隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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素材の使い道

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 ※※※

「こんにちはー」

 と、ミークは聞こえる様まあまあ大きな声で、挨拶しながら魔石屋の扉をノックした。だが何の反応も無かった為、仕方無くキイィと扉を軋ませ「失礼します」と開けて中に入る。昨日来た時と違いまだ朝方だからか、天窓から陽の光は入ってきておらず明かりもついていないので店内は薄暗い。

 魔石の陳列を見ると、どうやら商品が売れている様であちこち空いている。そんな商品の様子を見ながら、ミークはまた水と炎の魔石買った方が良いかな? ポーションの分析もしたいな、とか考えていると、

「なんだい。黙って入ってきて」

 と無愛想で不機嫌そうな、相変わらずタバコ焼けした様な声が奥から聞こえてきた。ミークは慌てて「一応声かけしたんですけど……」と遠慮がちに言うも、

「生意気な小娘だね。言い訳なんて要らないよ。で、何の様だい?」

 と、明らかにご機嫌斜めな様子で無遠慮に聞いてくる。ミークはその言い様に「本当に良い人なのかな?」と疑問に思いつつも、とりあえず抱えていたラグビーボール大の乳白色の魔石を差し出し、「これ、何か良い品に加工出来ますか?」と質問した。

 薄暗いからよく見えないし、奥に居ては届かないので、仕方なく面倒臭そうに脂肪の詰まった大きな腹を抱え身体を揺らしながらノシノシと出て来るジャミー。だがその巨大な魔石を見た瞬間、ぱあ、と顔を綻ばせる。

「あんたこれ、もしかしてオルトロスの魔石じゃないの?」

 シャワがれてはいるものの唐突な甲高い声にミークは戸惑いながら、「はい、そうです」と答える。そしてジャミーは引ったくる様に魔石をミークから奪い取り、あちこちからじーっと観察し始める。だが直ぐ、スッとミークに顔を向ける。

「もしかして、昨日町の入り口に顕れたオルトロスのかい?」

「はい、そうです」

「そういや町の連中から、女が1人でオルトロス倒したって聞いたけど、あんたなの?」

「ええ、まあ」

 本当かねぇ、と一瞬疑いの眼差しをミークに向けるも、それより魔石が気になる様で、即ミークから魔石へ目を移すジャミー。

「ま、その真偽はともかく、オルトロスが倒されて助かったわ。下手したら私も戦わないといけなかったからね」

「え? 戦闘出来るんですか?」

「こう見えて私も魔法使いの端くれなのよ。この町唯一のね。当然戦闘魔法も使えるわよ」

 そうなんですか、と表面上は感心した様相を作るミークだが、心の中では到底信じられない、と疑っていたりする。そんなミークの心中には関心無いであろうジャミー、そして今度は何やら小さなルーペをポケットから出し、再度魔石を観察し始めた。

「ほぉ、これは中々……。中に濁りが殆ど無いね。こんな綺麗なオルトロスの魔石珍しいわよ。多分王都にも無いんじゃない? で? お前さんはどんな物に加工してほしいんだい?」

 ジャミーと相談しろとラルに言われ、とりあえず持って来たが、何が良いか、と聞かれると返答に困るミーク。少し考えた後、ジャミーに伝える。

「冒険者としてやって行くに当たって便利な物が良いです。でも具体的にこれって言うのが思いつかなくて」

 と言うと、成る程ね、とジャミーは小さいルーペで魔石を観察しながら答える。そして「そうだ」と何か思い付いた模様。

「これだけの品質の魔石だし、じゃあが良いわね」

 そう言いながら口をへの字に曲げてニヤリとほくそ笑む。その様子に、ミークは何がおかしいのか分からず首を傾げた。

 ※※※

 ミークは再度ギルドを訪れていた。入り口近くでは、大きな壁の穴を修復していた、長い髭の鷲鼻の男がふぅー、と大きく息を吹く声が耳に入ったので、つい横目で見てしまうミーク。様子を見るにどうやら作業が終わった模様で、穴の後は跡形もなく綺麗になっていた。

 まだそんなに日にち経ってないのに凄いな、と感心しながらも、特に挨拶もせずそのままギルドに入ろうとするミーク。昨日、ミネルに作業の邪魔になるから挨拶はしない方が良い、と聞いていたからだ。だが長髭鷲鼻の方から「おいちょっと待て」と、声をかけられた。

 ミークは話しかけられるとは思っておらず、ついビクッと反応してしまう。それでもとりなし「何でしょう?」と聞き返すと、長髭鷲鼻はよっこらしょっとミークに向き直った。

「お前さん昨日オルトロス倒したんだろ? 素材どうすんだ?」

「え?」

 突然不躾に聞かれ驚くも、特段隠す事も無いので「魔石はジャミーさんの所に持っていきました」と答える。それを聞いた鷲鼻が「ふぅん」と答える。

「じゃあ毛皮余ってるだろ。俺の妹が服の仕立てやってる。俺の紹介だと言えばすんなりやってくれるだろう。場所はギルドの受付に聞け」

 ぶっきら棒にそう言うと、長髭鷲鼻はもうミークに用は無いと言う感じで道具を片付けた後、そのまま去って行った。

「……勝手に言伝して勝手にどっか行っちゃった。何だあれ?」

 首を傾げるミーク。凄く不躾なので驚きはしたが、でもどうやら仕立て屋を紹介してくれたという事はきっと気遣いだろう、と、とりあえず心の中でそう理解し、そして言われた通り詳細をギルドの中で聞く事にした。

