24 / 26
第三章 闇の組織、妖精と精霊
10 半神なの?
しおりを挟む
ミーティオルにトントンされて寝てしまって、起きたらお昼近かった。
寝坊した! って慌てたけど、ミーティオルは、
『大丈夫だ、ニナ。さっきキリナが顔を出したけど、まだ時間がかかりそうだって言ってたから』
って言ってくれて。
『そうだぞ。ニナはたっぷり休むといいのだ』
サロッピスもそう言ってくれた。
なので、お言葉に甘えることにして、キリナが持ってきてくれたというジャーキー干し肉をもぐもぐしている。
「ミーティオルたちは何か食べたの?」
もぐもぐを終えてごっくんして、上を向く。
私は今、ソファに座ってるミーティオルのお腹に背中をくっつけて、膝の上で抱っこされているのだ。
「ああ。俺は同じものを食べた。カーラナンの増援が沢山持ってきてくれてるらしい」
「そうなんだ」
起きた時に浄化したけど、念のため、もう一回ミーティオルを浄化しとこ。
パァッ! てさせたら、ミーティオルは笑って、頭を撫でてくれる。
「ありがとうな、ニナ」
「ううん。だって、心配なんだもん」
言って、水袋から水をごくごくする。
「我も食べたぞ、ニナ。ここの食事以外のものを口にしたのは久しぶりだ」
ふわふわ飛んでいたサロッピスも、言いながら顔の前にスィ、と降りてきたので、妖精だけどサロッピスにもパァッ! とさせておく。
「おお、ニナの力は全く凄い。流石は神の子だ」
サロッピスが嬉しそうに、くるりと空中で一回転する。
「浄化の力もなんか違うんだ?」
ごくごくし終わって、水袋に栓をしながら聞く。
「全てが違うだろうな。ニナは格が違う。神の子だからな」
教皇の血筋すっげえ。
「ニナ、その辺の話なんだが。ニナの力の由来、つーか、ニナの親の片方が分かった」
「え?! そうなの?!」
誰なん?!
テーブルに乗ってるドライフルーツの袋へ伸ばしかけてた手を止めて、ミーティオルを見上げる。
ミーティオルは困ったような笑顔で、
「ニナ、落ち着いて聞いてくれ。ニナは本当に、神の子なんだそうだ」
……はい?
「そうなのだ。ニナの親は神なのだ。だからニナは神の子なのだ」
サロッピスぅ?
「……神様の子供って、えと、親の片方って……片方が神様、なの?」
「そうらしい」「そうなのだぞ」
マジ? 片方が神なの?
「私、半分人間じゃないの……?」
半神なの……?
「大丈夫だよ、ニナ。ニナが誰から生まれてても、ニナはニナだ」
ミーティオルは、そう言って頭を撫でてくれて。
「ニナ。怖がることではない。誇らしく思うことなのだ。神はいつもニナを見ている。見守っている。ニナを愛しているからな」
サロッピスも、胸を張って言ってくれる。
「キリナが戻ってきた時にも、それは伝えてある。キリナは色々納得したふうだったよ」
そうなん? そんな簡単に納得できるもんなの?
「キリナはな、『だからこんなにも規格外だった訳ですか。髪と瞳の色も腑に落ちました』つってた」
「髪と瞳の色?」
それが神様となんの関係が?
「ああ。カーラナンの神の姿は、オレンジの髪と水色の瞳を持つって伝えられてるらしい。神の血を継ぐ初代の教皇は、その色を受け継いで、オレンジの髪と水色の瞳を持つんだそうだ」
「そうなんだ? ……あ?!」
夢の中で会った、あの人。
『この髪色と瞳の色に、覚えは?』
オレンジ色の長い髪と、水色の瞳を持っていた。
しかも。
『子を持つ親の感覚を、久方ぶりに味わっているぞ』
そう、言ってた。
オレンジと、水色。親という言葉。
あれ、夢じゃなかったりする?
あの人が神様で、私の生みの親? だったりする?
「ニナ? どうした?」
「驚いた顔をしているな。ずっと両親ともに人間だと思っていたからか?」
「い、いや、そうじゃなくて……」
私は、覚えてる限りの夢の話を、ミーティオルとサロッピスにした。
「なんと! ニナは既に神に会っていたのだな!」
「ニナ……夢だと思う気持ちは、……まあ、分からなくないけど……」
「いや、本当に夢かもしれないけど。ていうか、あの人、神様が親だとしても、男の人なのか女の人なのか分かんない」
顔は綺麗な人だったけど。見た目も声も性別不明だったし。年齢も……何歳だろ、あれ。見た目は若く思えるけど、雰囲気がなんか、若くないような……?
