隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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流石にもう誤魔化せなくなりました

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 ※※※

「「「「「……」」」」」

 サーシェクを始めとする警備隊員達は、黒髪の華奢な美女が巨大な岩山の様な強力な魔物を一方的に攻撃している様子をずっと見ていた。皆須くあんぐり口を開けたまま。

 そしてミークの攻撃で頭を同時に失ったオルトロスは、その場にズシーンと大きな音を立てて横倒しに倒れ、消えた頭から鮮血がブシャアと迸った。

「……はっ! お、おい! とりあえずオルトロスの血止めだ!」

「「「は、はい!」」」

 ポーションの効果でかなり回復したサーシェクは、慌てて警備隊員達に指示を出す。その声で唖然としていた警備隊員達は一斉に巨大なオルトロスの処理に取り掛かった。因みにサーシェク程体力のないカイトは未だ起き上がれず寝ている。その様子を上空で浮いたまま見下ろしていたミークは、用事も済んだし帰ろっと、としれっと何事も無かったかの様にそのまま町へ戻ろうとするが、「待、待ってくれ!」をサーシェクが大声で呼び止めた。

 その声が聞こえてしまったミーク。「あー、もう回復したのかあ。ポーションって本当凄い」と愚痴る。

 無視しようか迷ったが、でももうここまでやっちゃったら誤魔化せないか、と諦め高を括り、スイー、とサーシェクのいるところまでスーッと、空中浮遊状態で移動した。

 地上にスタ、と降り立つと同時に興奮状態のサーシェクが勢いよく駆け寄ってくる。そしてミークの肩をガシっと掴んでミークを前後にガタガタ揺らしながら、

「き、君は何者何だ? 魔族なのか? そうなのか?」

「とりあえず離れてくれません?」

 暑苦しいので、と言う言葉は何とか飲み込みながら迷惑そうに顔を顰めるミーク。サーシェクは「あ、す、済まない」と謝罪しミークから少し距離を取る。ふー、と一息吐いてからミークが説明をし始める。

「えーと、まず、私は魔族じゃないです。じゃあ何者かって言うと、信じて貰えないと思いますけど、別の世界から来た人間です。で、この世界の人に私の能力を理解しやすい様に説明するとしたら、私の身体の中にの機能がある、と言う感じですかね?」

 魔石屋で閲覧した本の中に、ゴーレムと言う、岩や鉱石、または金属で出来たロボットの様な、無機質な魔物がいる、と記載されていた。ミークはそれなら理解されるかも、と思い、自身の身体の中にゴーレムの要素が組み込まれている、と説明する事にしたのである。

 一方である程度ラルからミークとの話を聞いていたサーシェク。ラルが聞いた通り、神様によって別の世界から来た、と同様の事を言った事で、これは本当なのかも知れない、と思ったと同時に、ミークの言ったとある言葉が引っかかった。

「君の身体にゴーレム? じゃあ君はゴーレムの素材、要する鉱石か何かで出来ている、と言う事なのか? だからラルのアダマンタイト製の剣も素手で折れた、と」

「全身じゃないですけど、まあ、そんな感じです」

「オルトロスを倒した白い光は?」

「あれは腕の中でエネルギーを集約して放ったレーザー光線です」

「え、えね?  れ、れーざー? 何だそれ?」

「あ、えーっと。このゴーレムっぽい腕は魔素をエネルギー、じゃ分からないか。えーと……じゃあ養分? として動いてまして。この腕は魔素を養分として集めて、さっきみたいに攻撃出来るんです。こんな風に」

 本当は魔素を養分としている訳ではない。でもそう説明した方が理解し易いだろうと説明した後、ミークは左腕の人差し指で近くの木を指差す。そして指先に白い小さな球を作り出した後、ピシュン、と音を立てその木を攻撃、貫通した。

「……」

 サーシェクはそれを見て呆気にとられる。だが直ぐ「で、でも、それは魔法じゃないのか?」とミークに質問するが、「正確に言うと魔法じゃないです。でも似た様なもんだと思ってくれたら」と答える。

「それはどういう事だ?」

「科学、と言う、私が住んでた地球で発展してた技術があって。この世界で言う魔法みたいなものなんですけど。例えば灯りは電気、と言う科学技術を使ってました。こんな感じ?」

