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流石に怪しまれてしまった
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※※※
「……」
「あ、あはは……」
ジト目のネミルに苦笑いしか出来ないミーク。他の受付嬢達も唖然としている。
時間にして午前11時頃だろうか。殆どの冒険者達は夕方に帰ってくるので、この時間帯ギルドは比較的暇である。ネミル達受付嬢も、いつもはこの時間のうちに書類整理したり事務作業に時間を費やしている。
だが今日冒険者デビューしたばかりの、冒険者としては珍しい女性のミークは、たった3時間程度で薬草の依頼を終えて帰ってきたのである。しかも2~3本でも厳しいだろう薬草採取の依頼だった筈なのに、56本も持って帰ってきたのだ。
当初ネミルも流石に、これだけの数なので、適当に掻き集めてきたのだろう、と苦笑いで受け取り全て確認してみたのだが、何度確認しても全部間違いなく薬草だった。
「ミーク、ちょっとギルド室行こうか」
笑顔だが目が笑っていないネミルにゾクッと背筋に寒いものを感じたミークは、大人しく素直に「はい」と答え、ネミルがガサっと薬草の束を抱え、2階にあるギルド室にネミルと共に向かった。
コン、コン、と部屋のドアをノックし「ギルド長、ちょっと良いですか?」とネミルがドア越しに声をかけると、「おう、入れ」とドアの奥から返事がしたので「失礼します」とドアを開け2人で入る。
「おお。ミークか。今日が冒険者初日だったみたいだな。確か薬草集める依頼だった筈……、ってネミルは何でそんな沢山草の束抱えてんだ?」
「これ、全部薬草です」
ネミルが無表情で応えると、ギルド長ラルは「?」と首を傾げる。
「倉庫に保管してる分でも持ってきたのか?」
「いえ、これついさっきミークが森の入口で採ってきたばかりの薬草です。全部で56本あります」
「……は?」
ラルはネミルの言葉に耳を疑う。
「いやいや。それ全部今日採れたての薬草だって? んなバカな」
「さっきミークが持って帰って来たんです。で、流石に薬草以外も混ざってるだろうって、受付皆で何度も全部確認したんです。でも全部薬草だったんです」
ネミルの言葉を聞いてラルはミークを見る。その視線に耐えられず、つい気不味くて下を向く。
……やり過ぎたのか。流石にそれは分からなかった。はあ。
心の中で後悔しながら、ラルのジト目を浴び続けるミーク。
「ネミル。とりあえずそれはいつも通り処理しといてくれ。ミーク。ちょっとそこ座れ」
あーこりゃもう隠し通せないなあ、と半ば諦めながら、ミークは「はい」と小さく返事してちょこんと長机に添えられている椅子に座った。
ネミルが失礼しました、と出ていった後、「さて、流石に説明して貰わないとな」と厳しい顔でラルが詰め寄る。
ミークは、はあ、とため息1つ吐いてから、仕方ない、と、とりあえず腕の事ではなく左目の事について簡単に説明する事にした。
「とりあえず私の左目、見てて下さい」
左目? とラルは訝しがるが、とりあえず言われた通り、ミークの整った美しい小顔に意識が移りそうになるのを堪えながら、左目を食い入る様に見つめる。
そしてミークは黒茶色だった左目を、一瞬で紅色に変える。「うおお?」突然の変化に驚き仰け反りひっくり返りそうになるラル。
「な、何だその目?」
「この目は色んな物を分析したり、広範囲に検知したり出来るんです。この目を使って薬草を探知したんです。あ、魔法じゃないです」
「魔法じゃないなら何なんだ?」
「私の能力、としか説明出来ないです」
「……」
