隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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初めての魔法使い

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 ※※※

 腹を満たした食堂から歩いて5~6分、看板に(魔石屋)と記載されている、木製の平屋1階建ての家に2人辿り着いた。

 ネミルがトン、トンとドアをノックし、「居ますかー?」と言いながらドアを開けると、奥に恰幅の良い中年の、化粧の濃い女性が座っているのが見えた。

「どうしたんだいネミル? まだ魔石を取りに来る時間じゃないだろ?」

 まるでタバコ焼けした様なガラガラ声の女性の声が奥から聞こえてきた。その声に対して「今日は別件なんです。入っていいですか?」とネミルが聞くと、「好きにおし」と愛想の無い返事だったが、ネミルは慣れた様子で「じゃあ失礼しまーす」と、ミーク共々中に入った。

 15畳程はある埃っぽく薄暗い屋内。屋根の形のまま斜めになっている天井は結構高く、天窓から日光が差し込んでいる。その為灯りは点っていないものの、部屋内を見渡すには困らない程度には明るい。そして壁側に沿って様々な色の魔石が陳列してあった。

 物珍しそうにキョロキョロ見回しているミークを見て、しわがれた声の主が「誰だいその女? 見ない顔だけど」と不躾な物言いで質問すると、ミークは慌てて「あ。初めまして。昨日ここに来たミークと言います」とペコリと挨拶した。

 女性は「ふ~ん?」と席を立ち、艶のある紫色のワンピースを着た巨体を揺らしながら、のし、のし、と近づいてくる。ミークを下から上まで見回す。ミークは驚いて「何でしょう?」と聞くと、「冒険者みたいな格好だねぇ。女の癖に。しかもとんでもない美人ときた。一体何でこんな辺鄙な町に来たんだい?」と片眉を上げ質問した。

「え、えーと……」

「何だい? 何か疚しい事でもあるのかい?」

「いやそういう訳じゃないんですけど……。言ってもきっと信じて貰えない、と思うので」

 困った様子で口籠りうつむくミークに、恰幅の良い女性は益々眉を上げる。そこでネミルが助け舟。

「ジャミーさん。この子訳有りなので余り追及しないであげて下さい。でも悪い子じゃないですよ」

 庇うネミルに「訳有り、ねえ?」と呟いたと同時に、ジャミーと呼ばれた体の大きい女性は小さく「鑑定」と呟く。

 ……魔素が全然ないわね。じゃあ普通の女って事? でもその格好…… 

「? ジャミーさん? どうかしました?」

「何でも無いわよ。ネミルがそう言うならこれ以上は追及しないよ。私は私の平穏が脅かされなきゃそれで良い。で、魔石の交換じゃなけりゃ何の用?」

「ミークが魔法使いってどんな人なのか興味あるって言うから会わせたくて。それと見ての通り、ミークは冒険者なんです。今後魔石も必要になると思ったので、見て貰おうと思って」

「女だてらに冒険者? 魔法使えないのに?」

 その言葉にネミルは「あー、ジャミーさん、勝手に鑑定したんですね?」と突っ込むと、ジャミーは慌てて「良、良いじゃないのよ! 怪しかったんだからついやっちゃったってだけよ!」と弁明する。

 2人のやり取りを聞いて、ミークは、確か鑑定って、ギルド長のラルが言ってた、魔素を計測するとか言うやつだよね? と思い出し、「別に見られて困る事は無いので良いですよ」と伝えた。

「ま、ミークがそう言うなら良いけど。本当は相手に了承得てから鑑定するのがマナーでしょうに」

 腕を組み少し睨みを利かせジャミーに詰め寄るも、ジャミーは開き直る。

「どうせ魔素持ってたって魔法使いなんてこの世じゃ殆ど居ないんだから良いでしょ。私はその女の格好が明らかに冒険者だったから気になったのよ……って、ちょっと待って? あんた女で魔素が無いのに冒険者なのかい?」

 ジャミーが驚いた顔でそう言うと、「ミークはこう見えて強いんですよー」と何故かネミルが自慢気に大きな胸を張ってフンスと答える。そこでジャミーが「あ!」と何か思い出す。

