隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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まさかのエイリーブチギレ

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※※※
 
ラミーが代表して男達に声を掛けるが、皆顔を見合わせ答えない。

「はっきり言ってめちゃくちゃ怒ってる。だんまり決めるならこっちも容赦しない」

 ミークが怒りを含んだ声色でそう言うと、男の中の1人が「たかが女が偉そうに」と呟くのが聞こえた。その瞬間、ミークは左手のひらを男達の集団に向け、白い光の玉を生成する。キュイィン、と回転しながらソフトボール程度の大きさになったところで、ミークはドン、とその白い玉を放った。超スピードで飛んで行く白い玉は、そのまま誰にも当たらず男達の後ろの壁をドン、と突き抜け飛んで行った。

「「「「……」」」」

 得体の知れない強烈な一撃に、男達は皆唖然となる。

「黙ってんなら今度はあんた達を貫くけど?」

 そう言ってミークは更に5つ、同じ大きさの白い玉を生成し、それを各指を上に向けその上で停止させた。

「ていうかこの女の人を酷い目に遭わせてたのは間違い無いにゃ。とっちめても良いと思うにゃ」

「まあ待ちなさいニャリル。まずは事情を聞くのが先。倒すのは保留よ」

「にゃー! でもこいつ等今ぶっ叩きたいにゃー!」

 そうニャリルが地団駄踏むのを、半裸で布をかけられ嗚咽していた女性が「ヒック。その人の言う通り。まずは話をさせて下さい」と呟く。そして涙を拭いミークの腕に縋り付いた。そのタイミングでミークは生成していた白いビーム球を霧散させ消滅させる。

「お願いです! 他の仲間も助けて下さい!」

 必死な様子の女性に4人は目を合わせ、「とりあえず詳しい話を聞かせて欲しいわ」とラミーが言うと、女性はコクン、と頷き2階へ行きましょう、と4人を誘う。

 その様子を男達は遠巻きに見ていたが、1人が「おい! 行かせて良いのかよ!」と焦った様子で声を出すと、他も「そうだそうだ!」「不味いぞ!」と次々に言い出した。

 すると先程、喉笛を掴まれていた屈強な男が、辛そうに喉を押さえながら黙って立ち上がり、2階へ上がる階段の前に立ち塞がった。

「……お前等が何者か知らねえが、俺等はこれでずっと上手くやって来てたんだ。ここの秩序を乱す様な事は許さねぇ」

 その言葉を聞いたミークが眉をピクリと上げる。

「秩序って、ギルドの中で1人の女性が襲われて、それを傍観してる連中が居る状態の事?」

 ミークが明らかに怒りの表情でそう問うと、男はビクっと反応しながらも答える。

「そ、そうだ。その通りだ。俺等男は女を好きにして良い。女は俺等の所有物。女は俺等の奴隷。そうする事でこの町の犯罪率が一気に下がったんだ」

 男がそう言うと「そうだそうだ!」「俺等のやり方に文句つけんな余所者が!」「お前等も俺等のモンになるべきだあ!」と加勢するかの様に男達から声が上がった。

 だがその時、急にドン、と鈍い音が響き渡る。瞬間、立ち塞がった男が「ぐあああ……」と腹を抱え蹲った。

「もう耐えられない。許せない。黙って聞いてりゃ……。何で私達が、女がお前等みたいな汚らしいブサイクのクソ野郎共のモノにならなきゃいけないんだよ!」

 怒りに震え、精霊魔法を腕に纏い眼の前の男に強烈な一撃を放ったのはエイリーだった。ずっと大人しくしていたエイリーの突然の行動に驚いた3人。

「……そういやエイリーって怒り溜め込むタイプだったにゃ。もうこうなったら止められないにゃー」

 猫耳をペタンと折りはにゃあ~、と溜息を漏らす幼馴染のニャリルに、ミークは「そうなの?」と驚いている。

「はあ。全く仕方無いわねぇ」

 ラミーが頭を抱えそう呟くのも聞かずに「うらああああ!!」と、エイリーは男達の中に飛び込んでいった。

「あ! エイリーちょっと待って!」

「ミーク。エイリーはきっと息切れするまで止まらないかもにゃー」

「いやニャリル何呑気な事言ってんの?」

 焦るミークを他所に、エイリーは「はあああ!!」と気合を入れながら、ヒュウゥ、と精霊魔法を腕に纏わせ「はあ!」と発勁の如く衝撃波を打ち出すと、見えない衝撃に「ぐあ!」と一板前にいた男が吹っ飛ばされた。

