隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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精霊に出会う

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 ※※※

 焚き火は既に消火し、各々ミークの用意した簡易シャワーで綺麗さっぱりした後、闇も深くなってきたのでそろそろ寝よう、と、今4人はあのラビオリ型シュラフを展開し、それに包まれすやすやと寝ている。

 彼女達が就寝している間、人の気配や漂う食事の後の香ばしい匂いやらで、気になった魔物が時折やって来ているのだが、魔物達はそこに横たわる4つの物体に、興味はあるものの得体が知れないので近づこうとはしなかった。そもそもその4つの物体に人が入っている事さえ気付いていない。

 そしてこのシュラフは快適な安眠を促し気持ち良く起床出来るハイテクノロジーな品。夜中に尿意を催して目覚める、なんて野暮な事すら起こらない。

 起こらない筈なのだが、ただ1人、夜明け近くに何故かパチ、と目が覚めた。

「……ん。もう朝?」

 予想外のタイミングで目が覚め起き上がろうとした為、シュラフは透明になっている顔の部分に、赤くエラー表示を映し出していた。シュラフとしては彼女も他の3人同様、後2時間程は就寝している予定だった。なので途中で目覚めるなどこのテクノロジーとしては正に想定外。

 とにかく目が覚め外に出ようとするので、シュラフは渋々? 寝袋のファスナー部分を自動的に開放する。そこから眠た気な顔でモゾモゾと出てきて、ん~、と大きく半身だけ身体を起こして伸びをする。

「ん? まだ明るくないじゃん。他の3人まだ寝てるし」

 辺りは森の中ともあって真っ暗。とにかくシュラフから全身を外に出し、ふわわ~、と手を口に当て欠伸をして寝ぼけ眼をコシコシこする。そして立ち上がると同時に、

『君は、もしかして……』

 と、囁く様な小さな声が、エイリーの尖った耳元に聞こえてきた。

「……誰?」

 エイリーはピクッと耳を反応させサッと身構える。因みに拳銃とスナイパーライフルはミークの異空間収納ポケットに入っており今は所持していない。

 もし魔物なら、今は夜である為日中現れる魔物より強い。暗闇ながらも徐々に目が慣れてきたエイリーは、気を張りながら声の主を探そうとする。

『君は、もしかして……』

「何処に居る? 出てきなさいよ!」

 聞き間違いでは無かった。今度は先程よりはっきり聞き取れた。エイリーは恐怖を振り払うかの様に声を張り上げる。会話が出来るという事は、やはり知能の高い強い魔物なのだろうか? 得体の知れない相手に、エイリーは徐々に恐怖心が強くなる。

 ……ミーク達を起こす? でもこの寝袋、確か外部からの攻撃を一切受けないって言ってたから、私が外から叩いても起きないんじゃ?

 なら1人で何とかしなければ。エイリーは気を引き締め覚悟を決め、精霊魔法を用い自身の両腕にヒュウゥと風の様なものを巻きつける。

 すると突然、エイリーの顔の前がパッとまるでライトがいきなり光ったかの様に白く輝き、『やはり君は、森人!』と、より一層大きな声が聞こえた。

「うわびっくりした!」

 驚いたエイリーはすてんと地面に腰を打ち付ける。その痛みに耐えながらもう一度、暗闇に眩く発行体を見てみると、それは大きさ10cm位の小さな、蝶の様な羽で浮いている、人の様な物だった。

『それ、精霊魔法! 君はやっぱり森人だね!』

「……えーっと?」

 エイリーが呆気に取られているのを気にする事もなく、ふわふわ浮かびながら嬉しそうにしているその人の様な物。

『僕は精霊。君、エルフでしょ?』

「え? せい……、れい?」

 ※※※

 他の3人は未だ目覚める気配もなくシュラフですやすや寝ているのが、その様子はラビオリ型の透明な窓から見て取れる。それをチラリと横目で見ながら、エイリーは横たわっている大木を椅子の代わりにして座っている。そのエイリーの肩の上に、自身を精霊と名乗った、小さく背中から羽が生えている男の子が、ニコニコしながら腰掛けている。

「これは一体どういう状況?」

『んー? 僕が久しぶりに森人と会話できた、記念の日かな?』

「いやそういう事じゃなくって」

 エイリーが呆れながら返事をする。敵意は無い様なので、エイリーはこうやって肩に乗せているのだが、それでもこの精霊と自称する奇妙な物体を怪訝に思っている。だがエイリーも何故かこうして傍にいられる事に、不思議と違和感を感じない。というか、何処か懐かしい、少し心地良い気持ちにさえなっている。

「ごめん、えーと、精霊って魔法の一種じゃないの?」

『君の認識ではそうなんだ。……っていうか、君、エルフなのに精霊の事知らない?』

「いや、精霊魔法は知ってる。でも詳しくは知らないかな? 多分それは、この世界の殆どのエルフがそうじゃないかな?」

 精霊魔法とは単に通信手段、それがこの世界の常識である。ただエイリーに限って言えば、その常識を覆し、先程の様に手に纏わせ攻撃手段にも使える事を知っているのだが、エイリーは寧ろ特殊だと言えるだろう。

 そのエイリーの言葉に、精霊を名乗った小さな男の子は少し寂しそうな顔をした。

『エルフでさえもそうなんだ。……まあ実は知ってたんだけどね。確かにずっと、僕はエルフと会話出来ていなかった。でもそれは、今の時代のエルフ達の、僕達に対する態度、認識のせいなんだ』