人間離れしてると言えば、人間離れしてるな。
「神は神だからな。性別など関係ない」
そうなの?
「カーラナンの教えも、神は神、だとしか言ってないんだっけか。性別が関係ないなら、男親か女親かも分からないな」
「ええ……」
謎が謎を呼ぶ……。
「さっきからカーラナンの神と言っているが、神は人間の神だぞ。カーラナンの神ではない」
「そういや、そんなこと言ってたな、お前」
ふわふわ浮かぶサロッピスに、ミーティオルが顔を向ける。
「人間の神……?」
どういうこと……? カーラナンと違うん……?
「そうだぞ。人間を司る神なのだ。ニナ、話しただろう? 赤子のニナを助けるべく、神たちが声をかけてきたと。その中の一柱が人間の神であり、ニナの親なのだ」
「そうなんだ……?」
更に謎が増えた……。
そこに、ノックの音が響く。
『ミーティオルさん、サロッピスさん、キリナです。入って大丈夫ですか?』
キリナだ。でもなんか、声、ちょっと硬くない?
「ああ。ニナも起きてる。追加の情報もあるぞ」
『はい?』
ドアが開いて、キリナが入ってきた。後ろから、もう一人。……なんだ? キリナに似てるな。親戚の方?
「追加の情報って、なんですかね? こちらからも話があったんですが」
「ニナ、神と会ったことがあるらしい」
ミーティオルのその言葉に、入ってきたキリナともう一人は、驚いた顔をした。
「……先に、そちらを詳しく聞きましょうか」
キリナが、神妙な顔になる。
私は、そんなキリナと、キリナのお兄さんのキリヤだと軽く自己紹介してくれた人が対面のソファに座ってから、また、夢の話をした。
てか、キリナ、お兄さん居たんだ? 似てる訳だよ。
「銀色の草原、ということは、本当に神の世界ですね」
キリナのお兄さん、キリヤさんが軽く頷きながら言ってくる。
そうなんだ? じゃあホントに、あの人が生みの親なんだ?
キリナは神妙な顔のまま、
「ニナさんの目的地変更が確定しましたね」
「え? 変わるの?」
「変わります。ニナさんとミーティオルさん、そして同行するというサロッピスさんは、兄たちと共に、セラム・カーリナの正大神殿に向かってもらいます」
「教皇がいるっていう?」
「そうです」
キリナは頷くと、
「手紙も送りますが、一刻も早く、教皇様方にお会いしていただかないと。あなたは現在、この場所で一番権力のある人物ですからね」
そう言って、
「それと。こちらからの話ですが。兄たちが来てくれたので、僕は通常任務に戻ることになりました」
え?
「ニナさんたちの警護は、兄たちが担当することになりました。その引き継ぎの話をしに来たんですよ」
「え? え? なんでキリナは抜けるの? 一緒じゃ駄目なの?」
私の言葉に、キリナは口を開きかけたけど、キリヤさんが先に喋った。
「ニナさん。次々と混乱させてしまったようで、すみません。我々が居ますので、キリナは通常任務に戻るのが最良だと、そういう判断になりました。ニナさんたちの安全は保障します。人数が桁違いですからね」
「だとして、なんでですか? キリナも一緒なら、更に安心じゃないの?」
「ニナさん。五百年戦争の予言の話を覚えていますか?」
キリナが神妙な顔のまま、また、少し硬い声で言った。
「覚えてるけど……?」
「ならば、僕は戦力を集め、『ワーウルフ』退治の任務に戻らなければならないと、それはご理解いただけますか?」
「……」
理屈は分かる。けど、嫌だ。色々と嫌だ。
「だとしても、キリナも一緒じゃないとイヤ。五百年戦争だって、異教徒が起こすって決まった訳じゃないじゃない」
アエラキルも。アニモストレたちも。お人形さんにされてたあの子たちも。ここに囚われていた他の人たちも。
彼らが殺されるなんて、嫌だ。
そんなの、まっぴら御免だ。
「ニナさん。キリナの話はともかく、五百年戦争についての見解は、教皇様方と直接お話をしていただけたら、何か変わるかも知れません」
キリヤさんが、諭すように言ってくる。
「教皇に会うメリットは分かりました。ですけど、キリナが一緒じゃないと嫌です」
「……どうしてそんなに頑なになるんですかね……」
キリナがため息を吐いて、そんなことを言う。
なんだ? イライラしてきたぞ?
