隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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予想外

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※※※

 ……この雌の言う通り、我々魔族はこの世界の頂点たる存在。たかが人間に遅れを取るなどあり得ない。だがこやつは別だ。正直こんな規格外には到底勝てる気がしない。星落としの様な天変地異を起こす化け物だぞ? そもそも魔素を使い果たしてしまい魔法も使えぬ。どうすべきか……。

 元の姿に戻った魔族は、ミークを睨み付けながらも、焦燥にかられ必死にどうすべきか考える。その様子を見てミークは痺れを切らした模様。

「何か考えてるみたいけどこっちも悠長に待つ気無いし、もし戦わないなら捕まえるよ?」

 捕まえる、ミークのその言葉を聞いて、プライドを触発された魔族。「人間風情が、魔族である私を捕まえるだと! 舐めるなあああ!」と突如叫ぶ。そして魔族は再度、口から緑色の液体、強酸性の毒をミークに吐きかけた。

「うわっと。またそれか」

 当然ミークはあっさりそれを躱す。同時に魔族は宙に浮いているミークに飛びかかってきた。だがミークはそれを左腕でバシっと弾き返し地面に叩きつけた。

「あ、私が空中に居たら攻撃出来ない? じゃあ地面に降りるよ」

 そう言ってミークは魔族の傍に降り立つ。その行動は明らかに余裕がある。地面に叩きつけられ起き上がりながら、魔族はその気遣いに更にプライドを傷つけられ、わなわなと怒りで震え始めた。

「に、人間の癖に! ふざけるなあああ!!!」

 そう叫びながらミークに殴りかかる魔族。だがミークはその右拳をガシ、と左手で受け止める。

「おおー。腕細いのに力強いね。これが魔族の真骨頂?」

「そう言うお前も華奢ではないかあああ!!!」

 今度は左拳をミークに叩きつける。だがそれをミークは受け止めずスッと避けた。

「?」

 そこで魔族は違和感を感じる。こいつもしかして……。

 その違和感を確かめる為、次に魔族は左足でミークの右横面に蹴りを入れる。それもミークはスッと後ろへ避ける。今度は右足で同じくミークの左横面目掛けて蹴りを入れると、その蹴りは左手でガシ、と止めた。そのまま魔族はミークの左足を払おうと狙うが、ミークはそれをジャンプで躱す。更に魔族が右足を狙うも、ミークはそれも受け止めず、スッと躱した。

 それを確認した魔族は、一旦下がって距離を取る。

「お前、もしかして強いのはその左腕だけなのか?」

「あ、やっぱ組み手だと判る? そうだよ」

 ミークの返事を聞いた魔族は、ニヤリと笑みを浮かべる。

 魔族は勝機が見えた、と更にスピードを上げミークに攻撃を仕掛けてきた。まるで格闘技の組み手の如く、特にミークの右半身を狙い蹴りや拳を繰り出す魔族。更に口から強酸性の毒を右半身目掛け吐きかけ、更に蜘蛛の顔についている足がヒュッと伸び、右半身を中心に攻撃してきた。

 だが、

「……当たらない? だと?」

 身体能力5倍、更にAIによる分析と数億に渡る演算、体幹神経全てを操作しデータベースに登録されている体術を駆使し動くミークには到底攻撃が当たる筈もない。

 そのうち魔族は疲弊し始め、一旦攻撃を止め肩で息をする。

「はあ……。はあ……。右半身は、弱点では、無いのか?」

「そんな事言ったっけ? 右は力が強くないだけ。そもそも私右利きだし」

「……意味が分からぬ」

 汗もかかず息も上がっておらず、淡々と返事をするミークを見て、魔族はまたも戦慄を覚える。

 ……この雌はダンジョン最下層から脱出し、アラクネと戦い、そしてあの星落としを実行し、それから今。私とこうして交戦している。それなのに、全く疲れた様子が見られぬ。

「化け物め……」

 ふと魔族から出た本音に、ミークはぷくっと頬を膨らませる。

「失礼な。これでも見た目は褒められる方だけど?」

「そういう意味ではない。そもそもお前は、本当に人間なのか?」

「しつこいなあ。人間に決まってるでしょ。ま、それはともかく、確かに強いね魔族。さっきみたく魔物沢山出したりするんだもんね。あれは流石に焦ったよ。今組手もやったけど良い線いってたしね。もしこれで魔法使えたらもっと強かったんだろうね」

