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ゴールドランクはならず者っぽい

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 ※※※

 カイトとリケルはその後も門番の任務に就かなければならないので、2人は警備隊に急ぎ連絡し、結果行商の一行は警備隊長サーシェクと数人の警備隊員がギルドへ連れて行く事になった。

 馬車の列が門をくぐり中に入る。町の真ん中を渡る大通りを闊歩する短い馬車の列を、興味津々に遠巻きで見ている町の人達。普段娯楽の無いファリスの町の人々にとっては、行商が来るだけでも大きなイベント。その為皆好奇の視線を送っている。特に最後尾の、無駄に豪奢な馬車はやはり目を引く様で、アレは一体何なのだろうか? 町長が新たに購入した馬車? 等々、ヒソヒソと話し合っている。

 そんな、歩く速さで闊歩する先頭の馬車の横を、面倒臭そうな顔で歩くバルバに、反対を歩きながら、何か商売のネタが無いかと貪欲に町中をキョロキョロ見ている商人イグリス、そして先頭を歩くサーシェクの隣にはラミーが共に歩いていた。

「久しぶりね。相変わらず男前だこと」

 退屈を紛らわす為話しかけるラミーに対し、サーシェクはニコリと笑顔を返す。

「そういうラミーも美人になったね。確かファリスを飛び出したのはまだ10歳を過ぎた辺りだったよね? あの女の子が見た目麗しい女性になるとはね」

「そうかしら」

 フッと笑みを浮かべラミーがそう答えると、サーシェク「そうだよ」と再び微笑み返す。単なる顔見知りが手持ち無沙汰に交わす何の気も無い会話。それを傍でみていたバルバは、何やら面白くなさそうに「ケッ」と舌打ちをした。

 ややもすると馬車の一行はギルド前に到着した。前にある大広場には遠巻きながらもファリスの人達が野次馬となって集まっていた。行商が来るのは久々なので、なにか珍しい品が持ち込まれたかも知れない、という期待をしている模様。

 そんな野次馬を気にする事なく、サーシェクが一行を一旦ギルド前に待機させ先に中に入り、少しして直ぐ出てきた。馬車は警備隊員達が管理するのでそのままに、とサーシェクは皆にそう伝えてから中に誘う。そして御者以外は皆ギルドに入って行った。

 時間にして昼過ぎあであった為冒険者は1人も居ないが、ネミル含めた受付嬢3人が作業をしていた。そして一行が中に入ると「「「お疲れ様です」」」と揃って挨拶をした。

 そんなネミル達を「へ~ぇ」と嫌らしい目つきで睨める様に見るバルバ。突如、スッとネミルの前に移動しクイと手で顎を持ち上げた。

「な、何ですか?」

 いきなりの事に当然驚くネミル。他の皆も突然の事に呆気に取られている。

「お前えらく美人じゃねぇか。こんな辺鄙な田舎にもいい女は居るんだな。よし。俺様がここに居る間、お前俺の女になれ」

 バルバの言葉に一同「「「「はあ?」」」」と揃って声を上げる。だが直ぐ行動を起こしたのはサーシェク。ネミルの顎に手を当てていたバルバの腕を掴み引き離す。

「初めて会った相手に失礼が過ぎるんじゃないか?」

 その声色は低く怒気を孕んでいる。バルバに睨みつけるサーシェク。腕を掴まれていたバルバは、バッとそれを引き離しサーシェクを睨み返す。

「俺はもう直ぐプラチナランクになるゴールドランクのバルバ様だぞ? 俺に逆らって良いと思ってんのか?」

「逆らったんじゃない。その行動と言動が失礼だと言っているんだ」

「お前さあ、耳無ぇのか? 俺はゴールドランクなの。分かる? もう直ぐプラチナランクになる予定のな」

「だから何なんだ?」

 サーシェクがそう返事した途端、ドン、と大きな音がギルド内に響いた。同時にサーシェクの体が吹っ飛び、以前修復したばかりのギルドの壁の穴に激突、そのまま突き破ってサーシェクは大広場まで飛んだ。バルバがサーシェクの腹を殴ったのだ。

「グッ……、ガハッ!」

 余りの威力とスピードに全く反応出来なかったサーシェク。警備中の為鎧を身に着けていたサーシェクだったが、鎧の腹の部分が拳の形に陥没する程の威力にサーシェクはその場で吐血する。ネミルが血相を変え「サーシェク!」と叫び外へ駆け出そうとするが、「おおっと」とバルバがネミルの腕を掴みそれを阻んだ。