キリナの態度にイライラしてきたぞ?
「キリナもずっと、ここまで一緒に行動してたじゃん! キリナだって別行動したくなさそうだけど?!」
言ったら、キリナは目を見開いて。キリヤさんは苦笑する。
「ニナさん、「俺もニナに、半分賛成だな」
キリヤさんの言葉を遮って、ミーティオルが唸るように低い声を出した。
「キリヤ。アンタ、何か隠してるな? 裏切り者の匂いがする。そんなアンタと行動を共にしたくねぇな」
なんだと?
「ふむ。我も不可解に思う。キリヤ、お前、善良さは感じられるが、善良さしか感じられない。実に不可解だ。そのような人間は存在しない」
おお? サロッピスまでなんか、すごいこと言い出したぞ?
「何か、誤解をさせてしまいましたかね。私はいたって真面目なつもりなんですが」
キリヤさんは苦笑したまま言って、
「……皆さん。兄はとても優秀ですよ。優秀ですから、そのように見えるのかと」
硬い声と表情に戻ったキリナも、キリヤさんの肩を持つ。
ええい! ならばこうだ!
「キリヤさん! 隠し事があるなら話して! 裏切り者ならあなたと一緒には行きたくない!」
神! 父か母か知らんが神! 力を貸してくれ!
「ニナさん、隠し事など──」
苦笑していたキリヤさんが動きを止めて、変な顔をした。
「っ……俺は、教皇様から……」
キリヤさんの顔が焦ったものになって、手で、何か話し始めた口を塞ぐ。
そして、キリヤさんは驚いた顔になって、なんか、抵抗するような感じで口から手を外すと、
「俺は、教皇様から、命を、受けて、……ニナという少女を、その御前に、連れて……くるよう、手を、回していた」
またなんか、抵抗するような、苦しそうな感じになりながら、話し始めた。
寝坊した! って慌てたけど、ミーティオルは、
『大丈夫だ、ニナ。さっきキリナが顔を出したけど、まだ時間がかかりそうだって言ってたから』
って言ってくれて。
『そうだぞ。ニナはたっぷり休むといいのだ』
サロッピスもそう言ってくれた。
なので、お言葉に甘えることにして、キリナが持ってきてくれたというジャーキー干し肉をもぐもぐしている。
「ミーティオルたちは何か食べたの?」
もぐもぐを終えてごっくんして、上を向く。
私は今、ソファに座ってるミーティオルのお腹に背中をくっつけて、膝の上で抱っこされているのだ。
「ああ。俺は同じものを食べた。カーラナンの増援が沢山持ってきてくれてるらしい」
「そうなんだ」
起きた時に浄化したけど、念のため、もう一回ミーティオルを浄化しとこ。
パァッ! てさせたら、ミーティオルは笑って、頭を撫でてくれる。
「ありがとうな、ニナ」
「ううん。だって、心配なんだもん」
言って、水袋から水をごくごくする。
「我も食べたぞ、ニナ。ここの食事以外のものを口にしたのは久しぶりだ」
ふわふわ飛んでいたサロッピスも、言いながら顔の前にスィ、と降りてきたので、妖精だけどサロッピスにもパァッ! とさせておく。
「おお、ニナの力は全く凄い。流石は神の子だ」
サロッピスが嬉しそうに、くるりと空中で一回転する。
「浄化の力もなんか違うんだ?」
ごくごくし終わって、水袋に栓をしながら聞く。
「全てが違うだろうな。ニナは格が違う。神の子だからな」
教皇の血筋すっげえ。
「ニナ、その辺の話なんだが。ニナの力の由来、つーか、ニナの親の片方が分かった」
「え?! そうなの?!」
誰なん?!
テーブルに乗ってるドライフルーツの袋へ伸ばしかけてた手を止めて、ミーティオルを見上げる。
ミーティオルは困ったような笑顔で、
「ニナ、落ち着いて聞いてくれ。ニナは本当に、神の子なんだそうだ」
……はい?
