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第三章 闇の組織、妖精と精霊

1 魔獣であり聖獣である

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 投げナイフがどうして聖域を突き抜けたのか、三人で分析と検証をして。

『捨て身の成果、ということですか。ライカンスロープの技術も、侮れませんね』

 解明できたそれに、キリナは、呆れたような、若干苦い顔で言った。

「この模様で……命を削ってまで……」

 報告してくると宿を出ていったキリナが紙に写した、投げナイフとその模様の紙を見ながら、呟く。
 投げナイフに刻まれていた模様──呪文をかたどった紋様は、ライカンスロープたちの生命力を吸い取って、聖女の力に対抗出来るまでにナイフを強化する、みたい。
 しかもこれ、ミーティオルも知らない紋様だった。ミーティオルが里を追放されてから、こんな凄まじい仕組みの紋様が創られたということだ。

「なんでそこまでするんだろ……」
「人間根絶派閥が頑張ったんだろうな。アイツの父親は、その裏の筆頭だったから」

 私を膝に乗っけてくれてるミーティオルはそう言いながら、

「そのナイフもだけど……お前もあれだぞ? ニナ。聖域を三重って、見たことも聞いたこともない」
「でも、できちゃったし。これなら破られなかったし」

 はい。ミーティオルの言う通り、ただ今私、聖域を三重に張ってます。
 検証の時に、お試し感覚で二重になれ! ってやってみたら、成功した。二重の聖域は、突き抜けるのは回避できたけど、それでもまだナイフがぶっ刺さるので、更に三重! とやってみて。そしたら、ナイフを跳ね返せたのだ。
 キリナからも、

『前代未聞ですよ。聖域を二重どころか、三重なんて。再びの襲撃に備えて、今は目をつぶります。ですが、心身にどれだけ負担がかかっているか分かりませんからね。多用は控えて下さいよ、ニナさん』

 って言われてる。

「また襲われたくないし。キリナが戻ってきたら、ちゃんと消すもん」
「……本当に無理はするなよ? 俺だって周りを結界で覆ってんだからな」
「うん。ありがとう、ミーティオル」

 ミーティオルはライカンスロープの力で、目に見えない結界を、私たちの周りに張ってくれている。
 その結界の力も、族長の血筋の力だって思うと、アニモストレを思い出しちゃうけど。
 でも、それを私に使ってくれてるのは嬉しいので、色んな意味を込めてミーティオルに抱きついた。

 ◇

 数日後、大神殿への旅が再開された。
 キリナが、ナイフの紋様についての情報を周りの教会や正大神殿に伝える作業をしたり。ミーティオルが関係者だってことで、尋問をされかけたり。私は神に祈って、尋問しようとした神父たちの力を弱めてもらったり。そしたら神父たちが絶望した顔で尋問から事情聴取に変えたので、神に感謝して力を戻してあげたり。
 そんなことをしてたら、数日、足止めを食らったという、次第。

「迅速に動けるようになってきましたね、ニナさん」

 ミーティオルが捕まえた不審者たちの気を失わせて縛り上げながら、キリナが言う。

「慣れだよ、慣れ。慣れたくないけど。もうなに? 二日にいっぺんくらいじゃん」

 旅を再開して、二週間とちょっと。
 また、不審者に襲われ出した私たちは、素早く連携できるくらいまでになってしまった。
 ミーティオルかキリナ、もしくは二人ともが気配や殺気に気付いて。
 伝えられた私は即座に三重聖域を展開、私を抱き上げたミーティオルが不審者たちを捕まえて、キリナが縛って検分して、っていう流れ。
 早く私も、気配やら殺気察知の技術を身に着けたい。はぁ……。

「また、スキラー・クレスミー関連ですね。三下よりやや上、のようですが」

 武器をぽいぽいし終わったキリナが言う。

「またぁ?」
「ええ。いくつかの武器に刻印がありますし、一人は左肩にタトゥーをしています。……再度お聞きしますが、ニナさん。宿から教会へ移る気は?」
「嫌。もう嫌。ミーティオルを危険な場所に連れて行きたくない」

