赤ずきんはオオカミを救いたいし狙ってるし結婚したい【第三章了◆第四章準備中】

山法師

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第三章 闇の組織、妖精と精霊

3 フラグ回収、からのヤベェ人

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 これが最後の休憩、と、少しフラフラしながら馬車から下りて、またミーティオルに抱えられて、

「やっと休める……」

 ずっと揺られてたからか、くらくらするぜ……。

「ニナ!」「聖域」

 え、今? と思いながら聖域を展開する。

「オーガだ!」

 警護の人が、そう叫んだ。

「え、オーガ?」

 キリナから聞いてたけど、本当に存在するんだ? オーガ。
 その言葉に目を丸くしてる間に、ぞろぞろと。
 馬に乗っていたり、そのまま走っていたり。頭に角が生えた、オーガだというそんな奴らが、辻馬車を中心に乗客、御者、護衛全員を含めて周りを取り囲んでいく。

「……どう思います? ミーティオルさん」

 キリナが、声を潜めながら聞いてきた。
 ミーティオルは、小さいけど唸るような声で、

「オーガじゃない。人間だ。あいつ等、オーガの皮を被ってる」

 え? なにそれ、グロ。
 馬に乗ってる人も、立って剣を構えてる人も、当たり前のように角があって、派手なお面を付けて顔を隠して、どこかの民族衣装みたいな服を着てるけど。
 これ、グロい変装なの?

「我らは! 誇りた──」

 馬に乗った、一際ひときわ派手な格好の一人が抜き身の剣を振り上げて、なんか言い始める。けどもう、キリナはその人に照準を定めていて、喋り始めたばっかだけど、遠慮なくぶっ放した。
 その人は、大砲型の銃の威力のせいでか、ふっ飛ばされるようにして、乗っている馬から転げ落ちる。

「普通の弾が効きましたね。やはり人間ですか」

 キリナは呟いて、

「皆さん! 彼らはオーガじゃない! 人間です! オーガに変装しています!」

 大声で言いながら、馬に乗っている人たちを次々に撃ち落としていく。陣形を崩されたオーガに扮した人間たちは、素早くそれを立て直して、近くの人たちに斬りかかった。警護の人が攻撃を防ぎ、ガキンガキンと、あちこちで剣のぶつかり合いが始まる。

「ミーティオルさん」
「ああ」

 短いやり取りのあと、キリナはオーガに扮した人間たちに向かっていった。
 聖域から抜け出たキリナへ、神様! キリナを守って下さい! と祈ってから。

「ミーティオル。私たちは待機?」
「そうだ。ニナの特別な聖域があるし、俺も結界を張ってるから、っ?!」
「うわっ?!」

 縮こまっていた辻馬車のお客さんの一人が、めっちゃ速い動きでデカいナイフを鞘から抜いて、私が展開した聖域の更に外側に張ってある、ミーティオルの結界に切りかかってきた。
 それをキッカケにしてか、他の人たちも結界に攻撃してくる。
 しかも、無表情で。なんだ? ワケ分かんないし怖いぞ?
 ミーティオルは低く唸って、ライカンスロープの力で彼らを弾き飛ばした。

「ミーティオル?!」

 遠慮ないね?!

「キリナ! スキラー・クレスミーだ!」

 え?! そうなん?!

「奴らのやり方だ! 一般人に催眠術をかけて捨て駒にしてる! オーガとかがキッカケでそれが発動したんだ、恐らく! だから今の今まで気付かなかった!」

 ミーティオルに弾き飛ばされた人たちは無言で起き上がり、また攻撃してくる。周りも続々と攻撃してくる。

「ありましたね、そういう戦法が! オーガの中身もそのようですね!」

 キリナが大砲型の銃と拳銃を二丁持ちして、攻撃してくる奴らへ銃弾を浴びせながら、叫んで伝えてくれる。

「じゃあ何?! この人たちみんな、私を狙ってるスキラー・クレスミーに利用されてるってこと?!」
「だろうな!」「でしょうね!」

 じゃあこの人たちなんも悪くないじゃん!
 スキラー・クレスミー許すまじ!

「催眠術解けろ!」

 神! 力を貸してくれ!
 祈ったら、周りの人たちがバタバタと倒れた。

「解けた……?」

 なら、良かった、けど……なんか、頭のくらくらがピークに……? 気持ち悪くなってきたし……。

「ニナ?!」
「どうしました?!」

 やべ……これ、たぶん熱中症だ……。

「ミーティオル……水……」

 なんとかそれは言えたけど、そこで意識はおさらばした。

 ◇

「ニナ!」

 ミーティオルは、気を失ったニナを木陰に連れて行き、状態を確かめる。

「ニナさんの容態は?!」

 ニナの異変を察知して、駆け寄ってきたキリナに、

「気絶する前に水って言ってたし、この感じからして熱中症だ」

 ミーティオルは言いながら、カバンから水袋と数枚の布を取り出す。そして水袋の栓を抜き、布を濡らし、ニナの額や首周り、脇や膝裏に布を当てる。合わせて襟元や袖口などのボタンを一、二個外し、緩める。

「あの人数の催眠術をいっぺんに解いたのも効いたんだろうな。……ったく、人のために無理をする……」
「思考が健全ですね、ニナさんは。スキラー・クレスミーにこれほどの催眠術をかけられたということは、彼ら全員、スキラー・クレスミーと何かしら取り引きをしていた筈です」
「だろうな。良くも悪くも」

