隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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納得が行かないミーク

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※※※

 ミークは昨晩宿屋に来た3人を、自身の左腕の指から射出した鋼鉄の糸で縛り上げ、そして宿屋の一室にて一晩待機させた後、早朝ギルドまで連行した。

 朝のギルドは冒険者達が依頼を受ける為沢山居る。ただ普段と違うのは、その殆どが凍った死体の回収の依頼を受けているという点だろう。勿論通常の依頼も内容に応じて、ネミル達受付嬢が冒険者達に提案していたりするのだが。そんな男達がごった返すむさ苦しいギルドの扉をミークが開けると、一斉に視線が集まった。

「よお! 隻腕じゃねぇか! こんな朝に来るなんて珍しいなって、……、あれ?」「何だ? 後ろの連中? 縛られてる?」「あいつら確か、冒険者……だよな?」

 それぞれがミークへ声を掛けるも、その後ろに連なっている、縛られ項垂れた男3人を見て不思議そうな顔になる。その異様な様子に、騒がしかったギルド内は静まり返ると同時に、ヒソヒソ声があちこちから聞こえて来る。

 その縛られた3人の更に後ろから、ネミルとニャリル、そしてエイリーが次いで入ってきた。そしてネミルが「ミーク、ニャリル、エイリー、ここで待っていてね」と待機させ、そして縛られた3人をひと睨みしてから、2階のギルド長室へ向かった。

 どうしても気になって仕方の無いとある1人が、ニャリルとエイリー2人に声を掛ける。

「おうニャリルにエイリーじゃねぇか。冒険者でも無い女のお前達が、ギルドに何の用だ?」

「もしかして、まだ冒険者諦めてないとか? 女の癖に」

「それの何が悪いの?」

 2人より先に、ミークがその声の方向へ冷めた声で返事する。次いでニャリルとエイリーがキッと同じ方向を睨む。するとまたもシーンと、ギルド内が静寂に包まれた。

「私だって女だけど? 何か問題でも?」

 更にミークが続けると、何処からともなく大勢の冒険者の中から、気不味そうな返事が聞こえてきた。

「い、いやほら……。ミークは桁違いだから……」

「ミークには到底敵わねぇの、判ってるから……」

「……」

 じゃあこの2人になら勝てるとでも? とミークは喉から出かかったが止めた。彼等の認識ではきっとその通り。この2人は舐められている、という事。2人のポテンシャルは間違いなく高いが、まだ訓練を始めて1日しか経っていない。今は彼等の認識通り冒険者には成り得ない。だが、このまま訓練を続ければ、きっと見返す事は可能だ、とミークは確信している。

 ……この2人がちゃんと実力をつければ、きっと皆にも認めて貰える。

 なら、これから2人が頑張れば良い。そう思い、ミークは2人に視線を向け微笑んだ。それを見たニャリルとエイリーは「「?」」と、不思議そうな顔をする。だが縛られたまま床に座っている、昨晩2人を襲おうとした1人がケッと舌打ちしながら「ほぉら見ろ」と呟いた。

「ここの連中の反応見たろ? 女が冒険者になるってのはみんな納得いかねぇんだ。あいつらも俺等も同じ気持ちなんだよ」

 その言葉を聞いたミークは怪訝な顔で「どういう事?」と聞くと、縛られた男はミークに聞かれ顔を上げる。

「冒険者って仕事は本来男だけの職業なんだよ。本音言うと魔法使える女、例えばラミーでさえ俺は気に入らねぇ。ミークは分かる。規格外だし何度も脅威から町を救ったからな。だがそこの2人は違う。ニャリルは宿屋の給仕程度の仕事しかやった事ねぇし、エイリーも町の裏にある小麦畑で働いた事しかねぇ筈だ。そんな、命懸けの仕事をした事がねぇ女2人が冒険者になるだと? しかも魔法も使えねぇのに? 巫山戯るのも大概にしろってんだ」

「「……」」

 跪いて愚痴を吐く男に、ニャリルとエイリーは悔しそうに唇を噛み黙って俯く。それは肯定を意味している様でもある。だが一方でミークはジロリと愚痴った男を見下ろした。

「だからと言って、襲って良い理由にはならない」

 そう、ミークがピシャリと正論を言うと男は無言で俯いてしまった。そこで2階からギルド長のラルと、呼びに行ったネミルが降りて来た。

 縛られた3人、そしてミークとニャリル、エイリーを見てラルは頭を掻きながら、はあ~、と大きな溜息を吐く。

「ミーク。そいつ等の処遇は警備隊に引き継ぐぞ。ネミル、サーシェクんとこ行って警備隊の連中呼んで来てくれ」

「え? わ、私が?」

「? ああそうだが? どうした?」

「い、いえ……。行ってきます」

 顔を赤らめながら何処か気不味そうに、ネミルはギルドの外に出て行った。その様子を見たミークは「ネミルってばまだサーシェクと進展してないんだ」と、ちょっと呆れながら呟いた。

 そしてラルはパンパン、とギルド内に響く程の大きな柏手を打った後、階下に大勢いる冒険者達に向かって「おうお前等! 警備隊が来るまでこいつ等見張っててくれ!」と大声を掛けると、何処からとも無く「おうよ!」と数人の返事が聞こえ、そのまま冒険者達が3人を取り囲んだ。

