隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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魔族を知っている?

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 一体何が起こったのか理解が追いつかないヴァルドー。

「まあまあいい攻撃だったんじゃない? じゃあ今度はこっちから行くよ」

 そう言うと同時にミークは、広げていた左手のひらを一旦閉じ、またバッと開いたかと思うと、ソフトボール大の白い球を生成した。そしてヴァルドーにスっと向けたかと思うと、ドン、と超高速で飛んでいった。

「ひぎげええ?」

 魔素を一切感じない不思議な光の球。それが超スピードで自分に向かって飛んでくる。驚き変な声を出したヴァルドーは、慌てて「ストーンウォール」と唱え即席で土の壁を生成する。

 だがそれもドン、という鈍い音と共に簡単に貫かれた。

「何いいいぃ!?」

 驚きながらそれでもヴァルドーは次に「身体硬化」と唱え、突如ヴァルドーのボテッとした腹毎鋼鉄の塊に変化した。

 すると光の球はでっぷりした鋼鉄の腹にギュルルと突き刺さりそれ以上動かなくなった。

「おおー。なんと受け止められた」

 感嘆の声を上げたのはミーク。確かにスピード控えめ攻撃力抑えめで放ったのではあるが、まさか止められるとは思っていなかった。

「……でもこれからどうするんだろう?」

 ミークがそう疑問に感じるのも仕方が無い。ヴァルドーは何とか白い光の球を貫通させず受け止めはしたものの、ヴァルドーの全身完全に高鉄の塊となってしまっており、どうやら会話どころか一切動けない様なのである。

「このまま更にパワーアップさせて貫いても良いけど、それじゃ面白味に欠ける、か」

 そう呟いてミークはその白い光の球をスッと霧散させた。途端、ヴァルドーの硬化が解け、その場で膝に手をつき「プハァ!」と大きな息を吐くヴァルドー。

「……危なかった。あのままだと確実に貫かれていた……って、今の攻撃は一体何なんだ?」

 ヴァルドーの叫び声と同時にガラガラとストーンウォールの壁が崩れ落ちる。相変わらず飄々とした様子のミークは「ビーム球だよ」と一応答える。

「びーむ? な、何?」

「いやどうせ理解出来ないからどうでも良いよ。にしても、今の身体カッチコチにする魔法も4元素関係ないやつだよね?」

「そういうお前のさっきの攻撃だって、明らかに魔法じゃないじゃないか」

「だって私魔法使えないもん」

 あっけらかんと答えるミークに、ヴァルドーは妙な違和感を感じる。確かに魔素は無い。だがああやって魔法の様な攻撃が出来る。しかもどれも強力強烈な物ばかり。一体こいつは何者なのか? と。

 警戒しながらもヴァルドーは次の攻撃を仕掛ける準備に入る。左腕に炎の竜巻を生成、右腕に水の渦巻きを生成、更に「身体強化」と唱えた。

 それを見ていたラミーは顔を青ざめ「一気に3つも魔法を?」と驚いている。そんなラミーを他所に、ヴァルドーは先程迄と打って変わり、今度はミークを倒さんと目に殺気を帯びている。

 ミークもその様子に感づき警戒しながらファイティングポーズを取る。刹那、ヒュン、とヴァルドーがその場から姿を消す。途端、ミークの正面に現れた。肥満体に似つかない超スピードで移動したのだ。かと思うと、次はこれもまた高速で、炎を纏った左腕でミークの顔面、水の竜巻を纏った右腕で、ミークのボディに思い切り身体強化されたスピードとパワーで打ち付けた。

 ミークはその圧倒的な熱を帯びた左の炎の攻撃をスッとスウェーで躱し、そしてボディを狙ったこれまた相当な圧力を纏った水の渦巻きの右拳を左腕でガシィ、と受け止めた。「!?」一瞬驚いたヴァルドーだったが、それでも水の渦巻きの右腕の拳を更に押し込む。

 だがミークの左腕で受け止められたその拳はびくともしない。ヴァルドーはそれでも容赦無くその左腕に直接、自らの炎を纏わせた拳を打ち付ける。だがミークはそれを気にも止めずドン、と受け止めた。

「……な、何だと?」

 驚き呆気に取られるヴァルドー。ミークはとてもスタイルの整った、同性でも憧れるであろう見事なプロポーション。そんな華奢な魔法を使えぬ女なのに、どうしてビクともしないのか? どうして炎で火傷さえしないのか?

