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その記憶がある限り
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波の打ち寄せる音が聞こえる。
私はそれに合わせるように、ゆったりとした歩みで、砂浜の上を歩く。
頭の上にあるはずの太陽は厚い雲に覆われ、辺りはどこか薄暗く。瑠璃色のはずの海も、今は鈍い銀が混ざっている。
私は目を閉じる。
瞼の裏に思い描く。
燦々と照りつける太陽と、白く煌めく砂浜と、透明で深い色の海を。
そのそばに立つ、あなたを。
浅く焼けた肌と、対照的に薄い、短い藁のようなあなたの髪。
遠くの水平線を眺めていた目は、ふとこちらに気付き、笑い顔と共に振り返る。
そうして手を振って、近くに行こうかどうしようか迷っていた私を呼び寄せるのだ。私はそれに喜んで、少し安堵して応える。足を踏み出す──
「……」
ぱっと目を開けば、曇天と、輝きが損なわれた砂と、鈍色の海。あなたは居ない。
いない、どこにも。
もうこの世のどこにもいない。
分かっているのだ、分かっている。頭では理解している。
心とやらが、少し、まだ、現実を見れていないだけ。
あなたがよく来ていたこの海岸に、砂と波との間に。
あなたがまだ居るんじゃないかと、ぼうっと立っているんじゃないかと、そんな詮無いことを思ってしまうだけ。
それだけ。
ああ、でも、これで何度目だろう。
私は気付けば、また、この波の間に立っている。
私はそれに合わせるように、ゆったりとした歩みで、砂浜の上を歩く。
頭の上にあるはずの太陽は厚い雲に覆われ、辺りはどこか薄暗く。瑠璃色のはずの海も、今は鈍い銀が混ざっている。
私は目を閉じる。
瞼の裏に思い描く。
燦々と照りつける太陽と、白く煌めく砂浜と、透明で深い色の海を。
そのそばに立つ、あなたを。
浅く焼けた肌と、対照的に薄い、短い藁のようなあなたの髪。
遠くの水平線を眺めていた目は、ふとこちらに気付き、笑い顔と共に振り返る。
そうして手を振って、近くに行こうかどうしようか迷っていた私を呼び寄せるのだ。私はそれに喜んで、少し安堵して応える。足を踏み出す──
「……」
ぱっと目を開けば、曇天と、輝きが損なわれた砂と、鈍色の海。あなたは居ない。
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