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強い魔物の筈なのに余裕過ぎた
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※※※
「走って来たからギリギリだった。緊急事態だったし人の目気にせず空飛んできた方が良かったかな」
間一髪間に合った事にふいー、と安堵しながら額の汗を拭うミーク。そして身包み剥がされ気絶しているサーシェクを抱えながらオルトロスの頭上でホバリングしオルトロスを上空から観察する。
「あれがオルトロス、かあ。実物見るとデカいな……、っと、確かあっちにも……」
そう言ってミークはサーシェクを抱えながら、虫の息で地面に横たわるカイトの元へ飛んでいく。そしてカイトの横にサーシェクを寝かせ、ポシェットに入れていたポーションをそれぞれの口に含ませた。
「これで治れば良いけど」
だが2人共、ポーションを口から入れた途端、呼吸が落ち着いてきたのが分かった。ミークは2人をスキャンする。
ーー1人は脊髄損傷、右腕骨折、肺に大きな空洞。致死率97%……ですが徐々に空洞は塞がり骨は結合し始めています。もう1人は腹部裂傷出血多量。背部にも陥没穴有り。致死率90%……。ですがこれも徐々に塞がりつつありますーー
「おおー、治ってきてる。やっぱポーションって凄いね」
絶対ポーション鑑定しよう、3本買っといて良かった、と思いながら、オルトロスの方に体を向ける。
「さて」
漸くこちらに気付いたオルトロスは、「「ガルルル……」」と怒りの感情を顕にしながらミークを睨む。
「そういや、そもそも地球で暮らしてた頃、犬って居なかったんだよね。昔はペットとして飼われてた位可愛らしい、愛玩動物だって、学校の先生に教えて貰ったんだけど」
涎をダラダラ垂らしながら、喰い殺さんとミークを強烈に睨む双頭の巨犬を見て、ミークは残念そうにため息を吐く。
「なのに、初めて見た犬がこれかあ。全然可愛くない」
ずっと恐れる事無く余裕な態度のミークに、圧倒的強者で捕食者という自覚があるオルトロスは苛立ちを隠さない。
ギリ、と歯軋りしたかと思うと、ミーク1人に向かって「「ロアアアアアアアーーーー!!」」と双頭がスキルを発動した。
「おお!? ビックリしたあー。って、あれ? 身体動かない?」
ブワッとミークの靭やかな黒髪がスキル発動の風でふわりと舞う。そしてどうやらスキルはミークに効果があった模様。オルトロスは双頭揃ってニヤリと嗤い、ミークの傍まで一瞬で飛んで移動し、直ぐ様高速の鋭い爪の攻撃でミークを横薙ぎにした。
だが、
ガシィ、と左腕がそれを止める。攻撃の影響でミークの周りで風が舞う。
「ウガ?」呆気に取られたオルトロス。それもその筈。オルトロスのこの爪の攻撃は、硬い岩山をも一薙ぎで真っ二つに裂ける程の強力な一撃。もし爪の斬撃が通らないとしても、こんな華奢な人間の女がその力で吹っ飛びもせず受け止めている事自体有り得ない。
そもそもスキルを放ってそれが効いていた筈。なのに何故腕を動かせたのか、何故攻撃を防ぐ事が出来たのか、理解が追いつかないオルトロス。
オルトロスは若干の焦りを感じながらもう一度、「ウガアアア!」と叫びながら、今度は目一杯の力で爪を立てミークを横薙ぎに攻撃を仕掛ける。
だがまたも、ガシィ、と止められブワッとミークの周りで再び風が舞う。
「ウ、ウガガ?」
何故? みたいなニュアンスでまたも驚くオルトロス。一方のミークは涼しい顔。
「弾道ミサイルの威力と比べたら大した事無いね」
思っていたより弱かった。サーシェク達警備隊が苦戦していた強い魔物。きっと良い戦いが出来るだろうと思っていたミークは、期待外れの強さに若干残念に思っていたりする。
その間AIからミークに報告が上がる。
ーースキル「ロア」解析終了。人間の精神に接触し恐怖心を向上させ、硬直させるスキルの様です。ロアを発動する者より弱い、または恐怖を感じている相手に対してだけ有効。魔素を使用し直接人間の脳細胞に影響を与えます。次回以降この能力は無効化可能ーー
