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第三章 闇の組織、妖精と精霊

8 神の愛し子たちに祝福を

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 ミーティオルのお母さん、シュリーノフォートさんの毛皮を手に、ミーティオルは、ぽつぽつ教えてくれた。

「……ミーティオル……」

 そういうことだったの……? ……なんて、声、かければいい……?

「災難でしたね、ミーティオルさん。気持ちを汲んで、と言いたいですが、今は切り替えて下さい」

 ミーティオルが話していた間、ずっと黙ってたキリナが、きっぱりと言う。

「ああ」

 ミーティオルはシュリーノフォートさんをそっと抱きしめ、すぐに離すと、

「アエラキル、お前に母様を託す。族長に会わせてやってくれ」

 少し垂れていた耳をピンとさせて、しっかりした顔と口調になって、アエラキルにシュリーノフォートさんを渡した。

「……かしこまりました」

 アエラキルは、シュリーノフォートさんをしっかり抱えて、

「精霊様、里──家に、家族のところに、帰りたいです」

 ふわふわ浮いていた精霊さんの一人に顔を向けて、そう言った。

「了解した」

 精霊さんが頷くと、アエラキルが光り出す。

「ニナ。ありがとう」

 アエラキルが、泣きそうな笑顔を向けてくる。

「ううん。アエラキルに会えて良かった。また、会えたらいいね」
「うん。また、いつか。会えたら良いね、ニナ」

 その言葉を最後に、アエラキルは光に包まれて、消えた。……こういう帰り方なんだ?

「……ミーティオル」

 アエラキルが消えるのをじっと見ていたミーティオルに駆け寄って、抱きつく。

「ニナ。遅くなってごめんな」

 ミーティオルは言いながら抱き上げてくれて、頭を撫でてくれる。

「ううん。ミーティオル、来てくれたもん。キリナも来てくれた。すごく嬉しい。最初、一人で頑張んなきゃって思ってたから」

 アニモストレも居るのが、ちょっと複雑だけども。他のライカンスロープさんたちも、アニモストレの仲間ってことだよね? おんなじような格好してるし。
 そう思ってたら、アニモストレが、苦しそうに顔を歪めて、

「……なんで……なんでこうなる!」
「急になんですかね」

 飛んできた何かを、キリナが振り向きざまに、ガキン! て、銃身で弾き飛ばして、発砲。

「キリナ!」

 ミーティオルは前みたく飛び退って、鋭い声を出す。

「アニモストレ! お前ら! やっぱりそういう魂胆か!」

 なんだ? よく分からんが危なそうだぞ? 聖域発動!

「なっ?!」「五重?!」「三重じゃなかったのか?!」

 おや? 武器を構えているアニモストレたちの、五重に驚くのは良いとして、三重を知ってるだと?
 ならこうしちゃえ! 十枚バージョンだ!

「ニナさん、やりすぎでは?」
「危険から遠ざけるためだもん」

 てか、キリナ、連射やめないね? アニモストレたちもその場から動かないで、防御してるし。

「ミーティオル、アニモストレたちは敵なの? 味方なの?」
「共闘してたが、今は敵だな。アニモストレたちが先にニナを確保したら、俺は里に戻ることになってたから」
「ええ?! やめてよ?! 里に行くなら一緒に行く!」
「行かないから、ニナ。増援も来たしな」
「え?」

 私が首を傾げるのと、アニモストレたちが身を翻すのが、同時で。

「追いかけます」

 また、キリナはアニモストレたちを追いかけてった。

「……どゆこと?」
「キリナがな、カーラナンの増援を秘密裏に手配してくれたんだよ。仲間割れに備えて」
「ほあ」
「そんで、仲間割れしたし、キリナは容赦なく追い詰めるだろうな」

 ……ん? それって?

「アニモストレたち、捕まっちゃうってこと?」
「だろうな。流石に袋のネズミだろ。強引に突破するかも知れないが。どうやってアエラキルを逃がすか考えてたが、精霊が帰してくれてホッとしてるよ」

 アエラキルが、危険に晒されなかったのは、良いけど。

「アニモストレたちが捕まっちゃうのは、いいの?」
「いいっていうか、しょうがない。ニナの安全が最優先だ」

 言いながら、頭を撫でてくれるけど。
 ミーティオル、複雑そうな顔をしてますよ?

「精霊さんたち、アニモストレたちを里に帰して下さい」
「承った」「ニナ?」

 よし、精霊さんに頼んだから、大丈夫。

「うぃ?!」

 ほ、ほっぺを抓まれました……。

「ニナ、何してんだ。アニモストレはニナを狙ってたんだぞ?」
「へも、みーひおるがほういう顔ふるの、いや」
「……お前な……」

 えう?! ほっぺから手を離してくれたけど、ぎゅっと抱きしめられました?!
 こ、これは?! これはどういう反応すればいいヤツ?! 喜んでいいヤツ?! しんみりしたほうがいいヤツ?!
 あわあわしちゃってたら、精霊さんたちがくすくす笑ってるのが聞こえて。

「神の愛し子たちに、祝福を!」
「祝福を!」
「祝福を!!」

 おい? 最後の声はサロッピスだな?
 って、光り出したんだけど?! 私とミーティオルが!

