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心配事があれこれ
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※※※
「まだ冒険者登録して1日しか経ってないのに、もうシルバーランクですか」
若干呆れた顔のネミルに、ラルは「ちゃんと理由があるんだよ」と返す。
「理由とは?」
「昨日ゴルガに聞いたんだが、迷いの森の中にオーガキングが居たらしい」
それを聞いたネミルは「はあ!?」と素っ頓狂な声を上げる。
「オーガキング? あの、オルトロスと並ぶ位の強い魔物の、凶悪な人食いオーガの事ですか?」
「そうだ」
あり得ない、信じられない、という顔のネミルを一目見た後、ラルは徐ろに立ち上がり、自身の机に向かったかと思うと、何やら古紙が束ねられている冊子を取り上げ、そしてペラペラと捲ると、とあるページで開いてネミルに見せる様指差した。
「この紙の束は、過去ダンジョンに潜った冒険者達の報告書を纏めた物だ。ほらここ、結構昔だが、あのダンジョンにオーガキングが居た、と記載されてある」
ラルが指差した部分を覗き込むネミル。そこには確かに、とあるパーティーがオーガキングを発見、総員慌てて逃げ出した、と記載されてあった。
「え? 昔ダンジョンに居たんですか?」
「ああ。しかも、だ。ゴルガによると、あのオルトロスもダンジョンで見たらしい」
それを聞いてネミルは若干混乱する。だが直ぐある1つの答えが頭に浮かぶ。
「それってまさか、ダンジョンに居た強力な魔物達が外に出てきてる、という?」
ネミルの発現にラルは黙って頷く。
「勿論何かしらの理由で、ダンジョン以外でオルトロスやオーガキングが発生した可能性は無くは無いと思うが、でも普通に考えてダンジョンから出てきたと考えるのが妥当だろう」
そこまで聞いてネミルはハッと気付く。
「もしかして……。ミークにダンジョン捜索をさせようって事ですか?」
ラルは肯定の意味でネミルをジッと見つめ、少しして視線を逸らし自身の机にダンジョン報告書の束を置く。
「まあそもそも、だ。オルトロス倒した奴をウッドランクのままにはしておけないからな。かといってブロンズランクってのも実力に見合わない」
「まあそうですけど」
「ウッドランクは本来、経験積まないと魔物の討伐が出来ない規則になってるし、ブロンズランクでもダンジョン捜索するにしても、浅い層しか行かない決まりになってる。ミークにはより深い層に潜って貰いたいんだよ」
「ミークは冒険者になった当日、ウッドランクなのにオルトロス倒してましたけどね」
「じゃあ尚更ウッドランクのままってのは無理があるだろ?」
ラルの言い分は最もだが。それでもネミルはミークの身を案じてしまう。
「まあそうですけど……、危険じゃないですか? そもそもまだ若い女の子ですよ? 魔法も使えないし」
「いやいやあの強さだぞ? 男女関係ねぇよ。……てか正直言うと、ギルド長であるこの俺でさえもミークに勝てる気がしねぇ。情けない話だがな。だから寧ろそんな心配する方が失礼じゃないか? まあそう言いながらも俺もある程度は心配してる。だから町長と相談するつもりだ」
ラルの最後の方の言葉に、ネミルはピクリと眉を上げる。
「ノライさん、ですか?」
ラルは黙って頷き、「だがそれも可能性の1つ、てとこだ」と答える。
「ところでミークはどうだ? まだ3日程度だが」
ラルの質問に、それまで真面目な顔をしていたネミルは破顔し口元が緩む。
「凄く良い子ですよ。最初こそ私も少し警戒してましたけど。確かにこの世界の事全くと言って良い程知りませんでしたけれど、でも悪意の欠片も感じないです。寧ろ色々恐縮するし逐一律儀だし優しいし。もう今は普通にお友達です」
ネミルがにこやかにそう話すと、ラルは安堵しながらフッと笑みを零し、そうか、と答えた。そしてラルの机の横に掛けてあった上着を羽織る。ネミルは首を傾げラルに聞く。
「何処かお出かけですか?」
「ああ。早速これから町長とこ行ってくる。……まあでも、直ぐダンジョン捜索するって訳じゃない。ミークも冒険者の仕事に関してはどうやら素人みたいだからな。ある程度経験も積んで貰ってからになるだろう」
ラルが出かけるとの事なのでネミルも立ち上がる。そして共にギルド長室を出た。
「あ、そうだ丁度良い。ネミル、俺からの依頼だ」
そう言ってラルは1枚の紙をネミルに渡す。ギルド長からの依頼? ネミルは首を傾げながらそれを受け取る。そして1階に降りながら内容を確認する。
「……盗賊の塒に行った冒険者の捜索、ですか」
「ああ。昨日俺と一緒に、盗賊の塒まで行ったブロンズランクの3人なんだが、今朝になっても未だ帰ってきて無いらしくてな。もしかしたら盗賊が隠してたお宝を盗んで何処かに隠しに行った、という可能性もあるがな」
「場所は……。ああ、あの岩山の斜面ですか。分かりました」
「それと冒険者達に対して、オーガキングが迷いの森に出たって言う注意喚起、それも頼むな」
と、付け加えると、ラルはネミルの返事も聞かず、ギルドの扉を開け出て行った。
……しかしミークがやって来てから急に色んな事が起こるわね。偶然なのかしら?