顎に手を乗せ暫く考え込むラル。ミークは嘘は言ってないが、何となく沈黙が気不味くて下を向く。
「もしかしてその目で、人の魔素も感知出来たのか?」
「あ、はい。そうです」
「まるで鑑定の魔法みたいだな。でも魔法じゃないんだな。あーよく分かんねぇ」
ガシガシ頭を掻きながら困った顔をするラルと、同じく違う理由で困った顔になり黙っているミーク。少しして、ふー、と息を吐きラルがミークをじっと見据え話す。
「ま、ネミルからミークの事は色々聞いてる。今朝もネミルの実家の仕事無償で手伝ったらしいじゃないか。普通なら手間賃欲しいって言っても良いと思うところをだ」
「いやそれは、泊めて貰った上にご飯まで頂いたから、その代わりみたいなもんです」
「にしてもちゃんと義理を返すってのは偉いじゃないか。だからお前さんはきっと良い奴なんだろう」
そうですか? とミークはそれが当たり前だと思っていたので不思議に思い首を傾げる。
「中にはがめつい奴も居るからな」
そう言って一呼吸置いてからラルが話を続ける。
「俺も元冒険者だ。昔は依頼受けてあちこち出回ってた。だから世間の事はまあ詳しい方だ。だがミークのその能力は俺も見た事も聞いた事も無い。俺のアダマンタイト製の剣を素手で叩き折った事も含めてな。だから色々勘ぐってしまう。それは理解してくれ」
「……はい」
何だか怒られている様に小さくなって返事するミークを見て、ラルは笑いながら「そんな恐縮しなくたっていい」とミークの肩をポンと叩いた。
「とりあえず暫くは採取だったり、町の手伝いだったりして貰うと思う。もう行っていいぞ」
ミークはホッとした顔をして失礼します、とギルド長室を出ていった。その後ろ姿を、ラルは厳しい顔つきで見送った。
※※※
2階から降りてきたミークを見つけたネミルが、「あ、ミーク!」と声をかける。そしてこっちに来て、と呼ばれたのでネミルのいる受付カウンターに行くと、ネミルはジャラジャラと硬貨をカウンターに並べる。
「ミークがどうやってあれだけ沢山の薬草を採取したのかは置いといて、ちゃんと報酬は払わないとね。薬草1本につき銅貨10枚。今回56本だから銅貨560枚になるんだけど、銅貨100枚で銀貨1枚だから、銀貨5枚と銅貨60枚ね」
へーこれがこの世界のお金かあ。と、ミークが興味津々に差し出された硬貨を触ったり眺めたりしているのを、ネミルは微笑ましく見ている。
「とりあえず麻袋に入れておくわね。盗られない様気を付けてね」
そう言ってネミルは麻製の袋に硬貨を入れミークに手渡す。
……そういや地球でも働いた事無かったな。て事は私が生まれて初めて稼いだお金って事か。何だか感慨深いな。でもこの世界の物価の価値分かんないや。
ミークが麻袋をしげしげと見ているのを見て、ネミルが「これから私お昼休憩だから、一緒に行かない? その後魔石屋に行こうか」と提案すると、ミークも興味あったので「うん、行く」と即答した。
ちょっと待っててね、とネミルが急ぎ足で奥へ入っていく。待っている間退屈しのぎにギルド内を見渡してみる。今のギルド内は朝と違い受付嬢以外誰も居ないので、一層その広さを感じられる。体育館位はありそうな広さだ。
「結構広かったんだ」
ミークがつい零した独り言に、カウンターで作業していた2人の受付嬢が反応した。
「でしょ~? 朝夕はむっさい男ばっか集まるから分かんないけどね~」
「そうそう。ミークちゃんみたいな可憐な女の子の冒険者がもっと増えて欲しいよね~」
1人は赤いショートカットで背が高く、もう1人は腰まである青いロングヘアー。どちらもネミル同様スタイルの整った美女である。受付嬢って美人じゃないとなれないのかな? あと男の人居ないのかな? と、思いながら、ふと気になった事を質問する。
