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やっぱり色々言われちゃった

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 ※※※

 特に急ぐ訳でも無いので、迷いの森の上空を時速10km程度、自転車で漕ぐ位のスピードでのんびり飛んでいるミーク。

 因みにオーガキング達の角は、ポシェットに入れていた布に包んで抱えている。そして目玉と魔石は何とか無理やりポシェットに押し込む事が出来たがやや凹凸になってしまった。町に戻った際悪目立ちしたく無いので、素材を人目に晒したくなかったのだ。

「そうだ。ねえ、サーチ範囲半径2km内にしてたのに、何で4km先の魔素班別出来たの?」

 ミークがふと気になってAIに質問する。

 ーーサーチ範囲と危機感知範囲は別です。元々危険だと判断した時は警告する仕様ですーー

 そういや地球で逃げ回っている時も、そして最後の時も、数十km先から飛んでくる核弾頭ミサイルを察知したりして警告してたな、と思い出すミーク。

「でも膨大な魔素に反応するなんてね。ドンドンここに適応してきてんじゃん?」

 ーーこの世界に存在する魔素と言う成分の分析は未だ進捗途中ですが、例えば今回の様に魔物の索敵にも利用出来ますし、これから解析が進めば色々役に立つと思いますーー

 AIの言葉を脳内で聞いたミークは、ふ~ん? と少しニヤける。

「じゃあさ、解析進んだら、そのうち私も魔法使える様になったりする?」

 ーーその可能性は相当低いと思われます。どうやら魔法使いと呼ばれる人種は、体内に保有している魔素をトリガーにし、脳内でイメージした魔法陣と、使いたい魔法のイメージを、これまた体内にある魔素をコネクトし、それでリアライズを実現し放出する様です。要する体内に魔素が一定量無いと使えない仕様です。この前提を覆すだけの理論が今の所見当たりませんーー

「あっそ」

 どうやら自分が魔法を使うのは無理そうだと言うAIの回答に、ミークは残念そうな顔をしながら「折角このファンタジーな世界に来たんだし、魔法で攻撃! とかしてみたかったなあ」と、1人空を飛びながら呟く。

「そうだ。このまま迷いの森を上空からサーチしながら戻ろっか」

 ーー了解。サーチ開始ーー

 すると紅色の左眼が、広範囲に渡って極微量の光を放ち始める。そしてそれが約100m四方に広がり森を照らし始めた。途端、脳内にピピ、ピピ、と引っ切り無しに小さな音が響く。

「……ふむふむ? ほほう? 成る程、結構色んな植物が生息してるね。動物の種類も豊富だ。地球にも居た生物と酷似しているのも居るね。そしてそこに魔物も存在してる、と。どうやら地球とは一風違う食物連鎖があるみたい。一応微量なプランクトンも存在してて……、へえ。魔素持ってるプランクトンまでいるんだね……、お? これは……」

 続々入ってくる情報の中のいくつかにミークは反応を示す。そしてニヤリと笑みを浮かべ、後で絶対取りに来よう、と心に誓ったのであった。

 そうして空を飛んでいると町の近くまでやってきたので、ミークは周りに人が居ない事を確認した後、スタ、と静かに着地した。そして町へ続く街道に出てきて歩き始める。多分自分が空飛べる事を町の人達は知っているだろうけど、悪目立ちしたくないので歩いて戻る事にしたのである。勿論左目も黒茶色に変えた。

 そして町の入り口までやって来ると、

「あ! ミ、ミークお帰り! 早かったんだね!」

 迷いの森方面から歩いて来るミークを見つけた、今日も門番をしているリケルが、慌てた様子で声を掛けてきた。それにミークは「ただいま」とだけ返事しそのまま中に入ろうとする。だがそこで、同じく門番をしていたカイトもミークに声を掛けてきた。

「た、確か昼前に出て行ってたよね? ど、どんな依頼だったの? こんな早く戻るってさ! 腕に抱えてるの素材?」

 何やら必死な様子で話すカイトに、ミークは面倒そうに答える。

「それ言わなきゃいけない? ここ通るのってそういう報告必要だっけ? 私冒険者登録してるけど?」

 別に仲良くなろうと言う気も無いのに、向こうはいつもこうやって声を掛けて来る。だからミークはつい無愛想になってしまう。その様子に焦りつつも食い下がるカイトが「い、いや言わなくて良いけど!」と返しながら、

「お、俺、こ、これから昼休憩なんだ! ミークもこの時間に戻って来たならご飯まだだよね? 一緒に行かない?」

 と、唐突にカイトはミークを昼食に誘った。それに驚いたのはリケル。その表情は呆気に取られつつも抜け駆けしやがって、と憎々しい顔をしている。因みにリケルは既に昼休憩は終えているのでその誘い方は出来ないのが余計に悔しいのかも知れない。

 だが正直鬱陶しいとまで思っているミークは「いや行かない」と直ぐ様答えるも、「で、でも!」とカイトはまだまだ食い下がる。

「ミークがまだ知らない美味しい店紹介出来るよ! きっと気に入るから!」

 美味しい店? その言葉に一瞬眉がピクリと上がるミークだが、でもそれならきっとネミルも知ってるのでは? だってギルドの受付嬢だし、と思い直し、

「別の人に聞くから良い」

 と、素っ気なく答えるミーク。ずっと無愛想な対応に、カイトは「そ、そっか。そう……」と漸く諦めた様でがっくり頭を垂れ項垂れる。だがそこでミークが「そうだ」と何か思い出し、リケルに向き直った。