※※※
「はあ……」
ギルドでの事を振り返り、やはり溜息が漏れ出てしまうミーク。
ミークは今、ギルドを出てラグビーボール大の乳白色だが日に照らされ眩しく輝く魔石を左脇に抱え、1人魔石屋ジャミーの所へ歩いて向かっていた。既に牙と服の素材以外の毛皮の換金は済み懐は相当温かい。
ギルド長室でシルバーランク昇格を聞いた時、まだウッドランクにもなったばかりで殆ど経験も無い事から、ミークは恐縮し即断った。だが「ちゃんと理由がある。受け取って貰わないと困る」とまで言われ、渋々ながらシルバーランクの証明である銀色に輝くメダルを受け取った。
「何でこうなっちゃったんだろうなあ。私別に認められたいとか全く思ってないのに、……はあ」
二度目の溜息。心底困っている証。だが仕方無い事だと言うのも分かっている。オルトロス倒しちゃったので。
「ま、受ける依頼の幅は広がったと思えば、多少前向きにはなれる、かな?」
そう割り切る事にした。
ギルド内でもむさ苦しい連中が、ミークを遠巻きに見ながら何やらヒソヒソしていたのに気付いていたが、今日はずっと受付嬢と話していた事もあり、昨日の様に冒険者達から声かけられる事は無かった。だがそれは、ミークが途轍も無く強い事を、冒険者達が見知ったのも理由の1つだろう。
何にしろ面倒事が無かったのは僥倖。後で服に仕立てて貰う予定の残りの毛皮は、ギルドで一旦保管して貰える様なので置いていった。なので今持っている素材は魔石のみ。だがここファリスでは相当珍しい大きさなので、道中もどうしても目立ってしまう。
歩いている最中も遠巻きに観ている町民達。昨日サーシェクが注意してくれた影響なのか、それとも1日経って気持ちが落ち着いたからか、昨日の様に人々が集まって来る事は無かった。
その事に安堵はするもそれでも町民達はミークが気になる様で、ずっと遠くからヒソヒソしているのは見て取れる。でももう今更どうしようもない。昨日オルトロスを倒した事でミークの事を知らない町民はまず居ない。なのでミークは開き直って堂々と大通りを歩いている。
だがそこで「ちょ、ちょっと良いかな!」と、とある男性が声をかけてきた。
ミークは歩く足を止め「何でしょう?」と返事する。声をかけたのはフォレストウルフの集団に襲われ、ミークが助けたウッドランクの1人で、彼らは3人一緒にいた。
「あ、あの……。お礼が言いたくて。昨日はありがとう」
「本当助かった。しかも盗賊達まで倒してくれてたんだろ? ギルド長に聞いたよ」
「で、でもさ、どうして木の実を集めてたって嘘吐いたんだ? 自分が全部倒したって言えば、フォレストウルフの素材、全部あんたの物になったのに」
結局、フォレストウルフの素材は全て彼らの物となった。当初から彼らは自分達が倒した訳じゃないので申し訳なく思っていたのだが、そこで倒したのがミークだと後から知ったので、こうやって声をかけてきたのである。
聞かれてミークは、んー、と顎に指を当て考える。そんな自然な仕草も麗しい黒髪の美女。可愛らしく見えた3人は揃って心臓が跳ね上がる。
「正直言うと、実力バレたく無かったから? でもまあ結局オルトロスが来たせいでバレちゃったから無意味になっちゃったけど」
「な、成る程、じゃあだったら尚更、その……。素材のお金、返すよ」
「ああ。俺等が倒した訳じゃないしな」
「てか正直、恵んで貰ったみたいで格好悪いってのもあるし」
3人の話を聞いて、ミークは正直どうでも良いと思った。すっかり忘れていたのもあったのだが、なにせオルトロスの成果により懐には余裕がある。だが彼らの気持ちも分からなくはない。
ふむ、と少し考えた後、ミークは「結構です」と答えた。その返答に3人は慌てる。
「い、いやでも! 金貨1枚銀貨20枚にもなったんだ! 流石に多すぎて俺等の手に余るんだよ!」
「そ、そう! ウッドランクの俺等には過ぎる報酬なんだ」
「……俺等自身が倒したってなら良いんだけど、受け取るのもみっともないと言うかさ」