 本来なら身体強化されたその水の渦巻きで拳はグチャグチャになり、炎の拳で腕はズタズタに焼き爛れ、更にその場からふっ飛ばされている筈。それなのに、当の本人は涼しい顔。一切のダメージを負っていない様子。

 呆気に取られ固まるヴァルドー。その隙に、ミークは両拳で攻撃を受けた左腕で、ヴァルドーを思い切りブン、と弾き飛ばした。

「なあああ!?」

 またもふっ飛ばされるヴァルドー。だが今度は放り投げられるのが2回目だからか、くるくる空中でトンボ返りしてスタ、と着地した。

 ミークは炎と水の魔法プラス身体強化の両拳を食らった左腕をブンフン振ってみる。

「ふむ。敢えて受けてみたけどやっぱ平気だ。結構な熱量と圧力だったけど。まあこの腕、核の攻撃にも耐えるし、何なら大気圏突破出来るもんね」

 何やら聞いた事の無いワードを織り交ぜ呟く、未だ余裕のミークに対し、ヴァルドーは今度は徐々に恐怖が心の隅に湧き始める。そして1つの可能性を思い付く。

「その見た目とは違う得体の知れない底知れない強さ……。お前はまさか……、魔族……、なのか?」

「それ良く言われるなあ。私普通の人間だっての」

 呆れながらそんな訳ないでしょ、と言った風に返すミークにヴァルドーは「ふざけるなああ!」と怒鳴る。

「普通の人間は身体強化した炎の拳を素手で受け止められないし、相当な圧力を掛けた水の竜巻の拳を受けても平気でいられないんだよ!」

「ふーん?」

「いやふーん? って……。じゃあお前は一体何なんだ?」

「だから説明しても分かんないよきっと。それよりもう終わり? まさかさっきのが本気じゃないよね?」

 恐怖の念が徐々に湧き出していたヴァルドーだが、未だずっと余裕の物言いをするミークに、ヴァルドーはカッとなる。

「この女ああああ!! 美人だからって調子に乗るなああああ!! もう分かった怒った! 後悔しても遅いからなああああ!」

「いやだから、そういうのもっと早くにして欲しかったよ」

「余裕かましてられるのも今のうちだあああ! もう許さない! 僕をここまで怒らせたお前が悪いんだからなああああ! もういい! この町ももういい! 全力でぶっ殺してやる!」

顔を真っ赤にさせ額の血管を浮かび上がらせながら、相当頭にきているヴァルドーは、更に魔素を大きく膨らませた。ゴゴゴゴ、と地響きが聞こえたかと思うと、地面に貼ってあったタイルが少しずつ浮き始める。更にミークの背中越しにあるギルドの建屋自体がこれまたゴゴゴと揺れ始めたかと思うと、町中の家々も地震の様に揺れ始め、少しずつ崩れてきた。

 先程からミークの後ろで戦況を見守っていたラミーは、更に膨大な魔素に唖然とする。

「な……、何なのかしら? この魔素量……。まだ膨れ上がるというの? 信じられない」

 だが一方のミークは何処か嬉しそうに「ほうほう? やれば出来るんじゃん?」と呟く。

「理由は分からないがお前は魔素量が判るんだよな? じゃあ僕の今の魔素もどれほどか判っているんだよな? ……それなのに物怖じしないんだ? お前は馬鹿なのかな?」

 お返しとばかりにミークを煽ってみるヴァルドーだが、ミークは気にもせず「まあでも前戦った魔族と大差無いよね」と返事する。その言葉を聞いたヴァルドーはキョトンとするも、即ワハハハと大笑いする。

「魔族と戦った、だと? いくらハッタリでも無理があるよ?」

「本当だよ? 顔が蜘蛛になってる奴だったけど」

 それを聞いたヴァルドーは笑っていたのをピタリと止め真顔に変わる。

「顔が蜘蛛、だと? ……そうかお前が……、お前があの魔族を追い詰めたのか」

「え?」

「成る程。その強さなら納得がいく。だがしかし、あの女は油断していただけ、と言っていたが……。まあ良い。お前のその絶世の美貌を無にするのは勿体無いが、そうも言っていられない様だ」

「……」

 ……こいつもしかして、ファリスの森で一方的に叩きのめして既のところで逃したあの蜘蛛の魔族を知ってる? しかもあの女ってもしかして、その蜘蛛魔族を逃がした蝙蝠の羽の女魔族の事?
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