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男達の行方
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※※※
ファリスから遠く離れたとある場所。土を押し固めただけの街道がずっと続いている道を、2頭の馬に跨った男2人が、未だ凍ったままの4つの大きな魔物の死体を載せた荷車曳きながら進んでいる。
鬱蒼と木々が多く茂る、広大な森林地帯である迷いの森は既に遥か後方。当初は追いかけて来ないか不安一杯で結構早足で駆けていた2人だったが、流石にここまで来ると追っ手は来ないだろう、と当初より警戒心は解いていて、歩みはゆっくりになっていた。
だがそれでも、あれから既に10日経っているのに、未だ不安が解けない男の1人は、馬に跨り闊歩しながら、もうこれまで何度も口にした言葉を相方に投げかける。
「なあ、本当に大丈夫か?」
当然ながら言葉を投げかけられた男は苛立ちを隠せない。つい大声で返事してしまう。
「しつけぇなぁ! 今更日和るんじゃねぇってずっと言ってんだろぉが! ファリスに戻らねぇ時点で一か八かの賭けだったっての、お前も判ってただろ?」
「そうだけどよ……。ミークって俺等があの2人襲った時、不思議な力で簡単に場所分かったじゃねぇか。その力を使って、俺等を捕まえるんじゃねぇかって考えると気が気じゃねぇよ……」
不安そうな顔で未だ後ろを振り返り、弱気な言葉を吐く相方に、男は「もういい加減にしろ!」と怒鳴りつける。
「ここに来てまでビビってんじゃねーよ! それとも何か? 今からファリスに帰るか? 出来んのか?」
「そりゃあ……、無理だけどよぉ。でも逃げずに戻った方がまだ罪は軽く済んだんじゃねーかって……」
ビビっている相方に男は既にイライラが募り爆発しそうになっている。それは当人も実は同じく不安は拭い切れていない事も影響しているだろう。だが男はここで怒りをぶつけても喧嘩になるだけだ、と一旦冷静になり、深く呼吸をし、そして諭す様に話し出す。
「まあ聞けよ。これはギルドで聞いたんだが、どうやらミークが俺達の場所を見つけたあの不思議な力、迷いの森の魔物の死体の監視だけに使ってるらしいってよ。で、今俺等は既に森には居ねぇしかなり離れてる。そしてもうすぐ隣の町へ着く所まで来てる。だからもう心配ねぇ。それを証拠に、あれから10日は経ってるってのに、一向にミークはやって来ねぇだろ?」
「そう言われてみれば……」
「だろ? だからもう大丈夫だ。この道をずっと進めば明日には町に着く。あそこはファリスより大きいから、中に入って紛れちまえば、捕まる心配はまず無ぇだろうよ。だからお前もいい加減腹を括れ」
「そ、そうか。そうだよな! じゃあ急ごうぜ!」
「ケッ。現金な奴だ」
急に元気になる相方を見て呆れる男。だが彼自身も抱えていた不安が相方の呑気な様子のお陰で多少吹っ切れた模様。そして2人は跨る馬の轡を操り、スピードを上げ隣の町へ駆けていった。
そして、そんな2人の様子を、気付かれない様木陰に隠れ覗く小さな影が2つ。
「……行った?」
「うん。でももう少し隠れていよう。見つかっちゃったらおしまいだから」
「うん……。ねえお姉ちゃん、本当に大丈夫?」
どうやらその影は幼い子ども2人。姉と弟の様である。心配そうに姉を見上げる弟に姉は優しく頭を撫でる。
「きっと大丈夫。……よし。もう見えなくなった。頑張ってファリスに行こう。お母さん達を助けないと」
自分に言い聞かせる様に、姉は幼い弟と共に、男達とは反対側、ファリスに向かって走って行った。
※※※
ニャリルとエイリーが訓練を始めて3週間が経った。連日闘技場でミークから訓練を受け続け、時には迷いの森でも訓練を行った。途中、ミークの依頼でラミーも参加していた。それはミークがとある事に気付いたからである。
毎日クタクタになるまで、それこそ靭帯断裂、筋肉痛、皮膚の裂傷を毎回起こすも、ミークのシュラフで全快し、心地良いシャワーで汗を流すという日々。そのお陰もあって、ミークの想像以上に2人は早く成長した。
そして今、ニャリルとエイリー、更にミークとラミーは闘技場の中に居る。
「フッ、フッ」
「ニャッ、ニャッ」