 中に入ると、既に冒険者達は依頼を受けた後で居なかった。受付カウンターには冒険者達の対応が一段落したらしいネミルが、ふうー、と息を付いている。だが直ぐ、ミークを見つけ声をかけてきた。

「ミークお疲れ。もう戻って来たの? 早いわね」

「何かオルトロスの毛皮も要るって言われたから取りに来た」

「そうなの? じゃあちょっと待ってて」

 そう言ってネミルが奥の倉庫に小走りで向かって行った。それを見送った後、ミークは別の、ロングの緑髪の受付嬢に声をかける。

「あの、すみません。表で穴を修理してた人に、仕立て屋を紹介してやるからここで聞け、って言われたんですけど。でもそのまま何処か行っちゃって」

 それを聞いた緑髪の受付嬢は「ああー。ごめんなさいね。あの人マイペースで無愛想なのよ。でも良い人なのよ」と呆れながらも笑顔でミークに伝える。

「あの人ドワーフなのね。で、妹さんが女性とあって服の仕立てが得意なのよ。場所教えるから、後で行ってくると良いわ」

 ドワーフと言う種族は魔石屋で本をトレースしたので知っている。確か鍛冶が得意で武器や防具を製作したり修理したりする仕事を主にやっている筈。だが中には、冒険者になるドワーフもいるらしい。世界中に散らばっている鉱石や、魔物を討伐して自ら素材を得て加工したりする為、と記載されていた。

 ミークは受付嬢の言葉に「成る程ありがとうございます」、と頭を下げる。良いのよ、と緑髪の美女はミークの律儀な受け答えに微笑みで返す。そうしているうち、ネミルが毛皮の束を持って来た。

「これだけあれば足りるかしら? 何に使うか分からないから多目に持ってきちゃった」

 両手一杯に毛皮を抱えたネミルを見て、緑髪の受付嬢が「さっき、壁修理してた彼から仕立て屋紹介して貰ったらしいのよ。だから多めで良いと思うわ」と言うとネミルは成る程、と「それなら大丈夫ね」と答えた。

 そこでネミルが、そうだ、と思い出しながら、よっこいしょっと一旦毛皮の束をカウンターの上に置き、ポケットからラルから預かった紙を取り出した。

「ねえミーク。この依頼出来る?」

 ※※※

 仕立て屋はジャミーが居る魔石屋から直ぐ近くだった。ミークは早速それぞれ毛皮を持って行った。因みに壁を修理していたドワーフの妹は長い髭も無く鷲鼻でも無かった。背丈150cm程度の可愛らしい顔。パッと見人族とほぼ変わらなかった。

「……お兄さんと同じ様な見た目じゃなくてある意味安心」

 誰に言うでもない本音を呟きながら、ネミルから預かったメモを見直しながら町の入り口へ向かい歩いて行く。

「盗賊達の塒を捜索しに行った人達を探す、か。これ結構簡単に終わりそう」

 だって私サーチ出来るし空飛べるしね、と思いながら、各冒険者達の特も記載されているそのメモを腰のポシェットに仕舞い込む。

「ま、迷いの森とやらがどんなのか気になってたしね」

 フォレストウルフと盗賊達を倒した時は、緊急だった為ゆっくり調べる事もままならなかったし、今は時間にすると正午少し前と言ったところなので時間はある。この機会にミークは迷いの森を色々調べてみようと思っていた。

 ネミルからは「夜になると強い魔物が出没するから、時間かかりそうなら途中で引き返してね」と身を案じて言ってくれたが、ミークは、きっと昨日の薬草探しより楽だろうと思っていたので、さっさと済ませて戻ってきてお昼ご飯食べよう、と気楽に考えていた。

 そして入り口までやって来ると、門番をしていたカイトがミークを見つけ、「あ! ちょっと待って!」と声をかけてきた。

「何?」

「あ、あの……。昨日、俺の事助けてくれた、らしいね。あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 そう答えて直ぐにスタスタと迷いの森へ歩いて向かって行くミーク。カイトはまだ話ししたかった様で「ああ……」と手を差し伸べるもミークは振り向かずそのまま行ってしまった。

「……行っちゃった」

 虚しく手をブランブランさせるカイト。その横でリケルがアハハとからかう様に笑う。

「お前も振られてやんの」

 リケルのからかいにムッとするカイト。

「べ、別に振られた訳じゃないだろ! 俺は単にポーションのお代だけでも返したいって言いたかっただけなんだよ!」

 へ~え、と何故かしたり顔のリケルの態度に腹を立てるカイト。でも直ぐ表情が曇る。それを見てリケルが首を傾げる。

「ん? どした?」

「いやここ来る前さ、フォレストウルフの素材を持って帰ってきたウッドランクの連中と会ったんだ。あいつらミークをパーティーに誘ったらしいんだけど、ミーク、’自分より強い人しか興味ない’って言ったんだってさ」

 それを聞いたリケルがハッと気付く。

「じゃあ……、俺もお前も脈ゼロ、って事か」

「そういう事」

「……」

 揃ってどんより沈んだ気持ちになってしまった2人。その様子は冒険者達が帰ってくる夕方までずっと続いていたらしい。

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