天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。

山法師

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5 晶の作戦と稔の困惑③

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「結局なんなん? お前フラれたの? フラれてねぇの?」
「しっかりフラれた。なのに意味不明な状況になってる。俺が一番混乱してる」

 聞いてくる吉野に、正直に答える。
 あのあと、晶は本当に居座り、部長たちに見学の許可を貰い、今、俺たちの朝練を眺めている。マネージャーも男子、コーチも顧問も男性なウチに女子がいる、と大部分が浮足立っている。
 特に、一年。

「悪いな、変な空気にさせて」
「中野さん可愛いしなぁ。中野さんより、一年がカッコつけようとしてヘマしなきゃいいけど」

 吉野が言う。
 そう、晶は可愛い。俺が可愛いと思う以前に、客観的に見て可愛いのだ。加えてスタイルも良い。そして性格も良いから、モテる。もう何回も告白されているらしいし、なぜかその度、「◯◯っていう人(もしくは先輩)に告られたんだけど、どうすればいいと思う?」と俺に聞いてくる。なぜ聞いてくるんだ。俺は毎回軽く血を吐くような思いをしながら、「晶の好きにすればいいと思う」と答えていた。つーか、他にどう言えと?
 ドッバァン! と重く強烈な音がした。エースの若柳凌牙わかやなぎりょうが先輩のスパイクの音だ。背が高いだけじゃなく筋骨隆々な先輩の、そのバネと筋力による、ブロッカーの手を弾き飛ばすほどの威力を持つスパイク。やっぱすげえな、凌牙先輩。
 晶はというと、さっきからスパイク練を回しでしているこの光景を動画で撮っているらしく、スマホをこちらに向けている。

「……ふぅ……」

 そろそろ俺の番だ。……雑念を追い出せ。カッコつけようとするな。
 ボールに、目の前のことに集中しろ。

「……」

 コーチがボールを山なりに放る。合わせて走り、跳んで、打ち落とす。

 バァン!

 ……まあ、それなりにいったと思う。俺は、極力晶のほうを見ないようにして、また列に加わった。もし見たら、なんか、負けそうだったから。何に負けそうかは知らない。
 そして朝練が終わり、制服に着替えて教室に向かおうとしたら、

「稔、稔」

 晶に捕まった。物理的に捕まった。
 なんで腕を組んでくんの? で、そのまま歩くんだ?

「みんなすごいね、練習試合とか試合の時は、上から見てたからかな? よく分かんなかったけど、迫力がすごい。ヤバい。動画撮ってたんだけどさ、あとでそれ送るね」
「はあ」

 なあ、こんな近くでとても楽しそうに喋んの、心臓に悪いんだけど。胸がまた腕に当たってんだけど、指摘したほうがいい?
 あと、撮った動画はマネージャーとかコーチに送ったほうが有用だと思う。

「中野さんさ、放課後も来たりすんの?」

 吉野の問いに、

「うん、行くつもり」

 迷いなく答える晶。

「あ、誰か誘おうかな。稔、どう思う?」

 どう思うも何も。

「良いんじゃねぇの。知らんけど」
「良い? 誰誘おうかなぁ……」

 わくわくしたカオになる晶。そこに嘘を見つけられない。

「……お前さ、ホント急にどうしたんだよ? なに考えてんだ?」
「だから、彼女っぽいことをしてみてるの」
「なんで」

 そしたら、晶は「んぅ……」と小さく唸り、

「……確かめているのです」
「何を」
「……秘密」
「なんでだよ」
「いいじゃん稔は気にしないの。稔はいつも通りに過ごして」

 出来ると思うかこのやろう。

「あ、そうだった! 忘れかけてた。ねぇ稔、お昼一緒に食べない?」
「は? なん……、……別に、いいけど」

 もう、なんなの? お前は俺を翻弄してどうしたいの?
 小悪魔系でも目指し始めた?

「そう? いい? 良かった。断られたらどうしようかと思ってた」

 やめろ、嬉しそうにするな、やめろ。
 なんかよく分かんねぇ期待を抱きたくなるだろうが。

「……なあお二人さん」

 吉野が真面目な顔をして、

「バカップルって呼んでいい?」
「茶化すな」


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