「まだまだあ!」と意気込みエイリーが更に精霊魔法を今度は両腕に纏わせ「はあ! はあ!」と衝撃波の如く打ち出す。男達は見えない衝撃に慌てながらも何とか腕でガードした。

「クソ! 抵抗せず黙って倒れろー!」

 エイリーが苛立ちながら再度精霊魔法を腕に纏わせようとする。だがヒュウゥン、とその魔法は消えてしまった。

「……え?」

 どういう事? 焦るエイリーは再度試してみるも出てこない。一方で何やら慌てているエイリーを見て、不思議な見えない攻撃は出来なくなったのに気付いた男達は、「今だあああ!!」と一斉にエイリーに飛びかかった。

「え? き、きゃあああ!」

 4人がかりで両手両足を捕まれてしまうエイリー。だがそこでガン、ゴン、ドン、バン、と男達4人全員の顎に強烈な衝撃が入り、各々仰向けにバターン、と倒れてしまった。

「まさかエイリーが突撃するとは思わなかった。びっくりしたー」

 彼等を倒したのはミークの左腕。いつの間にか左腕を離脱させ4人を倒したのである。そしてミークは腕を元に戻しエイリーに駆け寄る。エイリーは呆気に取られた表情をしている。

「ミ、ミーク……。精霊魔法が……、使えなくなった」

「そりゃそうだよ。だってエイリーの体内の魔素が切れたからだろうしね」

「え?」

「町の外なら精霊から魔素借りれると思うけど。でもこの町の中じゃそれが出来ないみたいだね」

 ミークの説明に、そう言えば……、と思い出すエイリー。それを見てラミーが額に手を当てはあ、と溜息。

「私はあなたに教えた筈よ。魔素切れには気を付けなさいって。精霊魔法は通常の魔法より魔素を使う量は少ないみたいだけれども、それでも補充出来ないなら切れてしまうのは当然だわ」

 ラミーに突っ込まれ先程まで頭に血が上っていたエイリーは漸く正気に戻り、「ごめんなさい……」と尖った長耳をへにゃっとさせた。

 ……ん? 補充出来ない? どうしてラミーはそう思った? そう言えばミークも何か知ってる風だった。

 エイリーはふと、ラミーの言葉を不思議に思いながらも、精霊魔法が使えないので大人しく引き下がる。

 一方で、先程から片目紅色の黒髪の腕が切り離され攻撃している様を見ている男達は、漸く冷静になった様で、自分達は得体の知れない者を相手にしている、と気づき始める。

「……何だあの女?」「さっきから、腕が、腕だけが攻撃してる?」「そんなの見た事も聞いた事もねぇ……」

 その様子を見たラミーは「で、どうするのかしら? また戦うのかしら?」と全体に聞こえる様に大き目の声で言うと、男達は当初の勢いは無くなり、シーンと静まり返り誰も答えなかった。

 その様子を見てラミーは「ふう」と一息吐き、「じゃあ2階へ行きましょうか」と半裸の女性に声を掛け、そしてミーク達と共に未だ固唾を呑んで見つめている男達を尻目に2階へ上がった。

 一方、ギルドの外で捕まっていた警備隊長は、いつの間にか気が付いていて、この混乱に便乗し縛られたまま、1人とある場所へ走って向かっていた。

「はあ……。はあ……。あいつ等の事を町長に伝えねば!」

 その傍で付いてきている、小さな羽虫達には気付かずに。


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