「そういやリケル、あのおっさん……、えーとゴルガだっけ? 謝って貰ったの?」

「え? 謝って貰うって……。ああ、ギルドの広場での事? いやまだだけど。でももう良いよ忘れてたし。あれから日にち経ってるしゴルガは牢に居るしね」

「そう? リケルが良いならもう良いか」

 それを確認すると直ぐミークは踵を返し町の中へ歩いて行った。その際フワリと流れる黒髪と、くびれたウエストが背中越しに映える整ったプロポーションを見ながら、2人は共に「「はあ~」」と大きな溜息を吐いた。

「やっぱ滅茶苦茶美人だよな。でも見込み全く無さそう」

「カイトにしては良く頑張ったと思うけど、あそこまで興味無さ気なら誰がアタックしても駄目だろうな。それこそサーシェク隊長でも」

「そういやそのサーシェク隊長、昨晩ミークと2人で飯食ったらしいよ」

「え? マジで? うわあ流石ファリス一のイケメンだ」

「でも聞いた話だと、サーシェク隊長ですらミークは全く関心持たなかったんだって。一緒に食事はしたものの、特に会話もせず直ぐ席立ったらしいよ」

「……じゃあ俺らじゃ尚更無理じゃん」

 それでも必死に食らいついたカイトを心の中で称賛するリケルだが、それと同時に2人して暫く春は来なさそうだ、と悟ってしまい、暗い気持ちになりながら「はあ~」と大きな溜息を吐いた。

 ※※※

 時間的に今は昼を過ぎた辺り。なので今日もギルド内は冒険者は1人も居ないが、いつもの通り作業をしていた、ネミル含む3人の受付嬢は居た。

 ミークが申し訳無さそうながらそーっと採ってきた素材をネミルに渡す。一方のネミルは、行方が分からなくなった3人のブロンズランクの冒険者を探す依頼をお願いしていた筈なのに? と不思議そうにその素材を受け取ったのだが。

「オーガの角? は判るけど、もう2つの黒い角は何かしら? それと目玉?」

 ネミルが首を傾げると、一緒に見ていた赤毛のショートカットの受付嬢が「あ!」と何か思い出した様に声を上げ、慌てて奥の書物庫に走っていき直ぐ戻ってきた。

「ねえこれ! これじゃない? オーガキングの目玉! それとこの黒い角も!」

「え? 嘘? まさかあの、ギルド長に注意喚起する様指示されてたオーガキング?」

 青いロングヘアーの受付嬢がまさか、と、注意喚起の張り紙に目を向ける。一方のネミルは、はあ~、と大きな深い溜息を吐き、頭をフルフルと左右に振った。

「あのねえ……。どうして冒険者の捜索をお願いしてたら、こんな大物の素材持って帰って来る事になるの?」

 呆れ顔でネミルにそう言われるも、ミークとしても言い分はある。

「だって、仕方なかったんだよ? 向こうが急に襲ってきたんだから」

「じゃあやっぱり、ミークがオーガキング倒したのね?」

 何故か怒られている? なのでミークは小さくなりながら「……はい」と小さく答える。でも直ぐ「で、でも! 仕方無いよね?」と顔を上げ言い直す。ネミルは大きな溜息を吐きながら、

「確かに仕方無いわ。仕方無いけど……」

 と、複雑な表情。その様子を見ていた2人の受付嬢が共に「「まあまあ」」とネミルの肩に手を置く。

「迷いの森の脅威が無くなったんだから良かったじゃない」

「そうそう。それにさっきまで、オーガキングの討伐について、他の町や王都からゴールドランクの冒険者呼んだ方が良いかな? とか話してたでしょ? それが必要無くなったんだから」

 2人に正論を言われるも、ネミルは未だ釈然としない表情。

「そうだけど……。でもミークがまた危険な目に遭ったんじゃないかって、心配するじゃない。倒せたから良かったものの」

 ネミルはそう言うと、ズイ、とミークにその美しい整った顔を近づける。その際桃色の髪がフワリと揺れる。ミークはビクっと反応する。

「あのね? 本来オーガキングはゴールドランクしか倒せない程の強力な魔物なの。だからまずは自分で何とかしようとせず、出来るだけその場から離れて、先ずはギルドに報告して欲しいの」

「……うん」

「しかも他に角持って帰って来てるのを見ると、今回別にオーガ2体も居たんでしょ? じゃあオーガキングはその2体を仕えさせていたわよね? そうなると攻略の難易度も相当高くなって、それこそゴールドランク数人でも難しくなるのよ?」

「……まあ確かにあの連携には驚いた」

「そりゃああの巨大で強いオルトロスを一人で倒せちゃう程強いミークだもの。今回もそんな心配する必要無いのかも知れない。でもミーク、あなたは私のお友達なんだから、1人で抱え込まないでね」

「……うん。ありがとう」

 心配してくれているネミルの真面目な顔に、ミークは嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが入り混じった。

 ……でもまあ、あの程度で死ぬ事はまず無いんだけど。

 なので、その本音は明かさず飲み込んだ。
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