1 / 105
本編
1 遭遇
しおりを挟む
何か道路に落ちているな、と思った。
夜だし、ちょうど街灯と街灯の間の暗闇にそれはあったので、なんだかよく見えなかった。
周りを見て、車など来ていない事を確認して。
なんだろう。
それだけの思いで、私はそれに近づいた。
「……?」
手、だった。
手首から先、私より一回り大きな少し骨ばった右手が、掌を地面側にして落ちていた。
「……? ……っ?!」
一瞬思考が止まったあと、飛び退くようにそれと距離を置き、もう一度周りを見る。車も人もいない。街灯がぼやけて見える。
私は震える手でスマホを取り出し、どうにか回っている頭で警察に通報しようとした。
けど、躊躇ってしまう。
『手が道端に落ちている』
そう言って、信じてもらえるんだろうか。
手が震えていたし、生まれて初めての110番だったのもあって緊張して、すぐには発信ボタンを押せなかった。
そしたら、
「……っ?! っひぃいああ?!!」
落ちていた手がびよっと跳ねて、私の顔に張り付いた。
「ああぁぁああ?!! やああぁぁぁあああ!!!」
私は半狂乱になりながら、持っていたスマホも肩に掛けていた鞄もそっちのけで手を剥がそうとした。
やっと顔からその感触が消え、固く瞑っていた目を薄く開ける。すると、雨が降っていた。
「えっ……あ、スマホ!」
星がよく見えるほど晴れているのに、と驚いたけど、放ったスマホが目に入り、そっちに気がいって慌ててそれを拾う。保護ガラスに少しひびが入っていた。
同じように放り出した鞄も、ぶちまけた中身と共に拾って肩に掛ける。辺りを見回す。
手は、どこへいった?
頭にも服にもくっついたりしていない。鞄に間違えて入れたりもしていない。駆除中に見失った害虫のようで、気持ちが悪い。
……帰ろう。一刻も早くこの場から立ち去ろう。
雨はいつの間にか止んでいた。
また何かあったら嫌だ。
コンビニに行こうとしていたのをやめ、小走りで家に帰ろうとした。
「なあお前、聞こえるか? なあ?」
とても近くで男の声がした。私はまた驚いて、転びそうになってしまう。
「はっ……?」
「おお、聞こえてんだな?」
さっきも見たし今も見回したけど、周りに人っ子一人いないのだ。さっきからなんなんだ、これは?
「あん? 気付かなかったか?」
またどこかから、とても近くから声が聞こえる。
「さっきでかいのに頭を潰されかけたろう? とっさに俺が飛びついて、逆にでかいのを潰してやった」
もしかしなくとも、この声はあの手……なんだろうか?
「勢いつきすぎちまってお前の腹の中に入っちまったけどよ」
腹の中? それが、手が、私のお腹の中で喋っている? と、いうわけ?
「……………っおっぅうえええ……」
「はっ? どうした?」
吐き気が込み上げてえづいたが、別に吐けはしなかった。意味が分からない。頭が、追いつかない。
「おい大丈夫か? でかいのの気に当てられたか?」
コンビニに行こうとしただけなのに、何を間違ってこんなことになってしまった? これは現実? 私は狂ってしまった? いつの間にかストレスでも溜めてしまっていたんだろうか?
「この程度でくたばったりしないだろうな……」
お腹にいると言っているのに、異物感が全くしないのはなぜだろう?
未だ聞こえる幻聴と、ぐるぐる回る思考でふらふらしながらも、なんとか家にたどり着いた。そのまま布団に直行して、いつかのように固く目を瞑る。もし明日もこうだったら病院に行こう、と、そんなことにはならないでくれ、と思いながら眠った。
夜だし、ちょうど街灯と街灯の間の暗闇にそれはあったので、なんだかよく見えなかった。
周りを見て、車など来ていない事を確認して。
なんだろう。
それだけの思いで、私はそれに近づいた。
「……?」
手、だった。
手首から先、私より一回り大きな少し骨ばった右手が、掌を地面側にして落ちていた。
「……? ……っ?!」
一瞬思考が止まったあと、飛び退くようにそれと距離を置き、もう一度周りを見る。車も人もいない。街灯がぼやけて見える。
私は震える手でスマホを取り出し、どうにか回っている頭で警察に通報しようとした。
けど、躊躇ってしまう。
『手が道端に落ちている』
そう言って、信じてもらえるんだろうか。
手が震えていたし、生まれて初めての110番だったのもあって緊張して、すぐには発信ボタンを押せなかった。
そしたら、
「……っ?! っひぃいああ?!!」
落ちていた手がびよっと跳ねて、私の顔に張り付いた。
「ああぁぁああ?!! やああぁぁぁあああ!!!」
私は半狂乱になりながら、持っていたスマホも肩に掛けていた鞄もそっちのけで手を剥がそうとした。
やっと顔からその感触が消え、固く瞑っていた目を薄く開ける。すると、雨が降っていた。
「えっ……あ、スマホ!」
星がよく見えるほど晴れているのに、と驚いたけど、放ったスマホが目に入り、そっちに気がいって慌ててそれを拾う。保護ガラスに少しひびが入っていた。
同じように放り出した鞄も、ぶちまけた中身と共に拾って肩に掛ける。辺りを見回す。
手は、どこへいった?
頭にも服にもくっついたりしていない。鞄に間違えて入れたりもしていない。駆除中に見失った害虫のようで、気持ちが悪い。
……帰ろう。一刻も早くこの場から立ち去ろう。
雨はいつの間にか止んでいた。
また何かあったら嫌だ。
コンビニに行こうとしていたのをやめ、小走りで家に帰ろうとした。
「なあお前、聞こえるか? なあ?」
とても近くで男の声がした。私はまた驚いて、転びそうになってしまう。
「はっ……?」
「おお、聞こえてんだな?」
さっきも見たし今も見回したけど、周りに人っ子一人いないのだ。さっきからなんなんだ、これは?
「あん? 気付かなかったか?」
またどこかから、とても近くから声が聞こえる。
「さっきでかいのに頭を潰されかけたろう? とっさに俺が飛びついて、逆にでかいのを潰してやった」
もしかしなくとも、この声はあの手……なんだろうか?
「勢いつきすぎちまってお前の腹の中に入っちまったけどよ」
腹の中? それが、手が、私のお腹の中で喋っている? と、いうわけ?
「……………っおっぅうえええ……」
「はっ? どうした?」
吐き気が込み上げてえづいたが、別に吐けはしなかった。意味が分からない。頭が、追いつかない。
「おい大丈夫か? でかいのの気に当てられたか?」
コンビニに行こうとしただけなのに、何を間違ってこんなことになってしまった? これは現実? 私は狂ってしまった? いつの間にかストレスでも溜めてしまっていたんだろうか?
「この程度でくたばったりしないだろうな……」
お腹にいると言っているのに、異物感が全くしないのはなぜだろう?
未だ聞こえる幻聴と、ぐるぐる回る思考でふらふらしながらも、なんとか家にたどり着いた。そのまま布団に直行して、いつかのように固く目を瞑る。もし明日もこうだったら病院に行こう、と、そんなことにはならないでくれ、と思いながら眠った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる