隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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町長と面会

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 ※※※

 高さ2mはあろうかという鉄製の柵で出来た門戸。その前には警備隊員2人が門番をしている。その門戸から一直線に奥の邸宅へ白い道が続いていて、途中真ん中に噴水がある。道の左右には色とりどりの花と庭木が植えられている。

 その奥には立派な邸宅。左右対称に赤い尖った屋根が特徴的で、邸宅の壁は真っ白に塗られている。日中はその白さ故陽の光が反射して眩しい事もあると言う。とても大きな2階建てで、町の中央、ギルド前広場からも目視出来る程。

 その立派な、まるでお城の様な屋敷こそ、この町ファリスの町長の住まいだった。

 その邸宅の一番上の階、町が一望出来る自身の部屋の中で、銀髪の口髭を蓄えた痩せ型の初老の男性が落ち着き無く時折髭を触りながらうろうろ歩き回っている。

 気になって窓を覗く。もうこの行動も何度目だろうか。何かしら戦闘が行われているらしいのは分かっている。だが遠過ぎて良く分からない。それでも気が気で無いので、見えもしないのに覗いてしまう。

 そこでコン、コン、と扉をノックする音が聞こえ、「町長。確認して参りました」と言う声が聞こえた。町長と呼ばれた口髭の男は「おお! 入れ入れ!」と声の主を急かし中に招き入れた。

 失礼します、と一礼し中に入ったのは燕尾服に身を包んだ若い男性。彼はここの執事で、町長の指示により、町の入り口の様子を確認しに行っていたのである。

「で、ど、どうだ!? どうだった!?」

「ご安心下さい。魔物オルトロスは倒されました。町の入り口の前で倒されたので、多少外壁が壊された程度で町の中での被害は一切ありません。町民皆無事との事です」

 執事からの報告を聞き、「そ、そうか! よ、良かったあ~」と不安一杯だった町長の表情は一気に安堵に変わり、ふぅ~、と深く大きなため息を吐いて膝から崩れ落ちた。

「ああ、本当に良かった……。ずっと平和だったこの町の歴史が、もしかして覆されるかも知れない。今回は其れ位心配した……。魔族が人族達を襲ってきた時もこの地には来なかったので安全だったし、天災にも遭わないし、ずっと平穏だった。それがこの町の誇りだと言っても良いくらいに。でも今回こそ、今度こそもう無理だ。そう正直諦めてたんだが……。そうか。じゃあ助かったんだな」

「その通りです」

 執事の回答に「ふぅ~」ともう一度深いため息を吐きながら、床に膝をついたまま天を仰ぐ町長。

「確か冒険者は殆ど出払ってて居なかったんだよな? だから我らが警備隊員達が戦っていた、と聞いていたが。そうか我が町の警備隊員達はオルトロスを倒せる程に強いんだな」

 自分の手柄の様に胸を張り嬉しそうな顔をする町長。だが執事が「それは違います」と即否定する。

「違う? どういう事だ?」

「警備隊員達の話によると、彼らでは全く歯が立たなかったそうです」

 執事の言葉に町長は「ん?」と首を捻る。

「じゃあ、オルトロスは何故倒れたんだ? 病気か何かで勝手に死んだのか?」

「いえ実は……、その……」

 何やら言い淀む執事。町長はその様子に首を傾げる。

「どうした? 打てば響く様に、普段は直ぐ反応を返すお前が言葉に詰まるなんて珍しいな。何か言いにくい事でもあるのか?」

「と、言いますか……。とても信じ難い事でして……」

「信じ難い、とは?」

「……1人の女が、魔法も使わずオルトロスを倒した、と」

「は?」

 ※※※

 既に夕闇が迫る時間帯。大通りの両端は魔石で造られたであろう灯籠が等間隔に並んでいてほんのり優しい黄色の灯りが点っている。大通りの両端に浮かぶ黄色の灯り。そして照らされる中性ヨーロッパ風の、色とりどりの屋根を持つ家々。その様はとても幻想的で美しい。

 ……綺麗だな~、きっと昔の地球もこういう風景があったんだろうな。

 素敵な光景に感動はするも、どうやら気分は余り宜しくない黒髪の美女。因みに彼女は既に左目を黒茶色に変え身体能力も標準に戻している。隣には並んで歩いているサーシェク。鎧は壊れたので今は着替えているが、これから町長に会うからか、礼装に近いきっちりした身なりである。

