隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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懲りない男達

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 ※※※

「疲れたにゃ~……」

「確かに……」

「これがずっと続くらしいにゃ……」

「うん、ミークそう言ってたね……」

 ニャリルとエイリーはギルドの闘技場でミーク指導の元、1日中戦闘訓練を行った後、ネミルの宿屋で給仕の仕事をしてから家路に向かう。今日からエイリーも多忙を極めるネミルの食堂で、人手不足を補う為働く事になったのである。

「でもミークが用意してくれた不思議な寝袋? のお陰で身体の疲れは無いにゃ」

「アレ本当気持ち良かったよね。ていうかアレが無かったらきっとぶっ倒れてる」

「それにゃ」

 2人が話しているアレとは、以前ミークがダンジョンに潜った際使っていた、畳むとラビオリ型になるシュラフの事。訓練の後、ミークが彼女達に30分仮眠を取らせる為使用したのである。

「たった30分しか寝てないのに、身体がギシギシ言って痛かったりしてたのが全部無くなってたのにゃ」

「でもポーションみたいな回復薬とは違うんだって。ミークから説明されたけどよく分からなかった」

 エイリーの言う通り、あのシュラフにポーションの様な怪我を治す機能は無い。だが疲れた身体を癒すのであれば、あのシュラフは最適なのである。

 ミークは2人が訓練で傷ついた筋組織や腱、その他皮膚の切り傷等を、スーパーテクノロジーの塊であるシュラフの癒やし効果を用い自然治癒を促す事で、それらの強化を早めようと考えたのである。

 傷付いた筋組織や腱は治る事でより強靭になる。その上2人は獣人と亜人。人族より回復力が高い為その効果はかなり期待出来る、ミークはこの方法で、2人の身体強化をより早くしようと考えたのである。

 次いでに2人は、ミークがダンジョンで使用した簡易シャワーも、食堂の仕事が終わった後に使わせて貰っていた。なので身体的に回復しただけでなく、肌や髪、ニャリルに至っては尻尾まで、綺麗さっぱりしていたりする。因みに晩ご飯はネミルの宿屋で賄いが出ているので腹も満たされている。

 よって身体的にはとても充実している2人だが、それでも生まれて初めて経験した激しい訓練。そしてその後、食堂で仕事をこなした2人は、精神的な部分で相当疲れていた。

「でもミークに訓練して欲しいって頼んで本当良かったよね。私達の知らない事をいっぱい教えてくれたし。沢山褒めてもくれてたしね。今日だけでも十分強くなれた気がしたもん」

「本当そうだにゃ。よし、明日からも頑張るにゃ!」

「おー! 頑張ろー!」

 魔石によるオレンジ色に灯る街灯の夜道の中、2人は揃って拳を夜空に突き上げ気合を入れ、笑顔満面で帰路に着く。そんな彼女達を、3つの影が密かに覗いていたが2人は気付かなかった。

 ※※※

「ふにゃー」

 隣の家に住んでいるエイリーと別れ、自宅に入り直ぐ様寝室へ向かい、そのままベッドにボフンとうつ伏せで飛び込むニャリル。

 普段ならいくら疲れていようと、女性の嗜みだにゃ! と、毎日必ず湯浴みしてからベッドに入るニャリルだが、今日はミークの不思議な箱型シャワーのお陰でその必要は無い。だが寝巻きには着替えようと、一度ベッドに飛び込んだニャリルは重い身体を無理に起き上がらせ、にゃ~、と伸びをしながらベッドから出た。

 そこで入り口の家の扉がカタン、と音がしたのを、良く聞こえる耳が捉えた。ニャリルはビクっと反応し、慌てて寝室の扉の影に隠れる。

 すると家の中に、複数の人が忍び足で入って来る気配を感じた。ニャリルは驚いたものの、声を出すまいと慌てて口を抑えジッと身を潜める。

 ……だ、誰にゃ? こんな夜中に? 今まで勝手に人が入ってくるなんて無かったにゃ。エイリー? だとしたら何で1人じゃ無いにゃ?

 混乱する頭で必死で今の状況を理解しようとしていると、今度はニャリルが隠れている寝室の扉がそっと開く。ニャリルは心臓が飛び出そうになり声が出そうになるのを必死に堪え、そーっと扉が開いた影に移動し、ふさふさの自分の尻尾を前に抱え身を縮めた。

 すると「チッ」と舌打ちが聞こえた。その声は明らかにエイリーではない。ニャリルは縮めた身体をビクッと反応させてしまうも、気付かれない様息を潜める。

「おい、居ねぇじゃねぇか」

「おかしいな? 家に入ったとこまでは見たぞ?」

「寝室にも居ねぇぞ?」

 ……男の声にゃ? でもどっかで聞いた事ある様な?

「んだよ、折角俺達が女の喜びを思い出させてやろうとしたのによぉ」

「全くだ。冒険者の真似事なんて下らねぇ事は止めて、男の言いなりになってりゃ良いんだって知らしめてやるつもりだったのに」

「町の警備が手薄になってる今がチャンスだったのにな。警備隊の連中、死体回収を手伝ってて疲れちまって寝てるからなあ。今日も夜の警備してなかったしな」

 ……こいつらもしかして、あたしを襲いに来たのかにゃ?