3人がそう言うと、ミークは重ねて「やっぱり結構です」と再度伝える。「で、でも!」と何かを言いかけるのを遮りながらミークは続ける。
「皆さんアレでしょ? ウッドランクなのに魔物狩りしたくてあの奥まで行っちゃったんでしょ? じゃあそのお金使って装備整えて再度挑戦出来る様頑張れば良いんじゃないですか? あの時あの場所に居たのは幸運だったと思えば良いかと。だからその運を上手く使って、より高いランク目指したら良いかと」
「で、でも……。良いのか? 結構な金なのに」
「あ。その魔石……。そうか。金には困ってない、か」
「じゃ、じゃあ、さ。今度俺等と狩り行かない? 君もウッドランクなんでしょ?」
1人の提案に「良いねそれ」「是非行こう」と続ける2人だが、ミークは「私今日シルバーランクになっちゃったんで」と答えた後笑顔で、
「私、自分より強い人しか興味無いので」
と伝え、「じゃ、そういう事で」と、3人をその場に置いて歩いて行った。
……そうだ。これで行こう。今度面倒な絡みがあったら、私より強い人しか興味無い、って返せば良いや。
フフン、とほくそ笑みながら去って行く整ったプロポーションの後ろ姿を、3人はぼーっと見つめる。
「シルバーランクになったんだ。……てか笑顔、めっちゃ可愛えぇ」
「無愛想でも超絶美人なのに笑顔めっちゃヤバい。惚れたかも知れない」
「俺には、俺にはネミルちゃんが居るってのに、クッソ心変わりしちまうかも知れねぇ!」
「「そもそもネミルちゃんはお前のじゃねぇ」」
そんなやり取りが聞こえたかどうか定かでは無いが、ミークはやや気分良く魔石屋に向かって行った。
「まだ冒険者登録して1日しか経ってないのに、もうシルバーランクですか」
若干呆れた顔のネミルに、ラルは「ちゃんと理由があるんだよ」と返す。
「理由とは?」
「昨日ゴルガに聞いたんだが、迷いの森の中にオーガキングが居たらしい」
それを聞いたネミルは「はあ!?」と素っ頓狂な声を上げる。
「オーガキング? あの、オルトロスと並ぶ位の強い魔物の、凶悪な人食いオーガの事ですか?」
「そうだ」
あり得ない、信じられない、という顔のネミルを一目見た後、ラルは徐ろに立ち上がり、自身の机に向かったかと思うと、何やら古紙が束ねられている冊子を取り上げ、そしてペラペラと捲ると、とあるページで開いてネミルに見せる様指差した。
「この紙の束は、過去ダンジョンに潜った冒険者達の報告書を纏めた物だ。ほらここ、結構昔だが、あのダンジョンにオーガキングが居た、と記載されてある」
ラルが指差した部分を覗き込むネミル。そこには確かに、とあるパーティーがオーガキングを発見、総員慌てて逃げ出した、と記載されてあった。
「え? 昔ダンジョンに居たんですか?」
「ああ。しかも、だ。ゴルガによると、あのオルトロスもダンジョンで見たらしい」
それを聞いてネミルは若干混乱する。だが直ぐある1つの答えが頭に浮かぶ。
「それってまさか、ダンジョンに居た強力な魔物達が外に出てきてる、という?」
ネミルの発現にラルは黙って頷く。
「勿論何かしらの理由で、ダンジョン以外でオルトロスやオーガキングが発生した可能性は無くは無いと思うが、でも普通に考えてダンジョンから出てきたと考えるのが妥当だろう」
そこまで聞いてネミルはハッと気付く。
「もしかして……。ミークにダンジョン捜索をさせようって事ですか?」
ラルは肯定の意味でネミルをジッと見つめ、少しして視線を逸らし自身の机にダンジョン報告書の束を置く。
「まあそもそも、だ。オルトロス倒した奴をウッドランクのままにはしておけないからな。かといってブロンズランクってのも実力に見合わない」
「まあそうですけど」
「ウッドランクは本来、経験積まないと魔物の討伐が出来ない規則になってるし、ブロンズランクでもダンジョン捜索するにしても、浅い層しか行かない決まりになってる。ミークにはより深い層に潜って貰いたいんだよ」
「ミークは冒険者になった当日、ウッドランクなのにオルトロス倒してましたけどね」
「じゃあ尚更ウッドランクのままってのは無理があるだろ?」