シュッシュッとリズミカルにボクシングスタイルでシャドーをする2人。闘技場の観客席には、普段より大勢の人達が詰めかけていた。中には冒険者だけでなく町の人々も見受けられる。
ミークが初めてここで冒険者認定試験の為ラルと戦った時よりも人の数が多い。それはきっと、ニャリルとエイリーがファリスの住人で、顔馴染みが多い事も理由の1つだろう。
そして4人に相対する様に居るのは、ニャリルとエイリーの家に侵入したあの3人組。あれから彼等は警備隊に引き渡され牢屋に居たのだが、とある条件をクリアすれば無罪放免になる、と提案され、快くそれを受け入れやって来たのである。因みに3人組の傍にはラルが居る。
何処か嬉々とした表情で、余裕の笑みでニャリルとエイリーを見ている3人をチラ見した後、ラルは彼等を縛っていた縄を解いた。
拳をグッパしながら「へへへ……」と嗤う1人。そして徐ろにラルに確認する。
「ギルド長、本当にあの条件で良いんですよね?」
「ああ、構わない」
「つってもギルド長、流石に俺等を舐めすぎじゃねぇですかい? 一応これでもメタルランクなんですぜ?」
「まあ俺もどうかと思ったんだが、ミークからどうしても、って言われてな。あの2人も是非そうしてくれ、と頼まれたし。もし危なくなったら止めに入るつもりだ。だからお前等は思い切りやって構わん」
彼等3人が無罪となる条件、それは目の前でシャドーをしているニャリルとエイリーを倒す、という事だった。そしてニャリルとエイリーがこの3人を倒す事が出来れば、冒険者認定試験合格にする、という。
冒険者として中堅のメタルランクの3人に対し、きっと今回が初の戦闘であろうニャリルとエイリー。しかも3対2と、実力だけでなく人数を鑑みても圧倒的に不利である。
その提案をミークから聞いた時、当然ラルは反対したが、ミークが自信有り気に「大丈夫」と確信を持って言うだけでなく、更にラミーまでも問題無いと言うので、もし危険な状況になったらラルが止めに入る、という事を条件に、ラルは渋々受けたのである。
ただ、ラルとしては、ニャリルとエイリーが負けたとて、戦闘の内容次第では認定試験について善処しよう、と考えていたりする。ラルもこの不利な状況で2人が良い勝負出来るとは流石に思っていない。
だが一方で、驚異的且つ不思議な能力を持つミークと、ゴールドランクのラミーが指導したので、心の奥では期待もしていたりするのだが。
「とにかく、遠慮無くいかせて貰いますぜ? 万が一殺してしまっても文句は無しって事で」
「ああ。それで良い」
まあそうなる前に俺が止めるけどな、と心の中で呟きながら、ラルは新調したオーガキングの角製の漆黒の剣に手をかけ、何時でも雷が出せる様スタンバイしてから距離を取った。一方、言質を取ったと益々ニヤケが止まらない3人は、嫌らしい笑みを2人に向ける。
そんな3人を黒髪の超絶美女、ミークがチラリと見た後、ニャリルとエイリーに向き直った。
「これまでやって来た事を思い出して。絶対大丈夫だから。気負わず普段通りに。ね?」
「にゃ!」「はい!」
よし、と2人の気合の入った顔を見て微笑むミークを傍らで見ながら、ラミーが溜息を零す。
「全く、ミークも無茶をするわね」
「そお? でもラミーだって大丈夫って思ってるしょ?」
まあね、と呆れた様に返事ずるラミーだが、彼女もミークの言う通り大して心配はしていない。そしてエイリーに顔を向け「教えた様にやるのよ」と声を掛けると、エイリーは「はい!」と元気良く返事した。
そしてラルがパンパン、と場内に響き渡る音で柏手を打ち、「じゃあそろそろ始めるぞ! ミークとラミーは場外へ!」と大きな声で指示をする。ミークとラミーが共に確認する様に視線を向けると、ニャリルとエイリーは揃って強く頷いた。
それを見て2人は安堵の表情を浮かべ、揃ってフワリと宙に浮き、観客席の最前列に移動した。
娯楽の少ないここファリスにとって、冒険者認定試験は稀に見る余興。しかもそれが、ファリスの住人の女の挑戦ともあって、闘技場の観客席は歓声と不安が入り混じった、様々な声が聞こえてくる。
「ニャリルとエイリー、マジで戦うのかよ?」「これまで戦いと無縁だった、ただの女なのにな」「ミークとラミーは参加しないのか? 女2人に対して男3人?」
町の人々はそれぞれ色々な感情を込めて見守っている。一方で、