「そういやこの町には女性の冒険者はいないんですか? 魔法使いなら少ないながらも女性もいるって聞きましたけど」
ミークの質問に2人は顔を見合わせお互いう~んと唸る。
「2年位前に一度他の町から来た事がある位かな?」
「ファリスにいる魔法使いは冒険者やらずにずっと魔石屋やってるしねー」
「と言う事は、この町で今女の冒険者って私しかいないって事なんでしょうか?」
「「そうなるねー」」
声を合わせて答える受付嬢2人。成る程そりゃ珍しいか、とミークは思い、これからは一層目立たない様慎重に行動しよう、と決めた。薬草でも何でもやり過ぎない様に、と。そこでネミルが「お待たせー」と戻って来た。
「ちょっと行ってくるね。2人共後は宜しく」
ネミルが2人の受付嬢に手を振りながらそう告げると、「あいあいー」「ごゆっくりー」と気の抜けた返事が返ってきた。
「じゃ、行こうか」とネミルは笑顔でミークの手を引きギルドの外へ出ていった。
※※※
ギルドの前の大広場。そこに、まるで磨き上げた彫刻の様に綺麗な白馬に跨った、美麗な金髪の鎧を着た男性がやって来た。
華麗に白馬からバッと降り立ち、ギルドの柱に馬をくくりつける美麗の男。背丈は180cm位だろうか。腰には立派な剣を付けている。
降り立ったところで丁度ギルドのドアが開き、ネミルとミークが外に出てきた。それを見た男は白い歯を輝かせニコっと笑い、「やあ、ネミル」と気軽な感じで挨拶してきた。
ネミルはその声にビクっと反応したが直ぐに顔を真っ赤にして俯く。「?」と不思議に思ったミークは「知り合い?」とネミルに質問するも、 俯いたままミークの問いかけにも無反応。
「ハハハ。相変わらず嫌われてるな。そちらのお嬢さんは……、この町の人間じゃない、よね?」
「あ、はい。昨日ここに来たばかりです」
「そっか。じゃあ初めまして、だな。俺はこの町の警備隊隊長、サーシェクだ。よろしく」
慣れた感じで手を差し出す、サーシェクと名乗った美青年に少し引きながらも、一応握手に応じるミーク。するとネミルがミークの袖を引っ張る。
「ミ、ミーク。行きましょ」
と俯いたままでサーシェクから引き離し小走りで離れていった。ミークも慌ててネミルに付いていく。その後ろ姿を見ながらサーシェクはやれやれ、と手を広げ、「ネミルとは仲良くしたいんだけどなあ」と苦笑いを浮かべた。
そして白馬を一撫でしてから、ギルドのドアを開き中に入り、受付嬢2人にも気軽に挨拶してそのままギルド長室に向かう。それからノックもせずに「やあ。今日も来たよ」と笑顔でドアを開けて中に入った。
慣れた様子で無遠慮に長テーブルの椅子に座りニコニコしている美丈夫を、自身の立派な椅子に座って作業中だったラルはジト目で見る。
「お前なあ。毎日毎日来るなって言っただろ」
「硬い事言うなよ。お前と俺との仲だろ?」
「警備隊長の癖に毎日こうやって油売ってると、そのうち部下がついてこなくなるぞ?」
「何言ってんだ。俺が油売れる位この町は平和だって事だろう? その証明でもあるんだよ」
どうやらこの光景は日常らしい。ラルが「はあ~」と大きなため息を吐く。
「分かってると思うが、俺は警備隊には入らねぇよ。お前がこうやって毎日勧誘に来ても無駄なんだよ。俺がギルド長やらないと、他に誰が出来るんだ?」
「そうは言ってもさ、俺も退屈なんだよ。やっぱ俺は守るより外に出て魔物と戦ったりダンジョン行ったりしたいんだよな~」
ラルはもう一度深いため息を吐きながら「まあ、お前も無駄だって分かってて来てるの知ってるけどな」と言うと、美丈夫はペロリと舌を出す。
「俺を引き抜いてお前の代わりに警備隊長させようって言うけど、俺がそんなもんやる訳ねーだろ」