「は、離しなさい!」

 ジタバタして何とか逃れようとするネミルだが、当然ながら全く動じないバルバ。寧ろその暴れる様子を見てニヤニヤしている。

「反抗的ないい女ってのも乙だなあ。さっき言った通りお前は俺の女だ。勝手に行動する事は許さねぇ」

 そう言いながらネミルを片腕で持ち上げる。「い、痛い!」腕を引っ張り上げられ中を浮くネミル。受付嬢の2人が引き離そうとバルバの腕を引っ張り始める。

「ちょっとあんた! 何やってんのよ!」

「ネミルを離しなさい!」

 だが、「お前らも中々いい女だな。流石受付嬢といったところか。こいつに飽きたらお前らも相手してやるから心配すんな」とニヤニヤしながら言った後、空いたもう一方の手で、2人をバン、バン、と叩いて突き飛ばした。

「ウッ」「アウッ」

 ダン、と大きな音を立て2人は壁に激突しそのままと気絶してしまう。それを見てネミルは宙ぶらりんにされたまま怒りの表情を浮かべ「受付嬢にそんな事してタダで済むと思ってるの!?」と叫ぶも、バルバは「こんな田舎で何が出来るんだ?」とネミルの忠告を気にもせずニヤニヤを崩さない。

 だがそこでいきなり、ゴン、と鈍い音がギルド内に響き渡る。「うがあ!」とバルバが大声で叫び頭を抱えその場に蹲る。同時に掴んでいたネミルの腕が離れる。ネミルはこの隙に、引っ張り上げられて腕の痛みを抑えながらバルバから距離を取った。

「無駄に揉め事起こさないでほしいのだけど?」

 声の主はラミー。持っていた大きな杖でバルバの頭を小突いたのだ。ただの木の杖の筈なのに、まるで重い鈍器で殴られた様にバルバは未だ頭を抱えている。

「おいこらラミー! 杖に魔法かけて俺を殴るな!」

「あなたが騒ぎを起こすからでしょ? 一応ここは私の故郷なのよ。そのネミルも受付嬢のあの2人も顔見知りなの。仕事がやりにくくなるから余計な事しないでくれない?」

 蔑みの目で見下ろすラミーに対し、バルバは「俺じゃなかったら死んでたぞ」と、悪態を吐きながら頭を撫でつつ立ち上がる。

「とりあえず、サーシェクが飛ばされて空いちゃったそこの壁の穴、バルバが弁償しなさいよ」

「はあ? 何で俺が?」

「バルバがやったからでしょ?」

 何当たり前の事を言ってるの? と言わんばかりの口調だがその顔は無表情。バルバは「ケッ!」と舌打ちするも返事はしない。

 その間、ネミルは痛む腕を抑えながら、外に飛ばされたサーシェクの元に駆けて行く。ラミーはそれを空いた穴から見つつ「はあ……」とまたもため息を吐きバルバを再度一睨み。

「本当、何処へ行っても問題起こすわね」

「うるせぇ。冒険者稼業は実力がモノを言うんだ。強さこそ正義なんだよ。だから俺が何処で何しようが問題無ぇだろ」

「そんな話王都でさえ聞いた事無いわよ。そもそもその理屈が通ったとしても、それは同じ冒険者同士だけでしょ?」

 一方ずっと傍でオロオロしながら状況を見ていた商人イグリスだったが、ラミーとバルバが言い合いしているこの隙に、受付嬢2人の元へ駆け寄り介抱し始めた。どうやら2人共軽症の様なので、イグリスは壁にもたれ掛かっている2人をそっと床に並べて寝かせた。

