隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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スルーを頑張る3人

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 ※※※

 中に入ると陽の光を入れる様な穴等なく真っ暗だった。なので当然換気もされておらず、湿った空気を肌に感じ、苔むした植物の匂いが鼻をつく。少しして目が慣れてくると、かなりの広さである事が朧げに分かる。縦横30mはあろうか。見上げてみると天井の高さは15mといった所。

「どうやらちゃんと人払いはしてくれている様だね」

 ノライの言う通り、普段は冒険者が引っ切り無しに出入りするであろうダンジョンだが、「今日から10日間は調査の為入る事を禁止する」、と既にラルがギルドにて通達してくれている為か冒険者の姿は無い。更に現在潜っている冒険者も居ないと確認も取れているので、今ダンジョンにはこの4人だけである。

「しかしこれじゃ見えないね」

 ミークはそう言うと、徐ろに左手を上に開く。ブン、と何やら微かに電子音が鳴ったかと思うと、その手のひらの上にソフトボール大の白い光の球を生成した。そしてそれはゆっくりと天井高くまで上昇していく。上の壁にぶつかるギリギリの所で停止すると、その白い球はそこで更に輝きを増す。すると中全体が一気に明るくなった。

「「「……」」」

「よし。これで見える様になった。早速準備するね」

 呆気にとられながらその眩い光の球を見上げている3人を気にする事も無く、ミークはガサゴソとリュックの中を探り始める。だがバルバがハッと我に返り、白い球を指差しミークに質問する。

「おいミーク。あれ何だ?」

「え? 灯りだけど?」

「そんな事分かってるわよ! そうじゃないでしょ! あれの正体は何なのって聞いてるのよ!」

 突如怒鳴りだすラミーに、何で怒っているんだろう? ミークは首を捻るも「さっき説明した通り、科学の力で生成した光だと思ってて下さい。特に危険はないんで」と答える。

「僕は事前に色々見聞きしてたけど、それでも相変わらず規格外だね」

 ノライが呆れながら呟く。それを聞いたミークは溜息混じりに「これからもっと色んな事やるのに。この程度で騒がれると先が思いやられるなあ」と嘆く。

「カガク? それって一体何なのよ!? 魔法じゃないのに明かりですって? リュックまさぐってないで答えなさいよ!」

 未だ納得がいかず苛立つ様子のラミーをノライが諫める。

「まあまあ。ミークが言うには特に害は無いらしいし、とりあえず様子見ようよ」

 バルバも未だ上を見上げつつ呆れながら頭を掻く。

「ミークが言う通り、やっぱり別の世界から来たってのは本当なのかもな」

 ミークとしてはただビーム光を応用し灯りを作っただけ。なのにそれだけでこの3人はこんなにも驚いている。その様子を見しながらミークは「だから1人で来たかったんだよなあ」と小さい声で零した。


 ※※※

「……ねえ。これもスルーするのよね?」

「そうだね。スルー頑張ろうか」

「スルーを頑張るって……。スルーってのは努力してするもんなのか?」

 3人がまたも呆気に取られながら、目の前の現象について突っ込まない様、必死でスルーしようとしている。

 今、ミークを含めた4人の眼の前には、羽虫程度の大きさの、縦横1cm程度の小さな正方形をかたどった物体が20機、音も無く浮遊している。

 これはミークが指示し衛星から運んで貰った物の1つで、ステルス機能付き超小型ドローンである。反重力装置で浮遊しビーム攻撃も可能。但しミークの左腕の様に、魔素をエネルギーに変換する事は出来ない。衛星による太陽光発電を利用した電気エネルギーなので、充電が無くなり次第使用不可となってしまう。

 それでも1ヶ月は持つ程の蓄電機能を備えている。因みにその小さなボディはチタニウムとタングステンを化学合成した超硬度物質。ちょっとやそっとじゃ壊れない代物。更にドローンにはマイクロカメラが付いており、撮影した映像はリアルタイムでミークの脳内に送信される。通信機能も付いているので、各ドローンが中継機となり、最奥まで飛んで行ったドローンの映像までも確認する事が可能。