それを聞いたミークは「良くスキルって分かったね。あ、そっか。全部魔石屋でトレースしたからスキルってのも知ってるんだ」と感心している。
因みにロアが効いていたのに、ミークの左腕だけが動かせたのは、ロアが精神攻撃スキルでミークの左腕はその影響が及ばない機械だからである。
「良し。じゃあもう動けるね」
AIによってロアの効果が無効化されたので、ミークは止めていた爪を「ふん!」と押し返す。「ウガガ!?」オルトロスはその勢いでグルンと横回転してドシーンとその場で倒れた。
そしてミークは前屈したり伸びをしたりしてストレッチ。そしてファイティングポーズを取る。
「さて。悪いけどもう遠慮しないよ。この町の人達を襲わせないから」
※※※
「ん……。うう~ん」
ここは天国だろうか? いや多くの魔物を倒してきた罪で地獄かも知れない。気がついたサーシェクはうっすらと目を開ける。
「あ、あれ?」
上体を起こして辺りをキョロキョロする。どうやら見慣れた、ファリスの町を外から見た景色の様だ。
「そ、そうだ俺は! ……あ、痛てて……」
ポーションが効いてはいたがまだ完治には時間がかかる。腹の傷が消えつつある事に気づき、いつの間にかポーションを服用した事に気付くサーシェク。
「どうして? 俺は確かオルトロスに食われかけてた筈……」
まだ意識が薄い中、必死になって状況を確認する。すると少し離れたところにオルトロスと、そして魔族かも知れない、と疑っていたあの美女が向き合って立っていた。
いつこの場所に来たのか分からないが、とりあえずサーシェクはその美女、ミークが危険に晒されていると思い、痛む腹を抑えながら出来るだけ大きな声で「危ないから逃げろ!」と叫ぶ。
その声がミークに届いた様で、ミークはサーシェクの方を向いて「大丈夫」と口でゼスチャーした。
「大丈夫? 何が大丈夫なんだ?」
まだ痛む腹を抑えながらそう思った次の瞬間、オルトロスがその太い前足でミークを上から押しつぶさんと叩きつける。「ああ……!」それを見たサーシェクは絶望する。だがオルトロスは「グギギ……」と何やら悔しそうにしている。
するとその前足がグググッと上に持ち上がる。その下にはミーク。なんと片腕だけで重いであろうその前足を持ち上げているではないか。そしてミークの細腕が前足の太い指をガッシと掴んだかと思うと、ポイ、とまるで石でも放るかの様に投げた。
「「ガアアアア!?」」驚く双頭。上空にフワっと一瞬上がった15mの黒い塊。直ぐにズシーン、と辺りを揺らしながら地面に叩きつけられる。
だが直ぐオルトロスは立ち上がる。明らかに余裕が無い。そして完全に怒り狂っている。一方のミークは余裕綽々といった様子。
そんなミークにオルトロスは益々苛立ちを募らせ、双頭揃って「「コオオォォ……」」と息を吸い込んだかと思うと、「「ガアアアア!!」」と2つの口から炎を吐き出した。
幸い炎は森とは逆方向だった為森が焼ける事は無かったが、炎を吐き終えたオルトロスは流石にこれで倒せただろうと「グフン」と鼻を鳴らす。そして炎が晴れたその場所を見るが、そこには焼き焦げた死体は無い。
何処に行った? オルトロスが辺りを見回そうとした瞬間、「「ゴバァ!!」」と横っ腹に強烈な衝撃を食らい、オルトロスは吹っ飛ぶ。そのまま地面を巨体がゴロンゴロンと転がった。
オルトロスの横腹から血が滴り落ちている。その痛みと中々倒せない怒りで、オルトロスは双頭共こめかみに血管が浮き出ている。
そんな、怒り狂った巨大な魔物の様子を見ても、ミークは飄々としていた。
「……俺は一体、何を見ているんだ?」
サーシェクは到底信じられない光景に、何度も夢じゃないのか、と目を擦っていた。
※※※
瞬速で齧り付いて来るのを下へ避け顎にアッパーを食らわす。「キャイン!」と犬らしい悲鳴を上げる。もう一方が横から食らいつこうとするのをバックステップで避け鼻っ面へパンチを見舞わす。またも「キャン!」と悲鳴。
「やっぱ弱いよね」
もう飽きてきた、とでも言わんばかりにオルトロスを手玉に取るミーク。一方のオルトロスは全然攻撃が当たらない、ロアも効かない、しかも横っ腹にダメージを与えられている、と、餌であるこの人間の女は実は自分より強いのでは? と焦っている。