 ミークは左手のひらを上向きに広げ、白い球体を作り出す。それは徐々に明るく眩しく輝く。そして太陽程に眩しくなったところで耐えられなくなったサーシェクは、片手で目を覆いながら「わ、分かった! もう良いよ!」と伝えると、その光の球はシュン、と一瞬で消滅した。

「と、とにかく君は、魔法は使えないけどそれと同等のカガク? とか言う特別な力を持ってるんだね?」

「まあそういう解釈で良いです」

 本当は地球最高の最先端テクノロジーだからただの科学技術って訳じゃなく滅茶苦茶凄いんだけど、と思いつつも、特に伝える必要もないしきっと分かって貰えないだろうと、その言葉は飲み込んだ。

「そ、それと……。君のその左目。それももしかして……」

「あ、はい。これも科学技術みたいなもんですね。そうだ丁度良い」

 何が丁度良いんだ? サーシェクは首を捻るが、ミークは気にせず森のとある方向、2人がいる場所からおよそ200m程離れた場所をサーモグラフィーを用いスキャン、そしてその地点を指差した。

「あそこ。ゴルガっていう、確か冒険者? が隠れてますよ」

「え?」

「心拍数と発汗、体温からして、かなり緊張した状態でこっちを警戒してます。捕まえますか? 何か知ってるかも知れないし」

「心拍数、って心臓が動いた数? あと汗かいてるとか、そして体の温度? そんな事までこの距離で物陰に隠れてるのに分かるのか……。それにしても……」

 ゴルガが居る? しかも隠れて様子を見ていた? 

「だ、だが、この距離で捕まえるのも……。馬もないから逃げられるだろうし」

 多分ゴルガは、こちらがゴルガの存在に気付いている、と言うのは分かっていないだろう。なら、警備隊員に指示して裏に回りこっそり捕獲した方が無難かも、とサーシェクが思案していたところで、

 スッ、と、ミークの左腕が音も無く身体から離脱し、空中でふわふわ浮いた。

「!!!!」

 サーシェクは声にならない声を上げ、びっくりして腰を抜かし地面にステンとコケる。一方のミークはそんなサーシェクを見て「まあ驚くか」と思いつつも、もう遠慮する事もしない、ここまで来たら曝け出してしまえ、と気にしていない顔。

「な……! な……、何だそれは!」

「まあとりあえず行ってきます」

 行ってきます? って何だ? と、サーシェクの驚きと疑問を他所に、ミークは左腕をヒュン、一瞬でとゴルガが居る場所に飛ばす。そして数秒後「な、何だ!? ク、クソ! 離しやがれ!」と遠くから何やら叫ぶ声が聞こえ、そして飛んで行った左腕がゴルガの首根っこを掴み地面から数cm浮かんだままま、スー、っと2人の元に連れてきた。

 そしてゴルガを地面にベシャ、と置いて、ミークは何事も無かったかの様に腕を自身の身体に戻す。そして「はい、どうぞ」と、サーシェクに伝えた。

「「……」」

 ゴルガとサーシェクは一連の状況に、共に言葉を失った。

 ※※※

 既に辺りは日が暮れかかりオレンジ色の陽の光が辺りを彩っている。

 その中に歪に鎮座する大きな塊。その上空から、ピーと小さく音を出しながら綺麗に黒い皮を剥いでいく人影。そして後ろの方までカットすると、音の張本人は、

「良し。これで大体皮は剥がせたね。後は魔石か」

 と、何処か楽しげに、紅い左目を使い肉塊をスキャンする。

 その様子を、ミークの人外な行動に漸く慣れてきた警備隊員達が、ミークが剥いだ巨大なオルトロスの毛皮を処理しつつ微笑ましそうに見ていた。

 ミークがオルトロスを倒し脅威が去ったのは良かったが、このデカブツの後処理をしなければいけない。本来であれば、魔物の素材採取はギルドに依頼し冒険者達にやって貰うのが通例だが、オルトロスが襲撃した当時大半の冒険者は町におらず、かと言って冒険者が帰ってくるのを待ってから作業始めたとしても時間的にも暗くなるし、だからと言って翌朝まで放置すると腐敗して素材が傷んでしまうかも知れない。