ラルの言い分は最もだが。それでもネミルはミークの身を案じてしまう。
「まあそうですけど……、危険じゃないですか? そもそもまだ若い女の子ですよ? 魔法も使えないし」
「いやいやあの強さだぞ? 男女関係ねぇよ。……てか正直言うと、ギルド長であるこの俺でさえもミークに勝てる気がしねぇ。情けない話だがな。だから寧ろそんな心配する方が失礼じゃないか? まあそう言いながらも俺もある程度は心配してる。だから町長と相談するつもりだ」
ラルの最後の方の言葉に、ネミルはピクリと眉を上げる。
「ノライさん、ですか?」
ラルは黙って頷き、「だがそれも可能性の1つ、てとこだ」と答える。
「ところでミークはどうだ? まだ3日程度だが」
ラルの質問に、それまで真面目な顔をしていたネミルは破顔し口元が緩む。
「凄く良い子ですよ。最初こそ私も少し警戒してましたけど。確かにこの世界の事全くと言って良い程知りませんでしたけれど、でも悪意の欠片も感じないです。寧ろ色々恐縮するし逐一律儀だし優しいし。もう今は普通にお友達です」
ネミルがにこやかにそう話すと、ラルは安堵しながらフッと笑みを零し、そうか、と答えた。そしてラルの机の横に掛けてあった上着を羽織る。ネミルは首を傾げラルに聞く。
「何処かお出かけですか?」
「ああ。早速これから町長とこ行ってくる。……まあでも、直ぐダンジョン捜索するって訳じゃない。ミークも冒険者の仕事に関してはどうやら素人みたいだからな。ある程度経験も積んで貰ってからになるだろう」
ラルが出かけるとの事なのでネミルも立ち上がる。そして共にギルド長室を出た。
「あ、そうだ丁度良い。ネミル、俺からの依頼だ」
そう言ってラルは1枚の紙をネミルに渡す。ギルド長からの依頼? ネミルは首を傾げながらそれを受け取る。そして1階に降りながら内容を確認する。
「……盗賊の塒に行った冒険者の捜索、ですか」
「ああ。昨日俺と一緒に、盗賊の塒まで行ったブロンズランクの3人なんだが、今朝になっても未だ帰ってきて無いらしくてな。もしかしたら盗賊が隠してたお宝を盗んで何処かに隠しに行った、という可能性もあるがな」
「場所は……。ああ、あの岩山の斜面ですか。分かりました」
「それと冒険者達に対して、オーガキングが迷いの森に出たって言う注意喚起、それも頼むな」
と、付け加えると、ラルはネミルの返事も聞かず、ギルドの扉を開け出て行った。
……しかしミークがやって来てから急に色んな事が起こるわね。偶然なのかしら?
※※※
「はあ……」
ギルドでの事を振り返り、やはり溜息が漏れ出てしまうミーク。
ミークは今、ギルドを出てラグビーボール大の乳白色だが日に照らされ眩しく輝く魔石を左脇に抱え、1人魔石屋ジャミーの所へ歩いて向かっていた。既に牙と服の素材以外の毛皮の換金は済み懐は相当温かい。
ギルド長室でシルバーランク昇格を聞いた時、まだウッドランクにもなったばかりで殆ど経験も無い事から、ミークは恐縮し即断った。だが「ちゃんと理由がある。受け取って貰わないと困る」とまで言われ、渋々ながらシルバーランクの証明である銀色に輝くメダルを受け取った。
「何でこうなっちゃったんだろうなあ。私別に認められたいとか全く思ってないのに、……はあ」
二度目の溜息。心底困っている証。だが仕方無い事だと言うのも分かっている。オルトロス倒しちゃったので。
「ま、受ける依頼の幅は広がったと思えば、多少前向きにはなれる、かな?」
そう割り切る事にした。
ギルド内でもむさ苦しい連中が、ミークを遠巻きに見ながら何やらヒソヒソしていたのに気付いていたが、今日はずっと受付嬢と話していた事もあり、昨日の様に冒険者達から声かけられる事は無かった。だがそれは、ミークが途轍も無く強い事を、冒険者達が見知ったのも理由の1つだろう。
何にしろ面倒事が無かったのは僥倖。後で服に仕立てて貰う予定の残りの毛皮は、ギルドで一旦保管して貰える様なので置いていった。なので今持っている素材は魔石のみ。だがここファリスでは相当珍しい大きさなので、道中もどうしても目立ってしまう。