「徹底的に叩きのめせよ!」「女如きが戦うってのがどれだけ無謀か教えてやれ!」「出来れば身ぐるみ剥いでしまえ!」「ガハハハ! そりゃあ良い!」
と、明らかに冒険者であろう声が男達を応援する。その言葉が耳に入った3人は「おうよ!」「任せとけ!」「一方的でつまらねぇだろうけどなあ!」と、その声援に気を良くした様で嬉しそうに手を振っている。
「しかしまさか、あっちから対戦を申し込まれるとはな」
「しかも俺等が勝ったらあいつ等の家に忍び込んだ件、チャラにしてくれるんだぜ?」
「こんな好条件で許されるなら受けねぇ訳にはいかねぇよなあ? よし。応援してくれてるあいつ等の期待通り、素っ裸にして2人の素肌を堪能してやるか」
へへへ、と下卑た笑みを浮かべながら、3人はニャリルとエイリーと向かい合った。その間にラルが試合を仕切る為割って入った。
因みにお互い武器は無し。防具も全員革製の胸当て、腰当て程度。要は肉弾戦である。ニャリルとエイリーが武器を持っていない事について気になった男達のうちの1人が、2人に声を掛けてきた。
「お前等武器使っても良いんだぜ? 其れ位のハンデあった方が俺等も楽しめるしな」
それを聞いた2人は顔を見合わせるが、即その提案を断る。
「要らないにゃ」
「寧ろそっちが武器あった方が良いんじゃない?」
圧倒的優勢の男達は2人に煽られたと感じ、皆揃ってこめかみに青筋を浮かび上がらせる。
「……生意気言いやがって」
「その綺麗な顔、無事に済むと思うな」
「今更後悔すんなよ? 女の癖に冒険者なんかやろうとするお前等が悪いんだからな」
それぞれ怒りを滲ませながらそう言うと、2人は「望むところにゃ」「そっちこそ」と負けじと返した。そんなバチバチのやり取りを間で聞いていたラルは、躊躇わず言い返している2人を見て感心する。
……迷いの森で襲われた時は怯えてたって聞いてたが。そうか、言い返せる程に自信をつけたんだな。
そしてラルはゴホン、と咳払いをし、「では互いに用意!」と声を張り距離を取った。
ニャリルとエイリーは共にピーカーブースタイルで構える。3人組は揃ってニヤニヤしながら両腕を拡げて構えている。どうやら捕まえてやろうと思っているらしい。
「では、始め!」
ラルの大きな号令が、闘技場内に大きく響き渡った。
ファリスから遠く離れたとある場所。土を押し固めただけの街道がずっと続いている道を、2頭の馬に跨った男2人が、未だ凍ったままの4つの大きな魔物の死体を載せた荷車曳きながら進んでいる。
鬱蒼と木々が多く茂る、広大な森林地帯である迷いの森は既に遥か後方。当初は追いかけて来ないか不安一杯で結構早足で駆けていた2人だったが、流石にここまで来ると追っ手は来ないだろう、と当初より警戒心は解いていて、歩みはゆっくりになっていた。
だがそれでも、あれから既に10日経っているのに、未だ不安が解けない男の1人は、馬に跨り闊歩しながら、もうこれまで何度も口にした言葉を相方に投げかける。
「なあ、本当に大丈夫か?」
当然ながら言葉を投げかけられた男は苛立ちを隠せない。つい大声で返事してしまう。
「しつけぇなぁ! 今更日和るんじゃねぇってずっと言ってんだろぉが! ファリスに戻らねぇ時点で一か八かの賭けだったっての、お前も判ってただろ?」
「そうだけどよ……。ミークって俺等があの2人襲った時、不思議な力で簡単に場所分かったじゃねぇか。その力を使って、俺等を捕まえるんじゃねぇかって考えると気が気じゃねぇよ……」
不安そうな顔で未だ後ろを振り返り、弱気な言葉を吐く相方に、男は「もういい加減にしろ!」と怒鳴りつける。
「ここに来てまでビビってんじゃねーよ! それとも何か? 今からファリスに帰るか? 出来んのか?」
「そりゃあ……、無理だけどよぉ。でも逃げずに戻った方がまだ罪は軽く済んだんじゃねーかって……」
ビビっている相方に男は既にイライラが募り爆発しそうになっている。それは当人も実は同じく不安は拭い切れていない事も影響しているだろう。だが男はここで怒りをぶつけても喧嘩になるだけだ、と一旦冷静になり、深く呼吸をし、そして諭す様に話し出す。
「まあ聞けよ。これはギルドで聞いたんだが、どうやらミークが俺達の場所を見つけたあの不思議な力、迷いの森の魔物の死体の監視だけに使ってるらしいってよ。で、今俺等は既に森には居ねぇしかなり離れてる。そしてもうすぐ隣の町へ着く所まで来てる。だからもう心配ねぇ。それを証拠に、あれから10日は経ってるってのに、一向にミークはやって来ねぇだろ?」
