赤ずきんはオオカミを救いたいし狙ってるし結婚したい【第三章了◆第四章準備中】

山法師

文字の大きさ
上 下
11 / 26
第二章 奴隷文化と身の危険

3 膨らみ始める思惑

しおりを挟む
 里では、また、乱闘騒ぎが目につき始めた。
 追放者を出すことで一旦収まった内乱だったが、その『追放者』が居なくなったために、内乱に、継承権争いまで加わり、族長は頭を痛めていた。

おさ。ご決断を」
「ご決断を」

 ここのところ、毎日のように開いている会議で、毎日のように聞く言葉。

「あの者は罪人になった。連れ戻すなど、それこそ里が瓦解する」

 族長は息子を思いながら、苦々しく言う。

「では他に、どんな案が」

 一人に言われ、族長は、また考えを巡らせる。
 流行り病で他の子供たちは死に、生き残ったのは、あの息子だけだった。聡明なのは幸いだったが、優しすぎるきらいが、自身を追放へと追いやった。
 自分の兄弟たちは、その子供たちを暗に急き立て、内乱を抑えるどころか、次期族長へ名を挙げさせる始末。
 耳を後ろへ反らし、唸る族長に、一人が口を開く。

「どちらにしろ、一度、生死の確認はしましょう。そして生きていたら、里の現状を伝えるのです」

 追放者──息子の、婚約者の父親の言葉に、

「……伝えて、どうなる」
「彼は若いが、頭は回る。助言を求めて、それが現実的なものであったなら、罪を無かったことにして、里に戻すと、提案するのです」
「そのような見え透いた餌に、あいつが食いつくと思うか」

 罪を無くす。それが出来れば。だが、一度それを行えば、二度、三度と、繰り返されるのは目に見えている。

「それに、罪人の印はどうする。口先だけの言葉に、あいつが乗るとは思えんぞ」
「それも消すと。そうすれば──」
「ならん!」

 族長は、吠えるように言い、尾で敷物を叩く。

「原因がなんであれ、印を背負った時点で、あいつは天には行けんのだ。……膿を飲み込むような真似など、出来ようものか……!」

 族長が、絞り出すように言った時、

「失礼します、申し上げます!」

 若者が一人、入ってきた。

「会議中だ」

 出入り口に座していた一人に、力によって押し留められながら、

「ですが、その、……オラノシア様が、お怪我を……! 今、医師に診てもらっておりますが、片足が……」

 その言葉と悲痛な声に、周りがざわつく中、

「片足が、どうした。切迫した状況か」

 族長はなんとか、平静を保って聞く。甥たちが怪我をするのは、もう、日常茶飯事だった。
 若者は、迷うように、

「その……右の足を、……リベイディ様に、食い千切られ……それを、崖から落とされて……」

 それを聞いた一人は、「申し訳ありません! 一度、離席させていただきます!」と、部屋から出ていった。兄弟の一人であり、オラノシアの父だった。
 肉親同士でいがみ合う。その現状を作り出したのは、自分もあるが、お前たちの責任もあるだろう。
 族長は、ため息を吐きそうになりながら、

「紛失したと?」
「そっ、捜索中です! 足も、……その、再生可能か、只今、医師が……」

 モノが無くて、どうして再生など出来ようか。
 ライカンスロープの力も、万能ではない。

「捜索も、治療と再生も、全力で行え。それと、義足の用意もしておけ。行ってよろしい」
「は、はい! 畏まりました!」

 若者が慌てて出ていくのを見届け、族長は、

「会議は一時、中断だ。……ヴィラスティ、リベイディを連れてきてくれ。話を聞く」

 若者を留めていた力を納めた者に、そう、声をかけた。

 ◇

 その手紙を読み、写しだという聖紋を目にして、彼は頭を抱えた。
 生きていた。しかも、見つかった。
 そう思った。
 祝ぎか、災いか。どちらかを齎すと示唆されて、どちらも同じに思えた彼は、迷う妹を説得し、赤子を棄てさせた。
 なのに、生きている。
 どうやって、生き延びた?
 人里離れた遠くの地に、棄てさせた筈なのに。
 妹が何か手を回したのか。もしくは他の、秘密を共有している者たちか。
 どちらにしろ、今度こそ確実に、息の根を。
 目の前で。
 彼は、誰にどう指示を出すか、考えを巡らせ始めた。

 ◇

 辻馬車って、こんなガッタンゴットン揺れるの?
 異世界の馬車って、結構乗り心地良いみたいな描写が多いと思うんだけど。辻馬車だから?

「ミーティオル、お尻、痛くない?」
「ああ。ニナは大丈夫か?」
「ミーティオルのおかげで、大丈夫」

 ミーティオルの膝、てか、太ももに乗せてもらってるし、腕もガッチリ回してもらってるから、揺れはすごいけど、痛くはない。

「キリナは?」
「慣れていますので」

 隣に座るキリナは、これが当たり前みたいな顔してる。
 やっぱり、この世界の辻馬車、ガッタンゴットンが当たり前なのか。
 次の街へ出発するっていう朝、時間短縮のためとキリナが言って、辻馬車に乗ったんだけど。
 これ、休憩挟みつつでも、着くの、夕方でしょ? 大丈夫かな……。
 そんなふうに思ってたけど、揺れのリズムに慣れてきてからは、余裕が出てきた。
 けど。

「おおう……グラグラする……」

 一回目の休憩の時、地面に降りたら体が馬車の揺れに引っ張られてたのか、フラついてしまった。のを見たミーティオルに、抱き上げられた。
 あのですね、そんな、当たり前に抱き上げられて、「大丈夫か?」って顔を覗き込まれてですね。
 ──平静でいられるとお思いか?!

「……平気。だけど、水分補給したい」
「ん」

 さっと鞄から水袋を出してくれる! このう!

「栓、抜けるか? 俺がやるか?」
「大丈夫……」

 んぎっと力を入れて、栓を抜いて、ゴクゴク。

「あー……生き返る……」

 今、初夏なのでね。それなりに暑い。
 ……そういや、記憶の限りだけど、梅雨っぽい季節、無いな。春から夏へと直行だな。

「ミーティオル、ミーティオルも水分補給して。私抱えてると出来ないでしょ? 下ろして大丈夫だよ」
「ああ、そんくらい平気だ」

 ミーティオルは、またサッと水袋を出すと、片手で栓を抜いて、ゴクゴク。
 き、器用……。

「軽くモノも食べておいたほうが良いですよ。乗ってるだけでも、以外にエネルギーを使いますからね」

 水袋の紐を腕に引っ掛けて、ドライフルーツを齧りながら、キリナが言う。

「なるほどな」

 ミーティオルは手早く水袋を仕舞うと、鞄の中の袋からジャーキーみたいな干し肉を出して咥えて、
「ニナ。それ持ってると食えないだろ」
「あ、うん」

 差し出してくれた手に、水袋を渡してしまう。

「どれ食う?」

 ミーティオルに、ドライフルーツと、ナッツと、ジャーキーみたいな干し肉の袋を出されて、

「えぁ……じゃあ、ドライフルーツ……」

 また手早く他のを仕舞って、ドライフルーツの袋を渡される。
 スパダリ? こういうのをスパダリって言う? 合ってる?
 ドライフルーツをもぐもぐしながら、これが普通の旅行だったら最高なのになぁとか、思う。

「そろそろ出発のようですね」

 馭者の人たちと護衛の人たちの呼び声で、私たちはまた、ガッタンゴットンの辻馬車に戻った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

処理中です...