ラルの言葉に手を上げ仕方ない、とポーズしながら、入り口で出会った2人について思い出すサーシェク。
「そうだ。さっきネミルと一緒にギルドから出ていった可愛い女の子、別の町から来たんだって?」
サーシェクがそう言うと、ラルは急に真面目な顔になった。そしてふと立ち上がり、傍らに置いてある自身の折れた剣をサーシェクに見せる。
「なあ。これ、どう思う?」
「……これ、確かアダマンタイト製だよな? 何でこんなポッキリ折れてんの? ドラゴンとでも戦ったのか?」
「それ、さっきお前がすれ違った女が素手で叩き折ったって言ったら、信じるか?」
「ハハハ。何の冗談だ? 面白くもないよ?」
「冗談だったら良いんだけどな」
真面目な表情で返事するラルを見て、サーシェクはまさか、と驚いた顔に変わる。
「マジなのか……?」
「ああ。マジだ。しかも冒険者登録試験、俺が相手したんだが、なんとこの俺様を倒しやがった。お前は闘技場に来てなかったみたいだから知らないみたいだが」
真顔で語るラルの言葉に「嘘だろ……」と呟く。
「そういやあの子、昨日ここに来たばかりだって言ってたけど、何処から来たんだ?」
「神様にチキュウ、とか言うところから連れてこられたんだと。しかも死んで蘇ったって言ってた」
「ハハハ。何だそれ……」
呆れた表情で乾いた笑いを返すサーシェクだが、ずっと真顔のラルを見て言葉に詰まる。
「で、あの女、今日初の冒険者依頼を受けたんだが、3時間程で薬草50本以上集めてきやがった。本人に聞いたら見分けられる能力があるらしい。しかも人の体内に魔素があるかどうかも分かるらしい」
「……」
ラルの説明を聞いたサーシェクがとうとう何も言えなくなる。ふと、サーシェクはラルが何が言いたいのか気がつく。
「なあラル。もしかしてあの子……」
「ああ。魔族の可能性を疑ってる」
「……」
「あ、あはは……」
ジト目のネミルに苦笑いしか出来ないミーク。他の受付嬢達も唖然としている。
時間にして午前11時頃だろうか。殆どの冒険者達は夕方に帰ってくるので、この時間帯ギルドは比較的暇である。ネミル達受付嬢も、いつもはこの時間のうちに書類整理したり事務作業に時間を費やしている。
だが今日冒険者デビューしたばかりの、冒険者としては珍しい女性のミークは、たった3時間程度で薬草の依頼を終えて帰ってきたのである。しかも2~3本でも厳しいだろう薬草採取の依頼だった筈なのに、56本も持って帰ってきたのだ。
当初ネミルも流石に、これだけの数なので、適当に掻き集めてきたのだろう、と苦笑いで受け取り全て確認してみたのだが、何度確認しても全部間違いなく薬草だった。
「ミーク、ちょっとギルド室行こうか」
笑顔だが目が笑っていないネミルにゾクッと背筋に寒いものを感じたミークは、大人しく素直に「はい」と答え、ネミルがガサっと薬草の束を抱え、2階にあるギルド室にネミルと共に向かった。
コン、コン、と部屋のドアをノックし「ギルド長、ちょっと良いですか?」とネミルがドア越しに声をかけると、「おう、入れ」とドアの奥から返事がしたので「失礼します」とドアを開け2人で入る。
「おお。ミークか。今日が冒険者初日だったみたいだな。確か薬草集める依頼だった筈……、ってネミルは何でそんな沢山草の束抱えてんだ?」
「これ、全部薬草です」
ネミルが無表情で応えると、ギルド長ラルは「?」と首を傾げる。
「倉庫に保管してる分でも持ってきたのか?」
「いえ、これついさっきミークが森の入口で採ってきたばかりの薬草です。全部で56本あります」
「……は?」
ラルはネミルの言葉に耳を疑う。
「いやいや。それ全部今日採れたての薬草だって? んなバカな」
