隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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ダンジョン前まで来たけどまだ信用されてなかった

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 ※※※

 ギルドにて顔合わせしてから3日目の朝。ミーク、バルバ、ラミー、ノライの4人はファリスの門の前に集まっていた。これからダンジョン捜索に向かう為である。踏破した事の無いダンジョンで、しかも何処に魔族が潜んでいるかも分からないので、とりあえず10日程度探索して、それ以上になるなら各自判断の上、必要なら戻って来る様に、と事前に4人はラルから言伝されていた。

 よってそれぞれ、寝泊まりの準備や食料の調達具、更にポーション等を持って来ている為、皆背中に大きなリュックを背負っていた。因みにノライは流石に燕尾服でダンジョンに潜る訳にはいかないので、革製の分厚い胸当てと腰当、そして革製のレッグガードを付け、両腰にダガーを携えた、動きやすいながらもそれなりの装備を身に着けて来ている。

 ミークは異次元収納が付いた小さなポシェットがあるので、本来はそこまで大きな荷物を背負う必要は無いのだが、ジャミーに言われた様に余り人に知られない方が良いと判断し、ポシェットには見かけ通りの量の、ポーションや魔石のみを入れていた。

「……で、ミークのは何なの?」

 それでもラミーはミークが身に着けている、とある物が気になり怪訝な顔で質問をする。ラミーの言うとは、ミークの両腰にぶら下がっている、ラビオリの様な形をした、中央の盛り上がった部分は透明の、縦横50cm位の正方形の鉄板を2枚の事。一見UFOの様なそのフォルム、当然誰も見た事も無い、その武器とも防具とも取れる不思議な物を、ラミーが気になって質問するのは仕方無いだろう。

 だがミークは、「必要になったら分かります」とだけ答えた。その回答にラミーはイラっとする。

「何で説明出来ないの? 一時的とは言えパーティなのよ? 教えてくれても良いじゃない!」

 そうミークに突っかかるラミー。それをノライが「まあまあ」と制する。

「必要になったら分かる、って言ってるから良いじゃないか。どうせそれ使うんだよな? ミーク」

 ノライに質問され「うん。きっと使うよ」と答えるミーク。そして「ラミーさんもね」と付け加えた。

「はあ? 私も?」

 素っ頓狂な声を出すラミー。「まあ俺も気になるが、後で分かるならそれで良いんじゃね? それよりさっさと行こうぜ」とバルバが言うと、ラミーは渋々と言った表情で、大きな木製の杖を振り上げた。

「ウインドブーツ」

 ラミーがそう詠唱すると、各々の足元に小さな竜巻の様な風が纏わり付き、皆フワリと地面から約10cm程度かび上がった。

「おおー。凄い! こんな感じの魔法なんだ」

 無邪気に歓声を上げるミークに、「あなた魔法知らないの?」と呆れた様子のラミー。

「魔法自体は知ってるけど、自分がかけられるの初めてだったので」

 ミークの返事に「あっそ」とラミーは無愛想に答える。

「とにかく普通に走る感じで足を進めれば良いから。森の中走るより速いから気をつけなさい」

 そう言うと使い方を教えるかの様に、率先して飛び出したラミー。続いて何度もラミーとパーティを組んだ事があるバルバが慣れた様子で後に続く。だがミークはそうやって次々空を飛んで行く2人を見ながら首を傾げる。それに気付いたノライが「どうしたの?」と質問する。

「空飛ぶのって珍しいんじゃなかったっけ?」

 この町に初めて来た時、襲って来た盗賊達が、自分が浮いた時とても驚いていたのを思い出す。その疑問にノライが答える。

「空中を移動する魔法は扱いが非常に難しいから、普通の魔法使いは使えないんだ。きっと盗賊達は高レベルの魔法使いを知らなかったんだろう。でもラミーは高レベルの魔法使い。そもそもゴールドランクの魔法使い自体、相当珍しいんだよ」

 成る程そうなんだ、とノライの説明を聞いて納得するミーク。「じゃ、僕達も行こうか」とノライは先に空中に飛び出す。ミークも見様見真似で空に歩みを進めると、フワリと空の中に浮かんだ。

「へー、面白い。本当に空を歩いてる感じだ」

 そして他の3人に追いつこうと空で駆け足を始める。するとグングンスピードが上がっていった。初めて感じる魔法の感覚。それを楽しむかの様に皆を追いかける。そうやって4人は迷いの森の真上を飛んで行く。

「ま、私はこういうの別に要らないんだけどね」

 と呟きながらも、初めてかけられた魔法を楽しむかの様に、皆の様子を見様見真似で後を追うミーク。そして10分も経たないうちに目的地であるダンジョン前に到着した。

 フワリと地面に降り立つ4人。すると足元を包んでいた風が霧散した。

「で、どうだ? 何か感じるか?」

 バルバが早速ラミーに確認する。それを聞いてラミーは洞窟の入り口をじっと見つめる。

「……どうかしら? 膨大な魔素を感じるけれど、それはダンジョンだから、かも知れない」

「ミークはどう? 何か分かる?」

 ノライがそう聞くと「うん。以前より魔素が濃くなった状態で潜んでると思う。ただ地下だから正確な場所は分からないかな」と答えた。それを聞いたラミーがキッとミークを睨む。

