隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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この世界は思った以上に問題が多いらしい

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 ※※※

 迷いの森はとても広大で、4人は途中休憩しながら、更にニャリルとエイリーの訓練も織り交ぜつつ移動していた事もあり、未だ森を抜ける事は出来ていない。

 ミーク1人であればそれも可能であろうが、今回は風魔法を使い他の2人を移動させているラミーのペースに合わせている為やや遅い。それでも地上を移動するよりは相当早いペースで進んでいる。

 既に日も暮れ迷いの森の中でキャンプをしている4人。木枝を集めラミーの魔法で火を起こし、今は小さな焚き火を囲んで食後のお茶を皆で嗜んでいる。因みに食料はミークが以前ダンジョンに潜る際用意していた保存食。ダンジョン踏破自体数日で終わったのでかなり余っていたのである。

 既にダンジョンでミークが食事を用意する様を見ているラミーはともかく、ニャリルとエイリーはミークが目の前で美味しそうな匂いを周囲に振りまきながら、食事の用意をしている様子に揃って驚いていた。本来野宿での食事は大した物が食べられない事を、知識として知っていたからだ。

 更に今回、ミークはこれも以前ダンジョンで使用したシュラフ、しかももう2つを衛星から取り寄せ人数分を用意しているので、寝泊まりに関して不安は無い。更にあの簡易シャワーも持って来ている。

 当然それらは幅を取るので、今回ミークは異空間収納のポシェットに入れて持ち運んでいた。使用している様子を見たラミーがミークに話しかける。

「ミークも異次元収納持っていたのね」

「うん。前ダンジョン崩れた時ラミーとノライもシュラフで寝ている間、ここに入れて運んだよ。オルトロスだっけ? オーガキングだっけ? どっちかの魔石使ってジャミーさんに作って貰ってたんだ」

 そうだったのね、とラミーは納得した顔をする。あの時自分達をどうやってあの場所まで移動させていたのか、何気に気になっていたのである。

 異次元収納についてはレアなアイテムである為余り他人に教えない様、以前ラルより聞いていたが、この3人は既に仲間だと思っていたので知って貰っても構わない、とミークはこの魔導具について隠す気は無かった。

「良いにゃあ。あたしも欲しいにゃ」

「あの姉弟も持っていたよね? 本当に珍しい魔導具なの? そういやギルドでも商人のイドリスさんだっけ? も、使ってるって聞いたけど」

 エイリーの疑問にラミーは「いやいや」と頭を振る。

「本当に相当珍しい魔導具なのよ。アラクネやらオーガキングやらオルトロスやら、そんな超強力な魔物を狩れる事が前提なのだから。普通そこまでの魔物は滅多に顕れないし倒すのだって難しいのよ。それをこの黒髪の美人さんが、常軌を逸した活躍で常識を尽く覆しているだけ。で、あの子達が持ってたのだって、ミラリスが元々優れた冒険者で、確か旦那も手練れだったから、だと思うわ」

 ラミーがやや突っかかり気味に説明しているのを聞いていたミークは、「そんな褒めなくても」とやや照れるも「褒めて無いわよ!」とキレ気味に返すラミー。そして、ふう、と落ち着くつもりで一息吐いてからお茶をズズ、と啜る。

「さっき聞いた、ミークが他の世界で死んでからこちらにやって来た、って言う話、普通なら到底信じられないけれど、ミークの非常識をずっと見ていると、あながち嘘とも思えないわよね」

「寧ろ納得したにゃ。でもその非常識あたしは好きだにゃー」

 ニャリルがニコニコしながらそういうと、エイリーも「私も!」と同意の声を上げる。

「このすぽーつぼら? 胸が収まって動きやすいよね。これがあるのと無いとでは雲泥の差」

 そう言ってライリーは他の3人より慎ましい胸を両手で持ち上げる動作をする。その様子にラミーとニャリルもうんうん、と思い切り頷いている。

 皆の感想を聞いてミークは笑顔で良かった、と答える。

「本当は話すの不安だったんだ。受け入れて貰えるか、信じてもらえるかどうか心配だったし、それに余り話したく無い事でもあるから。でも皆には知ってて欲しくて」

 ミークがそう言うと、エイリーが「大事な人の事、か」と呟く。自分が地球で死んだ時の事を話すのに、ずっと傍に居た望仁の事も必ず話さねばならない。なのでエイリー達にも望仁については語っていた。