「こ、これ、どういう……?!」
「我らからの祝福だ。ニナ」

 精霊さんが、教えてくれるけど。

「具体的に言いますと……?」
「加護のようなものだ、ニナ。精霊の加護と妖精の加護を、ニナと、そのミーティオルというライカンスロープに授けたのだ」

 サロッピスが、少し具体的に教えてくれた。
 加護って、スゲェもんでは? こんな感じで受け取るもんなの?
 ミーティオルも目を丸くしてますけど?
 そこに、キリナが戻ってきて、

「ニナさん? アニモストレさんたちに何かしました? 目の前で光って、悪態つきながら消えたんですが。……なんであなたたちまで光ってるんですか」

 増援だっていう大勢の、キリナみたいな格好の人たちも、やって来た。

「アニモストレ、帰ったよ。この光は精霊の加護と妖精の加護だって」

 アニモストレたちの行き先と、収まりつつある光の説明をしたら。

「……。そうですか……」

 キリナがめっちゃ深くため息を吐いた。

 ◇

 アエラキルが生きていた。
 その知らせだけでも、驚くというのに。

「族長様、ミーティオル様に託されました。会わせて欲しいと、お言葉をいただきました」

 部屋に入ってきたアエラキルは、それを、彼女を、族長に差し出す。

「……そうか……」

 緊急に集められた周りがどよめく声を聞きながら、族長は、彼女──シュリーノフォートを受け取り、

『ねえ、イリヤコゥフォス』

 あの笑顔を思い出し、その最期を思う。

「族長様。ミーティオル様は、ニナという人間の少女──聖女の、聖獣になりました」
「……聖獣、だと?」

 アエラキルの言葉に、周りはまたどよめく。族長は、現実に引き戻されるように、もしくは逆に、これは夢ではないだろうかという気分になる。
 アエラキルは、自分が捕まってから帰ってくるまで──特に、ニナと出会ってからを詳細に──話していった。

「……分かった。アエラキル、ゆっくり養生しなさい。下がってよろしい」

 アエラキルが出ていってから、族長は、

「ティフォーニアス、アニモストレはなぜその場にいた? 私はそういった特別任務など、任せた記憶はないのだが?」

 アニモストレの父に、厳しい視線を向ける。

「そ、れは……」

 族長の鋭い視線と圧迫感に、ティフォーニアスは狼狽えてしまう。
 アエラキルが戻ってきて浮足立っていたティフォーニアスも、話を聞いているうちに、肝が冷えていくのを感じていたのだ。

「失礼します! 申し上げます!」

 そこに、若者が困惑顔で入ってくる。

「何用だ? 緊急招集中だぞ」

 若者は、力で押し留められながら、

「ですが! アニモストレ様の偵察部隊七名、全員が……!」

 それを聞いた族長は、最悪を想定しながら、

「偵察部隊が、どうした」
「その、光に包まれて現れ、帰還しました! アニモストレ様は、精霊に強制的に戻されたとお怒りのご様子で……!」

 族長は、最悪ではなかったことを天に──ロープスォモに感謝しながら、

「今すぐ、帰還した全員をここに呼べ。詳細を聞く」

 それでも、厳しい顔と口調で告げる。

「かしこまりました!」

 若者が引き返すのを見てから、

「ティフォーニアス、お前からも詳しい話を聞かねばな」

 族長は、ティフォーニアスに顔を向け直し、重々しく言った。

 ◇

 父は、自分より、母に。そして父の妹である叔母に、愛情を注いでいた。
 自分には、いつも厳しかった。
 けれど、腕を上げる度、何かしら成果を出す度、その時だけは褒めてくれた。
 だから、父のために生きようと。父のために命を使おうと。
 思っていた矢先に、アエラキルが生まれ。
 父は、アエラキルも愛した。

 なぜ?
 なぜ姪には愛情を注ぐのに、娘の私には愛をくれないのですか?

 アエラキルが居なくなり、少しばかりホッとした自分を、嫌になったりもしたが。
 それでも、そんな自分だからこそ、父のためにと頑張っていたのに。

 どこで間違えた? ミーティオルを里に戻すだけの任務だった筈なのに。
 ……キリナ。憎たらしい神父。あれのせいで、目が曇った?
 それと、ニナ。精霊はニナに頼まれたから帰すと、言っていた。
 なぜ、殺そうとした相手を、殺すのではなく、帰すという考えになる?
 ミーティオル、キリナ、ニナ。覚えていろ。
 父上。……父上。

 どうしたら、愛というものを、向けてくれるのですか?
 

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