 私はぶんぶん首を振る。

「ニナ。あれは特殊な事情だ」

 ミーティオルが、抱きしめたまま頭を撫でてくれる。優しい声で言ってくれる。

「でも、……でも、ミーティオルを殺そうとしたのは、事実でしょ」

 私はその時を思い出して、顔を歪めちゃいそうになりながらミーティオルを見上げる。
 六日前の、前の街でのこと。キリナが、不審者の襲撃頻度が上がったことを理由に、もしかしたら守りきれないかもしれないからって、教会に泊まることを提案してきた。
 ミーティオルも、私の安全を確保したいからって、それに賛同して。
 私は渋々、それを受け入れた。そして、その街の教会に泊まった、その夜。
 なんか嫌な感じがして、目が覚めた。不安だったから、一緒のベッドで寝てるミーティオルを起こそうと、声をかけようとして。

『聖域』

 飛び起きたキリナが扉を蹴破りながら言ってきて、私は三重聖域を展開する羽目に。
 キリナが捕まえたのは、扉のすぐ外に居た、その教会の神父一人と修道女二人。

『キリナ! ミーティオルが起きない!』

 大声で呼んでも揺さぶっても、叩いても起きないミーティオルに、余計不安になってキリナへ叫んで。

『呼吸と脈は?』
『ある!』
『なら、まだ大丈夫です。ニナさん、ミーティオルさんへ浄化を』

 神様助けて! ミーティオルを助けて! って、祈ったら、ミーティオルがぱちっ、て目を開いた。

『ミーティオル!』
『ニナ……? っ! キリナ?! どういう状況だこれ?!』

 起きたミーティオルは即座に私を抱きしめて起き上がり、キリナへ叫ぶ。

『ソイツらからの殺気がヤバいんだが?!』

 ソイツら、が、神父たちだって、すぐに気付いた。
 キリナはその場で、神父たち三人へ尋問を始めて。
 分かったのは、その三人は兄妹で、両親をワーウルフに殺されたこと。聖獣だと言われても、それを証明されても、ワーウルフへ復讐するチャンスを逃したくなかったこと。ミーティオルの食事に、いつかのためと用意していた、ワーウルフが気付かない強力な睡眠薬を混ぜたこと。
 そして、ミーティオルをその手で殺そうとしたところで、キリナに捕まったのだと。

『事情がどうあれ、聖獣を害した。その事実は消えませんよ』

 キリナはそう言って、『上の人間に話をつけてきます』と三人を引きずっていった。
 朝になって戻ってきたキリナは、あの三人は破門のち、処刑の処分が下ったと、教えてくれて。

『他の者たちには、ミーティオルさんを傷つけないよう言い含めましたが。どうしますか? 宿へ移りますか?』
『こんな場所ヤダ! 宿! 今すぐ宿に行く!』

 私を狙ってきた不審者たちより、ミーティオルを殺そうとしてきた奴らに怒りが湧いたし、泣きそうになった。

「あれは俺の油断もあった」
「油断じゃないもん。ミーティオルがやったんじゃないのに、ライカンスロープだからって殺そうとしてきた奴らが悪い」
「けど、ニナ。それからはニナが色々してくれて、俺から危険を遠ざけてくれてるだろ?」

 ミーティオルの言う通り、私はあれ以来、ミーティオルが口にするもの全部に浄化をかけることにした。ミーティオル自身にも、起きた時、お昼、寝る前、と浄化をかけてる。

「でも、……でも。やっぱり嫌。ミーティオルをミーティオルじゃなくて『ワーウルフ』だって思う奴らなんて、嫌」

 奴隷の首輪に、少し慣れてきたところだったのに。慣れたくないけど。
 でも結局、ミーティオルを悪だって思う奴らは消え去らない。

「……分かりました。宿の人に、警備兵を連れてきてもらうよう言ってきます。……宿のランク、また上げますかね……」

 肩を竦めたキリナは、そう言いながら部屋を出ていった。


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