 キリナの言葉に同意を示しながら、ミーティオルはニナの頭を少し持ち上げ、水袋から水を少量、口に含ませる。

「どんな取り引きであれ、全員そのまま、息の根を止めても良かったんですが」

 ニナの喉が、こくりと動く。ミーティオルはまた、少しだけ水を流し込む。

「俺もそう考えてた。あの催眠術、動き出したら意識を失っても体は動き続けるだろ。指令を完遂するまで。殺さないと、完全には動きを止められない」
「よくご存知で、!」

 キリナが銃を構えて発砲するのと、

「増援か?」

 ミーティオルが呟いて力を使ったのは同時だった。
 ぞくぞくと現れる『彼ら』は、額に三日月を持ったドクロの面を付けていて、キリナとミーティオルに無言で応戦する。

「増援、というより本命ですかね」

 キリナは舌打ちをすると、また、長銃と拳銃を二丁持ちにして、弾幕を張るように連射する。

「ミーティオルさん。薙ぎ倒しても時間の無駄です。スキラー・クレスミーの捕獲隊ですよ。隙を見て逃げの一択です」
「こいつ等が捕獲隊か。無駄に頑丈だな」

 ミーティオルが言いながら、ニナを抱き上げようとした時。
 支えていたニナの頭が、ミーティオルの手から滑り落ちるように動いた。
 ニナはそのまま、波打つ地面に一気に沈み、トプン、と消える。

「ニナ?!」

 ミーティオルがそれを追いかけて、手を突っ込もうした時にはもう、そこは硬い地面に戻っていて。
 ミーティオルの爪が、ガリ、と土を抉る。

「ミーティオルさん?! 何がどうしました?!」

 横目で状況を確認したキリナは、

「ニナさんは?!」

 ニナがそこに居ないことに目を見張る。

「地面に、……吸い込まれた。今、……目の前で……」

 あれは。あの消え方は、母の。
 呆然としているミーティオルと、撤退していく捕獲隊を見て、キリナは舌打ちをする。

「ミーティオルさん。ニナさんは捕まってしまったようですね。一人だけでも捕らえます」

 キリナは一番動きの鈍い捕獲隊員に目を付けると、その一人に攻撃を集中させる。
 撤退の意識が強かったのか、仕事は終わったと気が緩んだのか、足に数発受けた敵はよろめいた。周りが撤退していく中、キリナはよろめいたその一人に素早く接近し、隊員の両腕と両足を折り、気絶させる。

「……」

 他の捕獲隊の姿はとっくに消えており、気配すら追えない。
 キリナはそれを改めて確認すると、気絶したままのスキラー・クレスミーから仮面を剥ぎ取り口に縄を噛ませ、引きずるようにしてミーティオルのもとに戻って来る。
 呆然と地面を見つめているミーティオルの肩を、キリナは強めに叩き、

「ミーティオルさん、しっかりして下さい。あなたはニナさんの聖獣です。どれだけ遠くに居ても、ニナさんの生死が分かる。死んだ感覚はありますか?」
「しら、ねぇよ……死んだ感覚ってどんなだ……?」
「そう言えるということは、死んでないということです。一応説明しますが、聖獣より先に聖女が死んだら、聖獣は苦しんでのたうち回るんですよ。さあ、ニナさんがどこに連れ去られたか、まあ、場所はスキラー・クレスミーの拠点の一つでしょうが、吐かせられるだけ情報を吐かせましょう」

 気絶している捕獲隊員を、ミーティオルに見せるように地面に転がし、キリナはそう言った。

 ◇

 意識が浮上して、薄く目を開けたら、花柄の刺繍がされた布と、一人の人間の顔が見えた。
 ……。どこやねん、ここ。誰ですか? あなた。

「あら、起きた?」

 私を覗き込んでいた、私より少し年上に見える色白のその子は、キラキラした薄紫色の瞳を細めて、満面の笑みになる。

「……どなた……? ここ、どこです……?」

 前にも、似たようなこと聞いたな。……夢の中でだ。

「ここはね、ワタシのお家のアナタのお部屋。あなたはこれから、ワタシのお人形さんよ」
「はい……?」

 よっこいしょと起き上がり、ふわふわした、羽毛布団? みたいな掛布をどける。
 寝かされてたんだ? そんでこれ、天蓋付きベッドってヤツ?
 思っていたら、白いレースの手袋をしていることに気付く。そして、自分の格好にびっくりした。
 真っ白なレースがいっぱい付いた薄い水色の、なんていうか、ロリータ服みたいな服なんだもん。
 いつの間に着替えた? ……着替えさせられた?

「どう? 気に入ったかしら、そのドレス。ワタシが選んだの。そのチョーカーも」
「チョーカー?」
「そうよ。目印の」

 私とおんなじようなデザインの、薄い紫色の服──ドレスを着て、黄緑色の髪を可愛く編み込んでリボンとかで飾っているその子は、頷いた。そんで、サイドテーブルに置いてあった華奢な手鏡を、これまた私と同じようなレースの手袋を着けている手で持って、笑顔のまま、差し出してくる。

「……」

 受け取って、自分を見て。
 髪も下ろされてるのは、もう、なんか、いいや。
 それより問題は『チョーカー』だ。
 どう見てもこれ、ネックレスのチョーカーじゃなくて『首輪』だよね。ミーティオルが付けてるのと似てるし。

「起きたなら、髪を結いましょう。アナタのオレンジ色の髪、とっても綺麗なんだし、そのままは勿体ないわ」

 その子は、ベッドサイドのテーブルに置かれているベルを持って、チリンチリンと鳴らす。

「……」

 涼やかな顔をしてるその子の両耳には、三日月とドクロのピアスがあった。そのデザインは、どう見ても、スキラー・クレスミーの奴らが持っていた武器の刻印と、同じ。
 私、ヤベェ人の所に、連れ去られたっぽい。


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