「そう言われてみれば……」
「だろ? だからもう大丈夫だ。この道をずっと進めば明日には町に着く。あそこはファリスより大きいから、中に入って紛れちまえば、捕まる心配はまず無ぇだろうよ。だからお前もいい加減腹を括れ」
「そ、そうか。そうだよな! じゃあ急ごうぜ!」
「ケッ。現金な奴だ」
急に元気になる相方を見て呆れる男。だが彼自身も抱えていた不安が相方の呑気な様子のお陰で多少吹っ切れた模様。そして2人は跨る馬の轡を操り、スピードを上げ隣の町へ駆けていった。
そして、そんな2人の様子を、気付かれない様木陰に隠れ覗く小さな影が2つ。
「……行った?」
「うん。でももう少し隠れていよう。見つかっちゃったらおしまいだから」
「うん……。ねえお姉ちゃん、本当に大丈夫?」
どうやらその影は幼い子ども2人。姉と弟の様である。心配そうに姉を見上げる弟に姉は優しく頭を撫でる。
「きっと大丈夫。……よし。もう見えなくなった。頑張ってファリスに行こう。お母さん達を助けないと」
自分に言い聞かせる様に、姉は幼い弟と共に、男達とは反対側、ファリスに向かって走って行った。
※※※
ニャリルとエイリーが訓練を始めて3週間が経った。連日闘技場でミークから訓練を受け続け、時には迷いの森でも訓練を行った。途中、ミークの依頼でラミーも参加していた。それはミークがとある事に気付いたからである。
毎日クタクタになるまで、それこそ靭帯断裂、筋肉痛、皮膚の裂傷を毎回起こすも、ミークのシュラフで全快し、心地良いシャワーで汗を流すという日々。そのお陰もあって、ミークの想像以上に2人は早く成長した。
そして今、ニャリルとエイリー、更にミークとラミーは闘技場の中に居る。
「フッ、フッ」
「ニャッ、ニャッ」
シュッシュッとリズミカルにボクシングスタイルでシャドーをする2人。闘技場の観客席には、普段より大勢の人達が詰めかけていた。中には冒険者だけでなく町の人々も見受けられる。
ミークが初めてここで冒険者認定試験の為ラルと戦った時よりも人の数が多い。それはきっと、ニャリルとエイリーがファリスの住人で、顔馴染みが多い事も理由の1つだろう。
そして4人に相対する様に居るのは、ニャリルとエイリーの家に侵入したあの3人組。あれから彼等は警備隊に引き渡され牢屋に居たのだが、とある条件をクリアすれば無罪放免になる、と提案され、快くそれを受け入れやって来たのである。因みに3人組の傍にはラルが居る。
何処か嬉々とした表情で、余裕の笑みでニャリルとエイリーを見ている3人をチラ見した後、ラルは彼等を縛っていた縄を解いた。
拳をグッパしながら「へへへ……」と嗤う1人。そして徐ろにラルに確認する。
「ギルド長、本当にあの条件で良いんですよね?」
「ああ、構わない」
「つってもギルド長、流石に俺等を舐めすぎじゃねぇですかい? 一応これでもメタルランクなんですぜ?」
「まあ俺もどうかと思ったんだが、ミークからどうしても、って言われてな。あの2人も是非そうしてくれ、と頼まれたし。もし危なくなったら止めに入るつもりだ。だからお前等は思い切りやって構わん」
彼等3人が無罪となる条件、それは目の前でシャドーをしているニャリルとエイリーを倒す、という事だった。そしてニャリルとエイリーがこの3人を倒す事が出来れば、冒険者認定試験合格にする、という。
冒険者として中堅のメタルランクの3人に対し、きっと今回が初の戦闘であろうニャリルとエイリー。しかも3対2と、実力だけでなく人数を鑑みても圧倒的に不利である。
その提案をミークから聞いた時、当然ラルは反対したが、ミークが自信有り気に「大丈夫」と確信を持って言うだけでなく、更にラミーまでも問題無いと言うので、もし危険な状況になったらラルが止めに入る、という事を条件に、ラルは渋々受けたのである。
ただ、ラルとしては、ニャリルとエイリーが負けたとて、戦闘の内容次第では認定試験について善処しよう、と考えていたりする。ラルもこの不利な状況で2人が良い勝負出来るとは流石に思っていない。
だが一方で、驚異的且つ不思議な能力を持つミークと、ゴールドランクのラミーが指導したので、心の奥では期待もしていたりするのだが。