 そこで「一体何の騒ぎだ?」と、2階からラルが降りてきた。

「さっきからずっと上で待ってたんだが、矢鱈騒々しいからから来ちまったよ。……って、何でまた壁に穴が空いてんだ? ……おい。何で受付の2人がのびてんだ?」

 受付嬢の様子を見て目付きが鋭くなるラル。対して、ラミーは呑気に「あら、ラルじゃない。久しぶりね」と普通に声を掛けてきた。

「ギルド長になったって本当だったのね。ラル」

「そういうお前は……、おお? ラミーか? 久々だな。帰って来たのか」

「そうなのよ。魔族の件とかゴールドランク級の魔物の件とか、その他諸々確認する為にね。ついで辺境伯領寄った際、そこからここまでの商人の護衛もね」

 商人、と言う言葉がラミーから出てきたので、それらしき人物をチラ見するラル。視線に気付いたイグリスはベレー帽を取り会釈した。

「成る程。て事は、今回こっちの要請でやって来たゴールドランクってラミーだったのか」

「そうよ。それと壁の穴空けて受付嬢を気絶させた、おさ騒がせの彼もよ」

 そう言って目配せでバルバの方を見るラミー。バルバは不機嫌そうにそっぽを向いた。

 ※※※

「よお。バルバだっけ? お前何やってんの?」

「……」

「おいこら。返事位したらどうだ」

「ケッ」

「ケッ、じゃねぇだろ。後でちゃんとサーシェクとネミルに謝っとけよ。勿論受付の2人にもな。それとも何か? お前は謝罪の意味が判らないゴブリンと同じって事か?」

「んだと? 俺より弱い癖に偉そうにしやがって」

「俺の方が偉いんだから当然だろ。田舎とは言え俺はここのギルド長だ。お前は単なる冒険者。それがゴールドランクであったとしても関係無ぇ。強さだけで上下決まるってんなら、お前は王様より偉いってなるが?」

「この野郎……」

 ラルの正論に言い返せないバルバ。ギロリと睨みつけるもラル全く動じない。自身の理屈が通らない事に苛立つのを抑えるかの様に拳に力を込める。その様子を見てラルは大きな溜息を吐く。

「まだ反抗的な態度をとるのか? これ以上騒ぎを起こしたら王都のギルドに報告する事になるぞ? 冒険者登録は剥奪されるだろうなあ? てか、ファリスのギルドの受付嬢と警備隊長に対しての暴行罪で訴えたって良いんだぞ? ネミルやサーシェク、そして受付の2人は謝罪すれば矛を収めるって言ってくれてんだ。寧ろあいつらの寛大な配慮に感謝すべきだろうが」

「バルバ。どう考えても分が悪いわよ」

 更にラミーからもそう言われ、バルバは渋々ながらも、既に起き上がりギルド内に戻りポーションを処方し回復しているサーシェクと、その傍らに居ながらずっと睨んでいるネミル、そして受付嬢の2人に「悪かったよ」と頭を下げた。

 ラルはサーシェク達それぞれを見てみる。全員納得はしていないが揉めない様努めようと我慢している様に見える。なのでラルは確認の為質問した。

「皆これで良いか?」

「……」

 サーシェクは自分が殴られた事より、ネミルに手出しした事が許せなかった。だからラルからそう聞かれた時ネミルをチラっと見る。ネミルは視線を受け取り黙ってコクリと頷いた。それを見てサーシェクは「はあ……」と溜息を吐く。

「遠路遥々王都からこんな田舎にやって来たのは大事な用があるからだろ? つまらない諍いで王都からの依頼を止めさせるのも何だしね。ネミルが良いならもう良いよ」

「そうね。凄く腹が立つし二度と顔も見たく無いけど、サーシェクが良いなら良いわよ」

 お互いが赦すなら構わない、と図らずも同じ答えになり2人はハッとして顔を見合わせるも、直ぐ顔を背け2人して頬を赤くする。

 ラルは受付嬢の2人にも聞く。彼女達も一番の被害者であるサーシェクとネミルが良いなら構わない、との答えだった。そしてラルはバルバに顔を向ける。

「良かったな。皆赦してくれるそうだ。だが、これ以上この町で余計な騒ぎ起こしてみろ。その時こそ王都に報告するからな」

「チッ、分かったよ」

 不貞腐れながらも了承するバルバの様子に、一同揃って溜息が漏れた。ゴホン、とラルが仕切り直しに咳払いをする。そしてギルドまで案内してくれたサーシェクに「もう戻ってくれて良いぞ」と告げると、サーシェクはまた後で、と手を挙げた後、バルバを一睨みしてから1人ギルドから出て行った。

「ま、とにかく、遠い所から良く来たな。商人も居る事だし、先ずはゴールドランク級の魔物の素材を見て貰うとするか。2階の俺の部屋に戻るのも面倒だしここでお披露目するとしよう。冒険者も居ない事だしな。ネミル、早速持って来てくれ」

 ラルの指示に分かりました、と答えた後、サーシェクと同じ様にバルバを一睨みしてからネミルは奥の倉庫へ向かって行った。その視線にバルバが何か言おうとしたのを察したラミーはバルバに話しかける。

「しかしゴールドランク級の魔物って、本当かしらね」

 ラミーに聞かれたバルバはラミーに振り返ると「さあな」と両手を広げ答える。

「つーか、時間かけてこんな辺鄙な田舎まで来て、下らない魔物だったらそれこそ一暴れしちまうかもなあ?」

「あなたは山賊か何かなの?」

 呆れながらそう返すラミーに、バルバは煩ぇ、と返事したところで、ネミルがミークから預かっていたオーガキングの素材と、未だ処理せず置いてあったオルトロスの毛皮や牙を奥の倉庫から持って来た。それを見た商人イグリスは、ずっと大人しかったのに突然、ぱあ、と目を輝かせいきなり皆より一歩前に出て素材を確かめ始める。

