな?

「……」で、雄介に返事できなかったチキンな俺。

 そりゃ俺もこれまで何度か人を好きになった事はある。……付き合った事は一度もないけど。でも疋田さんは本気なんだ。今までの好きとは違うんだ。だから親友の雄介にも色々相談してた。

 そんなだから、疋田さんに彼氏がいるとか、好きな奴がいるとか、ずっと怖くて聞けなかった。単に臆病なだけだろ? と言われればその通りなのも分かってる。でも、このまま何もせず、単なる片思いでこのまま終わって、いい思い出だったなあ、と言う事にしたっていいくらい、俺の気持ちを大事にしたい。これも本音だ。

 それくらい好きなんだ。

 俺が黙って何を考えてるのか見透かしたかのように、雄介は俺の肩をポンと軽く叩いて、サムズアップしながら先に自転車で走っていった。ありがとな、雄介。

 ※※※

「で、どうして私の邪魔ばかりするの?」

「いや、邪魔してる訳じゃ……」

「いつもいつもそうやって言い訳するよね?」

 そう言いながら、不機嫌そうに柊さんは仁王立ちになって腕を組む。出会わなかったからラッキーだと思ってたのになあ。玄関ホールで鉢合わせしただけでなく、不運な事に俺の後ろにいたんだ。で、ぶつかっちゃったわけ。そりゃ気づかなかった俺も悪いかも知れないけどさ、後ろにまで目が有るわけじゃないんだから、柊さんが気をつけてくれればいい事だと思うんだよな。なのに俺が睨まれ怒られてる。理不尽だよなあ。

「今余計な事考えなかった?」あんたはエスパーか。

「とりあえず先行くから」これ以上絡まれるのはお互いのために良くない。さっさと切り上げ逃げるように俺は去っていった。

 しかし、なんでか分かんないけどほぼ毎日会うんだよなあ。

 ※※※

「はあ……」「なんだ? 今日はバイトじゃないのかよ?」

 そうなんだよなあ、と雄介に返事しながら、またも溜息ついてしまう俺。そして俺が元気ない理由をすぐ見透かす雄介ってすげぇなあと思ったりしてる。

「じゃあさ、俺と一緒にバイト先見に行ってみようぜ。そういや俺、疋田さんて子見たことないしさ。ちょうどいい機会じゃん」

「多分今日は疋田さん、シフト入ってないと思う」

「そうなん? なんで?」

「俺がシフト入ってる時じゃないと、疋田さんバイト入れないから」

 そう言うと、雄介はひゅ~、と口笛を鳴らした。そしてシシシと笑う。ああ、なんか勘違いしてんなこれ。

「って事は武智君? 疋田さんはお前と一緒にいたいからそうしてんじゃねーの?」悠斗と呼ばずわざとからかうように上の名前で呼ぶ雄介。

「違うよ」それは真面目に訂正させて貰おう。

「夜遅くなるから、俺が帰り送っていかなきゃならないからだよ」

「ふ~ん。でもさあ、じゃあなんで別のバイト先で働かないんだ? 家の近くとか。そうすれば、悠斗がわざわざ送っていく必要なくなるよな?」

「実はバイト先のオーナーさんと、疋田さんは親戚なんだよ。働きやすいってのもあってバイトしてんだって。当然疋田さんは、送り迎えの件、俺に迷惑なんじゃないかって辞めようとしたんだけどさ、俺が引き留めたんだ。気にしなくていいって」

「泣けるなあ。甲斐甲斐しいじゃねーか悠斗」泣き真似してみせる雄介。うるせぇやい。

「じゃあ今日はバイト先に疋田さんはいないのか。でもまあいいや。前からお前がバイトしてる店見てみたかったし、行ってみようぜ」

「え~。まあいいけど」今日はこのまま帰って宿題やるだけだしいいかな? 雄介も多分暇つぶししたいだけだろうけど。

 ※※※

 カランカラーン、といつもの鈴が鳴る。俺がシフト入っていない時にこの店来るの、そういや初めてだ。だから客という体での来店。ちょっとドキドキするな。そしてドアを開けてマスターの顔が見えたんで、お疲れ様です、と声をかけようとしたら、マスターがしまった、というバツの悪そうな顔をした。どうしたんだろ?