 ミークがそう感想を述べるのを聞いて、この雌はそろそろ終わらせる気だ、と魔族は感じ覚悟を決めながら質問する。

「……私を、殺すつもりなのか?」

「いや捕まえるかな? 色々聞きたいしね」

 そう話すや否や、ミークは瞬速で魔族に一気に近づき、ガキ、ゴシャ、バキ、ガン、と一気に四肢全てを左手でへし折った。

「なっ?! ウ、ウガアアアア!!!」

 反応できなかった魔族。突然襲われた衝撃と痛みで絶叫する。

「これで逃げられないよね。あ、蜘蛛にならないでね。潰しちゃうから」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 ……この雌の動きに反応出来なかった。こやつ、先程は手を抜いていたのか? ……もう抗う体力は無い。こやつの言う通り子蜘蛛に変化しても見つかって潰されるだろう。クソ! 魔素さえ残っておれば!

 悔しそうにひれ伏した状態で、8つの目がミークを睨み付ける。だがミークは意に介さず、監視用にこちらに飛ばしていたドローン1機を近くに呼び寄せ、鋼鉄の糸で魔族を縛り上げようとしたその時、

 ーーエマージェンシー。上空より膨大な魔素、突如発生ーー

「え?」

 脳内でAIが警告するや否や、その魔素の正体は黒い影となって、上空からミークと魔族との間に落ちて来た。

 ミークは驚き警戒しながらも身構え、「AI、あれが何か分かる?」と質問する。

 ーー正体不明。突如空に異空間が顕れ、次いでそこに膨大な魔素を持った生き物を感知し、それが落ちて来た模様。ですが魔素量からして魔族である可能性99%ですーー

「え? 魔族? 新たに来たって事?」

 ミークが驚きながらその落ちて来た生き物を見てみる。そこには、蝙蝠の様な黒い大きな翼が背中から生えている、見た目女性だが表皮は紫色の人? らしき者がいた。

 そして驚いたのは蜘蛛頭の魔族も同じの様で、突如やって来たこの魔族らしい者について、どうやら蜘蛛頭は想定外だった模様。ミーク同様驚き叫ぶ。

「な! 何なのだ一体! 何しに来たのだ!」

「お前を逃がす為だ」

「助けに来てくれたのか?」

「勘違いするな。お前に死なれると困るだけだ」

 そう言って黒い翼を持つ女性の魔族? は地面を指差した。すると途端に魔法陣が顕れた。それを感知したAIがミークに説明する。

 ーーダンジョン最下層で見た転移の魔法陣と酷似。どうやら何処かに移動する模様ですーー

「え? それって逃げられるって事?」

 ミークは慌てて左腕を魔族に向け、ドン、と高速でロケットパンチの如く放つ。だが既に魔法陣が出来上がており、直ぐ様音もなく2体の魔族はフッとその場から消えてしまった。そしてロケットパンチの左腕は、攻撃が当たる事なく、虚しくも何も無い岩にドン、と突き刺さった。

 そして地面に描かれた魔法陣はシュン、と一瞬光を放つと即消えた。ミークは焦りながらAIに「あいつら追っかけられる?」と聞く。AIはミークの紅色の左目で魔法陣があった地面を解析し始める。

 ーー魔素の痕跡がほんの僅かに残っていますが……、今しがた霧散しました。痕跡は完全に消滅。追尾の可能性……、0%。よって行き先不明ーー

「やっぱり無理かぁ……、あー、逃げられたー!」

 AIの報告を聞き悔しそうに地団駄を踏むミーク。

「まさか仲間が助けに来るなんて思わないよ! 流石に予想外出来ないよ! あーもーう!」

 既に魔法陣が消えた地面を睨みながら、ミークは腹を立てて大声で叫んだ。

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