 これから強制的にでも町長に会わねばならない、と言われ、ミークは渋々ながらも向かっている。もう夜になるので明日にして欲しかったのだが、町長曰く早急に今回の事態について説明して欲しいらしい。

「そもそも、君が1人で倒したオルトロスって相当珍しい魔物でね、迷いの森に居る事だって本来有り得ないんだよ。俺が見知っている限り一度もオルトロスを見たなんて聞いた事が無い。それが突然現れ町を襲った」

「はあ」

「一応俺達も外敵からの脅威には常日頃警戒はしているし、対抗出来る様訓練もしてる。でもあそこまでの強敵、これまで現れた事が無かった。だから警備隊員達もあのレベルの魔物は対処しきれなかった。俺を含めてね。甘かったと言われたらそれまでだけど。それ程までにこの町は平和なんだよ」

「まあそうでしょうね」

 まだ1日程度しか過ごしていないが、確かにこの町の人々は皆幸せそうに暮らしているなあ、とミークは感じていた。以前地球に居た頃の状況が相当劣悪だったから、尚更強く感じているのかも知れない。

「だから、君が何故、どうやってその圧倒的な脅威のオルトロスを倒せたのか、流石に誤魔化す事は出来ない。説明する義務がある。分かるかい?」

「まあ言いたい事は分かりますけど。明日でも良くないですか?」

「俺もそう思ったけど、この町としては前代未聞の大事件だから、町長も居ても立っても居られないんだそうだ。早く詳細を知りたいんだって。そこは判って上げて欲しい」

 ……それそっちの都合でしょ。ぶっちゃけ面倒臭いし私はどうでもいい。お腹空いたし。

 理解はしたが納得はしていないミーク。ずっと淡白な態度で不機嫌な顔。それを見てサーシェクは苦笑しながらら「きっと直ぐ終わるから」と、ミークをなだめる様に伝えた。

 そして町長宅の門前に到着。門番2人はサーシェクの姿を見て一礼する。そしてサーシェクが慣れた様子で門番に言伝すると、1人が駆け足で奥の立派な邸宅まで走って行き、戻って来ると「確認が取れました。どうぞ」と大きな鉄製の柵で出来た門を開いた。

「うわあ……」

 中庭を見てミークは感嘆の声を上げる。ライトアップされた中央にある噴水。幾何学的に綺麗に剪定された緑色植物と、色とりどりの花達、それらをオレンジ色の灯りが照らし、芸術的なコントラストを醸し出していた。

 地球の地下施設に居た頃でさえ、こんな美しい光景を見る事は無かった。当然ながら地表でも。初めて見た人と自然が織り成す美しい光景に、ミークはつい魅入ってしまう。

「綺麗……」

 つい零してしまう本音に、サーシェクは「へえ」と笑みを浮かべる。

「やっぱり女の子なんだね。こういうの好きなんだ」

「え? ええ……。まあ」

 恥ずかしくなり俯くミーク。その様子にサーシェクは「何だ、ちゃんと女の子らしい所あるんだ」と微笑ましく思っていた。

 そして中庭の中を進み大きな城の様な邸宅の前に辿り着く。そこでもミークはその邸宅の造形に魅入ってしまうが、直ぐに大きな赤い扉が開かれたので我を取り戻しコホンと咳をする。中に入るとまたも豪奢な様相。赤い絨毯が敷き詰められた立派な床と、左右に何かしらの動物? の彫刻が飾ってある。

「ここの町長って、滅茶苦茶金持ち?」

 流石にここまで立派だとやりすぎだ、と引いてしまうミークに、サーシェクは「さあね」と答えにならない答えを苦笑しながら返す。

 そして正面の大きな階段の上から、燕尾服を着た若い男性が降りてきて、「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」と2人に声をかけ、2階へと2人を誘った。

 立派な赤い絨毯の上を遠慮がちに歩を進めながら、燕尾服の男性の跡をサーシェクと共に付いていくと、奥にまたもや立派な扉があり、燕尾服がコン、コン、とノックした後「来られました」と伝えると、「おお! 入って貰え!」と中から大きな男性の声が聞こえてきた。

