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第二章 師匠と弟子
5 使役獣
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「……?」
朝食を食べていたギニスタの眉が、ほんの少し持ち上がった。
(……なんだ?)
その違和感は、上空から山を巡るような動きをする。
「……なぁ、シャルプ」
「はい?」
けれど目の前の管理者は、自分が作ったコーンスープを飲みながら器用に首を傾げるだけ。
(アタシの思い違いか?)
しかし、その違和感は大きくなるばかり。
「何か、感じないか?」
「何かですか?」
「そう、何か……これは、使役獣……?」
思い至った途端、ギニスタは椅子から飛び降り、
「シャルプ! 【仮面】、祭りに使うような仮面って知らないか?!」
言いながら、自分がそれを仕舞っていた引き出しを引っこ抜く。
「……」
シャルプは、少しばかりそれを眺めてから動き出した。
「えぇっと、これですか?」
そう言って、ギニスタが探していた引き出しからは随分離れた、その上高い戸棚を開ける。
そこから出して来たのは、ギニスタが言った通り、祭りなどで見かける顔の上半分を覆う形の仮面だった。
「それだ! ありがとうまだ持って……」
受け取ったそれをまじまじと眺め、ギニスタの顔に疑問が浮かぶ。
(装飾を、直した?)
魔力を通しても、さして機能に変わりはない。
ただ、剥がれていた花の塗装や箔などが、綺麗に直されていた。
(まぁ、いいか)
「ありがとうシャルプ。じゃ、ちょっと出て、いやお前も来い!」
飛び出しかけ、そう言い添える。
そして改めて出て行った師匠に聞こえないように、弟子はぽつりと呟いた。
「……気付いちゃうかぁ……一緒にゆっくり、食べたかったんだけどな」
◇◇◇◇◇
庭へ出たギニスタは【仮面】を顔にあてがい、山の中腹へ目を凝らす。
【仮面】は望遠、透視、顕微鏡などの役割を果たす道具だ。魔力を流し、時々に合わせてその力を調整して使う。
今ギニスタは、望遠を使っていた。
(やはり)
見えたのは、霧を散らして獲物を狙う大鷲だった。その足首に、魔石をあしらった枷が着けられている。
帯びる魔力の特徴も一致する。あれは人に使役された獣、所謂“使役獣”だ。
「何かありましたか?」
「……シャルプ、お前ももう分かってるだろ。使役獣が入り込んだ」
横からの声に顔を向けず、ギニスタは厳しく応じる。
「これが感知出来ないとは言わせない。アタシでさえ気付けたんだ。管理者であるお前はこれをきっちり──」
〈〈〈真の者!〉〉〉
続く言葉を、震える声が連なるようにかき消した。
逃げ惑うように、妖精達がやってきたのだ。
〈ああ! 真の者! もう気付いていたのだな!〉
〈あんな恐ろしい……! 理から外れた者など、早く追いやって下さい!〉
妖精達は、ギニスタなど視界にも入ってないように動く。
そのままシャルプの周りに集まって、泣きそうな顔で懇願する。
〈真の者! お早く!〉
〈どうか! 被害が出ぬうちに〉
〈真の者!〉
ちらり、とこちらを伺うシャルプ。その視線も、すぐ妖精達が塞いでしまう。
「……」
仮面を外し、それを仰ぎ見るギニスタは、少しだけ肩を竦めた。
「……ぁーもぅ……分かった、行くから!」
〈〈〈ああ! 真の者よ!〉〉〉
ばっさばっさと手を振って、群がっていた妖精達からなんとも乱雑に抜け出すシャルプ。
「……師匠も、それで良いですか……?」
(何故聞く)
潤んだ瞳に問われ、ギニスタは盛大に首を傾げたくなった。
「ああ、良いとも。てか早く行け。迷い込んだなら良いが、偵察などであれば早急に対応を考えなければいけないからな」
「それは大丈夫です。ただお腹空いてるだけみたいだし」
「え」
目を丸くするギニスタに淋しげに手を振って、「行ってきます」とシャルプは飛び立った。
「あ! ご飯待ってて下さいね?! 一緒に食べましょうね?!」
「分かった分かった」
それを見送ったギニスタに、
〈……また、真の者への口出しか〉
恨み節のような声音で、妖精がそう零す。
(飽きないな、彼らも。……いや)
気が収まらないのだったな。と、思い直した。
〈自分の立場も弁えずに〉
シャルプの仕事ぶりを見ていようかと思っていたギニスタだが、
〈本当に、懲りないものだね〉
このままここにいては、また彼らがシャルプに何か言われかねないとも思い始める。
ここは怖じ気づいた感じで、引っ込んでしまおうか。
「師匠!」
「……ぅわっ?!」
〈〈〈?!?!〉〉〉
急に目の前に現れたシャルプにギニスタは飛び退いて、妖精達は大仰に慌てた。
先ほど霧の中に入ったばかりなのに。
「も、もう終えてきたのか」
結局見れなかった、と思いながら訊ねると。
「はい! 追っ払おうとしたら向かってきたんで、跳ね返してやりました!」
「は?」
「誰も食われたりしてませんよ!」
「いや、待て、ちょっと待て」
自信ありげに胸を張るシャルプを押しやり、ギニスタは再度【仮面】を付ける。
「……」
見えたのは、左の翼が折れて地面にうずくまる大鷲と、それに怯える周りの生き物達だった。
「……シャルプ」
仮面を、そっと顔から外す。
「はい!」
「駄目だ」
「え?」
「やり直し。戻ってきちんとやってきなさい」
「えー」
なんともダルそうな声を出し、それでいて顔をしょげさせるシャルプ。
それを見て、ギニスタは溜め息を一つ。
「使役獣が何か、お前も知ってるだろう?」
「……人間からの強制契約により、その人間の魔力によって操られる獣の総称。強制契約には魔石を使った装身具を使う事が多い」
「それだけじゃないだろ? 使役獣に何かあったら、使役する人間はその獣、あの大鷲を探すかも知れない。そしてこの山に辿り着くかも知れない」
諭すギニスタに、シャルプの頬が膨らんでいく。
「……この山が危険に晒されるだろう? そんな事、あってはならない」
「でも……っ」
言いかけ、けれどシャルプはその口を閉じる。
「……」
「……」
(? なんだ?)
待っても口はうねるだけ。言わないと察したギニスタは、こちらから口を開く。
「……それに、あのままではあの大鷲も辛いだろう。しっかり治して帰してやらねば」
「……」
「その後、周りの者達の不安も聞いてあげると良い」
(……こんな事、言われずとも分かっているのだろうが)
今までの管理者の記憶、真の者の力、十五年分の経験。
今のシャルプにはそれらがある。自分の知る幼子ではない。
(本当は、アタシが真の者に口出しする必要など無い)
理解している筈なのに、こんな説教めいた事をしてしまう。『彼ら』の言う通り。
やはり自分が居ることは、シャルプへの悪影響になっているのではないか。
「ッ……だっ」
「だ?」
「……っ……ッ!」
ありったけ口をもごつかせ、整ったその顔が渋面になる。
「んんむぅんん、もぅっ!!」
何がもう、だか訳が分からないギニスタは、首を捻るに留めた。
「分かりました! もう一回行ってきます! やってきます!」
「え? あ、うん……」
「待ってて下さいね!!!」
「分かったって」
さっきと殆ど同じ場面を繰り返している、などと思うギニスタだった。
〈……、〉
シャルプがいなくなった途端、少し離れた木の陰から見ていた妖精達の口から、また次々に言葉が漏れる。
〈……また、真の者が〉
〈このような者を、何故〉
〈この者のおかげで山が捨て置かれる〉
捨て置かれるは言い過ぎな気もしたが、
(概ね同意出来る)
ギニスタは頷きたくなった。
そして、そんな事を言わせてしまっている自分の立場に、頭を抱えたくもなった。
◇◇◇◇◇
かくして、今度はきっちりやり終えたシャルプは、
「やってきました! ちゃんと! どうですか?!」
物凄い勢いで迫る。
「やった、やったなー、偉いなー」
それを間延びした声で受け、頭を撫でさせられるギニスタ。
「うぇへへへへ」
(なんだろうこれは)
少し現実から逃れたくなったギニスタは、ここまでのシャルプの行動について考え出す。
(この子は、アタシをどう見てるのか)
そもそも何故生き返らせた、いや、まだ死んではいなかったのだからそれは違うか。
(しかし、管理者の最期の務めである【還元】に、何故抗ったのか)
十五年前ギニスタは、シャルプを真の管理者──真の魔法使いと認定した後、【還元】のために老木の元へ向かった。
【還元】とは、管理者の生命力全てを山に還す作業の事。
本来ならば寿命が尽きかけたその時に、次代の管理者を認定してから行うものだが。
(シャルプが真の者だったからな。山の者達も彼らも、早く代替わりする事を望んでいた)
だからギニスタは、まだ寿命が残っていても継いで貰う事にした。自分を糧とし、山と主に恵みあれとも、少しばかり思っていた。
そして主の元へ行き、その身体が輝く粒子となった所でシャルプによって弾かれたのだ。後に聞けば、拾った主の欠片を使ったのだと言うから、また頭が痛くなる。
(……恩返しなのか? 世話をした事への)
シャルプなりの。そうも思ったが。
『ボクはあなたと居たい』
青と金に、貫かれるようにしながら言われた言葉。
あれはどう取っても、感謝の念ではない。
さりとて、弟子という立場もどうも違うような。
(一つ、思い至るのは。刷り込みだとか言うものか)
生まれて初めて見たものを『親』と思い込むモノ。
シャルプの場合、『生まれて初めて』ではないが、記憶を失った状態だった。だから似たような条件下にあったのではないか、そんな風に思う。
(親、な。アタシをね……?)
シャルプは、未だに自分をそう見ているのだろうか。
この、成長した……
「うぇへへへへ」
成長した大人は今、子供に頭を撫でられている。しかも、頬を盛大に弛めながら。
「ぇへへへへへ」
「……」
状況を客観的に見ようとしたギニスタの気が、削がれる。
「あっ?!」
「?!」
気が抜けかけていた所に声を上げられ、その小さい肩がびくんと跳ねた。
「師匠! ご飯!」
シャルプは勢い良く立ち上がり、ギニスタの手を取る。
「忘れてました! 戻りましょう!」
「え、あ」
庭先から、瞬く間に家の中へと。
(……なんか、もう、今は良いか?)
連れて行かれながら、その胸中で嘆息した。
朝食を食べていたギニスタの眉が、ほんの少し持ち上がった。
(……なんだ?)
その違和感は、上空から山を巡るような動きをする。
「……なぁ、シャルプ」
「はい?」
けれど目の前の管理者は、自分が作ったコーンスープを飲みながら器用に首を傾げるだけ。
(アタシの思い違いか?)
しかし、その違和感は大きくなるばかり。
「何か、感じないか?」
「何かですか?」
「そう、何か……これは、使役獣……?」
思い至った途端、ギニスタは椅子から飛び降り、
「シャルプ! 【仮面】、祭りに使うような仮面って知らないか?!」
言いながら、自分がそれを仕舞っていた引き出しを引っこ抜く。
「……」
シャルプは、少しばかりそれを眺めてから動き出した。
「えぇっと、これですか?」
そう言って、ギニスタが探していた引き出しからは随分離れた、その上高い戸棚を開ける。
そこから出して来たのは、ギニスタが言った通り、祭りなどで見かける顔の上半分を覆う形の仮面だった。
「それだ! ありがとうまだ持って……」
受け取ったそれをまじまじと眺め、ギニスタの顔に疑問が浮かぶ。
(装飾を、直した?)
魔力を通しても、さして機能に変わりはない。
ただ、剥がれていた花の塗装や箔などが、綺麗に直されていた。
(まぁ、いいか)
「ありがとうシャルプ。じゃ、ちょっと出て、いやお前も来い!」
飛び出しかけ、そう言い添える。
そして改めて出て行った師匠に聞こえないように、弟子はぽつりと呟いた。
「……気付いちゃうかぁ……一緒にゆっくり、食べたかったんだけどな」
◇◇◇◇◇
庭へ出たギニスタは【仮面】を顔にあてがい、山の中腹へ目を凝らす。
【仮面】は望遠、透視、顕微鏡などの役割を果たす道具だ。魔力を流し、時々に合わせてその力を調整して使う。
今ギニスタは、望遠を使っていた。
(やはり)
見えたのは、霧を散らして獲物を狙う大鷲だった。その足首に、魔石をあしらった枷が着けられている。
帯びる魔力の特徴も一致する。あれは人に使役された獣、所謂“使役獣”だ。
「何かありましたか?」
「……シャルプ、お前ももう分かってるだろ。使役獣が入り込んだ」
横からの声に顔を向けず、ギニスタは厳しく応じる。
「これが感知出来ないとは言わせない。アタシでさえ気付けたんだ。管理者であるお前はこれをきっちり──」
〈〈〈真の者!〉〉〉
続く言葉を、震える声が連なるようにかき消した。
逃げ惑うように、妖精達がやってきたのだ。
〈ああ! 真の者! もう気付いていたのだな!〉
〈あんな恐ろしい……! 理から外れた者など、早く追いやって下さい!〉
妖精達は、ギニスタなど視界にも入ってないように動く。
そのままシャルプの周りに集まって、泣きそうな顔で懇願する。
〈真の者! お早く!〉
〈どうか! 被害が出ぬうちに〉
〈真の者!〉
ちらり、とこちらを伺うシャルプ。その視線も、すぐ妖精達が塞いでしまう。
「……」
仮面を外し、それを仰ぎ見るギニスタは、少しだけ肩を竦めた。
「……ぁーもぅ……分かった、行くから!」
〈〈〈ああ! 真の者よ!〉〉〉
ばっさばっさと手を振って、群がっていた妖精達からなんとも乱雑に抜け出すシャルプ。
「……師匠も、それで良いですか……?」
(何故聞く)
潤んだ瞳に問われ、ギニスタは盛大に首を傾げたくなった。
「ああ、良いとも。てか早く行け。迷い込んだなら良いが、偵察などであれば早急に対応を考えなければいけないからな」
「それは大丈夫です。ただお腹空いてるだけみたいだし」
「え」
目を丸くするギニスタに淋しげに手を振って、「行ってきます」とシャルプは飛び立った。
「あ! ご飯待ってて下さいね?! 一緒に食べましょうね?!」
「分かった分かった」
それを見送ったギニスタに、
〈……また、真の者への口出しか〉
恨み節のような声音で、妖精がそう零す。
(飽きないな、彼らも。……いや)
気が収まらないのだったな。と、思い直した。
〈自分の立場も弁えずに〉
シャルプの仕事ぶりを見ていようかと思っていたギニスタだが、
〈本当に、懲りないものだね〉
このままここにいては、また彼らがシャルプに何か言われかねないとも思い始める。
ここは怖じ気づいた感じで、引っ込んでしまおうか。
「師匠!」
「……ぅわっ?!」
〈〈〈?!?!〉〉〉
急に目の前に現れたシャルプにギニスタは飛び退いて、妖精達は大仰に慌てた。
先ほど霧の中に入ったばかりなのに。
「も、もう終えてきたのか」
結局見れなかった、と思いながら訊ねると。
「はい! 追っ払おうとしたら向かってきたんで、跳ね返してやりました!」
「は?」
「誰も食われたりしてませんよ!」
「いや、待て、ちょっと待て」
自信ありげに胸を張るシャルプを押しやり、ギニスタは再度【仮面】を付ける。
「……」
見えたのは、左の翼が折れて地面にうずくまる大鷲と、それに怯える周りの生き物達だった。
「……シャルプ」
仮面を、そっと顔から外す。
「はい!」
「駄目だ」
「え?」
「やり直し。戻ってきちんとやってきなさい」
「えー」
なんともダルそうな声を出し、それでいて顔をしょげさせるシャルプ。
それを見て、ギニスタは溜め息を一つ。
「使役獣が何か、お前も知ってるだろう?」
「……人間からの強制契約により、その人間の魔力によって操られる獣の総称。強制契約には魔石を使った装身具を使う事が多い」
「それだけじゃないだろ? 使役獣に何かあったら、使役する人間はその獣、あの大鷲を探すかも知れない。そしてこの山に辿り着くかも知れない」
諭すギニスタに、シャルプの頬が膨らんでいく。
「……この山が危険に晒されるだろう? そんな事、あってはならない」
「でも……っ」
言いかけ、けれどシャルプはその口を閉じる。
「……」
「……」
(? なんだ?)
待っても口はうねるだけ。言わないと察したギニスタは、こちらから口を開く。
「……それに、あのままではあの大鷲も辛いだろう。しっかり治して帰してやらねば」
「……」
「その後、周りの者達の不安も聞いてあげると良い」
(……こんな事、言われずとも分かっているのだろうが)
今までの管理者の記憶、真の者の力、十五年分の経験。
今のシャルプにはそれらがある。自分の知る幼子ではない。
(本当は、アタシが真の者に口出しする必要など無い)
理解している筈なのに、こんな説教めいた事をしてしまう。『彼ら』の言う通り。
やはり自分が居ることは、シャルプへの悪影響になっているのではないか。
「ッ……だっ」
「だ?」
「……っ……ッ!」
ありったけ口をもごつかせ、整ったその顔が渋面になる。
「んんむぅんん、もぅっ!!」
何がもう、だか訳が分からないギニスタは、首を捻るに留めた。
「分かりました! もう一回行ってきます! やってきます!」
「え? あ、うん……」
「待ってて下さいね!!!」
「分かったって」
さっきと殆ど同じ場面を繰り返している、などと思うギニスタだった。
〈……、〉
シャルプがいなくなった途端、少し離れた木の陰から見ていた妖精達の口から、また次々に言葉が漏れる。
〈……また、真の者が〉
〈このような者を、何故〉
〈この者のおかげで山が捨て置かれる〉
捨て置かれるは言い過ぎな気もしたが、
(概ね同意出来る)
ギニスタは頷きたくなった。
そして、そんな事を言わせてしまっている自分の立場に、頭を抱えたくもなった。
◇◇◇◇◇
かくして、今度はきっちりやり終えたシャルプは、
「やってきました! ちゃんと! どうですか?!」
物凄い勢いで迫る。
「やった、やったなー、偉いなー」
それを間延びした声で受け、頭を撫でさせられるギニスタ。
「うぇへへへへ」
(なんだろうこれは)
少し現実から逃れたくなったギニスタは、ここまでのシャルプの行動について考え出す。
(この子は、アタシをどう見てるのか)
そもそも何故生き返らせた、いや、まだ死んではいなかったのだからそれは違うか。
(しかし、管理者の最期の務めである【還元】に、何故抗ったのか)
十五年前ギニスタは、シャルプを真の管理者──真の魔法使いと認定した後、【還元】のために老木の元へ向かった。
【還元】とは、管理者の生命力全てを山に還す作業の事。
本来ならば寿命が尽きかけたその時に、次代の管理者を認定してから行うものだが。
(シャルプが真の者だったからな。山の者達も彼らも、早く代替わりする事を望んでいた)
だからギニスタは、まだ寿命が残っていても継いで貰う事にした。自分を糧とし、山と主に恵みあれとも、少しばかり思っていた。
そして主の元へ行き、その身体が輝く粒子となった所でシャルプによって弾かれたのだ。後に聞けば、拾った主の欠片を使ったのだと言うから、また頭が痛くなる。
(……恩返しなのか? 世話をした事への)
シャルプなりの。そうも思ったが。
『ボクはあなたと居たい』
青と金に、貫かれるようにしながら言われた言葉。
あれはどう取っても、感謝の念ではない。
さりとて、弟子という立場もどうも違うような。
(一つ、思い至るのは。刷り込みだとか言うものか)
生まれて初めて見たものを『親』と思い込むモノ。
シャルプの場合、『生まれて初めて』ではないが、記憶を失った状態だった。だから似たような条件下にあったのではないか、そんな風に思う。
(親、な。アタシをね……?)
シャルプは、未だに自分をそう見ているのだろうか。
この、成長した……
「うぇへへへへ」
成長した大人は今、子供に頭を撫でられている。しかも、頬を盛大に弛めながら。
「ぇへへへへへ」
「……」
状況を客観的に見ようとしたギニスタの気が、削がれる。
「あっ?!」
「?!」
気が抜けかけていた所に声を上げられ、その小さい肩がびくんと跳ねた。
「師匠! ご飯!」
シャルプは勢い良く立ち上がり、ギニスタの手を取る。
「忘れてました! 戻りましょう!」
「え、あ」
庭先から、瞬く間に家の中へと。
(……なんか、もう、今は良いか?)
連れて行かれながら、その胸中で嘆息した。
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