隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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想定外

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※※※

「……え?」

「あれ? バルバが……」

「さっきバルバがそれの事転移の魔法陣って言ってたから、どっかに転移しちゃったのかも」

 ミークの言葉にノライとラミーは揃って「「成る程」」と相槌を打つ。

「で、でも、何処に転移しちゃったんだ?」

「ちょっと待って? 魔法陣が……」

 ラミーが言いかけるより早く、地面に描かれていた筈の魔法陣も跡形も無く消え去った。

「一体、何がどうなっているの?」

 呆然としているラミー。そこでノライがダンジョンコアを見て叫ぶ。

「ダ、ダンジョンコアが!」

 最初の亀裂が入った所を中心に、ビシ、ビシ、と徐々にヒビは入り始め、ガラン、と大きな音を立てて割れたダンジョンコアが地面に落ちる。それを皮切りにガラガラとダンジョンコアが崩れていく。

「不味い! ダンジョンコアが崩れてしまった!」

 ノライが慌ててそう叫ぶと、ミークが「何が不味いの?」と質問する。同じく慌て出したラミーが代わりに答える。

「ダンジョンコアが崩れると、ダンジョン全体も崩れてしまうのよ!」

「え?」

 ※※※

 高い天井から小さな石がコロンコロンと3人に当たる。少しして、ゴゴゴゴと大きな地響きが聞こえたかと思うと、落ちてきていた石が徐々に大きくなり、岩になって3人を襲った。

「とりあえずこの洞窟から出よう!」

「そ、そうね!」

 ノライとラミー、ミークはその岩を躱した後、急いで洞窟内から先程居た螺旋階段の所まで一旦戻る。間一髪、ダンジョンコアのあった30階層は、ゴゴゴゴという地響きを立て、そのまま全て崩れてしまった。

「……このダンジョンもそのうち崩れるわね」

 ラミーがそう言うが早く、早速螺旋階段がベキベキと大きな音を立て、そして根本がバキッと折れ、ドドーン、と大音響で倒れそのまま崩れてしまった。

「……ハハ、階段まで無くなっちゃったよ」

 ノライとラミーは共に諦めの表情を浮かべる。その間もゴゴゴゴという大きな音は途絶える事無く聞こえ、断続的に地響きも起こっている。

「これで終わりか……。最下層のここから地表まで相当距離がある。地表に戻るのは不可能だし」

「そうね……。もう私達、ここで死ぬのね」

 諦めの表情で呟くノライの言葉にラミーも溜息交じりに返す。その内、パラパラと上空から小石が落ちて来た。いよいよダンジョンが崩れる前兆だろう。

 コツン、と小さな小石が額に当たるのを気にせず、これから崩れていくであろう天井を見上げラミーは呟く。

「はあ……。好きな事して生きてきたつもりだけれど、1つだけ心残りがあるわ」

「心残りって?」

「それは……、その……」

 ノライがラミーの呟きに反応すると、途端にラミーは顔を赤らめ瞳が潤ませる。そしてラミーは顔を紅潮させたままノライを見つめる。そんなラミーの様子に、ノライはハッと気付く。

「そうか……。そうなんだ。ラミー、僕もきっと、同じ気持ちだよ」

 ノライはラミーの意図を汲み取った様で、そのままラミーの肩に手を置く。その行動にラミーはビクっと身体を震わせ顔を赤らめる。

「ラミー、僕は君の事……」

「はいはい! イチャイチャするのは後! さっさと脱出するよ!」

「「え?」」

 完全に2人の世界に入っていたノライとラミーは、その間すっかり存在を忘れていたミークに言葉を投げかけられ、現実に引き戻され、急に恥ずかしくなってお互い顔を真っ赤にしてささっと距離を取る。そして照れ隠しの様に2人がミークに声をかける。

「い、いや、ミーク。脱出なんて不可能だわ」

「そ、そんな事、出来る訳ないじゃないか。ここから地表までどれ位あると思ってるんだ?」

 2人の言葉にミークは天井を見上げ左目でサーチ。そして2人に向き合い答える。

「計測するならだけなら遠距離でもサーチで出来るから……。えーっと……、ここから1576.267mだって。うん、何とかなるって」

「な、何? その、メートルって……」

「長さの単位。大きな山1つ分位の高さって事だよ。とりあえず急がないといけないから、2人はこれに入って」

 そう言ってミークは腰に付けていたラビオリ型のシュラフを2つ共パン、と展開した。

「さ、入って。直ぐ眠くなるけど気にしないで」

「き、気にしないでって」

「ほら早く!」

 戸惑うラミーとノライを、ミークは半ば強引にシュラフに押し込む。即仮眠モードが発生し、あちこちで岩が落ちて来て大きな音がしている中、2人はシュラフの機能のお陰で直ぐ様眠りについた。

「これでよし。じゃあ行くか」

 そう言ってミークは、シュラフと皆の荷物を腰につけた小さな異空間ポシェットに放り込む。

「……さっきのノライとラミーのやり取り、まるで最後の私と望仁みたいだったな」

 さっきの2人のやり取りを思い出しクスっとつい笑みが溢れる。だが直ぐミークは気持ちを切り替える為、自身の頬をパンパンと、叩いて気合を入れる。

 絶え間なくドドーン、ガガーン、と大音響が響き渡っている中ミークは天井を見上げる。その瞬間、天井が割れその欠片の一部、巨大な岩の塊がミークの頭上に落ちて来た。

 だがそれを左手でドン、と一発拳を入れる。するとガガーン、と大きな音を立て、岩はミーク中心に真っ二つに割れた。

 それでもその後もどんどん天井の岩肌が落ちて来る。

「ドローンでバリアになって私を守って」

 ーー了解。ドローンにて広角膜ビームバリア形成ーー

 ミークがAIに指示すると、先程からオートで落ちて来る岩から逃げ回っていたドローン達が、10機ずつ2つに別れ編隊を組み10角形を形成した。そしてドローン同士でその隙間を埋める様に、薄く白いビームの膜が張られ、2つの巨大なビーム式バリアに変形した。それから2つの巨大ビームバリアはミークを両サイドから挟む様に包み込む。

 その後ミークは、左手から白いビーム球を生成。それを槍の様に尖らせ更に左腕を上空に突き出した。

「じゃあ行くよ」

 ーー了解。広角膜ビーム式バリア、オートメーションディフェンスーー

 AIからの返答を聞くと同時にミークはふわっと浮かび一気に30階層の天井まで飛び上がる。あちこちから岩や石が飛んでくるが、小さい物はバリアに当たる度ジュッ、と焼ける音がして消えていき、大きな岩はバシン、と弾いていく。

「よっと」

 軽い掛け声と共にフワリと浮き上がり、そしてまるでスーパーマンが空を飛ぶ時の様に、左腕を突き出し右腕は胸元に折りたたみ、ドン、と急発進しミークは上へと突き進み始める。

 まずは左手の槍型になったビームで30階層の天井を突き破る。当然その上の29階層も既に瓦礫で埋まっているが、それをものともせずミークは更に29階層もその瓦礫を貫きながら天井まで飛び突き破る。その間飛んで来る沢山の瓦礫や岩は、バリアがミークを周囲から守っている。こうしてミークは左手の槍型ビームでどんどん穴を開け地表に向かって突き進んだ。

 そうして1時間も経たない内に、ドン、と大きな音を立て、バリアと化したドローンと共に飛び出した。この1階層はダンジョン入り口直ぐの洞窟。ミークが最初にドローンを皆にお披露目した場所である。

「ふう。ここは崩れて無いみたいだね。じゃあバリア解除。ドローン達は私のポシェットに入って」

 AIが了解、と返事した後、ミークを守る様に包んでいたドローン達は、白いビームバリアをパッと消し、編隊を崩して各々ポシェットの中に入って行った。そしてミークは左手の槍型ビームを消した。

 ドローン達のバリアも解除した為、その白く光るビーム型盾で明るかったが、今は辺りは闇に包まれている。

「でもここも、直ぐ崩れるかも知れないね」

 入り口の方角だろう、薄明かりが見える箇所に、ミークは外に出ようとそちらに向かうと、

「流石だなミーク。まあ、ミークなら戻って来れるだろうって思ってたけどな」

 と、聞き覚えのある声が背後の闇の中から聞こえてきた。

「その声バルバだよね? 無事だったんだ。急に飛ばされてびっくりしたよ」

 ああ、と返事しながら近づく足音。ミークはバルバが無事だった事に安堵し、そして振り返って外に向かう。

 だがそこで、うなじに何か違和感を感じる。そして「契約」と言うバルバの声が微かに聞こえた。

「ん? 何?」

 外の明かりが差し込む入り口。少し明るくなり辺りの様子が見えるので、不思議に思ったミークが再度振り返ると、そこには嫌らしい笑みを浮かべたバルバの姿が目に映る。

 すると、

 突如、ミークの身体が急に脱力し、その場にうつ伏せで倒れた。
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