魔法使いの弟子になりたい

山法師

文字の大きさ
上 下
6 / 19
第一章 魔法使いが助けた子供

6 魔法使いと子供

しおりを挟む
「だっ……その……」
「その?」

 腕を組んで椅子に座る、赤と銀の髪を持つ子供。水色の目を細め、見据えるその先に。

「だって……全然こっち向いてくれないし……」

 檸檬色の髪の大人が、膝を折って床に座っている。そして、その青と金の瞳は斜め下に逸らされていた。

「ボクまだ殆ど何も分からなかったし……あなたはもう消えそうだったし……」
「それで、結局何をした?」

 うぐっと言葉に詰まり、その目は右へ左へゆらゆら動く。

「……正直に言いなさい。今すぐ!」
「っ……主の力を使ってあなたを戻そうとしました! けどそんなに上手くいきませんでした! 魂は留められたけど体は上手くいかなくて十五年かけてやっとここまで戻ったんですごめんなさい!」
「……………………は?」

 子供になった魔法使いは目を瞬き。大人になった子供は泣きそうな顔でそっぽを向いた。

 ◇◇◇

 子供が拾った翠の石は、石ではなく主の樹液の結晶だった。
 魔法使いが今まさに消えようとする中、追いついた子供はそれを投げつける。そうすることで結晶が生命いのちを吹き出し、主の力が戻ると理解していた。そして子供は、戻った力を借りて魔法使いをこちら・・・に戻そうとする。途中までは上手くいったのだ。

「入り込んだあなたをこっちに集めて、一所に一旦留めて……魂は自ら形を取り戻しましたけど、身体はどうにも、言うことを聞かなくて……」

 ぶつぶつと、言い訳でもするように聞かされるそれ。

(循環するはずのものを故意に剥がし、その代償を喰らった痕跡も無し……)

 魔法使いは、頭が痛くなってきた。

「色々聞きたくはあるが……何でそこまでやった?」
「ボクの力が足りなかったばっかり……え?」

 きょとんとするその顔に、しかめっ面を向ける。

「何故、わざわざ介入したのかと聞いてるんだ。アタシはこうして生きているが、それがお前に何をもたらす?」
「え、何でって……あれ? 十五年して忘れちゃいました?」

 きょとんとした顔で、頭を傾ける。
 子供の時のままのその仕草は、成長した今でも違和感を覚えさせない。

(なんというか、恐ろしいな)

 幼くなった眉根を寄せ、成長した顔を軽く睨んだ。

「生憎、アタシの記憶はその十五年前で止まってる。初めに見た時、お前が誰だか分からなかったくらいだ」
「ええ?!」

 その言葉によほど衝撃を受けたのか、【真の管理者】は崩れるように床に伏した。

「そんな……ボクだって分かられてなかったなんて……」
「……」

 本当はすぐ気付いたが、正直に言うのは癪な気がした。落ち込む背中を眺めながら、魔法使いは腕を組む。

「……で? 何が目的なんだ」

 溜め息を吐き、子供の魔法使いは問いかけた。

「お前は今、この山の『管理者』だ。アタシと居た時より自由に動け、魔法だって使えるだろう?」
「あなたが居なくちゃ意味がない!」
「っ?!」

 勢い付いて迫った顔に身を引きかけ、後ろに背もたれがある事を思い出す。ここは椅子の上だった。

「ちょ、ま」
「あなたが居なくちゃ、駄目なんです。ボクはあなたと居たい」

 青と金が近くなり、慄く自分がそれに映った。

(なんだこの気迫は?! 十五年でこの子に何があった?!)
「ボク、言いましたよ。あなたに」

 真剣な顔が迫る。幼い腕力では到底抑えられない。

「何を?!」
「弟子にして下さいって」

 水色が見開かれ、その動きが止まり。

「…………はあ?!」

 首を傾げた瞬間に、大きく傾いだ。

「は、うわ?!」
「!」

 その小さな身体はふわりと浮かび、目の前の者の腕に収まる。

「危なかったー……」

 なによりも大事なもののように抱かれ、子供の眉間に皺が寄る。

「……で? 落ちかけたアタシの何になりたいって?」
「弟子です!」

 輝く笑顔を向けられ、今度はげんなりした声になる。

「アタシが君に何を教えるって言うんだ……」

 もう殆ど力を無くした自分から。真の管理者に何をしろと言うのか。

「色々です! 生の声って大事ですから!」
「あっそう……」
「それにボクはあなたと居たいんです! だから問題ありません!」

 意味が分からないが、追求してもより訳が分からなくなりそうだ。そんなことを思った。

「……じゃあ」

 もうどうにでもなれと、そんな投げやりに発した言葉。

「例えば、何を教えて欲しい……?」

 見上げる先で、二色の瞳が煌めいた。

「良いんですか?! あの、決めてたんです! 最初に聞くこと!」
「そうか。一応聞くが、それはなんだ?」
「名前です! あなたの名前を! 教えて下さい!」
「いや知ってるでしょ君」

 移した情報の中に、管理者の名前も入ってる。
 呆れながら言ったら、その頬が不満げに膨らんだ。

「良いじゃないですか! 直接聞いたって……十五年、待ったのに……」

 その瞳が潤み出す。

「分かった言うから。言うから泣くな」

 たちまちそれは笑顔に変わる。

(相当厄介な育ち方したぞ……)

 空恐ろしいものを感じながら、子供は口を開いた。

「……ギニスタ。アタシの名前はギニスタだ」
「はい! 宜しくお願いしますギニスタ師匠!」
「ししょう」
「はい!」

 ギニスタの視界いっぱいに広がる、満面の笑み。

(なんかどうでも良くなってきたな……)

 身体が小さくなったためか。起き抜けで頭が回ってないか。あの時より随分肩の力が抜けていると、そんな感想を抱きつつ。

「……?」

 何かを待っているようにこちらを伺うその顔に、首を捻った。

「今度は何」
「……んぅー……聞いてくれない……」

 呟かれ、察する。

「ああ、君の名前は知ってるよ」

 全て思い出したと聞いた記憶それは、自身もあの場で知ったもの。

「そんな気はしてましたけど聞いて欲しいです」
「……」

 額に手をやり、一度目を瞑って再度見上げる。

「……」

 物欲しそうな目とぶつかる。

「……分かったよ……君の名前を教えてくれ」
「シャルプです!」
「うん、そうか……」

 その元気さはどこから来る……とギニスタは力無く呟いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...