落書き置き場

天国

　まず目に入ってきたのは、一面真っ白な地平線だった。
　澄み切った青空の下に、真っ白な地面。雪じゃない。土でもない。躊躇いがちに一歩踏み出すと、

「あ、そっちじゃありませんよ」

　驚いて声のした方へ振り向けば、黒ずくめの青年が一人、佇んでいた。

「あなたはこちらです」

　なんで、とも。あなたは、とも。
　言う前に『ああ、その通りだな』となぜか理解できてしまい、その青年について行く。
　ついて行けば、また真っ白な、そしてとても大きな建物が見えてきた。青年の案内で中に入り、通路を歩く。
　通路の左右には窓があり、そこから何人もの人が机に向かって何かを書いているのが見えた。
　そして、あるひとつの扉の前に。

「あなたはこの部屋です」

　ふらふらと引き寄せられるように中に入り、今まで見てきた景色と同じ中、空いている席に座る。置いてあるペンを取り、紙に向き合い、思うままに書き出した。



「ここは、天国です。小説を書きたい人には天国です。いつでも、いつまでも、書いていられるのですから。ただし」

　書き終え、席を立つ人は滅多にいませんけれど。