「そうなのだ。ニナの親は神なのだ。だからニナは神の子なのだ」
サロッピスぅ?
「……神様の子供って、えと、親の片方って……片方が神様、なの?」
「そうらしい」「そうなのだぞ」
マジ? 片方が神なの?
「私、半分人間じゃないの……?」
半神なの……?
「大丈夫だよ、ニナ。ニナが誰から生まれてても、ニナはニナだ」
ミーティオルは、そう言って頭を撫でてくれて。
「ニナ。怖がることではない。誇らしく思うことなのだ。神はいつもニナを見ている。見守っている。ニナを愛しているからな」
サロッピスも、胸を張って言ってくれる。
「キリナが戻ってきた時にも、それは伝えてある。キリナは色々納得したふうだったよ」
そうなん? そんな簡単に納得できるもんなの?
「キリナはな、『だからこんなにも規格外だった訳ですか。髪と瞳の色も腑に落ちました』つってた」
「髪と瞳の色?」
それが神様となんの関係が?
「ああ。カーラナンの神の姿は、オレンジの髪と水色の瞳を持つって伝えられてるらしい。神の血を継ぐ初代の教皇は、その色を受け継いで、オレンジの髪と水色の瞳を持つんだそうだ」
「そうなんだ? ……あ?!」
夢の中で会った、あの人。
『この髪色と瞳の色に、覚えは?』
オレンジ色の長い髪と、水色の瞳を持っていた。
しかも。
『子を持つ親の感覚を、久方ぶりに味わっているぞ』
そう、言ってた。
オレンジと、水色。親という言葉。
あれ、夢じゃなかったりする?
あの人が神様で、私の生みの親? だったりする?
「ニナ? どうした?」
「驚いた顔をしているな。ずっと両親ともに人間だと思っていたからか?」
「い、いや、そうじゃなくて……」
私は、覚えてる限りの夢の話を、ミーティオルとサロッピスにした。
「なんと! ニナは既に神に会っていたのだな!」
「ニナ……夢だと思う気持ちは、……まあ、分からなくないけど……」
「いや、本当に夢かもしれないけど。ていうか、あの人、神様が親だとしても、男の人なのか女の人なのか分かんない」
顔は綺麗な人だったけど。見た目も声も性別不明だったし。年齢も……何歳だろ、あれ。見た目は若く思えるけど、雰囲気がなんか、若くないような……?
人間離れしてると言えば、人間離れしてるな。
「神は神だからな。性別など関係ない」
そうなの?
「カーラナンの教えも、神は神、だとしか言ってないんだっけか。性別が関係ないなら、男親か女親かも分からないな」
「ええ……」
謎が謎を呼ぶ……。
「さっきからカーラナンの神と言っているが、神は人間の神だぞ。カーラナンの神ではない」
「そういや、そんなこと言ってたな、お前」
ふわふわ浮かぶサロッピスに、ミーティオルが顔を向ける。
「人間の神……?」
どういうこと……? カーラナンと違うん……?
「そうだぞ。人間を司る神なのだ。ニナ、話しただろう? 赤子のニナを助けるべく、神たちが声をかけてきたと。その中の一柱が人間の神であり、ニナの親なのだ」
「そうなんだ……?」
更に謎が増えた……。
そこに、ノックの音が響く。
『ミーティオルさん、サロッピスさん、キリナです。入って大丈夫ですか?』
キリナだ。でもなんか、声、ちょっと硬くない?
「ああ。ニナも起きてる。追加の情報もあるぞ」
『はい?』
ドアが開いて、キリナが入ってきた。後ろから、もう一人。……なんだ? キリナに似てるな。親戚の方?
「追加の情報って、なんですかね? こちらからも話があったんですが」
「ニナ、神と会ったことがあるらしい」
ミーティオルのその言葉に、入ってきたキリナともう一人は、驚いた顔をした。
「……先に、そちらを詳しく聞きましょうか」
キリナが、神妙な顔になる。
私は、そんなキリナと、キリナのお兄さんのキリヤだと軽く自己紹介してくれた人が対面のソファに座ってから、また、夢の話をした。
てか、キリナ、お兄さん居たんだ? 似てる訳だよ。
「銀色の草原、ということは、本当に神の世界ですね」
キリナのお兄さん、キリヤさんが軽く頷きながら言ってくる。
そうなんだ? じゃあホントに、あの人が生みの親なんだ?