「もしかしてあんた、昨日闘技場でラルに勝ったって言う女? ここに来た奴らから聞いたわよ。えらく美人だって言ってたし間違いないわね」

「そうそう。その彼女がミークなんですよ」

 成る程、とジャミーは納得し、再度ミークをしげしげと見た後、「ま、好きなだけ見ていきな」と言って再び奥の椅子に引っ込んだ。

「じゃ、ミーク。私仕事に戻るわね。ああ見えてジャミーさん良い人だから、何か分からない事があったら質問して大丈夫よ」

「え! ネミル帰っちゃうの?」

「お昼からも仕事あるから。じゃあね」

 ミークの焦りを他所に、ネミルはそそくさと魔石屋を出ていった。途端シーンとなる屋内。だが奥から何やらガサゴソと音が聞こえて来た。どうやら仕事の続きをするらしい。

 取り残されたミークは何だか気不味いなあ、と思いながらも、だからと言って自分までさっさと出ていくのも気を使うし、そして魔石には興味あるし、何なら魔法使いの彼女には色々質問したいので、とりあえず陳列されてある魔石を見ていく事にした。

「てか、今のうちにスキャン出来るじゃん」

 ミークは奥で何やら作業しているジャミーをチラ見する。どうやらこちらには関心が無さそうなので、左目を紅色に変え、色とりどりの魔石をスキャンし始めた。

「どう? 構造とか分かる?」

 ーー地球にあった水晶と鉱物構造が酷似。但し魔素が相当量含まれています。魔素の内包量は各石によって違います。内包されている魔素の質も違います……、作成は不可能。石の中に解析不可能な幾何学模様が描かれており、水晶を破壊せず書き込む技術が必要と思われますーー

「あんた何じっと魔石見てんの?」

「うわ!」

 スキャンしているAIの情報に集中していたミークは、突如ジャミーに話しかけられビックリしてしまう。慌てて目の色を黒茶色に戻し「すみません」ととりあえず謝った。

「別に悪い事してないんだから謝らなくて良いわよ。てかあんたそもそも私に用があったんじゃないの?」

 相変わらず無愛想な語り口に若干ビビるミークだが、ジャミーの言う通りなので恐る恐る「魔法について聞きたくて」と伝えた。

 それを聞いたジャミーが「魔法の何が聞きたいのよ」と聞くと、

「えーっと……。どうやって魔法が発現するのか。どうやって魔石から魔法が出るのか。どうして炎や水が顕れるのか、それから分子構造がどうなっているのか、顕れる物質の構造は一般の物質と同等なのか、違うなら何故違うのか、あと……」

「ちょっと待ちな!」

 ミークが聞きたい事を次々挙げていこうとするもジャミーに一旦止められる。

「多すぎるわよ! んなもん逐一教えてられないでしょ! こっちも仕事あるんだから!」

「あ、そうですよね。ごめんなさい」

「まあでも、魔法に興味あるのは分かったわ。そしてその意気や良し。この町の連中は魔法に全く興味無いからね。私をただの便利屋位にしか思っちゃいない。それに比べたら良い事だわ」

 ジャミーはフフンと笑い「ミークとか言ったね。こっちおいで」と呼ばれたので、恐る恐るジャミーが座っている奥へ向かうと、不躾に部屋の奥を指差した。

「ほらあっち。本棚があるだろ? そこに魔法の基礎から種類から全部書いた書物が並んでるから、見ても良いわよ」

「良いんですか?」

「ああ構わないわよ。あんた魔素全然無いから魔法使えないだろうし、見せても問題無いだろうしね」

「そう言えば鑑定って魔法使いなら誰でも出来るんですか?」

 そうミークが質問すると、呆れた顔で「何言ってんだい。当たり前でしょ」と答えると、「あ、そうですよね」と慌てて返事した。

「おかしな子だねえ。とりあえず好きなだけ見ていきな。仕事の邪魔だけはすんじゃないわよ」

 そう言ったが直ぐに作業の続きを始めるジャミー。ミークはありがとうございます、とお礼を言い、早速奥の本棚に向かい魔法について書かれた書物を手に取った。

 ※※※

「良し。全部縛ったな?」

「おう。おおい、そっちはどうだー?」

「はあ、はあ。とりあえず皮は全部やった。魔石はこれから取る。牙は任せた……。流石に10匹はキツい」

 迷いの森の中でフォレストウルフに襲われていたウッドランクの3人は、報告に戻る前に、気絶している盗賊とゴルガが起きる前に全員を縛り上げ、更にフォレストウルフ10匹から、換金出来る皮と牙と魔石を取ってしまおうと作業していた。