「確かこいつって、ゴールドランクの人でも苦戦する位には強いんだっけ? 私まだ全然本気出してないんだけど」
それでも町にとっては脅威である事には違いない。ミークはとりあえず、さっさと目的を達成したいと思いながら、オルトロスを弄ぶ。
「そうじゃないでしょ。ほら、もっと別の攻撃あるでしょ」
挑発しながらオルトロスの横っ腹辺りへ移動する。そこは先程ミークが攻撃し穴が空き血が吹き出している箇所。ミークはもう一度そこを攻撃するフリをする。するとそこで尻尾の蛇が、「キシャア!!」と叫びながら、ミークの攻撃を妨害しようと腕にがぶり、と噛み付いた。
尻尾の蛇の牙には猛毒がある。ジワジワと噛みつかれたミークの腕が紫色に変色し始める。でもミークは「そうそれ。それ待ってた」と寧ろしてやったりの表情。
そしてAIがミークに報告。
ーー神経系を脅かす猛毒を検知。抗毒素生成、……中和しました。成分分析。地球にいたコブラと毒性酷似。ただ魔素が含まれています。……今後魔素を含んだ毒が体内に入ってきた場合の対処が可能となりますーー
良し、これを元に色んな毒をトレースした情報と照らし合わせて解析すれば、今後どんな毒を持つ魔物と戦っても何とかなるな、とミークはしめしめと思う。要する猛毒のサンプルが欲しかったのだ。そして既に変色していた腕が元通りになったのを確認しつつ、未だ噛み付いている尻尾の蛇をブチっと左手で引き千切った。
「「「ギャアアア!!」」」
痛みで叫ぶオルトロスと引き千切られた蛇。それを見て「へえ。尻尾にも意識あるんだね」と、感心する。
「ま、とりあえず用事は済んだ」
と、ミークはふわりとオルトロスの上空に浮かび、左手のひらを双頭に向ける。
浮かんでいるミークをオルトロスは呆気にとられた顔で見上げる。するとミークの開いていた左手のひらにキュルキュルと白い球が出来上がる。そしてそれは2つの氷柱の様な形になった。そして、
「じゃあね」
と、ミークが呟いた次の瞬間、
チュイン、と何かの音が鳴ったと同時に、オルトロスの双頭を白い閃光がピシィ、と同時に貫く。その後貫かれた2つの頭は、パン、と弾け飛んだ。
「走って来たからギリギリだった。緊急事態だったし人の目気にせず空飛んできた方が良かったかな」
間一髪間に合った事にふいー、と安堵しながら額の汗を拭うミーク。そして身包み剥がされ気絶しているサーシェクを抱えながらオルトロスの頭上でホバリングしオルトロスを上空から観察する。
「あれがオルトロス、かあ。実物見るとデカいな……、っと、確かあっちにも……」
そう言ってミークはサーシェクを抱えながら、虫の息で地面に横たわるカイトの元へ飛んでいく。そしてカイトの横にサーシェクを寝かせ、ポシェットに入れていたポーションをそれぞれの口に含ませた。
「これで治れば良いけど」
だが2人共、ポーションを口から入れた途端、呼吸が落ち着いてきたのが分かった。ミークは2人をスキャンする。
ーー1人は脊髄損傷、右腕骨折、肺に大きな空洞。致死率97%……ですが徐々に空洞は塞がり骨は結合し始めています。もう1人は腹部裂傷出血多量。背部にも陥没穴有り。致死率90%……。ですがこれも徐々に塞がりつつありますーー
「おおー、治ってきてる。やっぱポーションって凄いね」
絶対ポーション鑑定しよう、3本買っといて良かった、と思いながら、オルトロスの方に体を向ける。
「さて」
漸くこちらに気付いたオルトロスは、「「ガルルル……」」と怒りの感情を顕にしながらミークを睨む。
「そういや、そもそも地球で暮らしてた頃、犬って居なかったんだよね。昔はペットとして飼われてた位可愛らしい、愛玩動物だって、学校の先生に教えて貰ったんだけど」
涎をダラダラ垂らしながら、喰い殺さんとミークを強烈に睨む双頭の巨犬を見て、ミークは残念そうにため息を吐く。
「なのに、初めて見た犬がこれかあ。全然可愛くない」
ずっと恐れる事無く余裕な態度のミークに、圧倒的強者で捕食者という自覚があるオルトロスは苛立ちを隠さない。
ギリ、と歯軋りしたかと思うと、ミーク1人に向かって「「ロアアアアアアアーーーー!!」」と双頭がスキルを発動した。