「これで大丈夫だろ。じゃ、俺の部屋に行くか。ニャリルとエイリーも来てくれ」 

 ミークと2人は揃って頷き、そしてラルの後に続いて2階に上がって行った。

 ※※※

 ニャリルとエイリーから聞き取った内容を纏めた報告書の束を、机でトントン、と纏めたラルは「詳細は分かった。大変だったな」と2人に話しかける。

「後は警備隊に任せる事になる。ファリスの治安に関わる事は基本警備隊の仕事だからな。2人ともそれで良いな?」

「はい」「大丈夫にゃ」

 2人からの返事を聞いたラルは、ふぅー、と大きく息を吐いた後、「済まなかった」と頭を下げた。2人は慌てて「ギルド長は悪くないにゃ!」「そうです! 謝らないで下さい!」と頭を上げる様にお願いする。

「いや、お前等2人が冒険者目指すってなった時から、こうなる事は予想出来た。だから俺から警備隊に話しとくべきだった。あいつ等も魔物の死体回収で忙しいから、俺も遠慮しちまってたし、まさかこんな直ぐ事が起こるなんて思ってなかった……、ってのは言い訳になるが」
「それでも悪いのはあいつ等にゃ。そういう事考えてる時点で問題なのにゃ」

「ニャリルの言う通りです。それにもう捕まったから大丈夫です」

 そうか、と返事しながらラルは申し訳無さそうな顔をして2人を見た後、今度はミークに向けて話し始める。

「ミーク。お前には理解出来ないかも知れないが、今回の件は起こるべくして起こった、と言っても過言じゃない。女が冒険者になるってのはこういう事態も想定しなきゃならねぇんだ」

「どうしてですか?」

 納得行かないミークが憮然とした顔で質問する。ラルはそれに答える様に続ける。

「あいつ等冒険者は、女に仕事を取られるのが許せねぇんだよ。それに奴等は、冒険者ってのは男の仕事だってプライドがある。実際女の冒険者は殆ど居ないし、それに危険を伴う命懸けの仕事だから、男より力が弱い女に任せられるかって思ってる。要する奴等の立場と仕事が無くなっちまうのを恐れてんだよ」

「それって女には出来ないって決めつけて、見下してるって事ですか?」

 気に入らないという顔でミークが質問すると、ラルは無言で見つめ肯定する。

「実はミークが冒険者やるってなった時も一部から反対があった。だがお前の場合、表の広場でゴルガを転がしてるのを大勢が見てたし、更にオルトロスみたいな化け物1人で倒しちまったのを皆知ってるから、ミークは別物だって町の連中は思った。だから認めるしかないって皆受け入れたんだ」

「そうだったんですか。ていうか、男尊女卑も甚だしいですね」

 ミークが珍しく苛立ちながらそう言うと、ラルはミークの反応に眉を上げながら「それがこの世界の常識だから仕方ねぇよ」と答える。

「それでもファリスはまだマシな方なんだぜう? まあでも、俺みたいに気にしない男も少なからず居る。強いなら性別なんてどうでも良いってな。だから密かにニャリルとエイリーには期待してんだぞ?」

 黙ってやり取りを聞いていた2人、突然話を振られてびっくりするも、「そうなんですか?」「本当かにゃ?」と答える。それを見てラルはニッと笑みを浮かべる。

「ああ。だからミークとの訓練頑張れよ。とりあえず認定試験はパス出来る様にな」

 ラルがそう言うと、「分かったにゃ!」「はい!」と2人は元気よく返事した。

 2人の反応にラルは笑顔になるが、急に真顔になって「ところで……」と話題を変えた。

「先日迷いの森で彼女等を襲おうとした2人組だが、どうやらまだファリスに帰ってきてねぇみたいだ。ミークの不思議な力であいつ等の行方探す事って出来るか?」

「帰って来てないんだ? じゃあちょっと探してみます」

 そう返事するとミークは早速、ずっと迷いの森の上空にて魔物の死体を監視しているドローン達が撮影、録画を映像を解析する様AIに指示をすると、AIは即対応し始める。

 ーー当該人物2人を投影したドローンを検索……。確認出来ました。彼等は昨日まで迷いの森の奥にある、以前盗賊達が棲家にしていた洞窟に潜んでいました。そして今日の朝早く、ファリスと逆方向へ向かって行きましたーー

 AIはミークにそう伝えた後、録画していた2人組の映像を脳内で再生した。

 ……ふむ。魔物の死体もそのまま一緒に持ってってる。どうやらファリスには戻らず違うとこへ向かったっぽいね。

「町には戻らず逆方向に逃げたみたいです」

「逆方向? ……そうかあいつ等、別の町に逃げるつもりだな」

 ミークの報告を聞きラルは顎に手を当て少し考え込む。そして「分かった。この件はこっちで処理するが構わないか?」と、ニャリルとエイリーに確認する様に声を掛けると、2人は揃って頷いた。

「ったくあいつ等、魔物の死体も持ち逃げしやがって。大方次の町で換金しようとでも思ってんだろう。だがあんな強い魔物、メタルランクのあいつ等が倒せる訳がねぇのに、どう説明するつもりだ?」

 因みにメタルランクはブロンズランクの下で、冒険者の数の多くを占めており、中堅と呼ばれる冒険者のランクでもある。

「ま、何にせよギルドに持ち込んだ時点で身バレするだろうな。あっちのギルドにも連絡しとくか。ミーク、済まない。まさかお前が処理した魔物がこんな風に持ち逃げされるとは思ってなかった」

 そう言って頭を下げるラルに、ミークは「いえ、それは全然気にしてないです」と返事する。

「それより逃げたのが気に入らないです。私今から飛んで行って捕まえてきますけど?」

「いやいい。こっちでやらせてくれ。何でもかんでもお前に頼るってのは流石にギルドの立場がねぇからな。冒険者が町の外で起こした問題ならギルドが対処すべきだ。それよりこの2人を早く一人前にしてやってくれよ」

 ラルがそう言うと、ミークは「じゃあ、あの2人組はお任せして、ニャリルとエイリーを鍛えるの頑張ります」と答えた。
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