「さっきミークが持って帰って来たんです。で、流石に薬草以外も混ざってるだろうって、受付皆で何度も全部確認したんです。でも全部薬草だったんです」
ネミルの言葉を聞いてラルはミークを見る。その視線に耐えられず、つい気不味くて下を向く。
……やり過ぎたのか。流石にそれは分からなかった。はあ。
心の中で後悔しながら、ラルのジト目を浴び続けるミーク。
「ネミル。とりあえずそれはいつも通り処理しといてくれ。ミーク。ちょっとそこ座れ」
あーこりゃもう隠し通せないなあ、と半ば諦めながら、ミークは「はい」と小さく返事してちょこんと長机に添えられている椅子に座った。
ネミルが失礼しました、と出ていった後、「さて、流石に説明して貰わないとな」と厳しい顔でラルが詰め寄る。
ミークは、はあ、とため息1つ吐いてから、仕方ない、と、とりあえず腕の事ではなく左目の事について簡単に説明する事にした。
「とりあえず私の左目、見てて下さい」
左目? とラルは訝しがるが、とりあえず言われた通り、ミークの整った美しい小顔に意識が移りそうになるのを堪えながら、左目を食い入る様に見つめる。
そしてミークは黒茶色だった左目を、一瞬で紅色に変える。「うおお?」突然の変化に驚き仰け反りひっくり返りそうになるラル。
「な、何だその目?」
「この目は色んな物を分析したり、広範囲に検知したり出来るんです。この目を使って薬草を探知したんです。あ、魔法じゃないです」
「魔法じゃないなら何なんだ?」
「私の能力、としか説明出来ないです」
「……」
顎に手を乗せ暫く考え込むラル。ミークは嘘は言ってないが、何となく沈黙が気不味くて下を向く。
「もしかしてその目で、人の魔素も感知出来たのか?」
「あ、はい。そうです」
「まるで鑑定の魔法みたいだな。でも魔法じゃないんだな。あーよく分かんねぇ」
ガシガシ頭を掻きながら困った顔をするラルと、同じく違う理由で困った顔になり黙っているミーク。少しして、ふー、と息を吐きラルがミークをじっと見据え話す。
「ま、ネミルからミークの事は色々聞いてる。今朝もネミルの実家の仕事無償で手伝ったらしいじゃないか。普通なら手間賃欲しいって言っても良いと思うところをだ」
「いやそれは、泊めて貰った上にご飯まで頂いたから、その代わりみたいなもんです」
「にしてもちゃんと義理を返すってのは偉いじゃないか。だからお前さんはきっと良い奴なんだろう」
そうですか? とミークはそれが当たり前だと思っていたので不思議に思い首を傾げる。
「中にはがめつい奴も居るからな」
そう言って一呼吸置いてからラルが話を続ける。
「俺も元冒険者だ。昔は依頼受けてあちこち出回ってた。だから世間の事はまあ詳しい方だ。だがミークのその能力は俺も見た事も聞いた事も無い。俺のアダマンタイト製の剣を素手で叩き折った事も含めてな。だから色々勘ぐってしまう。それは理解してくれ」
「……はい」
何だか怒られている様に小さくなって返事するミークを見て、ラルは笑いながら「そんな恐縮しなくたっていい」とミークの肩をポンと叩いた。
「とりあえず暫くは採取だったり、町の手伝いだったりして貰うと思う。もう行っていいぞ」
ミークはホッとした顔をして失礼します、とギルド長室を出ていった。その後ろ姿を、ラルは厳しい顔つきで見送った。
※※※
2階から降りてきたミークを見つけたネミルが、「あ、ミーク!」と声をかける。そしてこっちに来て、と呼ばれたのでネミルのいる受付カウンターに行くと、ネミルはジャラジャラと硬貨をカウンターに並べる。
「ミークがどうやってあれだけ沢山の薬草を採取したのかは置いといて、ちゃんと報酬は払わないとね。薬草1本につき銅貨10枚。今回56本だから銅貨560枚になるんだけど、銅貨100枚で銀貨1枚だから、銀貨5枚と銅貨60枚ね」