「おお!? ビックリしたあー。って、あれ? 身体動かない?」
ブワッとミークの靭やかな黒髪がスキル発動の風でふわりと舞う。そしてどうやらスキルはミークに効果があった模様。オルトロスは双頭揃ってニヤリと嗤い、ミークの傍まで一瞬で飛んで移動し、直ぐ様高速の鋭い爪の攻撃でミークを横薙ぎにした。
だが、
ガシィ、と左腕がそれを止める。攻撃の影響でミークの周りで風が舞う。
「ウガ?」呆気に取られたオルトロス。それもその筈。オルトロスのこの爪の攻撃は、硬い岩山をも一薙ぎで真っ二つに裂ける程の強力な一撃。もし爪の斬撃が通らないとしても、こんな華奢な人間の女がその力で吹っ飛びもせず受け止めている事自体有り得ない。
そもそもスキルを放ってそれが効いていた筈。なのに何故腕を動かせたのか、何故攻撃を防ぐ事が出来たのか、理解が追いつかないオルトロス。
オルトロスは若干の焦りを感じながらもう一度、「ウガアアア!」と叫びながら、今度は目一杯の力で爪を立てミークを横薙ぎに攻撃を仕掛ける。
だがまたも、ガシィ、と止められブワッとミークの周りで再び風が舞う。
「ウ、ウガガ?」
何故? みたいなニュアンスでまたも驚くオルトロス。一方のミークは涼しい顔。
「弾道ミサイルの威力と比べたら大した事無いね」
思っていたより弱かった。サーシェク達警備隊が苦戦していた強い魔物。きっと良い戦いが出来るだろうと思っていたミークは、期待外れの強さに若干残念に思っていたりする。
その間AIからミークに報告が上がる。
ーースキル「ロア」解析終了。人間の精神に接触し恐怖心を向上させ、硬直させるスキルの様です。ロアを発動する者より弱い、または恐怖を感じている相手に対してだけ有効。魔素を使用し直接人間の脳細胞に影響を与えます。次回以降この能力は無効化可能ーー
それを聞いたミークは「良くスキルって分かったね。あ、そっか。全部魔石屋でトレースしたからスキルってのも知ってるんだ」と感心している。
因みにロアが効いていたのに、ミークの左腕だけが動かせたのは、ロアが精神攻撃スキルでミークの左腕はその影響が及ばない機械だからである。
「良し。じゃあもう動けるね」
AIによってロアの効果が無効化されたので、ミークは止めていた爪を「ふん!」と押し返す。「ウガガ!?」オルトロスはその勢いでグルンと横回転してドシーンとその場で倒れた。
そしてミークは前屈したり伸びをしたりしてストレッチ。そしてファイティングポーズを取る。
「さて。悪いけどもう遠慮しないよ。この町の人達を襲わせないから」
※※※
「ん……。うう~ん」
ここは天国だろうか? いや多くの魔物を倒してきた罪で地獄かも知れない。気がついたサーシェクはうっすらと目を開ける。
「あ、あれ?」
上体を起こして辺りをキョロキョロする。どうやら見慣れた、ファリスの町を外から見た景色の様だ。
「そ、そうだ俺は! ……あ、痛てて……」
ポーションが効いてはいたがまだ完治には時間がかかる。腹の傷が消えつつある事に気づき、いつの間にかポーションを服用した事に気付くサーシェク。
「どうして? 俺は確かオルトロスに食われかけてた筈……」
まだ意識が薄い中、必死になって状況を確認する。すると少し離れたところにオルトロスと、そして魔族かも知れない、と疑っていたあの美女が向き合って立っていた。
いつこの場所に来たのか分からないが、とりあえずサーシェクはその美女、ミークが危険に晒されていると思い、痛む腹を抑えながら出来るだけ大きな声で「危ないから逃げろ!」と叫ぶ。
その声がミークに届いた様で、ミークはサーシェクの方を向いて「大丈夫」と口でゼスチャーした。
「大丈夫? 何が大丈夫なんだ?」
まだ痛む腹を抑えながらそう思った次の瞬間、オルトロスがその太い前足でミークを上から押しつぶさんと叩きつける。「ああ……!」それを見たサーシェクは絶望する。だがオルトロスは「グギギ……」と何やら悔しそうにしている。
するとその前足がグググッと上に持ち上がる。その下にはミーク。なんと片腕だけで重いであろうその前足を持ち上げているではないか。そしてミークの細腕が前足の太い指をガッシと掴んだかと思うと、ポイ、とまるで石でも放るかの様に投げた。