「おお! おお! おほおおおお!!」

 イグリスの大きな感嘆の声がギルド内に響き渡る。

「煩ぇな! 何なんだよ一体!」

 バルバの怒声にも構わずに、興奮冷めやらぬ様子でそれぞれの素材を手に取り上へ下へと見回しているイグリス。

「こ、これは間違いなくオルトロスの毛皮! 牙まで! こんな綺麗な状態で採取出来ているなんて! そして……、そしてこのオーガキングの目! 魔石! 人型の魔物の素材採取は難しいと言うのに、これもまたとても綺麗に採取出来ている! 何て素晴らしい!」

 イグリスの口から出てくる魔物の名前に、バルバとラミーは顔を見合わせる。

「オルトロス、と……、オーガキング? ……嘘でしょ?」

「まさか……。マジか? い、いや待て。あの魔石見た事あるぞ? 確かにオーガキングのだ。間違いねぇ」

 興奮しながら並べられた超高級素材を、今度はルーペの様な小さなレンズを取り出し、じっくり観察しているイグリス。その傍らにはバルバとラミーが呆気にとられながらその様子を見ている。ラミーは堪らず商人イグリスに質問する。

「興奮してるところ恐縮だけど、これ本当にオルトロスとオーガキングの素材なの?」

「勿論です! 間違いございません! 不肖イグリス、商人として20年以上行商として各世界を飛び回っております! それ故目利きには相当自信がございます! 見紛う筈もございません!」

 自信たっぷり言い切るイグリスに、バルバが信じられないと言った表情で「……マジかよ」と呟く。

「何が凄いって各素材の状態が本当に素晴らしい! 通常、素材採取は死骸が痛む前にその場で冒険者がナイフを使って剥ぎ取るのですが、どんな熟練の冒険者でもナイフの刃型が残る位、素材採取は難しいものなのです! だがその刃型が全く無い! 一体どうやったのか! こんな綺麗で丁寧に採取されている素材を見るのは初めてだ! そうだ! オーガキングと言えばあの立派な角! 角はどうされました!?」

 ずっと興奮し続けているイグリスからの唐突な質問に、傍で半ば呆れながら聞いていたラルが少し引きながら答える。

「あ、えっと、角か? 角はオーガキングを倒した本人が俺にくれた」

「ん? くれた? どういう事でしょうか?」

「実はミーク……、ああ、オルトロスとオーガキングを倒した冒険者の名前なんだが、冒険者登録の実力査定の際、そいつに剣を折られちまってな。その代わりにってオーガキングの角をくれたんだ。ドワーフの親父に依頼して加工して貰ってる最中だが、そろそろ出来上がると思うぞ」

 ラルの回答を聞いていたバルバは、「はあ?」と突如大声を上げる。

「オーガキングの角を剣にするだと? あんな高級素材を?」

 バルバの大声に一瞬驚いたラルだが、直ぐしたり顔でニヤリとする。

「な? 普通驚くよな? オーガキングの角は魔法使いの素材として扱われるのが通例だからな。だがその硬度と希少性、そして魔素を帯びているから、剣にすると相当強力な武器になる。俺が元々持ってた剣なんか比じゃない位の超一級品の素材だ。正直完成が待ち遠しいよ。俺程度の微量な魔素持ちでも魔法を付帯させる事が出来るんだからな。あー早く出来ねぇかなあ」

 自慢気に語るラルの態度に「ケッ」と舌打ちし苛つくバルバだが、一方でラミーはラルの言葉の中のとある単語が引っかかった。

「ラル、さっき剣折られた、って言ったわよね? それってもしかして、昔自慢してたアダマンタイト製の剣だったりする?」

「ああ。そうだ」

 ラミーの確認にバルバがまたも「はあああ!?」と更に大きな声を上げる。

「何だよさっきから煩ぇな。ゴールドランク様は叫ぶのがスキルのうちなのか?」

 煩そうに両耳を塞ぎながら文句を言うラルだが、その様子を気にする事もなくバルバはそのまま言葉を続ける。

「アダマンタイトを、折った、だと?」

「そうだ。しかも素手でな」

 ラルの返事に今度はラミーも同時に「「はあああ!?」」と叫んだ。
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