 ミークはエイリーの言葉に答えず、満天の星空を見上げる。

「こっちの世界に来て数ヶ月経つけど、正直、未だ割り切れてない。きっとまだ未練があると思う。あっちの世界はここより酷い環境だったけど、それでもそれなりに思い出もあったからね」

 寂し気にそう語る黒髪の美女に、ニャリルとエイリーは互いに顔を見合わせる。そして同時に頷いた。

「じゃあ、あたし達の事も話した方が良いにゃ」

 ニャリルの言葉にエイリーはそうだね、と返事する。

「実はねミーク。ニャリルと私って元々孤児なんだ。で、ファリスで周りの人達に助けられながら育った。そしてそれぞれ仕事しながら生きてきた。ニャリルは獣人私はエルフ、なのに幼馴染なのは、2人共孤児だったから、というのもあったから」

「そうだったんだ」

 2人は孤児。要する親が居ない。やや寂し気な顔をするミークに、既に知っていた様子のラミーはお茶を啜りながら、エイリーの話を黙って聞いている。

「それでも私達は本当に幸運な方だった。だってファリスで育ったから。他の町や村だったらもっと酷い人生だったと思う」

 エイリーの話にミークは「どういう事?」と疑問を返す。

「本来人族と獣人、そしてエルフってそんな仲良く無いんだよ。でもファリスは辺境伯が治める領域の更に端にあって、そういうこの世界の慣習や通例の影響を余り受けて無くて、だからあれだけ皆仲が良いんだ」

「そうなんだ……」

 ジャミーが営む魔石屋にあった書物庫には書かれていなかったこの世界の現代の常識。ミークは種族間で差別がある事を初めて知って心の中で驚いていた。

「ファリス以外のとこ行ったらきっと分かるにゃ。この世界は思った以上に汚れているにゃ。女だからと男が見下すだけじゃにゃく、獣人だから、エルフだからと差別している人間も多い事も知ると思うにゃ」

「特に人族がね」

 ニャリルの後にラミーが呟く。

「人族は他の種族と違い、王族を筆頭に魔素を保有している者が一定数居る。その比率は他の種族より圧倒的に多いのよ。それが理由で人族は他の種族を見下しているわ。ファリスが珍しいと思った方が良いわね」

「女性差別もファリスはマシな方にゃ」

 ミークは以前、ニャリルとエイリーが襲われそうになった事を思い出した。だがあれは何も特別な事では無く、もしかしてこの世界では日常なのかも知れない、と思い改める。そう考えれば、彼等の行動や考え方は、この世界では極当たり前の事で、寧ろラルの様な男でも女性に対する偏見が無い方が珍しいのかも知れない、とも。

「ここってそんな世界だったんだ……」

 呆れた様子で呟くミークに、「残念ながらね」と返事するラミー。

「ファリスは他の所とは違う、と認識を改めた方が良いわよ。それは知識として知っていたニャリルとエイリーも同じ。2人もファリスから出た事が無いから、身を持って知るのはきっとこれから。闘技場でニャリルとエイリーが冒険者達3人と戦った時も、女の癖に、っていう差別的な野次が結構飛んできていたでしょう? あれは何も彼等が特別ではないって事。覚悟しておいた方がいいわよ」

 そして一息入れてから「まあでも、2人が勝った時、ざまあみろ、って思ったけれど」とクスリと笑うラミーに、ミーク含めた3人も同時に笑う。

「じゃあ私に奴隷紋使った、ゴールドランクのバルバみたいなのがゴロゴロいるって事?」

 ミークの疑問にラミーは「あれは特殊よ」と苦笑する。

「ゴールドランクは本来その人柄も重要視されるわ。でもバルバは見つからない様上手く隠しながら影で色々やっていたのよ。何度もパーティーを組んでいたから私は彼の蛮行について噂程度ながら知っていたけれど。まあでも、上もそれをある程度把握していたからこそ、お目付役として、女でゴールドランクの私がパーティーを組まされていた、とも言えるわね」

「だから女なのにゴールドランクになったラミーって、実は相当凄いのにゃ」

「そうそう。ゴールドランク自体もこの世界に100人いるかどうか、だからね」

 ニャリルとエイリーの称賛に照れる事も無くフフ、と笑顔で応えるラミー。自覚はある様である。

 そして話を聞いていたミークは、この世界は思っていた以上に様々な差別がある事を知り、今後ファリスから旅立つとしても、以前のバルバの件の様に、より注意深く行動しよう、と思ったのである。
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