 燕尾服がギギ、と音を軋ませ扉を開けると、中には痩せ型の口髭を蓄えた銀髪の男性がこちらに向かって歩いて来たかと思うと「おおサーシェク! 待っていたぞ!」と声を上げた。

 サーシェクは「町長、お待たせしました」と丁寧に頭を下げる。それを横目で見たミークも一応頭を下げた。町長と呼ばれた口髭の男はミークを見て、

「そちらの大層美しい女性は……、もしかして」

「そうです。彼女が今回、オルトロスを討伐した者です」

 サーシェクがそう答えると、町長だけでなく燕尾服の若者も同様に怪訝な顔に変わる。

「彼女が? 本当かね?」

「ええそうですマルガン町長。信じられないかも知れませんが事実です」

 サーシェクが答えると、マルガンと呼ばれた町長は「ふむ……」と口髭に手をやりしげしげとミークを見つめる。

「こんな見た目麗しい、華奢な女性があの巨大な魔物を1人で、か。事前に執事のノライから聞いては居たが……」

「私も彼女を見るのは初めてです。警備隊員から話だけは聞いていたのですが……。信じられない」

 髭の中年男性に燕尾服の若者は共にミークを見ながら感想を発する、その無遠慮な様子に「あんたらの感想なんか知るか」と、ミークは少し気分が悪くなる。その様子に気付いたサーシェクが慌てて言葉を発する。

「マルガン町長、そしてノライもだけど、2人が信じられないのはとてもよく分かります。事実、俺はオルトロスに襲われもう少しで食われそうになったんです。それをこのミークが助けてくれたんです。そしてその後、彼女はたった1人で、オルトロスを一方的に叩きのめしたのです。間近で見ていた俺でも、未だ夢じゃないかって思っている位の有り得ない事ですから、2人の気持ちは理解出来ますが、事実は事実として受け入れて頂きたい」

「この町をずっと守ってくれているサーシェクがそう言うのなら、そうなんだろうな」

 ノライと呼ばれた若い執事がそう言った後ミークに質問する。

「ミーク? さんで良かったでしょうか? 魔法じゃない、確か、カガク? という力をお持ちなんですよね? 腕がゴーレムの素材だそうで」

「ええ、まあ」

 本当はゴーレムじゃないんだけどね、と心の中で呟くも、そういう設定で行こうと決めたのでそこは黙っているミーク。そしてノライの言葉を聞いて「腕がゴーレム?」と驚くマルガン町長。

「そんな人間、聞いた事無いな」

「まあ俺も初耳でしたが、それ以外に説明がつかないんですよ」

 サーシェクがそう答えた後、ノライがいきなりスッとミークの右側に軽やかなステップで移動し、ヒュン、とナイフを2本、ミークに向けて投げた。一連の動作はかなり高速。投擲されたナイフもまるで弾丸の様に速い。

「なっ!」驚くサーシェクを他所に、ミークは反射的に左腕でその2本をパシ、と何事も無かったかの様に掴んだ。

「お、おい! いきなり何するんだ!」

「失礼。ミークさんの実力を知りたくて。もし当たってもポーションで治せますしね」

 サーシェクの叫びにノライはそう答えながらミークに向き直り、「突然攻撃して失礼しました。あなたの実力を見てみたかったのです」と丁寧に頭を下げた。ミークはまあそうだろうな、と思いながら「別に怪我してませんし良いですよ」と答える。

 一方、目の前で起こった事が見えなかったマルガン町長だが、ノライの説明に「そ、そうか。じゃあやっぱり相当な実力者なんだな」と額に汗をかきながら顔を綻ばせる。

「ノライはこう見えて凄腕だ。冒険者になっていればそれこそゴールドランクなっているであろう程のな。そんなノライの攻撃を難なく受けられるのであれば、ミークとやらは間違いなく強いんだろう」

「しかも女性なのに格闘術を心得ている、と。凄いですね」

 笑顔でミークを褒めるノライに、ミークはやや照れながらも「どうも」と普段通りぶっきら棒な返事をする。町長はとりあえず詳細を聞く為、部屋の奥にある長机の椅子にミークを誘い座らせた。


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