 ミークは初めて使うこのドローン達の使用確認を、3人がいる前で行い始める。AI経由でミークが20機の内1機に指示。するとスッとその1機が集団の中から離れる。そして洞窟入り口の中を音も無く右往左往し、ピタ、と止まったかと思うと、突如ミークの紅色の左目からパッと洞窟の壁に映像が映し出された。

 突如壁に何かしら絵? が映り、ビクっと反応する3人。だがミークは彼等の様子を気にせず淡々と作業を進める。

「ふむ。映像もクリアだね。各ドローン同士の通信状況も良好。これなら大丈夫」

 少しホッとしたミークが「よし。んじゃいってらっしゃい」と言うと、20機のドローンは一斉に洞窟奥へ飛んで行った。

 ラミーが恐る恐ると言う様子でミークに質問する。

「ねえ。あの虫みたいなの、洞窟の中に飛んで行ったけど、一体何したのかしら?」

「ダンジョン内の捜索に行って貰ったんです」

「は? 意味が分からないのだけど」

 ラミーが怪訝な顔でそう言うので、ミークはその証明とばかりに、先程同様、虹色の左目から壁に映写する。すると先頭のドローンからの映像がそこに映った。

「こんな感じで私に情報を送ってくれるんです」

「「「……」」」

 ラミー同様他2人も映像を見て呆気に取られ言葉が出ない。だがミークの様子を見ていて、さっきの羽虫の様な飛翔物体が、ダンジョンを見て回る機能があるのだろう、と何となく理解はした3人。だがそこで、バルバはとある疑問が浮かびミークに質問する。

「てかミークって、ダンジョン入り口の前ん時みたいに、何処に魔物が居るのか把握出来るんじゃねぇのか?」

 バルバの問いに「それには限界があるんだ」と、ミークは答える。

「地下でも浅い層ならある程度サーチは使えるけど、ここはもっと深いから私の左目のサーチ機能じゃ届かない。だからさっき飛ばしたドローンで調査しようかと。でもドローン達は魔素を感知出来ないから、直接行って貰って確認するって事だよ」

「説明されてもいまいち理解出来ねぇが、ミークも万能じゃねぇって事か」

 そういう事、とミークは答えた後、近くの少し出っ張った石に腰掛けリュックの中を探り始めた。

「あ。何か情報得たら教えるので。ゆっくりしてて」

 ミークは3人にそう声をかけ、リュックから10cm角の正方形で薄っぺらい、ジップロックで閉じられたビニールパックを取り出した。チャックを開けるとプシュ、と空気の抜ける音と共に、みるみるうちに中に入っていた物が大きく膨らんだ。

 その正体は先日ミークが狩った一角猪の肉。既に味付け調理済の様で、ミークは「ふんふふ~ん」と鼻歌交じりに、一緒に取り出したスキレットの上のその肉の塊を置き、腰のポシェットから火の魔石を取り出し焼き始めた。

 因みに超小型真空パックも、ミークが衛星から取り寄せた機材によって作られた物。ある程度の大きさの食材でも、この様に圧縮して薄く小さな真空パックに出来るのである。食材の消費期限は1年程度。そうやって保存食にした様々な食材を、ミークは100食程持参していた。

 早く出来ないかな~、と呑気な様子で一角猪の肉を焼いているミークを、3人はその肉の焼ける洞窟内に広がる香ばしい匂いを感じながらずっと立ち竦んで見ている。だがラミーがハッと我を取り戻し、絞り出す様にミークに声をかける。

「……何を、やってるのかしら?」

 ラミーの問いかけにミークが「お腹空いたんで食べようかと。 あ、要ります?」と、自分のだけ用意していた事に気が付き、別のジップロックを取り出そうとすると、

「違うわよ! そうじゃないわよ!」

「うわ! 急に大きい声出すからびっくりした!」

 突然ラミーが苛々しながら怒鳴り、それに驚くミーク。そんな2人の様子を見ながら、ずっと呆れた表情のままのノライがミークに努めて冷静に質問する。

「ねえミーク。僕達確か、ダンジョン捜索に来てるんだよね?」

「うん。だからさっきドローン飛ばしたよ?」

「さっきの虫みたいな? どろーん? だっけ? それが捜索してくれる……。あ、うん……」

 それ以上言葉が出てこないノライに変わって、バルバが頭をガシガシ掻き呆れながら呟く。

「俺の知ってるダンジョン捜索じゃねぇ……」
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