キリナは神妙な顔のまま、
「ニナさんの目的地変更が確定しましたね」
「え? 変わるの?」
「変わります。ニナさんとミーティオルさん、そして同行するというサロッピスさんは、兄たちと共に、セラム・カーリナの正大神殿に向かってもらいます」
「教皇がいるっていう?」
「そうです」
キリナは頷くと、
「手紙も送りますが、一刻も早く、教皇様方にお会いしていただかないと。あなたは現在、この場所で一番権力のある人物ですからね」
そう言って、
「それと。こちらからの話ですが。兄たちが来てくれたので、僕は通常任務に戻ることになりました」
え?
「ニナさんたちの警護は、兄たちが担当することになりました。その引き継ぎの話をしに来たんですよ」
「え? え? なんでキリナは抜けるの? 一緒じゃ駄目なの?」
私の言葉に、キリナは口を開きかけたけど、キリヤさんが先に喋った。
「ニナさん。次々と混乱させてしまったようで、すみません。我々が居ますので、キリナは通常任務に戻るのが最良だと、そういう判断になりました。ニナさんたちの安全は保障します。人数が桁違いですからね」
「だとして、なんでですか? キリナも一緒なら、更に安心じゃないの?」
「ニナさん。五百年戦争の予言の話を覚えていますか?」
キリナが神妙な顔のまま、また、少し硬い声で言った。
「覚えてるけど……?」
「ならば、僕は戦力を集め、『ワーウルフ』退治の任務に戻らなければならないと、それはご理解いただけますか?」
「……」
理屈は分かる。けど、嫌だ。色々と嫌だ。
「だとしても、キリナも一緒じゃないとイヤ。五百年戦争だって、異教徒が起こすって決まった訳じゃないじゃない」
アエラキルも。アニモストレたちも。お人形さんにされてたあの子たちも。ここに囚われていた他の人たちも。
彼らが殺されるなんて、嫌だ。
そんなの、まっぴら御免だ。
「ニナさん。キリナの話はともかく、五百年戦争についての見解は、教皇様方と直接お話をしていただけたら、何か変わるかも知れません」
キリヤさんが、諭すように言ってくる。
「教皇に会うメリットは分かりました。ですけど、キリナが一緒じゃないと嫌です」
「……どうしてそんなに頑なになるんですかね……」
キリナがため息を吐いて、そんなことを言う。
なんだ? イライラしてきたぞ?
キリナの態度にイライラしてきたぞ?
「キリナもずっと、ここまで一緒に行動してたじゃん! キリナだって別行動したくなさそうだけど?!」
言ったら、キリナは目を見開いて。キリヤさんは苦笑する。
「ニナさん、「俺もニナに、半分賛成だな」
キリヤさんの言葉を遮って、ミーティオルが唸るように低い声を出した。
「キリヤ。アンタ、何か隠してるな? 裏切り者の匂いがする。そんなアンタと行動を共にしたくねぇな」
なんだと?
「ふむ。我も不可解に思う。キリヤ、お前、善良さは感じられるが、善良さしか感じられない。実に不可解だ。そのような人間は存在しない」
おお? サロッピスまでなんか、すごいこと言い出したぞ?
「何か、誤解をさせてしまいましたかね。私はいたって真面目なつもりなんですが」
キリヤさんは苦笑したまま言って、
「……皆さん。兄はとても優秀ですよ。優秀ですから、そのように見えるのかと」
硬い声と表情に戻ったキリナも、キリヤさんの肩を持つ。
ええい! ならばこうだ!
「キリヤさん! 隠し事があるなら話して! 裏切り者ならあなたと一緒には行きたくない!」
神! 父か母か知らんが神! 力を貸してくれ!
「ニナさん、隠し事など──」
苦笑していたキリヤさんが動きを止めて、変な顔をした。
「っ……俺は、教皇様から……」
キリヤさんの顔が焦ったものになって、手で、何か話し始めた口を塞ぐ。
そして、キリヤさんは驚いた顔になって、なんか、抵抗するような感じで口から手を外すと、
「俺は、教皇様から、命を、受けて、……ニナという少女を、その御前に、連れて……くるよう、手を、回していた」
またなんか、抵抗するような、苦しそうな感じになりながら、話し始めた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる
kae
恋愛
魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。
これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。
ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。
しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。
「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」
追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」
ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる