隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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最下層に到達するも……

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※※※

 支度を終え4人は16階層から下へ向かう。15階層で使用した光の球を、ミークは道中の明かりにしようと、光量を抑え左手に持っている。この先はファリスの冒険者含め、まだ誰も下りた事の無い階ではあるが、昨日の内に、既にミークの飛ばしたドローンが19階層まで捜索を終えている。やはり小さな蜘蛛以外は何も居ない。

 ミークは15階層で警備をしていたドローン20機を、その先の20階層以下に向かわせた。それから4人は警戒を怠らず、それぞれ荷物を背負いながら16階層に向かい始めた。

「20階層も何も居ない。罠は所々にあるけど、それも全部ドローンが処理してるし、とりあえず何か見つかるまで最下層まで捜索するね」

 ミークがそう言うと、3人は揃って不可解だ、と言う顔をする。

「何度かダンジョンは潜った事あるが、こんな事初めてだぜ」

「そうね。何も居ないなんて」

「寧ろ何か大きな事が起こる前兆じゃないかって気がしてきたよ」

 ノライの言葉に他の3人は頷く。そして尚の事警戒しながら、そのまま下へ進んでいった。

 そして歩みは遅いもののミーク達は25階層まで辿り着いた。丁度その時、「これちょっと見て」とミークが徐ろに左目でドローンからの映像を壁に映し出す。

「これがもしかしてダンジョンコアってやつじゃない?」

 ミークの目から映し出された物、それは等身大の大きな縦長の、紫色の宝石の様な石だった。それを見てバルバは「それがダンジョンコアで間違いねぇな」と答える。

「でもおかしいわね。本来はもっと色濃く無いかしら? 何というか、本来のダンジョンコアより薄い気がするわ」

「でもそれって壁に映ってるからそう見えるんじゃないかな? ねえミーク、これ何階層?」

 ノライの質問にミークが「30階層だよ」と答え、「じゃあこのダンジョンは30階層までだね。ダンジョンコアは最下層にあるって決まっているから」とノライは返す。

「で、やっぱり何も居ねぇのか?」

「このダンジョンコアを見つけた所で中の捜索は一旦止めてるけど、今のとこは小さな蜘蛛が居るだけ。このダンジョンコアのある30階層の更に奥の方、大きな空間があるみたいだけど、そっちまではまだ捜索してないよ」

 ミークの回答にバルバは顎に手を当て考え込む。

「どうしたのかしら?」

「なあ、その先は俺等が直接確認しねぇか? ミーク、その虫みたいなの一旦引っ込められるか?」

「良いけど? でも奥も捜索させても良くない?」

 その疑問に、バルバの意図を汲み取った様で、ノライが代わりにミークの肩に手をポンと置いて説明する。

「バルバは折角気合入れてダンジョンにやってきたのに、何もしてない事が物足りないんだよ。かく言う僕も同じ気持ちさ。今だって最下層なのに魔族どころか魔物が一切居ない。確か最下層ってコアを守ってるボスみたいな魔物が居る筈。でもそれも見当たらないんだよね? その上罠も全部処理されてしまっている。このままミーク1人で全部やっちゃったら、僕達がここに来た意味が無くなるじゃないか」

「その気持ち凄く良く分かるわ。ダンジョン踏破なのにこのまま何もせず何も得ず帰るなんて。ゴールドランクとしても気分良くないもの。後ノライ、ミークの肩に置いているその手、さっさと離しなさいよ」

 ラミーがそう言って一睨みすると、はいはい、と両手を上げるノライ。そんなラミーにミークはクスっと笑う。

「な、何よ」

「んーん、別に。まあとりあえず言ってる事は分かったよ。じゃあドローン達戻って来させるね」

 ミークがそう言うと、少しして20機の羽虫の様な超小型ドローンが、全てミーク達の元にやって来て、そして彼等の頭上でふよふよと浮いた。

「魔素全然感じないのに浮いているの本当に不思議だわ。生き物って訳でも無いのよね」

 改めてラミーが感心しながらドローンを見上げる。ミークが「まあ時間があったら詳しく説明しても良いよ」と伝えた。

「フフ、そうね。じゃあダンジョン捜索終わったら聞こうかしら」

「良いよ。なら私もラミーがこれまで経験してきた冒険の話とか聞きたいな」

 勿論、と、女性2人はにこやかに会話している。当初喧嘩腰だったラミーと、それを意に介さないミーク。ずっと仲が悪いかと思いきや、ここ2日でどうやらお互い心を開いている模様。そんな2人の様子に、男2人は揃って首を傾げた。

「ま、とりあえず30階層の奥、行ってみようぜ」

 バルバの言葉に皆は頷いた。

※※※

 29階層から30階層に降りる場所は螺旋階段になっていた。その階段の幅はとても狭く、踏みしめた際階段の角がガラガラと崩れる程に脆い。暫く誰も使っていないからだろう。そして下は暗くて見えないが相当高いのは何となく感覚で分かる。もし踏み外して落ちてしまえば、大怪我は間違い無いだろう。

 そんな中、警戒を怠らず各々武器を手に握りながらゆっくり下へ向かう4人。途中、沢山の矢が刺さっていたり、蔦が螺旋階段の真ん中に巻き付いていたり、他に植物の大きな針が壁のあちこちに刺さっているのが見て取れた。全てドローンが処理した罠の跡である。

「こんな狭くて足場の悪い所で罠や魔物が居たら、かなり大変だったね」

「本当ね。ミーク様々よ」

「違いねぇ。だが正直物足りねぇぜ」

 バルバが面白く無さそうにそう零すと、ノライが「まあ安全が一番大事だから」と諭した。

 そして4人は最下層に辿り着く。螺旋階段は200段程はあり、慎重に下りて来た事もあって、最下層までは1時間以上はかかった。そして目の前には高さ5m程の大きな穴。ここがどうやらダンジョンコアのある部屋の様だ。

 早速ミークは左目でサーチを開始。ラミーも魔素を探知しようと目を凝らす。

「うーん……。ダンジョンコア以外奥にも何も居ないね。おかしいなあ。ダンジョン入る前は確かに魔族が居たんだけど」

「私も魔素感知やってみたけれど、ダンジョンコア以外は何も感じないわね。ミークがダンジョン入る前、魔族って何階層に居たのか分かるかしら?」

「確か2階層。地上からはそれ以上の地下のサーチは出来なかった。だからその後、どんどん下に潜って行ったと思ってたんだけどね」

「とにかく何も居ないんだよね? じゃあ行ってみようか」

「おっと待った! 俺が一番乗りだぜ」

 ノライが先に入ろうとした所で、バルバが待ったをかけ勝手に先にズカズカと中に入って行った。3人は呆れた様子で顔を見合わせ、遅れてバルバの後に付いて中に入っていった。

 そこはこれまで見た中で最も大きいであろう、とても大きな空洞だった。天井は20mはあろうか。縦横は100mは下らない広さ。

 しかも中は明るい。どうやらダンジョンコアが光を発している為と思われる。なのでミークはずっと左手で掲げていた、白い光の球を小さく収束さえ消し去った。

「バルバ、1人でダンジョンコアの後ろまで行ってしまったわ」

「しかも荷物背負ったままで行っちゃったね。僕達は螺旋階段の所に荷物置いて来たけど。にしても警戒心無さすぎだよね」

「とにかく私達も行ってみようか。この先は私も見てないから何があるか分からない。一応警戒はしとこう」

 ミークの言葉に2人は頷き、先に行ってしまったバルバの後を追う様に、慎重にダンジョンコアの裏側まで歩いた。

 するとそこにはダンジョンコアの近くで1人、バルバが佇んでいる。手には剣ではなく何やら筒状の物をもっていた。

「バルバ? 何をしているのかしら?」 

 バルバの様子を不思議に思いながらラミーがふと地面を見ると、丁度バルバが立っている真下の地面に、魔法陣が描かれているのを見つけた。ノライとミークもそれに気付く。

「これ何かしら? 地面に魔法陣? 珍しいわね」

 そう呟きながらラミーは顎に手を当てしげしげと魔法陣を調べ始める。

 すると、

「そりゃあ転移の魔法陣だ」

 魔法使いではないバルバがラミーより先に話す。それに驚いたラミーは顔を上げる。

「転移の魔法陣ですって? そんな高度な魔法陣、普通描けないし相当な魔素使用するわよ? いやそもそも、バルバが何でこの魔法陣の事分かったのかしら?」

 バルバはそれに答えず、先程から持っていた筒をダンジョンコアにコツンと当てる。すると、キィィィン、と金属が重なりあった様な大きな音が洞窟内に反響し、突如ピシ、とダンジョンコアに亀裂が走った。

「え? ダンジョンコアが……」

「ど、どういう事なのかしら?」

「何が起こったの?」

 ミーク含め3人が驚いていると、いきなりそこに居た筈のバルバの姿が、シュン、と音も無く消えた。
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