「「ガアアアア!?」」驚く双頭。上空にフワっと一瞬上がった15mの黒い塊。直ぐにズシーン、と辺りを揺らしながら地面に叩きつけられる。
だが直ぐオルトロスは立ち上がる。明らかに余裕が無い。そして完全に怒り狂っている。一方のミークは余裕綽々といった様子。
そんなミークにオルトロスは益々苛立ちを募らせ、双頭揃って「「コオオォォ……」」と息を吸い込んだかと思うと、「「ガアアアア!!」」と2つの口から炎を吐き出した。
幸い炎は森とは逆方向だった為森が焼ける事は無かったが、炎を吐き終えたオルトロスは流石にこれで倒せただろうと「グフン」と鼻を鳴らす。そして炎が晴れたその場所を見るが、そこには焼き焦げた死体は無い。
何処に行った? オルトロスが辺りを見回そうとした瞬間、「「ゴバァ!!」」と横っ腹に強烈な衝撃を食らい、オルトロスは吹っ飛ぶ。そのまま地面を巨体がゴロンゴロンと転がった。
オルトロスの横腹から血が滴り落ちている。その痛みと中々倒せない怒りで、オルトロスは双頭共こめかみに血管が浮き出ている。
そんな、怒り狂った巨大な魔物の様子を見ても、ミークは飄々としていた。
「……俺は一体、何を見ているんだ?」
サーシェクは到底信じられない光景に、何度も夢じゃないのか、と目を擦っていた。
※※※
瞬速で齧り付いて来るのを下へ避け顎にアッパーを食らわす。「キャイン!」と犬らしい悲鳴を上げる。もう一方が横から食らいつこうとするのをバックステップで避け鼻っ面へパンチを見舞わす。またも「キャン!」と悲鳴。
「やっぱ弱いよね」
もう飽きてきた、とでも言わんばかりにオルトロスを手玉に取るミーク。一方のオルトロスは全然攻撃が当たらない、ロアも効かない、しかも横っ腹にダメージを与えられている、と、餌であるこの人間の女は実は自分より強いのでは? と焦っている。
「確かこいつって、ゴールドランクの人でも苦戦する位には強いんだっけ? 私まだ全然本気出してないんだけど」
それでも町にとっては脅威である事には違いない。ミークはとりあえず、さっさと目的を達成したいと思いながら、オルトロスを弄ぶ。
「そうじゃないでしょ。ほら、もっと別の攻撃あるでしょ」
挑発しながらオルトロスの横っ腹辺りへ移動する。そこは先程ミークが攻撃し穴が空き血が吹き出している箇所。ミークはもう一度そこを攻撃するフリをする。するとそこで尻尾の蛇が、「キシャア!!」と叫びながら、ミークの攻撃を妨害しようと腕にがぶり、と噛み付いた。
尻尾の蛇の牙には猛毒がある。ジワジワと噛みつかれたミークの腕が紫色に変色し始める。でもミークは「そうそれ。それ待ってた」と寧ろしてやったりの表情。
そしてAIがミークに報告。
ーー神経系を脅かす猛毒を検知。抗毒素生成、……中和しました。成分分析。地球にいたコブラと毒性酷似。ただ魔素が含まれています。……今後魔素を含んだ毒が体内に入ってきた場合の対処が可能となりますーー
良し、これを元に色んな毒をトレースした情報と照らし合わせて解析すれば、今後どんな毒を持つ魔物と戦っても何とかなるな、とミークはしめしめと思う。要する猛毒のサンプルが欲しかったのだ。そして既に変色していた腕が元通りになったのを確認しつつ、未だ噛み付いている尻尾の蛇をブチっと左手で引き千切った。
「「「ギャアアア!!」」」
痛みで叫ぶオルトロスと引き千切られた蛇。それを見て「へえ。尻尾にも意識あるんだね」と、感心する。
「ま、とりあえず用事は済んだ」
と、ミークはふわりとオルトロスの上空に浮かび、左手のひらを双頭に向ける。
浮かんでいるミークをオルトロスは呆気にとられた顔で見上げる。するとミークの開いていた左手のひらにキュルキュルと白い球が出来上がる。そしてそれは2つの氷柱の様な形になった。そして、
「じゃあね」
と、ミークが呟いた次の瞬間、
チュイン、と何かの音が鳴ったと同時に、オルトロスの双頭を白い閃光がピシィ、と同時に貫く。その後貫かれた2つの頭は、パン、と弾け飛んだ。
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