「つか居ないなら意味ねぇじゃねえか。1人になった所を見計らったのによぉ」

「女の癖に強くなろうとか、巫山戯た事考えてる女にゃお仕置きが必要だって来てやったのに、留守なのかよ」

「しゃーねぇ。じゃあエイリーとこ行くぞ」

 男達はそう言って今度は気にせず寝室の扉をバタンと音を立てながら閉めた後、ドタドタと足音を立て外へ出て行った。

 ……やっぱりあたしを襲いに来たみたいだにゃ! てか、エイリーが危ないにゃ!

 ニャリルは急いで裏口から外に出る。そして隣の家のエイリーの家の、同じく裏口からコッソリ入った。すると丁度寝巻きのズボンを履こうとしていた、下半身下着丸出しのエイリーと目が合った。

「ニャ、ニャリル!? な、何? こんな時間に……」

 当然の事にびっくりするエイリー。だが直ぐニャリルが人差し指を口に当てる。

「シッ! 静かにするにゃ! 急いであたしに着いてきて欲しいにゃ」

「え? え? 何? どういう事?」

 エイリーが混乱しながら不思議そうに返事すると同時に、今度はエイリーの家の入り口の扉が、カタンと開く音が聞こえた。

「!」

「とにかく急ぐにゃ!」

 ニャリルの突然の来訪。更にこんな夜中、鍵をかけている筈の家の扉が勝手に開けられた事に、只事では無い悟ったエイリーは、ニャリルの顔を見て黙って頷き、急ぎ外着に着替え直した後、音を立てない様2人はそっと裏口から外へ出た。そして出たと同時に2人は一目散にネミルの宿屋に駆けて行った。

 そして既に灯りが消え真っ暗になった宿屋の前に辿り着くと、夜中である事も気にせずドンドンと扉を叩き息を切らせながら叫んだ。

「はあ……、はあ……。すみませーん! ごめんくださーい!」

「はあ……、はあ……。開けてほしいにゃー!」

「ん?」

 その声と音にいち早く気付いたのはミーク。丁度これから最上階のネミルの部屋にて、2人寝ようとしているところだった。布団に入ったばかりのミークだったが、何事かと起き上がって窓から下を覗く。そんなミークの様子をネミルが不思議そうに見ながら「どうしたの?」と声を掛ける。

「今、下から声が聞こえた。ちょっと見て来る」

 そう言ってミークは窓から出てふわりと宙に浮き、そのまま宿屋の扉の傍まで空中を降りていく。するとそこには、息を切らしたニャリルとエイリーが居た。ミークは驚きながら声を掛ける。

「2人共どうしたの? こんな夜中に?」

「お願い! 中に入れて!」

「頼むにゃ!」

 ネミルも眠た気な目を擦り最上階の自身の部屋から何事かと3人の様子を覗いている。だが直ぐネミルは、宿屋に向かって来る3つの影に気付き、下に居るミークに「誰か来るわよ!」と上から声を掛けた。

 そして直ぐ、3人組が同じく息を切らせながら宿屋にやって来た。

「はあ、はあ……。クソが! 気付かれたみてぇだ」

「ぜえ、ぜえ……。つーか、いくら逃げても無駄だってんだ。女の癖に俺等男から逃げられると思ってんのかよ」

「はあ、はあ……。てかおい、ここって宿屋じゃ……」

 最後の1人が気付いた時には遅かった。彼等が追いついた先に、ミークが腰に手を当て仁王立ちで眼の前に立ちはだかっていた。それから宿屋の明かりがパッと灯ったかと思うと、ネミルが内側から扉を開け、2人を宿屋の中に招き入れた。

 因みにミークはこれから寝ようとしていたので普段着では無く上半身はシャツ1枚、下半身は下着がシャツで隠れる程度の際どい格好。超絶美女のすらりと白く美しく長い脚が晒されているが、ミークはお構いなしに腰に手を当て仁王立ちで3人を見据えている。その表情はまるで無機質なロボットの様に冷たい。

「こんな夜に何の用?」

 男達の会話が聞こえていたので、彼等が何故ここに来たのか、そして何故ニャリルとエイリーが逃げる様に宿屋にやって来たのか、ある程度理解しているミークだが、敢えて質問する。

「え? あ、ああ。いやあ……」

「ちょ、ちょっと、な。ヘヘ……」

「夜風に当たろうかと。じゃ、じゃあ帰るわ」

 超絶美女のあられもない姿。これからニャリルとエイリー2人と事を交えようとしていた男達にとっては寧ろ眼福である筈だが、その格好をしているのはあのミーク。しかもどうやら自分達の所業がバレている。

 男達は不味いと思い、とにかく逃げなければ、と3人揃って踵を返す。だが「帰す訳無いでしょ」と、ミークは左腕をスッと音も無く切り離し、間髪入れず3人の鳩尾に拳をドン、ドン、ドンと拳を入れた。

「うがあ!」「ぎゃあ!」「ごはあ!」それぞれ叫びながら腹を抑え、その場で膝から崩れ落ち蹲る3人。その様子を見ながら、ミークは呆れると同時に深い溜息を吐いた。

「こないだの昼の2人組の男達もそうだったけど、この世界の男って……」
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