隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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それは女神の様であり怪物だった

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 ※※※

 ふわり、と突如2階から舞い降りたその美しい黒髪の超絶美女に、ヴァルドーは呆気に取られ見とれてしまった。

 ……なんて美しい……。まるで女神が降臨したかの様だ。

 そうやってぽけーっと眺めてしまうヴァルドー。だが「いやちょっと待て」と直ぐ頭を振りながら我に返る。

 ……いやいやおかしい。この女、魔素を一切感知しない。だから魔法は使えない筈。なのに窓から浮遊して降りて来たぞ? ……まさか僕みたいに魔素を抑えられる? いやそれはあり得ない。僕が魔素を抑えられるのはこの結界の中だからこそ。

「何ぼーっとしてんの?」

 ヴァルドーの視線に気持ち悪さを感じたミークが堪らず質問すると、ヴァルドーはハッと気を取り直し「君が余りにも美しいから見惚れていたんだよ」と恥ずかし気も無くそう答える。それを聞いたミークは「うわあ気持ち悪い心底気持ち悪い」と鳥肌が立ってしまう3。

「あんたみたいな肥満デブに言われても嬉しくも何とも無い」

 ミークが心底嫌そうな顔でそう返すと、ヴァルドーはピク、と片眉を上げるも、一旦深呼吸してミークに話しかける。

「いくら君が超のつく美女だとしても失礼だよ。僕は王族ファンフォウン・ヴァルドー。その僕に向かって悪口を叩くとは、不敬極まりないね」

「いやだってあんた今町長なんじゃ? てか王都から逃げてきた腰抜けなんでしょ? 王族って言っても大した事ないんじゃないの?」

 ミークの言葉にビキ、と音が聞こえそうな程こめかみに血管が走るヴァルドー。それでもミークの煽りは止まらない。

「そもそもそのだらしないお腹、何とかしようと思わなかったの? 不格好が過ぎるよ」

 更にビキビキ、とこめかみの血管が浮き出るヴァルドー。流石に怒り心頭の様子。

「貴様ぁ! 僕に向かってそんな口聞いて、どうなるか分かっているのかあああ!」

「そんな怒鳴ってもちっとも怖くない。あ、アレだ。弱い犬程良く吠えるってやつ?」

 更に煽るミークにヴァルドーはわなわなと怒りで体を震わせる。そして「身体強化」と唱え、一瞬にしてミークの直ぐ傍に移動。そして思い切りアッパーで拳をミークの腹部に叩きつけた。

 だがそれをミークはガシィ、と左手で難なく受け止める。「へ?」驚くヴァルドーを他所に、ミークはそのままヴァルドーをポイ、と放り投げた。

「うわあああ?」

 驚きの声を上げながら飛んでいきドシン、と音を立て地面に叩きつけられるヴァルドー。その様子を後ろから見ていたラミーが安堵した顔になる。

「あのスピードとパワーに難なく対応出来るって、流石ミークね」

「そお? でもまだあいつ、多分本気出してないよ?」

 ミークの返事に「そうなの?」と驚きの表情になるラミー。だが直ぐ考え込む。

「しかし身体強化……。そんな魔法、王都で相当学習したつもりだけれども聞いた事も無いわ。多分どの元素にも属さないわよね? 一体どうしてそんな魔法、ヴァルドーは使えるのかしら?」

 ラミーの疑問に「元素?」と気になったワードがあったミークは振り返り質問する。

「元素って……、火とか水とか?」

「そうよ。その他には風と土。基本この4つの元素の魔法しか使えないのが通例なのよ。だけれども、今しがたヴァルドーが用いた魔法は自身の身体能力を向上させる魔法よね?」

 ……確かに。私の身体能力倍増は勿論魔法じゃないしね。どうやってるんだろ?