 すると、奥の方で男女のやり取りが聞こえてきた。今はまだ他にお客さんがいないようで、声の主は奥にいるお客さんのようだ。そこを見てみると、目鼻立ちが整った、座っていても身長が高い事が分かるジャニーズ系のイケメンが、疋田さんと仲良さそうに喋ってた。

 それを見て俺は固まってしまった。 だって、疋田さんがお客さんと会話してんの初めてみたから。ふと後ろにいる雄介の顔を見る。雄介には疋田さんの特徴も話してる。だから黒縁メガネでショートボブの疋田さんを見て、すぐに分かった様子。そして、俺が挙動不審になっているのも気付いた様子。

 しかもドアの鈴が大きな音を立ててカランカラーンと鳴ったのにも気づかず、疋田さんはイケメンと会話している。これも普段の疋田さんならあり得ない。彼女は仕事がよくできる真面目な子、のはずなのに。

 とりあえず俺と雄介はそーっと店の中に侵入する。マスターも俺達の行動を察して音を立てないよう気を使ってくれている。ペコリとマスターに目配せして頭を下げ、俺達は二人にバレないよう、近くの客席に座って聞き耳を立てた。

「とりあえずさ、今日お前んち行っていいか?」

「今日はダメだよ。そもそもバイト終わるのだって夜遅いんだし」

「泊まらせてくれりゃいいじゃん」

「泊まるってそんな……。今日は送ってくれるだけって話でしょ……って、え? 武智君?」あ、気づかれちゃった。

「や、やあ」ぎごちなくロボットのように手を挙げ挨拶する俺。今の俺、どんな顔してんだろ?

「え? どうして? 今日はシフト入ってなかったはず」そして俺を見て明らかに動揺している疋田さん。

「疋田さんこそ、今日はシフト入ってなかったんじゃ?」やばい。声が震えてしまってる。何だか変だ。体の奥からどんどん震えが昇ってくる。さっきまでそこのイケメンと何話してたか、大体聞こえてしまった。泊まる、とか言ってた。それって……。

「え、えと。今日はマスターに頼まれて。帰りは……」だからか分からないけど、理由を話す疋田さんの言葉が耳に入ってこない。

「おっと。その先は俺が説明するよ」そこで、客席に座ってたイケメンが、疋田さんの言葉を遮った。

「その前に、あんた誰?」不躾に俺に質問してくるイケメン。その偉そうな態度にちょっとカチンときたけど、初対面の他人だし穏便にしないと。

「あ、えーと。俺はこの喫茶店でバイトしてる武智っていうんだけど」

「ああそう。あんたがそうか。俺はこいつの幼馴染。いつもバイト帰り送ってくれてんだってな」ありがとな、とイケメンスマイルで俺に握手を求めてきた。……握手を求めてきた? こいつ外国人なのか? 

 正直握手したくない。でも出された手をはたく勇気も理由もない。仕方なく汗ばんだ手で握り返した。

「で、武智君。今日は何しに?」そこで何だか気まずそうな疋田さんが声を掛けてきた。

「あー始めまして」今度はそこでコホンと咳払いしながら、雄介が割って入ってきた。

「俺、武智悠斗のダチで三浦雄介。俺がこいつのバイト先見てみたいって行って誘ってさ、一緒に来たんだ」

「そうだったんだ。あなたが三浦君ね。武智君から色々聞いてるよ」ニッコリ素敵なスマイルを雄介に返す疋田さん。

「こいつ余計な事言ってない?」「どうかな?」

 何だか雄介と楽しそうに話す疋田さん。……これも何だか嬉しくない。

「はいはい。もういいだろ? ほらお前も仕事中だし」そこで幼馴染が割って入った。疋田さんをお前呼ばわりって。……イライラする。このイライラが何か分かってるけど。

「そもそもあんたが話しかけて来たんじゃない。終わる時間までまだあるのに」急に割って入られてムッとする疋田さん。そんな怒った表情、俺初めてみた。こいつにはそんな自然な表情、見せるんだ。

「幼馴染として心配してやってんだよ」足を組み偉そうな態度で答える幼馴染。こいつなんか嫌いかも。

「なああんた。彼氏か何か?」そこで、雄介がとんでもない言葉をぶっこんできた。

「それ、あんたらに関係あんの?」

 そこで、カランカラーン、とドアを開ける音が聞こえ、疋田さんがはいはーい、と逃げるように接客しだした。

「雄介、帰ろう」「え? ああ」

 店が忙しくなりそうなので、迷惑にならないよう、俺は帰ろうと思った。いや違う。俺自身が居たたまれなくなっただけだ。


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