隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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ギルドでの出来事

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 ※※※

 透明の液体が入っている、硝子で出来た試験管の様な容器を持った女性が、ベッドに横たわる虫の息のリケルの口に付け飲ませた。

「よし。これでもう大丈夫」

 ふう、と息を吐いた女性は、徐々に血色が良くなっていくリケルを見て安堵の表情を浮かべる。

 その様子を傍らで見ていたミークは物珍しそうに言葉を漏らす。

「へえ~。それがポーション。で、こんな重傷でも治るんだ?」

「この程度の怪我なら直ぐに治りますよ……、って、ポーション知らないんですか?」

「え」

 このポーションとやらも、どうやらこの世界では当たり前に皆知っている物らしい。ミークはまたもしまった、と思い、「あ、あははは」と誤魔化し笑いをする。

 ミークの様子に女性はジト目で見る。益々ミークは焦りながら、話を変えようと質問する。

「あ、あの……。えーっと、あなたがギルドの偉い人、ですか?」

「……は? そんな訳無いです。私の格好を見たら分かる筈なんですけど?」

「へ?」

 因みにその女性はブラウンの半袖シャツに同じくブラウンのタイトスカート、右手首にはシルバーの腕輪を付けている。髪は桃色だが頭にはブラウンのベレー帽を被っている。歳は20歳程だろうか? 整った顔立ちで間違いなく美人の類である。

 そしてミークはまたもやってしまったっぽい、と後悔しながら、でももうこれ以上誤魔化しきれない。ダラダラ汗を掻きながら黙ってしまった。

 そんなミークの様子を、怪しみながらも少し可笑しく思った桃色髪の女性は、クス、と笑い、

「何か事情がお有りの様ですね。良ければ私が色々お話聞きます。私はネミル。ここファリスのギルドの受付をやってます。受付嬢は皆何処の町に行ってもこのブラウンの衣装を着ていて、シルバーの腕輪をしているんですよ」

 と、優しくミークに話しかけた。ミークはホッとし漸く自分の事を話せる、と安堵しつつも「でも、信じて貰えるかどうか……」と呟く。

「言いたく無い事は無理に言わなくて良いです。でも余りにも常識を知らな過ぎるので。言える範囲で結構ですので、あなたについて聞かせて貰えますか?」

 諭す様にネミルと名乗った女性がミークにそう言うと、ミークは自信無さげに「……はい」と小さく返事した。

 ※※※

「おいこら」

「……あ?」

「おいこら起きろボケが」

「んだと? 誰だ俺様に向かってボケって……、あ! ギ、ギルド長!」

 ミークに投げられ気絶していたゴルガは、リケルとは別のギルドの休憩室で寝かされていた。そこに、30歳位のやや細身ながら程良く筋肉の付いた、所謂細マッチョで長身のイケメンが、行儀悪くゴルガが寝ているベッドに片足胡座で座り、ゴルガを小突く。

「痛て! な、何すんすか?」

「何すんすか? じゃねえ。ギルドの壁破壊しやがって。広場で見てた連中から言質は取ってるから、誰の仕業かもう分かってんだからな。そもそもゴルガ、謹慎中だっただろうが」

 ベッドに仰向けで横たわっているゴルガをベッドに座りながら見下ろし睨むギルド長と呼ばれた細マッチョ。ゴルガは顔を青くしながら、「い、いや、ちょっとギルドに用があったんで!」と言い訳する。

「ギルドに用? 謹慎中なのにか?」

「は、はい! あ、あの……。謹慎解いて貰いたいって相談をしに……。もう金がヤバいんすよ!」

「相談しに来たのに何で警備隊員使ってギルドの壁壊してんだよ?」

「い、いや、それは……。成り行きと言うか……」

「成り行きで普通は壁壊さねーよ」

「い、いやでも! そもそもリケルが悪いんですぜ? 弱い癖に生意気にも俺に意見しやがるしあんな良い女連れてやがるし!」

「それが理由か」

「……あ」

 ギルド長は頭をガシガシ掻いて「はあ~」と大きなため息を吐く。

「お前そういうとこだぞ? 安定した収入得られて羨ましいから、冒険者から警備隊になりたいって前々から言ってたのは知ってる。それに、先日潜ってたダンジョンで、強敵の魔物が出たからってパーティの連中置いて1人逃げ帰ってきたってのもな」

ギルド長の言葉に「ゲッ! 何でそれを……」と零すゴルガ。

「瀕死で戻ってきたパーティーのメンバーから既に報告上がってんだよ。そして普段からの素行の悪さ。今日の件だってそうだ。それが謹慎させてた理由。お前も分かってるだろ?」

「……」

 恥ずかしいのか、顔が真っ赤になるゴルガ。そしてギルド長に顔を見られたくないのか、ベッドでギルド長とは反対向きに横をになり布団にくるまる。

 ゴツい髭面禿頭の、そんな乙女チックなその様子に、ギルド長はまたも大きなため息を吐き、呆れ顔で「大した怪我じゃないんだからもう帰れ」と伝えた。

 分かりました、と答えいそいそと起き上がったゴルガは、巨体を小さくさせ申し訳無さそうに部屋を出ようとするが、ギルド長が「あ、ちょっと待て」と呼び止める。

「何すか? 謹慎は終了って事ですか?」

「んな訳あるか。お前あれだろ? その良い女とやらと勝負したんだろ? で、負けたらリケルに謝罪するって事だったらしいじゃねえか。今はリケル休んでて無理だから、後日ちゃんと約束守って謝れよ? それと壁の修理代、ちゃんと請求するからな。まあその代金稼がなきゃいけないだろうから、謹慎は継続中だが低ランク依頼は受けさせてやる。ドブ浚いでも薬草集めでもせっせとやりゃそれなりに金になるだろ?」

 ギルド長の言葉を聞いたゴルガは情けない顔で「そんなぁ~」と巨体を益々小さくしながらトボトボと出ていった。

 ※※※

 ポーションの効果のお陰か、リケルはすっかり血色も良くなりスヤスヤ寝息を立てている。その傍らにはネミルとミークが無言のまま対面で椅子に座っている。

 ミークは正直に、地球と言う場所に以前居て、そこで死んでしまい、そして神様が生き返らせこの世界に連れてきた事を話した。但し自身の身体については敢えて黙っておいた。説明が難しいと思ったからだ。

 話を聞いたネミルは信じられない、と思ったが、一方でミークの無知を鑑みると合点がいく、とも思っており、やや混乱していて、どう言葉を続けようか迷っていた。

 だがネミルはふと、とある疑問を思い出しミークに聞く。

「そう言えば、どうやってあの暴君のゴルガさんを投げたんですか? 素行に問題があり粗暴な人ですけど、それでも冒険者としての実力はあって腕っぷしも強い人なんですが。ミークさんみたいな華奢な女性が喧嘩して敵う相手じゃないと思うんです。もしかして魔法が使えたりします?」

 ネミルの問いにミークは首を横に振り答える。そして、よく魔法使えるかどうか聞かれるなあ、そんなに魔法って有能なんだ、と思いながら。

「いや、魔法は使えないです。私もこの世界に来て初めて魔法の存在を知りましたし。……あのブッサイク、いや、ゴルガ、でしたっけ? を、投げられたのは、私の体術みたいなもんです」

 ミークのAIには、地球に存在していた様々な格闘技がインプットされている。それによりミークは達人とまでいかなくとも、殆どの格闘技を扱える。そのうちの柔道の体術を用い、ゴルガのあの巨体を投げたのだ。嘘じゃなく本当の事なので、ミークは大して罪悪感もなく伝える事が出来た。それを聞いたネミルは「体術、ね」と顎に手を当てふーむ、と唸る。

 そこで、部屋の戸をコンコン、とノックする音が聞こえ、「中入っていいか?」と男性の声が戸の外から聞こえた。どうやらネミルは声の主が分かっている様で、座ったままミークに目配せすると、ミークも「良いですよ」と返事し、ネミルは立ち上がって戸を開けた。

 失礼、と良いながら入ってきたのは細マッチョ長身イケメン。ミークを見ると「おおっ?」と声を出す。不思議に思ったネミルが質問する。

「何が『おおっ?』なんですか?」

「え? あ、いやまあ……。正直に言うとそちらのお嬢さんがめっちゃ美人で、つい声が出てしまったんだよ」

「「……」」

 アホですか、とでも言いたげな表情のネミルと、呆れた顔をするミーク。二人の美女からそんな顔をされ居たたまれなくなった細マッチョイケメンは、「いや済まない」と頭を掻きながら謝り、そして気不味さを紛らわせる様に自己紹介をした。

「俺はギルド長のラル。ゴルガにはちゃんとお灸を据えて帰らせた。そっちがゴルガを投げたって言う……」

 良い女の、と言う言葉が出かかったが急いで飲み込んだ、ラルと名乗ったギルド長。それを聞いてミークが話しかける。

「あ、はい。私はミークって言います。ギルド長、って事は、ここの偉い人ですか?」

「え? まあそういう事になるが。何か引っかかる言い方だな」

 ミークの言葉に首を傾げる、ラルと名乗ったギルド長と、慌てて取り繕う様に話しかけるネミル。

「とりあえず。リケルさんにはポーション飲んで貰って今は落ち着いています。ミークさんは外からやって来た人でこの町の住人ではなく、リケルさんとも今日初めてお会いしたそうです」

 ネミルの説明にラルは「こんな辺鄙な町に外からやって来たのか? 誰と? 何の用で?」と重ねて質問する。だがミークはネミルの時同様、どう答えて良いのか困り押し黙る。

 それを見たネミルは微笑みながら、「ミークさん。ギルド長のラルさんは信用出来ます。正直に話して良いと思いますよ」と伝える。

 ネミルの言葉に「どういう事だ?」と質問するが、「私はそろそろ受付の仕事に戻らないといけないので、詳細はミークさんに聞いて下さい」と、リケルがスヤスヤと眠る部屋に2人を残して出ていった。
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