 そしてミークは一応AIに身体強化5倍を指示し、投げたヴァルドーを見つめる。そのヴァルドーは怒りを顕にしながらゆっくりと立ち上がったが、落ち着く為か、ふう、と一度息を吐きミークを見据える。

「確かに僕は今手加減をして殴りかかった。でもそれでも普通の女は先程の攻撃に対して即座に反応し、しかも片手で受け止め放り投げたりなんて出来ない。そういやさっき、僕の右手を何者かが攻撃したけど、それもお前だな? ……お前は一体何者なんだ?」

 当初のボケっとした表情から一転、真顔で質問するヴァルドーにミークはあっけらかんと答える。

「何者って人間だけど? そういやいつの間にか右手治ってるね」

「まあ僕は王族だからね。あの程度の怪我なら自分で治癒出来る。それにしても人間、ねえ?」

「ていうかさっきの身体強化? それも普通の魔法じゃないよね?」

「……そうかラミーに聞いたんだね。まあそのカラクリは僕にしか判らないだろう」

 そしてヴァルドーはもう一度ふう、と息を吐き、真顔のままミークに向き直る。

「次はちょっと本気出す。出来るだけうまく抗ってくれよ? その美貌を出来るだけ傷つけたくないからね」

 そう言って構えるヴァルドーに、ミークは顎に指を当て「んー」と少し考える様な格好をした後「いや最初から本気で来た方が良いよ」と返事する。

「だってあんた言う程強くないでしょ? 余裕かまして負けたら後悔すると思うよ?」

「……貴様アアア!」

 舐めた態度のミークにヴァルドーの顔が一気に紅潮する。そしてヴァルドーの身体からボン、と何かが一気に溢れ出す。それはヴァルドーがこれまで抑えていた魔素。その膨大な質量にミークの後ろにいるラミーは顔を青ざめガタガタと震え出す。

「……な、なんて魔素の量! これまででも凄かったのに。それでも抑えていた、という事なのかしら?」

 声を震わせながらラミーが呟くのを聞きながら、ミークもAIより魔素が数倍上がった事を確認する。

「おー、いい感じじゃん。そういうの待ってたよ。それくらい魔素があるならまあまあ戦えるんじゃない?」

 未だ余裕綽々のミークに今度は怪訝な顔をするヴァルドー。

「……お前は魔素を持たないのに、どうして魔素が膨れ上がった事が分かるんだ?」

「説明しても分かんないと思うよ? それよりほら、さっさとかかってきたら?」

 人差し指だけでチョイチョイと煽るミークに、ヴァルドーは流石に我慢の限界の様子。

「お前の言う通り本気で行くぞ? 後悔しても遅いからな」

「はいはい。そういうの良いから」

 ミークが挑発する様溜息混じりにそう返事すると、ヴァルドーは怒髪天をつく勢いで顔を紅潮させ、ミークに向かって両手のひらをバッと開く。そして「インフェルノ」と唱えた。するとその手のひらから炎の塊が現れ、それが一気に縦横10m程の大きな炎の壁となった。

「焼け焦げてしまうだろうけど、僕がちゃんと再生してあげるから、遠慮なく受けてみろ!」

 そう叫ぶと同時にヴァルドーは、その巨大な炎の壁をミーク目掛けて放った。

 巨大な炎の壁は相当なスピードでミークを襲う。もしミークが避ければ後ろにいるラミー、更にギルドや中にいるニャリル達まで被害を受けるだろう。

 ラミーは流石にその炎の壁を目の当たりに焦りの色が顔に出る。

「ミ、ミーク! 私達の事は良いから避けなさい!」

「ん? 避ける必要無くない?」

「え?」

 あっけらかんと答えるミークにきょとんとするラミー。返事するや否やミークは、左手のひらを炎の壁に受けてバッと広げ、5本指の先全てからビームを発し、炎の壁と同等程度に広げると、それが大きな白い盾になった。

 その瞬間炎の壁が白い盾にぶつかるも、その灼熱の炎の壁は一気にシュウゥ、と収束してしまった。

 呆気に取られるヴァルドー。まあまあ渾身の一撃を相応の魔力を用い放った強大な炎の壁。だがミークが作り出した白い壁に衝突した途端、それは呆気なく消え失せた。

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