歩いている最中も遠巻きに観ている町民達。昨日サーシェクが注意してくれた影響なのか、それとも1日経って気持ちが落ち着いたからか、昨日の様に人々が集まって来る事は無かった。
その事に安堵はするもそれでも町民達はミークが気になる様で、ずっと遠くからヒソヒソしているのは見て取れる。でももう今更どうしようもない。昨日オルトロスを倒した事でミークの事を知らない町民はまず居ない。なのでミークは開き直って堂々と大通りを歩いている。
だがそこで「ちょ、ちょっと良いかな!」と、とある男性が声をかけてきた。
ミークは歩く足を止め「何でしょう?」と返事する。声をかけたのはフォレストウルフの集団に襲われ、ミークが助けたウッドランクの1人で、彼らは3人一緒にいた。
「あ、あの……。お礼が言いたくて。昨日はありがとう」
「本当助かった。しかも盗賊達まで倒してくれてたんだろ? ギルド長に聞いたよ」
「で、でもさ、どうして木の実を集めてたって嘘吐いたんだ? 自分が全部倒したって言えば、フォレストウルフの素材、全部あんたの物になったのに」
結局、フォレストウルフの素材は全て彼らの物となった。当初から彼らは自分達が倒した訳じゃないので申し訳なく思っていたのだが、そこで倒したのがミークだと後から知ったので、こうやって声をかけてきたのである。
聞かれてミークは、んー、と顎に指を当て考える。そんな自然な仕草も麗しい黒髪の美女。可愛らしく見えた3人は揃って心臓が跳ね上がる。
「正直言うと、実力バレたく無かったから? でもまあ結局オルトロスが来たせいでバレちゃったから無意味になっちゃったけど」
「な、成る程、じゃあだったら尚更、その……。素材のお金、返すよ」
「ああ。俺等が倒した訳じゃないしな」
「てか正直、恵んで貰ったみたいで格好悪いってのもあるし」
3人の話を聞いて、ミークは正直どうでも良いと思った。すっかり忘れていたのもあったのだが、なにせオルトロスの成果により懐には余裕がある。だが彼らの気持ちも分からなくはない。
ふむ、と少し考えた後、ミークは「結構です」と答えた。その返答に3人は慌てる。
「い、いやでも! 金貨1枚銀貨20枚にもなったんだ! 流石に多すぎて俺等の手に余るんだよ!」
「そ、そう! ウッドランクの俺等には過ぎる報酬なんだ」
「……俺等自身が倒したってなら良いんだけど、受け取るのもみっともないと言うかさ」
3人がそう言うと、ミークは重ねて「やっぱり結構です」と再度伝える。「で、でも!」と何かを言いかけるのを遮りながらミークは続ける。
「皆さんアレでしょ? ウッドランクなのに魔物狩りしたくてあの奥まで行っちゃったんでしょ? じゃあそのお金使って装備整えて再度挑戦出来る様頑張れば良いんじゃないですか? あの時あの場所に居たのは幸運だったと思えば良いかと。だからその運を上手く使って、より高いランク目指したら良いかと」
「で、でも……。良いのか? 結構な金なのに」
「あ。その魔石……。そうか。金には困ってない、か」
「じゃ、じゃあ、さ。今度俺等と狩り行かない? 君もウッドランクなんでしょ?」
1人の提案に「良いねそれ」「是非行こう」と続ける2人だが、ミークは「私今日シルバーランクになっちゃったんで」と答えた後笑顔で、
「私、自分より強い人しか興味無いので」
と伝え、「じゃ、そういう事で」と、3人をその場に置いて歩いて行った。
……そうだ。これで行こう。今度面倒な絡みがあったら、私より強い人しか興味無い、って返せば良いや。
フフン、とほくそ笑みながら去って行く整ったプロポーションの後ろ姿を、3人はぼーっと見つめる。
「シルバーランクになったんだ。……てか笑顔、めっちゃ可愛えぇ」
「無愛想でも超絶美人なのに笑顔めっちゃヤバい。惚れたかも知れない」
「俺には、俺にはネミルちゃんが居るってのに、クッソ心変わりしちまうかも知れねぇ!」
「「そもそもネミルちゃんはお前のじゃねぇ」」
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