 なら自分達でやってしまおう、とサーシェクは決断し警備隊員達にそう指示をしたのである。だが、とにかく巨大で作業が進まない。それを見かねたミークが「私も手伝います」と申し出たのである。

 ミークはそう伝えると直ぐ、サーシェクの了承も得ないまま、ふわりと巨大な黒い塊の上まで浮かびホバリング。そして紅い左目でスキャン。魔石屋で読んだ解体の方法をデータベースにアクセスして確認。

 解体の方法と採取できる素材を確認出来たので、次は左人差し指を出し、その先からピー、と白い針程の細さのレーザーを出す。長さ50cm程度でレーザーを止め、上の方からオルトロスの身体にレーザーをぶっ刺し、チー、と綺麗に皮だけカットし始めた。

 そして2時間程経つと、オルトロスの黒い毛皮はミークの手によってほぼ全て剥ぎ取られた。因みに牙は先に警備隊員達で採取されていた。

 肉塊となったオルトロスの死骸。そしてミークはスキャンした際、心臓より少し右、身体の中心辺りに魔石を確認。左人差し指から出していたレーザーをピュン、と飛ばす。まだ体内に残っていた血液がそこからプシャア、と吹き出し、少ししてそれが止まると、ミークは左人差し指から再度レーザーを出し、器用に円形に肉塊を切り取った。

 すると、ラグビーボール位の大きな魔石が見えた。

「おおー、スキャンして分かってたとはいえ、実物見るとやっぱデカい」

 何だか楽しそうに作業するミーク。実は未経験だった解体をやってみたかったのである。

 肉塊や内臓に触れるのは汚れるから嫌なので、レーザーでサクサク魔石の周りをカットしていく。それでも魔石にオルトロスの体液やら血液はまだこびり付いているので、警備隊員さんに取って貰おう、と「すみませーん! これ誰か取ってくださーい!」と大声を出した。

 その声にリケルがいち早く反応し、蹴躓きながらもミークの元に駆けつける。

「ミ、ミーク! 俺が取るよ!」

「あ、そう。宜しく」

 素っ気無いミークの返事にリケルは焦るも、肉塊の奥にある魔石に手を伸ばす。そしてミークと会話出来るこの機会を逃すまい、と必死の思いでミークに声をかける。

「あ、あのさ……。ミークって滅茶苦茶強いんだね」

「どうも」

「初めてこの町に来た時は、正直言うと変わった子だ、と思ってたけどさ。凄いよね。空も飛べるなんて」

「あ、そう」

「え、えーっと。オ、オルトロスの皮の剥ぎ方、知ってたんだ」

「あーそれは、今日お昼に魔石屋さん行って、そこで素材の取り方書いてる本見せて貰ったから。犬系の魔物は殆ど同じっぽいよ」

「そ、そっか。成る程……。あ! あとその左の目! 色違いなんだね」

「まあね」

 表情を変えないオッドアイの美女に、何処となく妖艶ささえ感じているリケルはゾクッとするが、中々会話が続かない。

 何とか仲良くなろうと必死なリケルだが、ミークの反応は正直良いとは言えない。それでも一応はミークと会話出来ている。高揚感と緊張感を同時に感じながら、リケルは手を体液と血液まみれになりながらもそっと大きな魔石を取り出した。ベトベトになっているリケルを見て、ミークは反射的に「ギャーばっちい!」と、つい距離を取ってしまう。

「俺に取らせといてそれは酷くない?」

「あ、ごめん。えーと、水の魔石、っと」

 腰につけたポシェットから、ミークは魔石屋で購入した水の魔石を取り出し、オルトロスの魔石をリケルの腕共々バシャバシャと水で流した。ある程度綺麗になったオルトロスの魔石。その色は乳白色だが宝石の様に輝いている。それでも若干の生臭さは残っているので、リケルは顔を歪ませながらミークに質問する。

「これ、どうすんの?」

「さあ?」

「いや、さあ? って。倒したのミークだからミークの物だよ。じゃあ俺、ギルドに運んでおこうか? 水で流したとは言え、まだ触るの嫌でしょ?」

 リケルの提案にミークは「んー」と顎に手を当て少し思案するが、「あ、そうだ」ととある事を思い出す。

「ねえリケル。まだゴルガに謝って貰ってないよね?」
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