へーこれがこの世界のお金かあ。と、ミークが興味津々に差し出された硬貨を触ったり眺めたりしているのを、ネミルは微笑ましく見ている。
「とりあえず麻袋に入れておくわね。盗られない様気を付けてね」
そう言ってネミルは麻製の袋に硬貨を入れミークに手渡す。
……そういや地球でも働いた事無かったな。て事は私が生まれて初めて稼いだお金って事か。何だか感慨深いな。でもこの世界の物価の価値分かんないや。
ミークが麻袋をしげしげと見ているのを見て、ネミルが「これから私お昼休憩だから、一緒に行かない? その後魔石屋に行こうか」と提案すると、ミークも興味あったので「うん、行く」と即答した。
ちょっと待っててね、とネミルが急ぎ足で奥へ入っていく。待っている間退屈しのぎにギルド内を見渡してみる。今のギルド内は朝と違い受付嬢以外誰も居ないので、一層その広さを感じられる。体育館位はありそうな広さだ。
「結構広かったんだ」
ミークがつい零した独り言に、カウンターで作業していた2人の受付嬢が反応した。
「でしょ~? 朝夕はむっさい男ばっか集まるから分かんないけどね~」
「そうそう。ミークちゃんみたいな可憐な女の子の冒険者がもっと増えて欲しいよね~」
1人は赤いショートカットで背が高く、もう1人は腰まである青いロングヘアー。どちらもネミル同様スタイルの整った美女である。受付嬢って美人じゃないとなれないのかな? あと男の人居ないのかな? と、思いながら、ふと気になった事を質問する。
「そういやこの町には女性の冒険者はいないんですか? 魔法使いなら少ないながらも女性もいるって聞きましたけど」
ミークの質問に2人は顔を見合わせお互いう~んと唸る。
「2年位前に一度他の町から来た事がある位かな?」
「ファリスにいる魔法使いは冒険者やらずにずっと魔石屋やってるしねー」
「と言う事は、この町で今女の冒険者って私しかいないって事なんでしょうか?」
「「そうなるねー」」
声を合わせて答える受付嬢2人。成る程そりゃ珍しいか、とミークは思い、これからは一層目立たない様慎重に行動しよう、と決めた。薬草でも何でもやり過ぎない様に、と。そこでネミルが「お待たせー」と戻って来た。
「ちょっと行ってくるね。2人共後は宜しく」
ネミルが2人の受付嬢に手を振りながらそう告げると、「あいあいー」「ごゆっくりー」と気の抜けた返事が返ってきた。
「じゃ、行こうか」とネミルは笑顔でミークの手を引きギルドの外へ出ていった。
※※※
ギルドの前の大広場。そこに、まるで磨き上げた彫刻の様に綺麗な白馬に跨った、美麗な金髪の鎧を着た男性がやって来た。
華麗に白馬からバッと降り立ち、ギルドの柱に馬をくくりつける美麗の男。背丈は180cm位だろうか。腰には立派な剣を付けている。
降り立ったところで丁度ギルドのドアが開き、ネミルとミークが外に出てきた。それを見た男は白い歯を輝かせニコっと笑い、「やあ、ネミル」と気軽な感じで挨拶してきた。
ネミルはその声にビクっと反応したが直ぐに顔を真っ赤にして俯く。「?」と不思議に思ったミークは「知り合い?」とネミルに質問するも、 俯いたままミークの問いかけにも無反応。
「ハハハ。相変わらず嫌われてるな。そちらのお嬢さんは……、この町の人間じゃない、よね?」
「あ、はい。昨日ここに来たばかりです」
「そっか。じゃあ初めまして、だな。俺はこの町の警備隊隊長、サーシェクだ。よろしく」
慣れた感じで手を差し出す、サーシェクと名乗った美青年に少し引きながらも、一応握手に応じるミーク。するとネミルがミークの袖を引っ張る。
「ミ、ミーク。行きましょ」