「だから何で魔素持ってないあなたが分かる訳? 嘘吐いているんじゃないのかしら?」

「そうだな。ミークが嘘吐いている可能性は否めない。ダンジョンは危険なとこだし、魔素感知出来るっての、ここで証明してくれ」

 敵対心満載で高圧的に話してくるラミーと、そしてそれを証明して欲しいと言うバルバ。ミークは顎に手を当て少し考えた後、ダンジョン入り口とは真逆の森の方角に顔を向ける。

「あそことあそこ。フォレストウルフが2匹潜んでる」

「へぇ」

 ミークが指し示したのはダンジョンの入り口から50mは離れた場所。それを聞いたバルバが疾風の如くその場所に、まるで飛ぶ様に走って行った。少しして、バシュバシュ、と何かを斬る音が遠くで聞こえたかと思うと、バルバは2匹のフォレストウルフの首を持って戻ってきた。

「ミークの言う通りだった。確かに2匹フォレストウルフが居たぞ」

「……嘘」

 信じられない、といった表情のラミー。ゴールドランクの魔法使いであるラミーも当然魔素を感知する事は出来る。だがそこに何の魔物が居るのかまでは正確には分からない。

 勿論経験を積み重ねれば、ある程度感覚で何の魔物か「予想」は出来る様にはなれるだろう。だがミークはフォレストウルフが居る、と言い切ったのだ。

 そこまで正確な感知が出来るのは、それこそ人類で最も魔素を持っているとされる王族だろうか。無論本来、魔素を持たない人間に出来る芸当では無い。それがこの世界の常識である。なのにこの魔素を持たない、魔法が使えないミークにはそれが出来てしまった。その非常識を今、ラミーは目の当たりにしたのだ。

「……」

 なので理解が追いつかず、ラミーは顔を強張らせ言葉を失う。

 これまで男に負けじと必死になって研鑽を進め学習してきたラミー。自身も遠縁とは言え王族の血を継いでいるので、魔法使いになれる素質を持っている事は幼い頃から分かっていた。そして町に残って欲しいジャミーと意見がぶつかり大喧嘩にまで発展してしまい、意を決して故郷を捨てる覚悟で家出をし、日々一心不乱に魔法の研究を行い、相当な努力をして漸くゴールドランクにまで駆け昇ったのである。先程ノライが言っていた通り、魔法使いがゴールドランクになるなんて相当稀。それだけ頑張ってきたという自負がある。

 だが、今目の前で起こった現象は、自身のこれまでの全てを否定された様な衝撃。

 無表情のまま、無意識に目に涙が貯まるラミー。そんな彼女の様子を見て、ミークは申し訳無さを感じる。なので正直に自身の出自を語る事にした。

「えーっと。信じて貰えるかどうか分からないけど、私、別の世界から来た人間なんです」

 ミークの言葉に反応したラミーが質問する。

「別の……、世界? どういう事?」

「んー。理由はともかく、私はこの世界では余り発展してない科学の力を持ってて、それを応用したのがさっきの魔素感知だったりします。まあ私が元居た世界でも、私の能力は特殊だったんです。サイボーグって言うんだけど」

「さい、ぼーぐ?」

 ミークの言葉を理解しようとするも未だ理解が追いつかないラミーに「そういやミークってゴーレムの機能が身体にあるんだって言ってたよね」とノライが付け加える。

「そう思っといてくれてたら」と答えると、バルバが「成る程な」と納得いった顔で呟く。

「ミークの不思議な能力の正体は、ゴーレムみたいな無機質な力が身体に宿ってる。そう理解しとけば良いんだな? この間俺の必殺の一撃を難なく受け止めたのも、その奇怪な左腕が生身じゃなく、ゴーレムの腕みたいなもんだったから、そういう事か?」

 バルバが念押しの様に聞くとミークは「それで良い」と答えた。

「ゴーレムの能力が身体に宿ってる? そんな事可能なのかしら? でも誰かが検証した訳じゃないけど、出来ない事も無いのかも知れないわね……」

 話を聞いてラミーが何やらブツブツ言いながら考え込む。だがその思考を切る様に、バルバが声を上げる。

「ま、ミークの言ってる事は嘘では無さそうだし、とりあえずダンジョン入ろうぜ」

 バルバはずっとブツブツ言っているラミーの背中をポン、と叩き、先にダンジョンの中に入って行った。その後にミークも続く。そういやダンジョン入るの初めてだ、と若干ワクワクしながら。そしてノライが「行こうか」とラミーの手を掴み引っ張ると、途端に我に返り赤面しながら「わ、分かったわ」と2人で中に入って行った。
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