「とにかく、遠慮無くいかせて貰いますぜ? 万が一殺してしまっても文句は無しって事で」
「ああ。それで良い」
まあそうなる前に俺が止めるけどな、と心の中で呟きながら、ラルは新調したオーガキングの角製の漆黒の剣に手をかけ、何時でも雷が出せる様スタンバイしてから距離を取った。一方、言質を取ったと益々ニヤケが止まらない3人は、嫌らしい笑みを2人に向ける。
そんな3人を黒髪の超絶美女、ミークがチラリと見た後、ニャリルとエイリーに向き直った。
「これまでやって来た事を思い出して。絶対大丈夫だから。気負わず普段通りに。ね?」
「にゃ!」「はい!」
よし、と2人の気合の入った顔を見て微笑むミークを傍らで見ながら、ラミーが溜息を零す。
「全く、ミークも無茶をするわね」
「そお? でもラミーだって大丈夫って思ってるしょ?」
まあね、と呆れた様に返事ずるラミーだが、彼女もミークの言う通り大して心配はしていない。そしてエイリーに顔を向け「教えた様にやるのよ」と声を掛けると、エイリーは「はい!」と元気良く返事した。
そしてラルがパンパン、と場内に響き渡る音で柏手を打ち、「じゃあそろそろ始めるぞ! ミークとラミーは場外へ!」と大きな声で指示をする。ミークとラミーが共に確認する様に視線を向けると、ニャリルとエイリーは揃って強く頷いた。
それを見て2人は安堵の表情を浮かべ、揃ってフワリと宙に浮き、観客席の最前列に移動した。
娯楽の少ないここファリスにとって、冒険者認定試験は稀に見る余興。しかもそれが、ファリスの住人の女の挑戦ともあって、闘技場の観客席は歓声と不安が入り混じった、様々な声が聞こえてくる。
「ニャリルとエイリー、マジで戦うのかよ?」「これまで戦いと無縁だった、ただの女なのにな」「ミークとラミーは参加しないのか? 女2人に対して男3人?」
町の人々はそれぞれ色々な感情を込めて見守っている。一方で、
「徹底的に叩きのめせよ!」「女如きが戦うってのがどれだけ無謀か教えてやれ!」「出来れば身ぐるみ剥いでしまえ!」「ガハハハ! そりゃあ良い!」
と、明らかに冒険者であろう声が男達を応援する。その言葉が耳に入った3人は「おうよ!」「任せとけ!」「一方的でつまらねぇだろうけどなあ!」と、その声援に気を良くした様で嬉しそうに手を振っている。
「しかしまさか、あっちから対戦を申し込まれるとはな」
「しかも俺等が勝ったらあいつ等の家に忍び込んだ件、チャラにしてくれるんだぜ?」
「こんな好条件で許されるなら受けねぇ訳にはいかねぇよなあ? よし。応援してくれてるあいつ等の期待通り、素っ裸にして2人の素肌を堪能してやるか」
へへへ、と下卑た笑みを浮かべながら、3人はニャリルとエイリーと向かい合った。その間にラルが試合を仕切る為割って入った。
因みにお互い武器は無し。防具も全員革製の胸当て、腰当て程度。要は肉弾戦である。ニャリルとエイリーが武器を持っていない事について気になった男達のうちの1人が、2人に声を掛けてきた。
「お前等武器使っても良いんだぜ? 其れ位のハンデあった方が俺等も楽しめるしな」
それを聞いた2人は顔を見合わせるが、即その提案を断る。
「要らないにゃ」
「寧ろそっちが武器あった方が良いんじゃない?」
圧倒的優勢の男達は2人に煽られたと感じ、皆揃ってこめかみに青筋を浮かび上がらせる。
「……生意気言いやがって」
「その綺麗な顔、無事に済むと思うな」
「今更後悔すんなよ? 女の癖に冒険者なんかやろうとするお前等が悪いんだからな」
それぞれ怒りを滲ませながらそう言うと、2人は「望むところにゃ」「そっちこそ」と負けじと返した。そんなバチバチのやり取りを間で聞いていたラルは、躊躇わず言い返している2人を見て感心する。
……迷いの森で襲われた時は怯えてたって聞いてたが。そうか、言い返せる程に自信をつけたんだな。
そしてラルはゴホン、と咳払いをし、「では互いに用意!」と声を張り距離を取った。
ニャリルとエイリーは共にピーカーブースタイルで構える。3人組は揃ってニヤニヤしながら両腕を拡げて構えている。どうやら捕まえてやろうと思っているらしい。
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