と俯いたままでサーシェクから引き離し小走りで離れていった。ミークも慌ててネミルに付いていく。その後ろ姿を見ながらサーシェクはやれやれ、と手を広げ、「ネミルとは仲良くしたいんだけどなあ」と苦笑いを浮かべた。
そして白馬を一撫でしてから、ギルドのドアを開き中に入り、受付嬢2人にも気軽に挨拶してそのままギルド長室に向かう。それからノックもせずに「やあ。今日も来たよ」と笑顔でドアを開けて中に入った。
慣れた様子で無遠慮に長テーブルの椅子に座りニコニコしている美丈夫を、自身の立派な椅子に座って作業中だったラルはジト目で見る。
「お前なあ。毎日毎日来るなって言っただろ」
「硬い事言うなよ。お前と俺との仲だろ?」
「警備隊長の癖に毎日こうやって油売ってると、そのうち部下がついてこなくなるぞ?」
「何言ってんだ。俺が油売れる位この町は平和だって事だろう? その証明でもあるんだよ」
どうやらこの光景は日常らしい。ラルが「はあ~」と大きなため息を吐く。
「分かってると思うが、俺は警備隊には入らねぇよ。お前がこうやって毎日勧誘に来ても無駄なんだよ。俺がギルド長やらないと、他に誰が出来るんだ?」
「そうは言ってもさ、俺も退屈なんだよ。やっぱ俺は守るより外に出て魔物と戦ったりダンジョン行ったりしたいんだよな~」
ラルはもう一度深いため息を吐きながら「まあ、お前も無駄だって分かってて来てるの知ってるけどな」と言うと、美丈夫はペロリと舌を出す。
「俺を引き抜いてお前の代わりに警備隊長させようって言うけど、俺がそんなもんやる訳ねーだろ」
ラルの言葉に手を上げ仕方ない、とポーズしながら、入り口で出会った2人について思い出すサーシェク。
「そうだ。さっきネミルと一緒にギルドから出ていった可愛い女の子、別の町から来たんだって?」
サーシェクがそう言うと、ラルは急に真面目な顔になった。そしてふと立ち上がり、傍らに置いてある自身の折れた剣をサーシェクに見せる。
「なあ。これ、どう思う?」
「……これ、確かアダマンタイト製だよな? 何でこんなポッキリ折れてんの? ドラゴンとでも戦ったのか?」
「それ、さっきお前がすれ違った女が素手で叩き折ったって言ったら、信じるか?」
「ハハハ。何の冗談だ? 面白くもないよ?」
「冗談だったら良いんだけどな」
真面目な表情で返事するラルを見て、サーシェクはまさか、と驚いた顔に変わる。
「マジなのか……?」
「ああ。マジだ。しかも冒険者登録試験、俺が相手したんだが、なんとこの俺様を倒しやがった。お前は闘技場に来てなかったみたいだから知らないみたいだが」
真顔で語るラルの言葉に「嘘だろ……」と呟く。
「そういやあの子、昨日ここに来たばかりだって言ってたけど、何処から来たんだ?」
「神様にチキュウ、とか言うところから連れてこられたんだと。しかも死んで蘇ったって言ってた」
「ハハハ。何だそれ……」
呆れた表情で乾いた笑いを返すサーシェクだが、ずっと真顔のラルを見て言葉に詰まる。
「で、あの女、今日初の冒険者依頼を受けたんだが、3時間程で薬草50本以上集めてきやがった。本人に聞いたら見分けられる能力があるらしい。しかも人の体内に魔素があるかどうかも分かるらしい」
「……」
ラルの説明を聞いたサーシェクがとうとう何も言えなくなる。ふと、サーシェクはラルが何が言いたいのか気がつく。
「なあラル。もしかしてあの子……」
「ああ。魔族の可能性を疑ってる」
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真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
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