「どういう事?」

 疑問に思ったエイリーが質問すると、精霊を名乗る小さな発行体は寂し気な顔のままニコ、と微笑んだ後説明し始めた。

『遥か昔。僕達と君達は切っても切れない仲だった。それこそ一蓮托生って言ってもいいくらいにね。お互い協力し合って足らない部分を補い合って、森の中で共に生きてた。でも100年位前かな? エルフ達は徐々に棲み家を森から離れ、人族が暮らす場所に移動した。するとエルフ達は、僕達精霊と交信が出来なくなっていったんだ』

 そう語る白い光の玉に、エイリーは「ん? でも……」と疑問が浮かぶ。

「通信で精霊魔法は良く使ってるけど?」

『あれは自我さえ無い下位の精霊を、無理矢理魔法で言う事を聞かせているだけ。どうやってか知らないけど、人族は下位の精霊を捕まえて言う事を聞かせられるみたい。でも下位の精霊は痛覚というか、5感さえ無いから何とも感じていないだろうけどね』

「そうなんだ……。じゃあ何故私は今、君と話出来てるの?」

『さっき出現させた腕のそれ。君が精霊魔法を使った事で、君の中にある森人、エルフの魂が精霊と交信するのに必要な糸が顕れたんだ。それを見つけた僕は、つい嬉しくなって君と繋がったんだ』

 嬉しそうに語る精霊に、エイリーは首を傾げながら自分の身体をあちこち見てみる。

「糸? 糸なんて何処からも出てないけど?」

『アハハ。目に見える糸じゃないよ。魂の糸だから見えないよ』

 エイリーの仕草が面白かった様で、精霊はそう言いながら笑う。一方のエイリーは怪訝な顔。

「魂って……。でも確かにこうやって起こされてるもんね。そう言えば何でこんな夜中にわざわざ私を起こしたの? 昼間でも良かったんじゃ?」

 エイリーがそう聞くと、精霊は未だシュラフで寝ている3人に視線を向ける。

『そのへんてこな物の中で寝ている2人、人族でしょ。しかも獣人まで居る。もし僕の事が見つかったら何されるか分からない。人族がこれまで何をしてきたか、僕はずっと見てきた。あんな魂の汚い連中に僕の存在を知られたく無かったんだ。それは獣人だって同じ。でもそれは、今を生きるエルフもそうだけど。でも君は心が綺麗だって、糸を通じて分かったから声を掛けたんだ』

「そっか……」

『そして僕みたいに自我を持つ精霊にももうずっと会ってなくて。こうやって会話するの本当久々でさ。だから今、君と出会ってこうやって話出来てるの、とても嬉しいんだ。勿論これまで、森の中に来たエルフに対して、何度か交信を試してみたけど、やっぱり赤い糸が見えなくて無理だった。精霊魔法を使えないと、どうやら僕とエルフは交信出来ないみたいだ』

 嬉しそうにそう語る精霊の言葉に、エイリーは少し悲しげな顔になる。

「ずっと長い間、だよね。じゃあずっと寂しかったね」

 そう言ってエイリーは肩に乗る精霊の頭を軽く撫でてみる。まるで綿毛の様な、産まれたての雛鳥の様な心地よい感触。そして精霊もコロコロと嬉しそうに撫でられている。その様子を見てエイリーはつい可愛い、と思いクス、と笑う。

 ……私だけ起きちゃったのは、この子が起こしたからだったんだ。でもまたさよならするのは可哀想だな。

「私達、これから森を出てとある町に向かうけど、付いてくる?」

 放っておけない。これまで長い間孤独だったであろう、この精霊に同情したエイリーが聞いてみると、精霊は一瞬顔を明るくしたが直ぐ表情を曇らせる。

『でもそれって、そこで寝てる人間達も一緒に来るんだよね? 僕の事知られたら……』

 心配そうな顔で告げる精霊に、エイリーは「それは大丈夫」と胸を張り答える。

「彼女達は決して君を悪い様にはしない。それは私が保証する。これまで何の得も無いのに、何度も町を救い、女である私に何の見返りも求めず指導してくれる黒髪の超絶美人、それに伴って同じく無償で魔法のイロハを教えてくれる、魔法使いの赤毛の美女、そして私と同じ孤児で、幼馴染で仲良しのこれまた可愛い猫獣人。皆、人の為に行動できる優しい人ばかりだから」

『……そうなの?』

 不安気な精霊に、エイリーは「そうだよ」とニッコリ微笑む。

「もし心配なら、さっきみたいに消えてれば良いんじゃない? もしここで私と別れちゃったら、また会話出来るエルフ探すしか無いけど、それってきっと難しいよね? それに私も、もっと君と話したいし。ね?」

 エイリーが努めて優しくそう言うと、精霊は少し考えてから『分かった。心が綺麗な君がそう言うなら』と、精霊は共に付いてくる事を決めた。

『でも、最初はまだ怖いから、君の言う通り暫くの間僕は姿を隠しているよ。だから僕の事は黙ってて貰っても良い?』

「勿論。じゃあ君が正体を見せて良いって思ったら教えてね。私はエイリー。君は……、名前あるのかな?」

『あるある。僕の名前はスピカ。よろしくね』

「うん。スピカよろしく」

 そしてエイリーと精霊スピカは、笑顔で共にコチン、と拳をぶつけ合った。
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