 置いておいて先に報告に行くか迷ったが、盗賊達が目が覚め逃げてしまったり、フォレストウルフの死骸を他の冒険者や魔物に見つかって横取りされたりするのは困る、と考え、先に作業してしまおうと思ったのである。ありがたい事に盗賊達は誰1人起きる事が無かったので、大人しく縛られてくれたのは助かった。

「でもここってそもそも魔物が出る場所だよな? 早く移動しないと」

「ああ。また別の魔物がやって来る可能性があるよな」

「はあ、はあ。だから俺も急いでやってんだよ。てかお前らが皮の剥ぎ方ちゃんと覚えてないから、俺1人でやる羽目になっちまって時間かかってんだろ? ほらそっち終わったんなら早く手伝ってくれ」

 はいはい、悪かった、とそれぞれが返事しながら、肉の塊となったフォレストウルフの魔石取りと牙を外す作業をし始める2人。

 黙々と作業しながらも、やはりと言うか、3人共皆モヤモヤしているというか、明らかに腑に落ちていない表情。耐えられなくなってふと呟く。

「……確かに見たんだよなあ」

「……ああ。俺も」

「……でもなあ。ネミルちゃんでも流石に信じてくれないよなあ」

「「「腕が全部倒したって」」」

 同時にハモった事がついおかしくて、お互いの顔を見合いながら笑う3人。

「ま、でも夢って言われちゃ確かにそうかも知れないよな。到底信じられない事だし」

「てか、俺あんな美人生まれて初めて見た。あれだけの美女だったらファリス中で有名になっててもおかしくないんだけど、噂すら聞いた事ないや。木の実拾いに来てたって言ってけど、冒険者みたいな格好してたんだよな。あの子も不思議だったな」

「チェッ。良いよなお前だけ。俺達は寝てたから見てないし」

「まあでも、ネミルちゃんには敵わないだろうけどな」

 そんな風に話しながら作業を続け、2時間程かかって漸く全て終わらせた。

「はあ。フォレストウルフの血で汚れちゃったよ」

「仕方ないだろ。本当は血抜きしたかったけど時間無かったんだから」

「うへぇ。戻って早く洗いたい。そしてネミルちゃんの笑顔を見たい。とりあえずもうこんなとこからサッサと移動しようぜ」

 疲れ切った表情で3人が採取した素材を纏め、そこから立ち去ろうとした時、「何だぁ? こりゃあ!?」と大きな声が聞こえてきた。

 3人は見合わせながらゴクリと唾を飲む。間違いない。ゴルガの声。どうやら先に目覚めた様だ。

「ヤバい! 逃げるぞ!」

「で、でも! 縛ってた縄をゴルガが解いたらどうすんだよ! 他の盗賊も逃げちまうよ!」

「そうなったらそうなったでしょうがないだろ! フォレストウルフの素材取っちまったんだ。どの道逃げないと殺されるだろ!」

 ゴルガと盗賊達には、かなりしっかり縛ったつもりなので、そう簡単には解けないだろうとは思いつつも、どちらにしろ一刻も早く町に戻って状況を伝える必要もある、と、3人は疲れてはいたが全速力でその場から立ち去った。

 そして30分足らずで迷いの森を抜け、息を切らしながらファリスの町の入り口に辿り着く。だがそこで疲れ果てへたり込んでしまった。

 そこに今日も門番で、ミークにスルーされてしまいやや不機嫌なリケルが3人に声をかける。

「おいおい。んなとこ座られたら邪魔だろ。お前らが誰か分かってるけど、ほら。メダル出せよ」

「はあ、はあ、はあ……。そ、それより……。ギルド……、に……、連絡……」

「はあ、はあ、はあ……。そ、そう。ボング、と……、ゴルガが……」

「はあ、はあ、はあ……。は、早く行かない、と……逃げ……られ、る」

 息も絶え絶えに何とか要件を伝える3人だが、リケルは首を傾げる。

「え? 盗賊頭のボングと冒険者のゴルガが何だって?」

「だ、だから……。森の中で捕まえたんだ」

 3人の報告に、リケルは「はあ?」と声を上げた。
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